表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第二章 失った世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

469/574

2-40:守護騎士 グルディオ

いつもご覧いただきありがとうございます。


 目を覚ませば変な球体の中に閉じ込められていた。樽に、芋の入っている袋、零れた豆。ここは貯蔵庫か何かだろうとわかった。そこに自身を含め、捕らわれたと聞いていた情報収集班の四人の姿もあれば、しまった、とグルディオは臍を噛んだ。しかし、先ほど見たものが忘れられなかった。

 帽子を被った青年がその手のひらに光を取り出したのだ。あれはランタンでも蝋燭でもない。【不思議な力】だ。神子が見せるような大規模な何かではなく、なんというか、とても穏やかなものに見えた。


「君たちは何者だ」

「質問、するは私たちだ」


 黒い仮面の男が少し変な言い回しで言葉を遮った。どうやら目の前にいる三人のリーダー格らしい。その人物が声を発すれば光を手にした青年はちらちらと様子を窺い、先ほど店員かと思い声を掛けた青年は腰に手を当てて深く頷いていた。おかしな組み合わせだった。


「教会、なぜ女、集める? 無事なのか?」


 何者なのかと問われるかと思えば、まずは女の安否から。連れ去られた女の中に知り合いか、己の恋人でもいたのかと眉を顰めれば、全身がビリビリと痺れた。何とも言えない不快感、全身に力が入り、喉が潰れたような声を出す。


「ちょっと驚いたけど、聞くのそれからなんだね」

「あんたはあんたで無害そうな顔して意外と容赦ないな……あ、いや、なんでもない」


 黒い仮面の男を挟んで、人畜無害そうな、のほほんとした顔の青年が呟き、帽子の青年がぶつぶつと言えばそちらを笑顔で見遣った。女か、とグルディオは失笑を浮かべた。


「女を集めているのは我々の意思ではない。神子の意思だ。我々守護騎士(パラディン)のあずかり知らぬことであり、安否も知らぬ」

「謝礼として連れ去った、聞いた」

「我々の、あずかり知らぬことだ」


 ふむ、と黒い仮面の男は腕を組んだ。それからゆっくりと顎を撫で、人畜無害そうな青年を振り向く。何かよくわからない言葉でいくつかのやり取りを行い、青年の方が頷いて前に出た。


「つまり、あなたたちの本意ではなかったんだ?」

「当然だ。私は守護騎士(パラディン)、民を、信徒を守るための剣である」


 また聞き慣れない言葉で黒い仮面の男と会話し、青年がこちらを向いた。


「あなたにとって、神子って、何?」


 随分と抽象的な質問だが、これは答えを間違えてはならないと思った。情報収集班の四人は固唾を呑んで見守り、明かりを持った青年は唇を結び、黒い仮面の男は見えにくいが何か剣の柄のようなものに手を添えている。この答えで皆の命がどうなるかが決まると本能で理解した。一度大きく深呼吸をし、グルディオは明瞭な声で答えた。


「排すべき、敵である」


 四人の内二人が激昂するのが視界の端で見えた。そしてその二人がバリバリと何か激しい音のあと、ぐったりと球体の中で倒れ伏した。視界の端に映ったものに視線を取られてはならない。黒い仮面の男の見えない双眸は確かにグルディオを見据えている。


「死んではいないよ、この先の会話を聞かれたくないから、気絶させただけ」

「……そうか」


 黒い仮面の男のマントを青年が引いて視線を呼び、何かを話す。目を覚ましてから感じていた重い何かがふっと消えた。黒い仮面の男は一歩下がり、青年二人が前に出た。


「わかることがあれば教えてほしいんだけど、ドルワフロで三年前何があったの?」

「ドルワフロ? 首長が亡くなった件か? あれは息子が親殺しをし、逃げたと報告を受けたはずだ」

「調べてはいないんだね」


 ううむ、と腕を組む青年の横で、帽子を被った青年が噛みつくように言った。


「親父を殺すわけがない! 俺は親父に行ってこいと送り出されてるんだ!」

「ほぅ、つまり君がドルワフロのクィースクというわけか」

「隠すつもりはないからいいけど、身分を簡単にばらすのはどうかと思う。ちょっと黙ってて?」


 うぐ、と青年、クィースクが項垂れる。ここからは人畜無害そうな、けれど容赦のない青年との対峙だった。嘘を吐けば声音一つで見破られるだろう。何かをじっと探っている青年の色の違う眼差しは、その背後の黒い仮面の男とはまた違う異質なものを感じさせた。黒い仮面の男の双眸がこちらを見据えてくる。侮ってはならない何かがあることと、ぽんぽんと質問を投げかけてくる青年の格差がグルディオに嘘を吐かせる隙を与えなかった。

 尋問というよりは会話という形で青年はやり取りを望んだ。

 改めて名を聞かせてもらいたい。守護騎士(パラディン)のグルディオである。

 守護騎士(パラディン)とは何か。民を、信徒を守る剣である。

 何人いるのか。守護騎士(パラディン)の称号を持つのは十二人である。

 他の街でも見かけたが、なぜここにいるのか。現在は密命を受けている最中だ。

 それは神獣を捕まえることか?


「なぜそれを」


 グルディオは言葉を失った。軽快な会話のやり取りをする青年はパッと見た感じ、少年に見えるのが本音だ。けれどその立ち居振る舞いは堂々としていて柔らかい表情とは裏腹に隙が無い。じぃっと見つめてくる色の違う両眼すらも奇妙な違和感を覚えさせる。壁に寄り掛かっていた黒い仮面の男が口を開いた。


「命が黒く溶ける。神獣、何か方法が?」


 今この国に蔓延っている不穏な空気、少し聡い者であれば見かけたことも、思いついたりもするのだろう。神獣にまで至った理由はわからないが、いっそのこと踏み込み、手勢に収めるべきか。意識のある情報収集班、グルディオは自身の派閥の者を見遣り、その覚悟を視線で問いかけた。彼らはこくりと覚悟を決めた顔で頷き、グルディオは息を吸った。


「……我々は過ちを正すため、密かに反旗を翻す準備をしている派閥である。我らの敵はおよそ百年前、この世に姿を現した神子である」

「続けろ」


 黒い仮面の男が首を揺らし、感想も挟ませなかった。グルディオは縛り上げられた体をどうにか起こし、座り直してから続けた。


「国が狂った原因を神子と断定するには乱暴だろうが、それ以外に疑うものを我らは知らないのだ」


 今、教会は二分されている。神子を崇拝する派閥と、グルディオのようにその存在を疑う派閥だ。約百年前の大虐殺のことは記録にも人々の口伝にも残っているが、そこから【理の女神】の信仰が狂ったのではないかと一部の者は考えている。百年姿の変わらない神子を神として崇める者たちは、神子の機嫌を取ることで自らが救われることを信じているのだ。


「だが、神子は求めるだけでその力を自らのためにしか使わない」


 ここ数年、遺体が溶けるようになった。場所により、黒いものが人を襲うようになった。この国の歪みを報告しても神子はだからどうしたと美酒を啜ることをやめなかった。それどころか、それならもっといい女、美味い飯、最高の酒、と享楽を楽しむ方向で要求が増した。その一端で各地から女が集められているのだろうとグルディオが呟けば、ドルワフロのクィースクが強く拳を握り締めていた。その肩を宥めてから色の違う両眼を持つ青年が再び尋ねてきた。


「神獣に目を付けたのは誰?」

「ルシリュという守護騎士(パラディン)だ。何か声を聞いたりすることの多い不思議な奴だ。だが、その実力は確かで、信頼されている。我々の……リーダーだ」


 反乱軍のリーダー、ルシリュ、と名を繰り返す青年に黒い仮面の男が何かを伝えた。ハッとした顔で手を叩き、青年はすっきりしたような顔をした。


「あぁ、そっか、北の方に向かった四人組の守護騎士(パラディン)の一人がそんな名前だったっけ」

「会ったことがあるのか」

「見かけただけ。で、なんで神獣に目を付けて、捕まえるなんて話になった?」

「なぜそれを知っているのかと問いかけても答える気はないのだろうな」


 うん、と随分素直に頷かれ毒気が抜かれてしまった。ふぅと息を吐いてグルディオが話を戻した。


「声が聞こえたと言っていた。少しの間であれば死者を守ることができる。けれど、永遠ではない。言葉の通じるものを探せ、と何かが囁いていると。半信半疑だった。神獣の一人を神殿に迎えるまでは」

「じゃあ、捕まえられたんだ?」

「自らこちらに来たというのが正しい」


 どういうことかと問いたいのだろう。素直にきょとんとした顔をされ、グルディオは青年の素直さに少しだけ笑ってしまった。ムッとした顔に小さく咳払いし、固い声を心掛けた。


「三年ほど前のことだ、大きな狼だった。教会の総本山、神殿と称している場所で死者を送っている最中に突如として現れ、黒いものをその身へ収めた。狼は言った、命を暫し抱えよう、だが限界は即座に来るであろう、と」


 姿を現した狼はその場で伏せをし眠るようにそこに居た。神子が話し掛けても一切の返事をせず、その身を蹴り、炎で毛皮を焼かれても、ただ黒いものだけを吸うためだけに息をしていた。そして半年後、体を起こすと遠吠えを一つして、霧散して消えた。そうすると、死者は再び溶け始め、黒いものが徘徊するようになった。その時点で守護騎士(パラディン)たちはルシリュの言っていたことが真実であったと判断し、教会のある街々へ秘匿文書を送り、神獣の目撃情報を集めた。今まで黒いものがなかった場所で黒いものが目撃されるようになれば、狼のような神獣が死者の命を抱きかかえようとしているはずだ、と予測も立てて行動に移された。

 そこまで話せば青年はなるほどと呟き、黒い仮面の男と何度目かのやり取りを行った。

 グルディオは暫く待たされた。手記を開き見たことのないペンで書き込みながら二人で何かを話し合っているのはわかる。ドルワフロのクィースクは青い顔でじっと床を眺めており、二人の会話もあまり聞いていない様子だった。グルディオが姿勢を直したところで青年が振り返った。


「これから言うこと、よく聞いて」

「なんだ」


 グルディオの返事を待ってから青年は言った。


「命を抱えるにも上限があって、神獣たちは限界を迎えている。その百年前のこと、神子が大虐殺をしたせいで、想定以上に命が失われた。それが神獣たちの限界を早めたんだ」

「なぜそんなことを知っている」

「神獣に聞いた。信じなくてもいいけど、事実だよ。それから、神子について教えてほしい。人相は? 名前は?」


 グルディオはその質問の意図は読み切れなかったが、嘘は吐かなかった。


「黒い髪、独特の顔立ち。少しお前に似ていると思う。名は、神子様としか」

「そっか」


 自嘲気味な笑みを浮かべた青年は二度息を吸い、顔を上げた。右手をついと振ればグルディオや情報収集班を捕らえていた不思議な球がぱちんと弾け、貯蔵庫の冷たい床に落とされた。


「このお店の人も脅していただけだから、民を守る守護騎士(パラディン)なら、任せていいよね? 俺たちのことは追わないで。追ってきたら、みんな殺さないといけない」


 色の違う両眼がちらりと横を見て、黒い仮面の男から重い威圧を感じた。一人であれば剣を抜いたが、怯え、震え、既に戦意を喪失している部下がいるところでは悪手だ。グルディオは素直にわかったと頷いた。青年はドルワフロのクィースクの肩を叩き、背中を押して貯蔵庫の外へ促した。青年とともに残った黒い仮面の男は、いつの間にか抜いていた剣を床で気絶している別派閥の者の首へ簡単に差し込み命を奪うと、ゆっくりとグルディオに歩み寄り、感情のない声で言った。


「命拾いをしたな」


 するりと剣で首を撫でられたような感触があった。実際に触れてはいないというのに、氷のように冷たいものが確かに首筋を撫でた。喉に絡んだ血を吐くように体が折れ、グルディオは必死に息を吸った。鋭い殺気だった。同じように解放された情報収集班の者たちは失禁と気絶で酷い有様になっており、グルディオは必死に顔を上げ、その先に誰もいないことに深く息を吐いた。

 もし死神というものが存在するのならば、きっとあの男こそがまさしくそれだろう。

 グルディオは救いを求めるようにごとりと額を床につけ、そのまま意識を失った。




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


きりしまのよもやま話。

先日、友人から唐突に「きりしま、昼にいくらまで出せる?」と問われました。

昼、ランチか。スイーツビュッフェやアフタヌーンティーなど、似合いもしないお洒落なあれこれも好きだったりするので「昼なら、5、6千円かな? しっかり食べれそうだ」と答えたところ、「運が良いな、ちょうど5千円でいいところがある。うなぎ食べに行こう」と親指をくいっとする友人が好きです。

5千円のうなぎとか食べたことないんですが……。予約しないと入れないそうなので今度行ってきます。

別の友人は「うまいもの食わせてやるから朝飯を食わないで飛行機に乗ってこい」ときりしまを北海道へ呼び寄せ、本当にうまいものを二泊三日たらふく詰め込んで「じゃあ気をつけて帰れよ」と空港でソフトクリームの美味しいお店を巡らせてから見送ってくれます、好きです。

ポテりこってあんなに美味しいんですね……。ご存じの方おられるだろうか。

飛行機で気持ち悪くなるから一つだけにしなさい、と友人に管理される大人です。お恥ずかしい。

お察しのとおり、きりしまは餌付けに弱いです。友人、皆、美味しいものをよく知っている。

そして友人たちが口を揃えて言うのが「きりしま、美味しそうに食べる。食べさせるの楽しい」です。有難い反面、とても恥ずかしくなったことを思い出しました……。

いや、本当に、単純に、友人たちのピックアップが大変美味しいんですよ。きりしまだってそれなりに食べ歩きをしているものの、友人のチョイスが隠れ家的な名店であったり、王道ながら抜群に美味しいお店だったり、実に詳しくてですね。

どうやって見つけているのか気になって尋ねたことがあるのですが、一人が言った「アンテナの張り方がお互い違うだけ」というのがすごい発見だったのです。

きりしまが好きなものを案内した時は、それはそれで向こうは「何これうまっ」となってくれているらしく、そうして言われてみるとお互い好きなものがまったく違うなと気づきました。

きりしまは食べられるけれど、友人が食べられない、なんてこともざらにあり。逆も真なり。

そうした一言がさらりと出てくる友人のそんなところも尊敬の一つです。

予定は未定ながら、流感も落ち着いてきたし、また食い倒れツアーしようという話題が仲間内で出てきて、ワクワクしていろいろ思い出してしまいました。

次はどんな美味しいものが食べられるのだろう……。

ちなみに北海道の帰りは飛行機に乗るまでにソフトクリームを3個は食べます。いつもおなか壊すからやめろと怒られます。ソフトクリームで壊したことはないのですが、どうせ手荷物越えた先でもう一つ食べるのわかってるからもうだめ、と2個目でストップがかかる。解せぬ。

よもやま話長いですね、取り留めもなくなってきたのでここまでにしましょう。


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なるほど。今までどうしてこうも食事の描写が丁寧で読んでいるだけで食欲をそそるのか、と不思議に思っていましたが、その片鱗を垣間見たような気がします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ