1-19:心強い援軍
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翌日、朝一番で呼び出された。ツカサはさすがにイラッとして、場所は食堂にしろと指定し、人前にお互い晒し合ってやった。朝の挨拶の後、朝食を前に先輩教師たちはいろいろと言ってきた。
「すみませんってぇ、反省してます」
「日頃酒を飲まないもので、自分があれほどに弱いとは知らなかった……」
「確かに、君に押し付けたのはやり過ぎだった」
朝食のスープが苦く感じる。よくよく見てみれば薬草の一種、モルルが入っていたのでそれだろうが、この状況もそれに拍車をかけているに違いない。ツカサはパンをスープにつけながら、低い声で言った。
「もういいよ、何言ったって先輩方がやったことは変わらないからね」
「ひぃ、厳しい」
「当然でしょ、冒険者は信用第一、信頼できない相手とは一緒に行動しないものなんだよ」
ぱくぱくと食べ進め、ツカサはさっさと席を立ちたかった。ジークは首を摩りながら苦笑を伴い、そっと声を掛けてきた。
「ツカサ先生、機嫌を直してくれないか」
「冒険者を相手にするなら、まずその認識を改めてほしいかな」
「どういうことだね」
スープを飲み込みながらズィールに問われ、ツカサはまたパンをむしりと千切った。
「機嫌がどうのこうの関係なくて、裏切った時点で敵なんだよ。冒険者を相手にするならそのくらい覚悟しておけって話。言っておくけど、たった一回酒を飲んだところで、お友達じゃないんだ。俺の座学聞いてた? いたよな三人とも」
うぅ、としょぼくれたのはゲオルギウスだ。ジークは酒の席の記憶がないらしいが、ズィールとゲオルギウスの逃げ方は許せなかった。
「騎士の名折れ、揺らぎ魔力」
「ツカサ先生さすがに言い過ぎです……!」
「言われる方が悪い。悪かったと思うなら取るべき態度と、言うべきことがあるだろ! 若輩に言われて恥ずかしくないのか! 敬意を受けたければ、敬意を示せ!」
バンッ、とツカサが机を強く叩いた音に生徒たちがびくりと震えた。ひやりとした威圧すら発し、ツカサは次の出方で見限るかどうかを見定めようと三人を睥睨した。あわ、あわ、と慌てるゲオルギウスと困惑するジークを置いて、まず立ち上がったのはズィールだった。そして、ぐっと項が見えるほど頭を下げた。
「酒の席、気分を害し、貴殿に押し付けて申し訳なかった。この通りだ。事態の解決のためにもどうか、冒険者である貴殿の力を借りたいのだ」
ジークも立ち上がり、ゲオルギウスも同様に、項をツカサに対して晒した。しん、と本来賑やかであるはずの食堂が沈黙し、コトコトとスープの煮立つ音、皿を洗うために流された水の音が響く。そのまま一分は置いて、ツカサは深呼吸をしたあと、威圧を消し、背もたれに寄り掛かった。
「昨日、そっちは何してたの」
未だむすりとした口調ながら一先ず謝意を受け取ってもらえたことがわかり、ゲオルギウスはほぉーっと息を吐いて座り、ジークは胸を撫で下ろしてから座り、ズィールだけは座らなかった。確実に許すと言われるまでこの老兵は立ち続けるのだとわかり、ツカサは鼻から息を抜いた。
「話しにくいよ、ズィール」
「では、座らせてもらおう、ツカサ」
ごとりとズィールが座るのを確認してからツカサは改めて問うた。
「それで、さっきの質問。そっちは何か情報得られたわけ?」
「こ、ここで話すんですか?」
「こういうの、隠すよりもある程度知らせておくことも大事。進捗がわからないと勝手に調べ出すと思う。動いていたなら、もう教務課の関与だって話回ってるでしょ」
確かに、と頷いたのはゲオルギウス。勝手に動かれるのは困るな、とはジーク。ズィールが報告を担った。
「教務課に調査協力をしてもらっていたのだがな、荷物から何から全て持って出ていっていたので、どこに向かったか、というのも調べられなかった。逃亡も深夜帯、警備も把握した上での行動だろう。そちらは?」
「門兵に人相書きを渡して、冒険者ギルドで魔獣捕獲依頼があったかどうか、誰が対応したのか聞き込みをした。それから知り合いの商会に行って、ちょっと調べ事を頼んできた。そういえば、冒険者ギルドの職員は三年前から職に就いてたらしいけど、教務課のその人はいつからここで?」
ツカサが昨日動いた内容の多さにズィールは感心したように唸り、次はジークが答えた。
「四年前だ、中堅に差し掛かるところだったようで、信頼もされていた。責任者として魔獣商人ともやり取りを表立ってやってくれていた、という形だな。俺も数度顔を合わせた記憶があるかどうか……。思えば、預かってきました、という声掛けで書類を受け取っていたような気もする」
「【渡り人】? 地元の人?」
「【渡り人】だ」
問題はそれが真実かどうか、だ。行方知れずの二人が元から組んでいて入り込んだのなら、これもまた同時期に入るものではないだろうか。敢えてずらしたのか、それとも途中から組んだのか、どちらかが巻き込まれただけなのか、そのへんがはっきりすれば多少明確になるのだが。ツカサは腕を組んでじっと考え込んだ。ゲオルギウスはそれをうっとりと眺めながら、頬杖をついてぼやいた。
「行方不明の職員、ガスパールという名前なんですけど、名前以外、あまり職員の中でも、生徒からも知られていなかったんですよね。休日の過ごし方とか、好物とか、趣味とか、そういえば聞いたことない、って証言ばかりで」
ツカサは腕を解いて顔を上げた。そうだ、感じていた違和感はそれだ。聞き耳を立てている生徒たちですら、どんな顔だっけ、誰だ、と言っているほどだ。
『斥候だったのかな? それがどこの斥候なのか、っていうのが……ヴァンはどう考えてるんだろうな……』
そうだ、違和感が言語化された。影の薄さ、自然と溶けこむ存在感、ツカサが知っているのは斥候だ。他国の出身であれば間者である可能性も高い。元々イーグリスは不可侵条約を持つ、国の中の小さな国。そして周囲を多種多様なドロップ品豊富なダンジョンに囲まれている。ここは狙われるのだと何度も思ったことだ。
スカイの民が、スカイを守るように。イーグリスの民が、イーグリスの冒険者が自分の居場所を守るのだと行動するように。もしかしてこの事態も想定していたのではないか? いや、考えすぎかもしれない。ツカサはぐりぐりと眉間を揉んだ。
「ツカサ、どうしました? よかったら肩を揉みましょうか……! 喜んで触らせていただきますよ!」
「いや、いらない。ゲオルギウス、その手の動きやめて」
拒否にしゅんと肩を落とすゲオルギウスの向こうでコレットが扇子を揺らしてツカサの視線を呼んだ。なんだろう、と立ち上がったツカサの目に、今まさに話を聞きたいと思っていた人物が映った。勢いよく走りだし、生徒をするすると抜けて通路を行き、腕を広げて飛びついた。緑の髪を一つに結んだ、少しだけ小さいが鍛えられた体の、影の薄い斥候。
「アッシュ!」
「おぉ!? 熱烈な歓迎だな! 久しぶりだなぁツカサ! 元気そうでよかった!」
ははは、と笑い、ゴツゴツとしたナイフや隠し武器を感じながら、ツカサはぎゅうっと抱きしめて再会を喜んだ。背中を叩くアッシュの手が素早く動き、装備を外されると気づいてこちらもサッと離れ、お互いに顔を見合わせてから強く握手を交わし、笑った。
「最高の援軍、話を聞きたかったんだ!」
「うわぁ、そんな嬉しいこと初めて言われたな。だいたい、お前誰だって顔されるからな」
「アッシュの役回りならそうでなきゃ、でしょ」
アッシュは困ったように笑い、頬を掻いた。隣でコレットがこほん、と扇子で口元を隠しながら咳払いをした。
「先生、お客様がいらしておりましたわよ。他の教員に頼まれて、ワタクシがご案内いたしましたわ。いくらお名前をお伺いしても、言えないの一点張りでしたけど」
「ありがとうコレット。俺の友達だよ」
「いったいどこのどなたですの?」
教えていいものかどうか悩み本人を振り返れば、アッシュはふふん、と胸を張った。
「【快晴の蒼】のアッシュだ。今回の事件でリーダーのヴァンから派遣されてきた」
おぉ! おぉ……、おぉ? と声音が困惑を含み、しん、と音が消えた。朝食を取っていた生徒の一人が沈黙に耐え切れず、小さく首を傾げて呟いた。
「アッシュ……って誰?」
がっくりと肩を落とし表情をなくしたアッシュの背を撫でながら、ツカサは先程自分が座っていた場所へ友人を促した。
「【快晴の蒼】はやっぱりヴァンとかラダンさんとかシェイさんが有名みたいだから、仕方ないよ」
「クルドもあれで結構、顔知られてるんだぞ、本当に損な役回りだ!」
「アッシュがそうであってくれるから、ヴァンたちも動けるんだよ。朝ごはんご馳走するから、ね?」
「二人前な、昨日の夜から動き通しで腹減ってる」
わかったよ、とツカサはアッシュを座らせてから注文カウンターへ向かい、お盆を二つ持って戻った。アッシュを置いていったテーブルで教員連中とは軽く自己紹介を済ませてくれたようで、ツカサから改めて紹介はせずに済んだ。ギルドカードが出されていたので余程疑われたらしい。どうぞ、と差し出せばアッシュは礼を言い献立を確認して笑った。
「お、モルル入りのワーテルーイか、いいものだしてるな。今日の糧を食べられることを、戦女神へ感謝して。いただきます!」
アッシュはパクパクと食事を食べ始め、一先ず一人前が終わるまではゆっくり待った。その間ツカサは自分でコップにハーブティーを作り、アッシュにも動作で強請られたので淹れた。そうした慣れた対応にツカサとアッシュが良い冒険者であるとわかったのだろう。ゲオルギウスは真似をしてコップを差し出し、淹れてもらえて嬉しそうにしていた。
もう一つのお盆に差し掛かったところでアッシュがようやく切り出した。そうそう、この役回りだ。
「昨日ツカサが門兵と冒険者ギルド、例の商会で依頼した件、今わかってる範囲で情報を受け取ってきた」
「早いね。アッシュからなら正確だし助かるよ」
ん、と懐から封筒を取り出し、手渡される。食べているから今のうちに確認しておいて、ということだろう。まずは一枚、ツカサが内容を確認し、見せていいかをアッシュに確認し、頷きを得てからテーブルに置いて広げた。生徒がそっと覗こうとしているのも放っておいた。これもまた、アッシュから頷かれたからだ。冒険者の仕事の一つ、参考にしてもらえばいいということだろう。一枚目は以下のとおり。
冒険者ギルドで聞き込みをした魔獣捕獲依頼を請けた冒険者の件。
昨日集まっていた面子がいろいろ話を広げたところ、おずおずと証言をしてくれた冒険者がいたらしい。元々渡り人の街に居た冒険者で、事変が大きくなる前にイーグリスへ鞍替え、締め出される前に所属を変えることができた冒険者だった。
渡り人の街に友人がいるのでずっと心配し、ボードの依頼書をぼんやりと眺めていたところに声を掛けられたらしい。渡り人の街のために、魔獣を捕獲して、陰ながら力にならないか、と。冒険者は二つ返事で了承し、その人が集めた他の冒険者とともに【赤壁のダンジョン】に向かった。
「なるほど、弱みというか、心配事に付け込んだのか」
ジークの感心したような声に生徒たちがざわつく。
「冒険者なら、依頼の良し悪しは見分けていかないといけないね」
ツカサはコメントを返しながら続きに目を通した。
集められた冒険者たちは様々な後ろめたいことがあり、お互いにあまり会話はしなかった。檻を持つ人を含め、八人ほどで【転移石】を利用して降りていき、眠り薬の仕込まれた弓矢や短剣でアルゴ・コボルトを捕獲していったそうだ。証言してくれた冒険者は途中から何かおかしい、と怖くなり、三回目の集合をすっぽかした。冒険者ギルドからお叱りがあるかと身構え、宿で震えていたのだが、何もなく、ただ、今の今まで胸に引っ掛かっていた、と書かれていた。
読み終わりアッシュを見れば、ちょうどぺろりと指を舐めて食事を終えたところだった。
「他の参加者は今も行方知れずだってさ。そもそも、そいつが見かけていない、知らないだけで、他の街に行ってる可能性ももちろんあるけどな。ただ、状況から見て、片付けられてると思う」
「この人、よく生きてたよね。今は?」
「冒険者ギルドで保護中、この証言で殺されても夢見が悪いしな」
軍で保護をしないのは表立って動いていないからなのだろうと勝手に想像をしておく。ツカサとアッシュの間で淡々と死人がいる前提で会話が進み、ジークはぎゅっと眉間に皺を寄せていた。かさりと次の紙を開けばこちらは門兵だ。アッシュの手が紙を押さえたのでこれは情報を出してはだめ、ということか。ツカサは封筒に戻して立ち上がった。
「アッシュの食事も終わったし、場所を変えて俺の教員室に行こう。生徒諸君はそろそろ勉強だろ」
えぇ、と残念そうな声はしたが無視をしてお盆を片付けるために持った。若干、困惑しながらも教員連中も立ち上がり、空の食器を返却しツカサの教員室へ向かう。ツカサはすれ違い様、コレットの肩を叩いた。
「コレット、ありがとう。もう少しの間上手いことやっておいて」
「指示が曖昧ですわよ。まぁ、よろしいですわ」
お頑張りあそばせ、と本当にどういう目線なのか、ツカサは苦笑を浮かべ、食堂を後にした。
ツカサの教員室に入り、紅茶を淹れ、改めて紙を開いた。アッシュもツカサもこの面子で上座はいやだと駄々をこね、年功序列でズィールが座った。ゲオルギウスはぎゅうぎゅうツカサに寄り添って、うっとり気持ち悪い顔でソファに並んでいる状態だ。アッシュが眉を顰めているが、ツカサは反応するのも面倒で報告書を確認した。
結論、イーグリス学園の職員であるガスパールも、冒険者ギルドの職員の女、こちらの名はケイトも、門兵は見ていない。騎士団も同様だった。目撃情報なしだ。ツカサは腕を組み、少し肩でゲオルギウスを弾いてから向かいに座ったアッシュに言った。
「でも、城郭は越えようと思えば越えられる。門を通さないで出た可能性もあるし、身分証が偽られてた可能性もあるよね。特徴の少ない人相だから、別の特徴を強く出せば人相書きも薄れるだろうし。俺、隣の大陸で実際に一人が冒険者証を二枚持ってるのも見たことがあるよ。一つ偽造だったけど、バレてなかった」
人生の中で決して忘れてはならない、ナルーニエでありミリエールという少女のものだ。うん、とアッシュは紅茶を飲みながら頷く。美味い、と言ってもらえてホッとした。
「まぁその場合、名前を騙られた側は死んでる。血で登録するから、原理はわからないけどなぜか二枚目は作れないからな」
「気になってたんだけど、それって、この大陸と向こうの大陸も共通……」
アッシュが唇に指を置いた。別なのだろう。向こうで一枚、こちらで一枚身分証を作っておけば、二枚扱える。この大陸から出ていない場合、誰かが死んでいる。そうだ、ツカサも二枚持っているのだった、と思い、誤魔化すように口の端を掻いた。水晶に素直に手をかざして作った冒険者証は、冒険者ギルドと懇意であれば偽造も容易い可能性に気づいてしまった。国全体を通してみればまだ小さな事件だが、他国の関与やそうした抜け穴を疑っているのだと気づき、誤魔化すように紅茶を飲んだ。腕を解いたツカサに代わり、ズィールが唸り腕を組んだ。
「まったく冒険者というのは情報が早く、横の繋がりが広いものなのだな。我々は縦の仕組みが強いゆえに得られない情報を的確に持ってくる。非常に驚いている」
「まぁ、冒険者全体がこうじゃなくて、俺たちは特殊さ。ツカサは教えてくれた兄貴の腕が良かったのと、俺は【快晴の蒼】の知名度があってのことだ」
そうだろうか、と言いたげにズィールは眉を顰めたが、本人が言い張るのならば何も言うまい、というところだろう。溜息が零れていた。一先ず、情報をまとめよう。
「とりあえず、未だイーグリスに居る、という可能性も視野に入れた方がいいね。なんだかんだ人も多いし、隠れる場所も多いし、まだ西街も慌ただしい。木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中が一番目立たない。特にここは【渡り人】が多いもんね。渡り人の街の件で思ったけど、仲間意識の強い人たちだっているし」
「さすが、よくわかってるな」
「これも教えてもらったんだよ」
マブラの街から出ていく際、人の多いジュマの方が、魔導士も目立たないだろう。そうして出立を決めたあの日を思い出した。渡り人の街の件でいろいろ考えることもあった。
アッシュが頷き、最後の一枚を促した。これはシェフィール商会に依頼した【離脱石】の件だ。アッシュが身を乗り出した。
「ツカサ、これ、目の付け所が最高だった。【帰還石】は触れている仲間を連れだすことはよく知られてる。ただ、檻に入れた魔獣を仲間とは判別しないから、それを連れ出す時、【離脱石】が利用される。これは、本当にいい調査だった。おかげで足取りが追えた」
シェフィール商会も情報をかき集めてくれたのだろう。ずらっと並んだのは【離脱石】の取り扱いがある商会のリストだ。ここ一、二年で【離脱石】の買い入れと、多く売れた商会と、それを定期的に卸している先が書かれている。当時迷宮崩壊中、冒険者やギルドに売れはしても、対、商人としてそれを卸す先があるのは近隣の街では珍しい。一時の備えに持つ者は多くても、短い期間で大量に持つ者はいない。その中の一つに目が留まった。見つけたくなかった。
「あれ? ツカサ先生、これってあの子のおうちでは?」
ゲオルギウスがぬるりと擦り寄りながら指差した文字に小さく頷く。家名は要らないとは言ったものの、響きが長くてよく覚えていたその名前に唇を噛む。皆が覗き込んでツカサの手元を眺め、椅子に座り直す。アッシュだけはきょとんと首を傾げて尋ねた。
「どうした?」
「……一昨年の冬から去年の始めにかけて、【離脱石】の買い付けと販売数が一番多い商会がある」
「おぉ、うん、それがどうした?」
「ブロリッシュレート商会。コレットの、さっきアッシュを案内した女の子の実家だよ」
アッシュは口を半開きにして少し視線を彷徨わせた後、きゅっと唇を結び、深呼吸した後、当然のように言った。
「よし、さくっと捕縛しよう」
「やめて、まずちゃんと調査してからにしたい。俺の時と同じようにしたくないんだよ」
おっと、とアッシュは気まずそうに頬を掻き、苦笑を浮かべた。ピンクブロンドをふんわりと手で払う少女、メアリーやマイカに対してもいろいろ言いながら面倒見のいい生徒だ。
それを捕縛するのならば、確たる証拠が欲しい。
「家庭訪問すればいい」
ふと言ったのはジークだ。
「生徒の家庭環境の確認、生徒の現在の状況のお知らせ、様々な理由がつけられるが、コレットに関してならもっといい言い訳が使える」
「どんな?」
「君が冒険者クラスで使う、【離脱石】の購入依頼だ。ある程度の数は既に揃えてあるはずだが、予備を集めたいと言えば、話はできる」
いい手だ。コレット自身からも諸々、商会から取り寄せると言われたこともある。生徒の関与があるかどうか、それとも実家の商会だけなのか、はたまた実家は関係なく、その客先が問題なのか。
まず一つの道標、調べることにしよう。
「ぞろぞろ行ってもおかしいし、俺と、コレット、それからアッシュで行こう。アッシュ、休憩は必要?」
「いや、大丈夫だ。三日三晩寝ずに動く時だってある、まだ全然いける」
「冒険者って本当、体力自慢ですねぇ」
ゲオルギウスが感嘆の声を零し、ツカサにしなだれかかった。それを振り払いながらツカサは眉を顰めた。
「あのさ、ゲオルギウス。さっきからなんなの? ベタベタベタベタ、話に集中できないんだけど」
「すみません、いやぁ、こんなに興味深く心地よい魔力、なかなかないもので、ついつい吸いたくなるんです」
皆が皆理解できずそろり、ちらり、と視線を交わし合った。おっと、とゲオルギウスは姿勢を正して自らの胸を叩いた。
「お話長くなりますから、私もご一緒させていただきます」
まぁ、いいんじゃないか、とアッシュが笑って、早速行動を起こすことになった。
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