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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第二章 失った世界

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2巻発売記念SS その3 食事作法

いつもご覧いただきありがとうございます。

11/10 2巻発売記念SS その2


『食事作法というものは、人間性が出るものの一つだ』


 街はマブラ、時は昼飯、場所は宿の自室。件のジャイアントスネークの問題で引き籠っている時のある日の昼食、ラングは突然そう言った。

 今日はラングが作ってくれた鶏肉と豆のスープ。味付けは岩塩だけのシンプルなものだ。朝鍛錬をしてその後勉強に付き合っていた身としては、この肉感は嬉しい。案外豆の素朴感も悪くないし、腹持ちがいい。

 ラングは鶏を一羽買ってきて、あっという間に捌いて具に変えた。羽は掃除用具に、羽毛などは水で洗い、虫を殺して避けて、枕に入れると宿の女将が引き取ってくれた。おかしいな、客室にはそんないい枕はないぞ、とツカサが気づいたのは自室に戻ってからだった。

 少し考えごとをしていたらラングの声は止まっていた。こうしてツカサの反応を待ち、ラングは続けて教えを与えるかどうするかを見極めている。聞く気がなければ教えない、それだけなのだ。ツカサは椅子に座り直し、うん、と頷いた。


『冒険者の中には、大声で話し、机を強く叩き、周囲に迷惑を掛ける者もいるが、そうした者の多くは心根が弱く、腕が悪い。虚勢を張る』


 うん、とツカサは再び相槌を打ちながらラングを見遣る。スプーンをゆっくりと口元に持っていき、つ、と呑む。肉や豆を食う時はしっかりと口を開き、ばくりと食べる。確かに、ラングと食事を共にしていて「汚い」とか「みっともない」と考えたことはない。


『仲間内で騒ぎたくとも、周囲に人が居て、場所が酒場であるならば、節度を持たねばならん』

『うん』

『お前の作法を見る限り、及第点ではある』


 ほっと息を吐いた。厳しく教えられたわけではないが、母から、肘をつかない、迷い箸をしない、一度箸をつけたものを戻さない、など、基本的なことを口うるさく言われていてよかった。友人とファミレスで食べる時は普通に肘もついていたし、大声で笑っていたような気もするが、店の雰囲気と、周囲の迷惑と、なんとなく、兼ね合いは考えていた、と思いたい。

 ふと思う。食事作法が汚かったなら、ラングはツカサに食事を提供してくれただろうか。


『あのさ、もし俺が、ご飯の食べ方汚かったらどうするつもりだったんだ?』


 気になったら尋ねてしまう自分自身に、時々やめてよと思うこともあれど、我慢はできなかった。ラングは口に含んだスープをゆっくりと呑み込んでから、スプーンと器を置いた。


『一度は躾ける。聞かなければ恥をかくのはお前だ』


 つまり、母のように何度も言い聞かせることはない。ここでも選ぶのはツカサだということだ。厳しい。いや、一度は教えようとしてくれるだけ優しいのかもしれない。


『とはいえ、冒険者の集う酒場などで肩肘を張る必要はない。時と場合、ともにいる誰かのことを考えろということだ』

『わかった』


 親父くさいよなぁと思ったことは胸に秘めておく。肌艶で忘れそうになるがラングは四十八歳だ。黙々と食事が続く。ツカサがパンを千切ってスープにつけてパクパク食べる向こうで、ラングはゆっくりとスプーンを動かしている。一人でパンを食べ過ぎている気がして、ツカサはそっとパンの入った籠をラングへ寄せた。


『パン食べる?』

『いや、足りている。ありがとう、好きにしろ』


 そっか、とパンの籠を引き寄せてまた一つ手に取る。テーブルの上に置いたスープ鍋の中もツカサの食欲でどんどん減っていく。なぜこんなに空腹なのかわからなかったが、スープも美味しいしそれにつけたパンも美味しいので、そうした疑問は胃の中に落ちていった。

 ツカサのペースが落ち着いてくる頃、ラングはゆっくりと進めていたスプーンで器に残った最後の鶏肉を掬った。それを大事に食べて呑み込み、器を持って残ったスープをコクリと飲み干すと、ハーブティーに移行する。ツカサは口に入れたスプーンを咥えたままそれを眺め、離してから尋ねた。


『ラングって、好きなものは最後に食べるタイプ?』

『何の話だ』

『いや、鶏肉残してたからさ。好物は残しておくタイプなのかなって』


 あぁ、とラングは空になった器に視線をやってから再びツカサに戻した。


『お前が食べ終わるのを待っていた』


 言われた意味が一瞬わからず、少しの間を置いて今日の食事風景を思い出した。ラングもスープを二杯は食べていた。ツカサは四杯食べてパンもモリモリ食べていた。食事にかかる時間はツカサの方が長く、ラングを必然的に待たせる形になっていたわけだ。なんだか気まずくなってツカサはぼやいた。


『先に食べ終わっててもいいのに』

『ともに食事をしている相手に合わせるのは礼儀だ』

『俺、もう少し急いだほうがいい?』

『必要ない』


 えぇ、どうすればいいんだよ、と言いたげなツカサの声に、ラングはいつもの淡々とした様子で言葉を返した。


『作ったものを美味そうに食べてもらえるのは、食事を作った者としては微笑ましい』


 ぐぅ、とツカサの喉が鳴った。


『ラングってさぁ……』

『なんだ、まだ腹が減っているのか?』

『もうおなかいっぱいです! ご馳走様でした!』

『それは何よりだ。残りは暖炉に置いておく、腹が減ったら食べろ』

『ありがと!』


 武力的にもそうだが、人間的にも師匠に勝てる日は来るのだろうか。ツカサは食休みの後、早速と言わんばかりに単語ノートを開いたラングに、いつもより熱心に付き合うことにした。




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。

マブラで引き籠りをしていた時間でも書けることがいっぱいあります。

話がだるくならないように、先を急ぐために「何日後」とか「何日間過ごした」とかシーンを飛ばすのですが、いろいろあるんです。

そんなシーンを記念SSで出せる喜び、お楽しみいただければ幸いです。


書籍でぐぐっと加筆もして2巻に「見たことない」が収められています。

最短距離を走ったweb版とまた違う寄り道と補足が、そしてweb版読者をもだもださせたあれこれが、もだもだから「おぉー」からの「あぁー!? あぁー!」へなるかと。

若き日の羞恥心をあなたも味わってくれますように。

どんな売り文句なのだろうなこれは。


そしてなにがいいってttl先生のイラストですよ。

本当に最高です。口絵をまず自慢したい。早くお手に取って見てください、最高ですから。

そして挿絵、詳細を語れないのが辛い。とにかく、最高なんです。


1巻書影

挿絵(By みてみん)


2巻書影

挿絵(By みてみん)

面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

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― 新着の感想 ―
ラングに会いたい…!! 若いラングも良いけど、歳を重ねたあのラングに会いたい! ツカサ頑張れ!応援してます!
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