2巻発売記念SS その1 男子たるもの
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11/10 2巻発売記念SS その1
「モテたい」
テーブルに肘をついて剣呑にマーシがぼやいた。【真夜中の梟】の面々はそれに対し、またか、と言いたげに顔を見合わせた。食事処、賑やかでうるさいその場所で【真夜中の梟】はそれなりに目立つ。ここジュマの専属パーティとして活動をしている金級パーティは、羨望も、嫉妬も、欲望も混ぜ合わせて視線を注がれる。酒は好きだが酔うと絡み酒のマーシは酔っぱらい始めるとこうしてくだをまく。他のパーティやテーブルに絡まないだけましだが、うるさいものはうるさい。さて、これをどうしようか、と思っていたらマーシがロナへ絡んだ。
「ロナだってモテたいだろ?」
「えっと、僕は、別に……」
まだ冒険者として駆け出しですし、と苦笑を浮かべる。ロナはまだ子供だな、とマーシが揶揄い、ロナは大人の対応でふふっと笑って返した。呆れたカダルと楽しそうに喉を鳴らすエルドはノーコメントだ。
「ロナはお姉さまに人気だもんな、可愛がられちゃって」
「おい、マーシ、いい加減面倒だぞ?」
「カダルが悪いんだカダルが!」
マーシがキャンキャン喚き始めエルドは笑い、カダルは肩を竦めた。
「なんで俺が悪いんだ」
「そりゃぁ、カダルがモテるから悪い」
「いったい俺がいつモテたというんだ」
眉を顰めるカダルに、これだからさぁ、とマーシはロナに抱き着いた。よしよし、とマーシを撫でて宥め、ロナはそうっと困ったように頬を掻くカダルを見た。【真夜中の梟】の中で落ち着いていて、穏やかで、強くて、カッコイイ。ロナを【真夜中の梟】にスカウトしてくれた時のことを思い出してにこりと笑ってしまった。
「ロナ?」
「はい、マーシさん」
「今は俺のことだけ考えてっ」
うわぁん! と絡み酒。ロナは酒臭いマーシに頬ずりされて苦笑を浮かべ、はいはい、そろそろ帰りましょうね、とその背中を撫でる。エルドは笑いながら立ち上がり、マーシの首根っこを掴んで持ち上げ、ほれ、立て、と剣士の背中を叩いた。
「やめろエルド、出る」
「今日飲んだ酒は回るなぁ、俺も実は出そうだ」
「お前らもう後で戻ってこい。吐くなら便所行けよ。ロナ、戻るぞ」
「はい、カダルさん」
冷たいぞ、労わって、これだからカダルは、わぁわぁ騒ぐ二人を一瞥して黙らせ、カダルは溜息をつきながらロナとともに宿へ足を向けた。まだ賑やかな宵の口、食事処や酒場から溢れた人々が賑やかな声を上げ、笑いながら楽しんでいる。すっかりこのジュマの街の空気にも慣れてきた。ロナは杖を手にそうした人々に微笑を浮かべ、カダルと歩いていく時間が好きだ。
「悪いな、ロナ。冒険者に疲れてないか?」
「毎日楽しいです、カダルさん」
にっこりと笑ったロナに面食らったのか、目を瞬いてカダルは少しだけ照れたように笑った。
「そうか、ならよかった。まったく、エルドときたら酒が好きな奴が入ったからって、変に味方を得た態度で困ったもんだ」
でも、実はカダルさん、それも楽しいんですよね、と言うのはだめなのだ。そう言うと、カダルはそんなことはない、とはっきり否定して、口を滑らせたと後悔してしまう。ロナはカダルが見せてくれるちょっとした弱音というか、そうした母親めいた愚痴が好きだった。
「お酒が飲めるようになったら、僕もいただいて平気ですか?」
「あぁ、それはもちろんだ。酒におぼれない限り、いいものだからな」
仲間で盛り上がって、苦痛を呑み込んで。ロナはまだそうした経験を眺めているだけで身を置いたことはない。いずれ自分も冒険者としてそうなりたいという憧れもあれば、経験したくないなと思う気持ちもあった。エルドには、それでいい、とくしゃりと撫でられた。
そんな気持ちを若人の腹の虫が追い払う。ぐぅ、と空腹を示してしまったロナの腹にカダルが目を瞬く。ロナは真っ赤になりながら、そっとカダルを見上げた。
「すみません、お酒のおつまみだけじゃ……足らなくて……」
「ふっ、ははは! そうだよな、悪かった。次はちゃんと腹にたまるものを頼もうな。どうにも、奴らが注文するから任せっきりだが、ロナは育ち盛りだ。我慢せず言ってくれ」
おっさんの胃袋は若者とは違うからな、と揶揄うように言われ、ロナは慌てておっさんじゃないです、と否定した。カダルはロナと軽く肩を組んでゆっくりと食事処に足を向けた。
ちょっとだけ優越感。この時間が自慢なのだと、ロナはえへへ、と笑った。
いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。
ついに1週間後です。
2025/11/10 発売です、ドキドキしています。
2巻では【異邦の旅人】と【真夜中の梟】がついにダンジョンブレイクに挑みます。
そしてその後もまた……。
加筆していますよ、戦闘シーンの描写をさらに詳しく、あの逃走シーンも、戦闘シーンも、シーンが増えて、それはもう
「えっなにこれこんなシーンなかっただろきりしま!」
が盛りだくさんです。
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1巻書影
2巻書影
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