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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新 第二章 失った世界

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2-38:経験を生かす

いつもご覧いただきありがとうございます。


 開幕、酒交じりではあったが、おおよそ、大男たちの叫んでいたことは酔いがさめた後も同じだった。

 ドルワフロの頭、キスクの父親である男が死んだ。その理由としてキスクが殺害したとドルワフロでは報せがあったらしい。頭の死亡から若頭は行方知れず、その友人たちもまた旅に出たというので、皆で殺害し、逃げたのだと誰かが言い、そうに違いないと誰かが頷き、そうだと思ったという。

 確かな目撃者もおらず、ただ巡った噂をよく知りもせずに肯定し、思い込む。情報の怖いところだ。ネットでもそうだった。状況証拠やこうに違いないという思い込みが、それと同意するものが増えて行けば真実になってしまう。時に特定班なるものたちが個人情報を暴き、問題になることも多かった。

 ここにはネットがない。だからこそ逆にぽろりと耳に入った言葉が全てになりかねない。そうしてキスクは自らの知らないところで父殺しの罪を背負わされたというわけだ。

 根は優しいらしいドルワフロの元鍛冶師たちは呆然としているキスクの様子に立ち尽くし、何を言えば、どうすればいいのかわからない様子で互いの顔を見合わせていた。


「あのォ、神子様、あれは……」


 話の合間、気になったのだろう。いかずちの魔法障壁について問われ、【神子】もまた都合がいいので否定せず、ツカサは一言、天罰、と敢えてこの世界に乗った。


「俺やラング、何よりキスクにナイフを投げるような奴は許されることはない」

「俺はただ、正義のために!」

「それでナイフを投げたんでしょ? 投げたことに理由はあっても、投げられた側がどうするかは、勝手だよ」


 そんな、と魔法障壁の中で蹲る男にも改めて話を聞く必要はあるだろう。大男たちによるとドルワフロの鍛冶師でもないらしく、どういう目的でここにいて、ナイフを投げたのかは知る必要がある。ラング曰く二人逃げていったらしいので、どこか組織に属する者たちだろう。

 厨房で鍋を被って隠れていた料理人と、キスクが最初に声を掛けた店員は争いが終わった頃に恐る恐る顔を出し、こちらの様子を窺っていた。ツカサは椅子で項垂れているキスクの肩を叩いた。


「ドルワフロの頭の弟、頭代理って人はどんな人なの?」

「あぁ、いや、叔父は、穏やかな人だ。少し気の弱いところもあって、豪快な俺の親父と、仲はよかった」

『穏やかだからと権力を欲さない理由にはならない』


 ラングが故郷の言葉で言い、キスクは首を傾げた。ラングは父親を、叔父に殺されたも同然なのだ。地位を奪われ、逃げて、その先で生き延びた少年が今ここにいる。ラングの肩にも手を置きたかったが、それは同情することになる。そんなことはしたくなかった。父のことも話を聞いたと既に言った。ツカサは話を進めることにした。


「ドルワフロに戻ったとして、キスクの周りは敵ばかりの可能性があるね。一緒に旅に出た仲間はどうしたの?」

「別の場所へ、固まって動くよりもその方が早いだろうからって、南と、西に別れたんだ。俺は北と東を、それで、やっとツカサたちと出会った。随分時間が掛かったけどな」


 無事だといいけど、とキスクはまた項垂れてしまった。


「合流場所とか決めてなかったの?」

「いや、決めてあった。ドルワフロの街だ。仲間を手に入れた奴から戻ろうって話で……」

「神子様ァ、あのォ……俺らも状況を知りてェんですが……」


 肩の脱臼をラングが入れ直し、ツカサが治癒魔法をかけた大男、元鍛冶師連中の取りまとめらしい男がボリボリと頭を掻いて尋ねてきた。ツカサはラングを見遣った。


『敵の敵は味方って言葉が俺の故郷にはあるんだけど、娘さんや奥さんを取り戻したいなら、教会の敵でもあると思うんだ、どうかな』

『裏切ってキスクを突き出さないとも限らない』

『そんなこと言い出したら誰とも協力できないよ?』


 ラングはふいとそっぽを向いた。そういえば、この人は誰かと協力するということが大の苦手だった。それは別に強くなって周囲がついてこられなくなったからではなく、元々誰かに頼ることが苦手だからなのだろう。そんなラングが師匠と呼ぶリーマスがどれほど特別だったのか、【ラング】が任せるとツカサを頼ってくれたことがどれほどに特別な言葉だったのか、じわりとホッカイロを胸に当てられた気持ちだった。それに、相棒と呼ぶアルの存在もまた【ラング】にとっては大きな変化だったはずだ。


「大丈夫か? 気持ち悪い顔してるぞ」


 そっとキスクに言われ、本当にどんな顔をしていたのか鏡で見たくなった。ツカサは両手で頬を揉み、大丈夫、何でもない、と答えた。しかしどいつもこいつも失礼だ。年相応に見られないことも、強そうに見えないことも、少し物思いに耽っていれば年寄りくさいだの気持ち悪いだの、少し腹が立ってきた。


『話を進めなくていいのか』


 横からラングに声を掛けられ、また両頬を揉んだ。


『はっきりと教会と敵対すること話そうと思う。俺は信じるから、ラング、警戒しててもらっていい?』

『わかりやすい役割分担だな。私としてもやりやすい』

『じゃあ、そういう方針で』


 ツカサはキスクの肩を叩き、改めて視線を向けさせた。


「お父さんのことはドルワフロに行って確かめよう。その前に確認なんだけど、仲間を増やす気は、ある?」

「あぁ、え、いや、どういう意味だ?」

「キスクの目的、友達とお父さん以外に話してないんでしょ? それってたぶん、変に情報が洩れて教会に目を付けられないようにするためだと思うんだけど」


 そうだ、と答えを得て、ツカサはキスクに提案した。はっきりと教会と戦うつもりで手練れを集めていたこと、そのために密命を受けてドルワフロを出ていたと伝えてはどうか。実際、ラングもツカサも実力の一端は示した。ツカサに至っては魔法というこの世界では希少な力を持っていることも見せた。手練れを探しに行っていたというキスクの目的はきちんと果たされているのだ。加えて、キスクが本来の【神子】である可能性をツカサは考えていた。だからこそ、【導き手(ギウデア)】がキスクの隣にいたのではないだろうか。教会に連れて行かれたという【導き手(ギウデア)】のことも気にはなるが、今考えても仕方のないことだ。

 キスク本人からそれでいいと了承を得てからツカサはこほんと咳払いをした。こういう時、大勢の前に立ち責任を一身に背負っていたあの軍師の姿が思い出される。【ラング】に教わったとおり背筋を伸ばし、胸を張り、顎を引き、ヴァンがやったようにゆっくりと目を開いた。


「まずは最後まで話を聞いてもらいたい。君たちにとっても悪い話じゃないと思う」


 ツカサはキスクの目的を話した。【理の女神】の真心を信仰に持つドルワフロの民ならばわかるはずだ、と各々の信仰心に訴えながら、キスクに課せられた使命を伝え、その縁に導かれてツカサたちがここに来ていること。戦線に参加はしないと約束はしているが、この場を収め、キスクの濡れ衣を晴らすためにはそういう体を取るしかない。ドルワフロの中を自由に歩き回れないのは聖域を探すのに不便なのだ。

 元鍛冶師たちはお互い顔を見合わせて今の話に困ったような表情を浮かべていたが、怪我を治され、その暖かな光を目撃した者たちはその言葉を最終的には受け入れてくれたらしい。例の大男がどんと胸を叩いた。


「若がそんなことォしてるたァ知らなかった。だとしたらァ、親父殺しは確かにおかしいだろォ。神子様が見せた奇跡はァ本物だァ」


 なァ! と振り返る大男に、元鍛冶師たちがおう、と声を揃えた。狭い空間で雄叫びを上げる男連中にラングが小さくシールドを揺らした。耳のいいラングにはこの大声がきついのだろう。ツカサは咳払いをして再び注目を集めた。


「俺たち、キスクの案内でドルワフロに行く予定だった。でも、キスクのお父さんが殺されたとか穏やかじゃないよね。動き回れないのは困る」


 うん、うん、と大男たちが子供のように頷いて次の言葉を待った。


「キスクは教会に敵対しているんだ。娘さんとか奥さんとか、助けたいんでしょ? それなら、お互いに協力するべきじゃないかな」


 確かに、敵は同じだ、神子様が言うなら、キスクは正義のために動いていた、と内輪で相談する声が零れる。その間にキスクを振り返った。


「勝手に進めてごめん。キスクを旗頭にするような形になっちゃったけど、平気?」

「あぁ、いや、大丈夫だ。親父が本当に死んだなら……俺が立つべきだ」


 ぎゅ、とリュートを抱きしめたキスクの背中は、規模はわからないが一族を背負わねばならない重さに潰れそうだった。父親が亡くなったことを受け止められてはいないが、自分がやるべきことを冷静に見定めるだけの胆力には驚いた。ツカサは父の生存を知った時、息子として覚悟が揺らぎ、モニカに恐怖を、アーシェティアに迷惑を、そしてエレナに癒えない傷を負わせてしまった。今なら【変換】で傷を癒す、変えることもできるだろうが、エレナがそれを望むだろうか。また少し思考が逸れ始めた。ふるりと首を振り、戻る。


「魔法は俺が使い方を引き続き教えてあげる。ドルワフロに行って俺たちの目的がどうなるかわからないけど、戦線に参加しない限りは多少手伝うよ」

「おい」


 横からラングに睨まれる気配がした。ツカサが協力する姿勢を見せたことを鋭く察知したらしい。まあまあ、とツカサは苦笑を浮かべた。


「途中で放り出して帰るかもしれないんだし、守るくらいはしてもいいんじゃない?」

「甘やかす、よくない」


 厳しいが、その姿勢は結局ツカサを守るため、自身を守るためだ。否定をする気はない。


「深入りはしないよ」


 はっきりと言えばラングは腕を組んで壁に寄り掛かった。決めているのならば好きにしろということだ。呆れられただけかもしれないが、藪をつついて蛇を出す気がしたのでこちらにも深入りしないでおこうと思った。

 さて、とツカサはいかずちの魔法障壁で捕らえた者たちを振り返った。


「で、あんたたちはどこの手勢?」


 ザッと振り返った元鍛冶師たちの何対もの目、いかずちの魔法障壁の中で男たちはびくりと震え、逃げ場のない球体の中で後ずさった。




いつも旅路にお付き合いいただきありがとうございます。


きりしまのよもやま話。

駆け足フェーズ! 眠くて大したことを書けないよもやま話。

寒いですね、本当に寒いです、寒くてむしゃくしゃして投稿頻度が上がってしまいそうです。

でも寒くなると鍋が美味しいんですよね。

シチューが美味しいんですよね……。

とろりとしたクリームシチュー、ほくほくのジャガイモと甘いニンジン、今回は豚肉とコーンを入れて、はふ、と息を吐きながら甘いのと熱いのとで胃を温めて……。

食べたいですコーンクリームシチュー。


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

1巻書影(2巻書影はもう少しだそうです。)

挿絵(By みてみん)

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