第一巻 発売記念SS その2
書籍がお手元にあれば、ぜひ口絵を開いてください。
ttl先生のイラストに感動し、担当さんに叩きつけたものをそっと置いておきます。
ガラン、薪が崩れ、お互いに擦れ合う音が響いた。合わせて、ボッ、パチッ、と弾けた音が火の粉を空へ運んでいき、思わずそれを目で追った。まだ暗くなる前、鍛錬が出来、それと同時に調理するのに手元の明かりに困らない頃、早めの夕食だった。
太陽は沈んでオレンジの色合いは既になく、西の空に薄らと最後の青が残る時分、少し物悲しい時間帯だ。
『どうした』
ぼんやりと空を見上げているように見えたのか、ラングに尋ねられ、生返事を返しながら視線を手元に戻した。今日は乾燥肉に興味を持ったら作ってくれた、乾燥肉のスープと硬いパン。スープに浸すとみっちりとした食感になるパンが、思ったより美味しくて驚いた。
『空が綺麗だなって思って』
小さく首を傾げた後、ラングも空を見上げてくれた。まだ短い付き合いながら、ラングは、何を言っている、何を馬鹿なことを、とツカサの発言を適当に流したりはしないと知っている。見たもの、感じたものを同じ目線で見てくれるというだけでも、心強く感じるのだから不思議だ。
『そうだな。もう暫くすれば星が出る。明日は晴れるだろう』
ほら、とツカサは誰にでもなく、ふふっと笑った。ラングの天気予報はここまで外れたことがない。一人楽しそうなツカサの様子にシールドの奥で眉を顰めたのが雰囲気でわかった。だが、それ以上踏み込むことはなく、ラングはシールドを揺らしてツカサの手元を示した。
『冷めるぞ』
『うん、食べるよ』
でも、もう少しだけ色の変化を眺めていたいなと思い、ツカサはもう一度空を見上げた。
ガラン。ラングが薪を足した温かい音が響く。もう物悲しさは感じなかった。
きっと、明日も晴れる。さらっと抜けた風の心地良さに目を瞑った。