2-43:鍛冶師の隠れ家
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しんと沈黙が降りた。
今胸を駆け巡った感動など魔法障壁の横を通り抜けていった風の音にすべて攫われて、ツカサは慌ててラングの体を揺すった。
「ラング! ラング、どうしたの、しっかりして!」
ううむ、と苦痛を逃す時のラングの唸り声にツカサはその体を引き起こし、いつだったか自分がされたように膝を背もたれにして支えた。
「どうした!? なんだ、なんだ!?」
キスクがおろおろとラングとツカサの周りをぐるぐると歩き回り、ポーツィリフは腕を上げたり下げたり意味のわからない行動を取っている。ツカサはラングの背中に回している腕に触れたマント越しの体温が異様に高いと気づいた。ツカサもマントを着用しているのでわかるが、動いた熱が籠ったような感じではない。
『ラング、ちょっと触るよ? 視るよ?』
ぐぅ、とラングの喉が鳴る。嫌だが仕方ない、と言いたげな様子を無視して【鑑定眼】を開いた。装備やレベルなどではなく、状態、体調に意識をして覗き込む。
――状態:モリフリア、高熱。
モリフリアとはなんだ。ツカサは謎の言葉に眉を顰め、歩き回るキスクを見上げた。
「キスク、モリフリアって何?」
「あぁ、冬風か? 子供の時にかかる病だな。え、まさかラング、モリフリアか!?」
「どういう病なの!?」
キスクはポーツィリフと顔を見合わせてからしどろもどろに話した。曰く、ドルワフロだけではなく、各所領でよくある病。主に幼い子供がかかる病で、逆に子供の時にかからずに大人になってからかかると、死亡率の高い病らしい。
ツカサはサァッと青くなった。いったいどこでそんなものにかかったというのか。魔法障壁で体に悪いものを弾く、というイメージはあった。けれど、病原菌がとか、確かにそんなことは考えていなかった。いや、あったとして、イメージと原理が重なり合っていないと正しく発現できない力が魔法だ。シェイとは違い、ツカサにはその調整が難しい。有用だが、万能ではない。
ラングがかかって、どうしてツカサはなんともないのか。いや、そんなことを考えている場合じゃない。
「モリフリアってどうすれば治るの!?」
「あぁ、いや、それは……」
「薬があるんでさァ。子供がかかるもんなんでェ、死なせねェために」
「ドルワフロにならある!? あるんだね!?」
ありまさァ、でも、とポーツィリフは表情を曇らせた。
「薬を飲ませるのァ、熱が出てすぐじゃねェと……」
そんな、とツカサはラングを改めて【鑑定眼】で診た。モリフリアという言葉だからわからないだけで、これをツカサにわかる言葉に【変換】をする。やや大雑把ながら、かなり重い流感、と出て、ツカサは自分が無事な理由を理解した。予防接種や抗体、免疫力だ。毎年様々なタイミングで流行するインフルエンザなどのいわゆる流感。ツカサは様々な予防接種を受けたこともあれば、インフルエンザには何度かかかったことがある。気づかないだけでうつっていて、その症状が出ない、もしくは軽いだけの可能性もある。ラングにはその免疫が、抗体がなかったのだ。
ほとんどを森で過ごしていたことから、もらったとしたら食事処だ。あそこは湿気があって温かく、人がひしめき合っていた。無自覚にそれを持っていて、あの場で咳などをしていたらどうだろうか。そうでなくとも空気感染なら、あそこは密閉状態だった。独特の呼吸をするラングのことだ、どこかで拾ってしまう可能性は十分にあった。【ラング】が人混みを好まないのは暗殺者の肺など、そうした空気を伝う病にかかりやすい理由があったからなのかもしれない。何においても長所、短所があるのだと気づく。
それに、きっと、ここまで無理をしていたのも倒れた理由の一端だろう。夜通しの雪中移動、本人曰く訓練しているとはいえ体調不良の時の冷たい地面での休憩はきつかったに違いない。
ツカサはラングに声を掛け、腕を取り、足の間に腕を回し、ぐいと担いだ。
「ドルワフロの街に急ごう。とにかく薬を飲ませたい」
「坊ちゃん! あっしが運びまさァ……! 坊ちゃんも雪道にァ、慣れてねェ。それに坑道の中の歩き方もだァ」
ツカサは逡巡の末、ラングをポーツィリフに任せた。どさりと背負われたラングはぐったりとしていて抵抗すらしない。魔法障壁を確認、風を遮り、トーチに魔力を注ぎ込み、ラングが寒くないように温める。おろおろしているキスクの肩を掴んでツカサは深呼吸をしてから言った。
「キスク、裏口だかなんだか知らないけど、頼む、真っ直ぐに行こう。ラングを早く休ませてあげたい」
「あ、あぁ、いや、うん、わかった、わかってる!」
「道さえ示してくれれば、俺が全力で道をつくる」
キスクはこくりと頷き、一度息を吸った。
「移動するために、いや、早く移動するために、道の話だけ、先にさせてくれ!」
なに、とツカサは焦れた様子で続きを尋ねた。キスクはこれから向かう裏口について早口で話した。
「この坑道は鍛冶師が石炭や、鉄、ガラスの素材になるもの、この空間にあるみたいに宝石を得るために入る坑道なんだ。山は俺たちに恵みを与えてくれる。いや、それはいい、鍛冶師の言う裏口ってのは、坑道の入り組んだ道の先が、そのいくつかがドルワフロ鍛冶場に繋がってるってことだ」
「坑道を抜けて、雪の中を歩かないでいいってことだね?」
「そうだ。その道は鍛冶師じゃないと知らない。つまり、ポーツィリフが知ってる」
任せてくだせェ、とポーツィリフが強く頷き、ラングが揺れる。
「どのくらいでドルワフロに着くの」
「こっからなら半日もありゃァ、着くと思いまさァ。坊ちゃんが明かりをくれるんでェ」
「すぐに行こう、頼むよキスク、ポーツィリフ」
あぁ、任せろ、と異口同音に声が重なり、ポーツィリフの先導に従って足早に先を目指し始めた。
坑道の中に風の音と小さな欠片のカサカサした音と、三人の足音が響く。
体調不良は自己申告だろ、とツカサは下唇を噛んだ。いや、ツカサに余裕がなかったから言えなかったのかもしれない。【黄壁のダンジョン】の時も【ラング】は自身の体調不良を言わず、終わるまで平然とした姿を装ってボス部屋を越えた。あの時の毒とは違い解毒魔法などで対応ができない。意識を奪うほどの高熱、本人も体調不良は把握していただろう。ツカサに余裕ができれば言うつもりだったのかもしれないが、その前にラングの限界が来たのだ。小走りで進む一行、ポーツィリフの背で揺れるラングは腕をだらりと落として振動に身を任せている。
トーチの明かりで満遍なく道が照らされる。吹き込んでくる風はドルワフロ側に行けば行くほど強くなってきて、魔法障壁がなければ一歩ずつ足を進めるしかなかった。出口はまだ見えないというのに強風で吹き込んだ雪が薄っすらと積もり、もしくは地面が凍っているのか、この坑道の先が銀世界だろうことがわかる。けれど、そのまま外には出ない。立ち入り禁止の看板が置かれた一つの横道にポーツィリフが入り込み、ツカサはトーチをその先に向けた。
「ここからちぃっと天井が低くなりまさァ、頭ァ気をつけてェ。あっしが一番ですかねェ」
ガハハ、と無理矢理笑い、ポーツィリフが先を行く。今まで通ってきた坑道の道が観光ルートだったのだと思った。歩きやすいように地面が平らに整えられていたあの道は、こんな状況でなければドルワフロへの期待を盛り上げただろう。
この道は板が敷かれ等間隔に木で枠が組まれ、天井が押さえられ、採掘場として成り立っていた。関係者以外立ち位置禁止のエリアだ。いくつもの横道があって、その奥をちらりと見れば階段のようになっている場所もあった。ドルワフロから鍛冶師が去らなければこうした道を使い、今も奥深くまで採掘や採鉱が行われていたのだろうか。ランタンを掛けてあるはずの金具に何もないのは、ここを出る時に鍛冶師たちが持っていったからだろう。
ツカサは走りながらちらりと足元を見遣った。食事処から先に出ていった鍛冶師たちはここを通らなかったのだろうか。自分たちの足跡だけしかなく、足元の埃が舞いあげられて新しい足跡を残していた。ツカサの出したトーチの明かりでポーツィリフがざかざか進んでいく。
無言で早歩きをし続けていたポーツィリフが不意に足を止めた。
「どうしたの?」
「ここから先ァ、少し空気が薄いんでさァ。このままの速さで行くと息ができねェ」
坑道というものは、空気を通す造りにしなくてはならないらしい。ただ掘り進めるだけだと息が足らなくなるのだという。時に毒が籠るというので、何かガス溜まりのようなものでもあるのだろう。裏口、鍛冶師の鍛冶場もまた火を扱い酸素を多く使う。だからこそ、ここからは慎重に行くという。
ツカサは解決策を持っていた。酸素ではないものを、酸素に【変換】し、その濃度を合わせればいい。この坑道の横道をじわりと温め始めている鍛冶場からの熱でもいいし、なんでもいい。【変換】を使わなくとも、風魔法で後ろからそれを吹き込んだっていい。とにかく速度を落としたくなかった。
「空気が薄くなければいいんでしょ?」
「そうだけど、いや、落ち着けツカサ。それだけじゃない、おかしいんだ」
「何が?」
「金づちの音がしねェんで。いつもならァ、この辺から、にぶぅく、こぉーん、こぉーん、ごうごう、と聞こえるんでェ」
金属を叩く音がしない。それは戻ってすぐに火をいれたばかりだからではないのか、とツカサが眉を顰めれば、キスクは首を振った。
「鍛冶場ってのは一度火を入れるとそれを絶対に落とさない。出てくるときにドルワフロが燃えちゃ困るから、落としてきたとは聞いてるけど、火を入れ直して火床を整えるのにも手順がいる。俺たちかなり早くみんなの後を追ってきてるから、今火を入れ直してるところではあると思うんだけど」
「要点をまとめて、何が言いたいの?」
「火の送り方がおかしい、音がしない。排熱の道は決まってるはずなんだ。音がすることでここが安全だとも判断するんだ。でも、まるでこの坑道の通路を焼くような空気の動き方で……」
『魔法、障壁』
ラングが呻くように言い、ツカサは咄嗟に魔法障壁を強化した。ポーツィリフとキスクの向こうからぼわっと何かが弾ける音がした。耳の奥がぐっと押されるような空気の動きを感じ取り、ツカサはここに辿り着くものを遮断、道全体で塞いだ。ぼんっと炎の渦がぶつかり、うねり、ねらねらと魔法障壁に縋りついて炎の舌なめずりを見せてくる。いっそ艶めかしい踊り子のようにすら見えた。
ポーツィリフは背負ったラングを庇ってくれていて、キスクは驚いて尻もちをついている。ツカサが道を塞いだからか、後ろの方でもぼぅっと火が噴く音がした。入り組んだ道を回り込んであちこちから焼くための炎が伸びてくる。ツカサが魔法を扱えなければ今頃皆、死んでいた。
「単純に火力をミスしたか、この先に敵がいるか、どっちだと思う?」
「鍛冶師連中じゃねェ、若ァ、戻りましょう!」
「くっそ……! 誰が、いや、ロトリリィーノ叔父か!?」
「炎は防いでおくから早く戻って! ラングに怪我をさせないでよ!」
合点承知、とどこかで聞いたことのあるような言い回しでポーツィリフは叫び、今来た道を戻った。
この道を来ることを誰かが知っていて、排熱の経路を切り替えたのだとしたら、先に戻った鍛冶師の人々も無事かどうかわからない。ツカサは魔法障壁を各通路に蓋をするように置いてきた道を戻るキスクたちの後を追った。とにかく、裏口は使えない。
「坑道の中で休めるところってある!?」
「あぁ、いや、排熱の経路をあちこち切り替えられたら厄介だ! ドルワフロの鍛冶場の熱は、この坑道を温められるほど強いんだ!」
「じゃあ他には!?」
「あっしらがァ、坑道の外に建てた隠れ家がありまさァ! サボれるんでェ、若にも秘密なんですがァ!」
そうなのか!? とキスクは叫んでいたが、とにかくラングを横にできる場所が欲しい。
「そこに案内して!」
「あぁ、いや、そうだな、悩んでる暇は」
「キスク、悪いけどその、あぁ、いや、ってやめてくれる!? 肯定か否定かわかりにくくてむかつく!」
「ご、ごめんな!? 気をつける!」
ごぉう、ごぉん、と炎が遠くで燃える音がする。鍛冶場に炎が逆流していなければいいが、何かしらの殺意をもってああした者がいるならば、それでいいのか。
魔法障壁に当たる風の強さが一層増した。キスクが息を切らせ、ポーツィリフがどすどすと走りながら真っ暗な洞窟から外に飛び出した。
――何もない、と言うに相応しい、あまりにも灰色の世界だった。今が昼か夜かもわからない、薄暗く、生命のない、一面の灰色の世界。視界を覆う吹雪がまるで一行を歓迎するかのようにふわっとはれた。いや、それは優しい死への誘いだったのかもしれない。思わず一歩を踏み出して、ツカサは雪景色を見渡した。
遠くに細く背の高い木々が身を寄せ合うように森を成していて、さらにその向こうに黒い影を浮かび上がらせ、山々がこちらを見下ろすようにそびえていた。ツカサの知る山々の姿はどこにもなく、凍えさせるために冷たい息を吹きかけてくる、そんな厳しさだけがあった。
「坊ちゃん、こっちでェ!」
ポーツィリフの声に振り返り、ツカサはその行く先に置いた魔法障壁を除雪車のように動かし、歩きやすい道をつくった。すげェ、とポーツィリフが言いながら行く先を指差して示してくれる。ツカサはただひたすらにその道をつくった。
辿り着いたのは先ほど見ていた細い木々が作り上げた森の中、ちょっとした崖のようなところに木のドアが嵌め込まれ、そこに家があるのだとわかる。ホビットが住んでいそうな感じだ。
「先に戻った連中もォ、来ちゃいねェようで」
大丈夫なのかと不安になるほど盛大に、ばきっと音を立てて扉を開いてポーツィリフが呟く。トーチを入れ、埃っぽく感じて風魔法を使い、空気を入れ替える。炎魔法と風魔法を組み合わせて暖房を入れ、部屋を暖めると仮眠用のベッドにいつものセットを置き、ラングを寝かせてもらった。
浅く、短く、ラングの息は乱れていないが苦しそうだ。どさどさと薪を出して暖炉に火を入れてもらいながら、ツカサは癒しの泉エリアの水をラングに飲ませた。魔力を持たないラングは理の属性、こういったものはよく効いてくれるはずだ。発熱から脱水症状も心配で、ツカサは【黄壁のダンジョン】で作ったのと同じ、癒しの泉エリアの水に塩とハチミツと柑橘類を混ぜたものをつくり、それもまた飲ませた。口の中に水を注がれて目を覚ましたらしいラングの視線を感じた。
『ラング、体を起こすよ。これ飲んでおいて』
『ここは』
『隠れ家の一つ。坑道は抜けたよ』
岩肌と土肌の混ざり合った壁と天井をぐるりと見渡し、再びラングに視線を戻して頷く。そうか、とラングは小さく声を零し、ツカサの差し出した手に手を重ね、腕を引かれて身を起こした。
『すまない、言おうとは思っていた。少し……休みたい』
『わかってる。薬を手に入れてくるから、大人しくしてて』
背を支え、コップを渡せばラングはそれをすべて飲んだ。
『美味い』
『よかった。マントと装備を外そうと思うんだけど、どこまでならオッケー?』
『マントまでだ。装備は外したくはない』
『双剣と腰の後ろの短剣くらいは外さないと。寝にくいよ』
むぅ、とラングが唸り、息を吐いてマントを外す。双剣を外し、短剣を外し、ナイフのセットをツカサの手に置きながら一瞬、力が入る。
『信じている』
『裏切らない』
はっきりと言い、黒いシールドの奥の双眸と目を合わせる。やがてラングは深く息を吐きながらふかふかの敷布団に倒れ、また寝息を零し始めた。激しい咳でもしていればもっと早く気づけた。症状の出方がツカサのイメージしていたものとは違い、怖くなる。預かった装備は空間収納に入れ、胸当てのあたりに手を置き、息をしていることを確認してしまった。
ぱちりと炎が弾けた音で無骨な暖炉に火が入ったのだとわかった。振り返れば心配そうにキスクとポーツィリフがこちらを見ていた。
「ラング、大丈夫か? あぁ、い……、大丈夫じゃないよな」
「熱が出て時間が経ってるけど、それでも薬は飲ませたい。ドルワフロ、潜り込めるかな? 薬ってどこで手に入るんだろう」
「ここまで来たならァ、戻る方法探すよかァ、森で探した方がァ、早ェです、坊ちゃん」
ポーツィリフを見遣れば、木の板に黒炭でガリガリと何かを書き始めた。ギザギザの葉、丸い何かがいくつかくっついているように見える。
「こういう薬草がァ、この森に生えてるんでェ。これを煎じて飲むんでェ」
「なんて名前? どこに生えてるの?」
「トルネッリ。白い実をつけるんだ。葉を煎じるのもそうだけど、白い実は気力体力に効く」
「それを食えばァ、たたねェ男も勃つって言うくらいでェ」
ガハハ、と笑うポーツィリフを小突き、キスクは咳払いをした。だいたい、白い木の横に身を寄せるように生えてまさァ、とポーツィリフは体を小さくしながら言った。ツカサは冗談に付き合う余裕もなく、ラングに布団を掛けた。
「俺が探しに行ってくる。魔法障壁でマーカーも置けるし、ラングにつけたものを辿れば戻って来られる」
「一人は危ない! 雪の中、移動も慣れてないんだろ? 俺は、あぁ、いや、ううん、いや、俺は足手まといになるから、せめてポーツィリフを」
「その方が足手まとい。全力で魔法を使うから、一人のがいい。それから、キスク」
「なんだ?」
ツカサはポットに水を入れキスクに渡し、ラング用のポットには癒しの泉エリアの水を入れ無骨なテーブルに置き、灰色のマントを羽織り直しながらぽつりと言った。
「むかつくって言ってごめん、八つ当たりしたんだ」
ぽかん、とした後、キスクは小さく笑った。
「あぁ、いや、気にしてない。うん、確かに直さないとな、頭になるなら」
キスクが自然と手を差し出してくれたのでそれを握り返した。ぐっと力を入れてから離し、ツカサは胸に手を当て真摯に頼んだ。
「ラングをよろしく。時々、そこのポットの水を飲ませてあげて。口に何か入ってくれば目を覚ますと思うから」
「わかった。ツカサ、本当に雪をなめないでくれ。あんたのその力なら大抵のことはどうにかなるだろうけど、山は、神の領域だ」
「……わかった」
強く頷き、ツカサはポーツィリフが再びばきっと音を立てて開いてくれた扉から外に出た。背後で扉が閉まる音を聞きながら、黒い木々の立つ灰色の世界に、同じような灰色のマントが立つ。
トーチというマーカーをまずは扉の所に一つ。まるで命綱を伸ばしていくように、ツカサは自身の行く手を阻む雪を風魔法で散らし、【鑑定眼】で目当ての薬草を注目しながら足を進めた。




