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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
新章 新しい生活

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1-16:教師連中と

いつもご覧いただきありがとうございます。


 納得がいかない。いったい何がおかしいというのか。なんだったら今まで俺の周りにいた奴らの方が総じて、いろんな意味でおかしかった!

 ツカサはむすっとご機嫌斜めでルフレンの上に居た。


「アルブランドー先生ぇ、すみませんってぇ。反省してますからぁ」


 かっぽかっぽ歩くルフレンの隣でゲオルギウスが首を縮め肩をぎゅうっと寄せて両手を合わせ、可愛くもない上目遣いで謝ってくる。ゲオルギウス三十五歳は己が美少女か何かだと思っているのだろうか。今日だけで数えきれないほどの回数、もう何度目か、小さな溜息をついた。相手をするのも面倒になってきた。だめだ、ラング化が進んでいる。だめだぞそういうとこオニーチャンに似たら! というマーシの声が聞こえた気がした。

 あの人、意外と溜息と舌打ち多かったもんな。シェイだって、ヴァーレクスだってそうだ。時と場合と相手は選んでいたものの、悪態をはっきりとつく人たちばかりだったなと思い出しながら、ツカサはルフレンに道を任せて視線をゲオルギウスたちにやった。


「それはもういいけど、なんでついてくるんだよ。竜便屋行って、手紙出して、家に帰るんだけど」

「いえぇ、いいですね、家! あのぅ、是非、ご招待など……!」


 太腿を撫でられぞわりと悪寒が走る。ツカサが蹴り飛ばす前にルフレンが前に出て逃げてくれた。うむ、とズィールが頷く。


「招待はどうでもいいが、君の家の場所は把握しておいてもいいだろうからな」


 何かするつもりかと眉を顰めれば、何かしらの伝達事項の際に行く先を知っていれば困らない、と案外まともな理由が返ってきた。ジークも同様の理由らしく、ただただ邪なのはゲオルギウスだけだ。他の三人は教員寮に住んでいるのでツカサとは違い一所に固まっている。ツカサも落ち着くまでは教員室で再び寝起きすることにはなるだろうが、家に帰っている間に情報が入るとしたら一理ある。竜便屋に辿り着いてルフレンを降り、ツカサは盛大な溜息をついて振り返った。あぁ、また溜息ついちゃった、と内心で呟きながら言った。


「わかった、とにかく手紙を頼んでくるから、少し待ってて。ジーク、ルフレンを頼んでいい?」

「あぁ、預かろう。いい馬だ」


 そうだろうとも。ツカサはふふん、と自慢げに笑い、竜便屋に入っていった。

 手紙の送り先はシェフィール商会の会頭、フィル。そもそも忙しくしている人なので直接は話せなくとも、事情を書いて報せておけば何かしらのリアクションがあるはずだ。筒に手紙を収めて伝達竜に渡す。まんまるい目がツカサをじっと見た後、ふわっと羽を広げて窓から飛び立った。【快晴の蒼】にも、と思ったらちょうど筒を首下げた伝達竜が舞い降りて、スタッフのところではなくツカサの元に降り立った。


「お返事かな?」


 スタッフが微笑んで尋ねれば、伝達竜が嬉しそうに鳴く。不思議な小竜は人の言語を理解している節がある。礼を言いながら筒を受け取り中の手紙を取り出すと、想定していた人物からの手紙だった。フォクレットの件もありうるさいことが書いてあったらどうしよう、思いながら開き、目を見開いた。いろいろと言いたいことの多い内容だった。


 ――ツカサ


 やぁやぁお元気? フォクレットに相談なんて、どうして僕を頼ってくれないのかな?

 いやいや、君の友人関係に口を出すつもりはないんだけどね?

 後を任された身としては悔しいというか。

 ()()()()()も傷ついていたよ、俺だって庶民なのに! って。

 さて、それは置いておいて、本題。

 実は、君のおうちに出向いた医者は僕の友人です。

 モニカやエレナ、アーシェティアにもその旨きちんと伝えてあります。

 とても腕のいい女医なので安心してください。

 ただ、僕も守秘義務から詳しい話は聞いていません。

 安心しろとだけ言われています。

 今別件で立て込んでいるだろう? その件で僕らも少々忙しくてね。

 僕らの把握している詳細と共に適任者を送るので、早期解決のためにお互いに頑張ろう。

 今度、近いうちに、お邪魔します。甘いものの準備を忘れないように。


 ――()()


 ツカサは目を瞑り、すぅっと天井を仰いだ。怖い。【変換】に関わる監視の目的もあるだろうが、どこにでも息の掛かった者がいる。ヴァンの関係者だからこそ、それぞれ腕もいいのだろうとは思うものの、その手配のよさは恐ろしいものがある。もしや、モニカとアーシェティアがツカサに対しぎくしゃくしていたのはそれがあったからなのだろうか。ヴァンの手の内の者です、ツカサには内密に、などと言われていれば、あの二人ならあの態度も取りかねない。エレナの顔を見られない理由だけはわからないが、いや、ツカサは頭を振って考えを追い出した。今、気にするべきはそこではない。

 別件で立て込んでいる。ギルマスがダメもとで応援要請し、応えたと聞いたので事態を把握していることはわかっていたが、本名で送ってきた手紙、まさか()()としてこの事態に対応しているとは思いもしなかった。

 そうだ、魔獣を扱っての訓練はイーグリスの騎士団でもある。たまたまツカサが滞在していたのが迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)や【渡り人の街(ブリガーディ)事変】の最中だったから、それがなかっただけだ。

 イーグリスだけではなく、それは王城の近衛騎士団もそうなのではないだろうか。騎士の鍛錬場がどこにあるか知らないが、王城内で騒ぎが起きれば、あわや。そうでなくともスカイの評価は下がる。イーグリスと違うのは魔獣商人と契約を切ったり結んだり頻繁にないことだろう。けれど、可能性を考慮して先んじて動いた可能性が高い。あの軍師ならあり得る。


「と、いうことは、これ、結構不味い状況なんじゃ……?」


 この事件、イーグリスという街一つの問題だと思っていた。そこにスカイ王国の軍人が鍛錬の合間を縫って、もしかしたら鍛錬そのものを隠れ蓑にし、わざわざ人員を寄越してまで対応している。まさか国がらみの問題だったりするのだろうか。


「それにたぶん、【真夜中の梟】が名を使われてることも把握してる。ギルマスが書いたのかな」


 先の事変で協力要請した相手がスカイで不当な扱いを受ける。それを良しとする人たちではない。元々厄介だとは思っていた今回の事態、その度合いが想像以上でツカサは溜息をつきながら手紙を折り畳み、空間収納に入れた。

 そして、精霊の力は頼れないということもわかった。印をつけていないからわからないのだ。居場所がわかっていれば、ヴァンはすぐさま捕縛に動いているだろう。記載がないのはそういうことだ。精霊もまた万能の力ではないのだと知った。

 気を取り直し、ツカサは簡単で短くて申し訳ないが、シグレにも一筆礼を書き、返事要らずとして伝達竜を頼み、送った。一先ず、やりたいことはやれた。ツカサはスタッフにも挨拶をして竜便屋を出た。

 外ではルフレンを取り囲んでその毛艶と堂々たる立ち姿に三人が口々に褒め称えていた。ルフレンもまたまんざらでもなさそうだ。こちらに気づいたゲオルギウスがにっこりと笑った。


「アルブランドー先生、お手紙できましたか?」

「ツカサでいいよ。忙しい商人だし、今どこに居るかわからないけど、受け取りさえすれば必ず連絡はくれる」

「では、商人に関しては連絡待ちだな。冒険者ギルドの職員の探索に関しては冒険者ギルドに任せた方がいい。我々は学園側の消えた職員と、改めて門を預かる傭兵や騎士団と話すべきだろう」


 ルフレンの首を撫でながらジークが言い、今できることといえばそのくらいだろうとツカサも頷く。


『ラングなら、こういう時に難なく手掛かりを持ってくるんだろうなぁ』


 いつの間にか夕闇に染まっていた空を見上げ、ツカサは苦笑を浮かべた。生きる術は習った。戦う術も習った。けれど、情報を集めるという技術はまだまだ鍛錬が足りない。あれだけの経験と技術はラングが倍以上生きているからだと思いはしても、コツのようなものを習っておけばよかった。ゲオルギウスが思案中のツカサに声を掛けた。


「アルブランドー先生、ツカサ先生のその言葉は、どこの国の言葉なんですか?」

「先生もいいよ、冒険者だし。兄の故郷のものだよ」

「ぶつくさと何を言ったのだ」


 ズィールに訝しまれ、ツカサは秘密、とルフレンの鼻面を撫でた。ぶるっ、と鳴きながら前髪を食まれ親愛を示される。さて、仕方ない、一応家の場所を教えておくか。


「妻の顔を見たら学園に戻らないといけないだろうし、家に入って食事とかお茶はなしだよ。体調悪い人もいるからさ」

「はいっ! わかりました! 今日はだめでもまたいずれ!」


 諦めないなぁ、と思いつつ、ツカサはルフレンの頭絡を掴んで帰路についた。東門と南門のちょうど中間の城郭に寄り添った大きな家。門をかちゃんと開ければ家の方でパタパタと足音がした。三人は敷地内に足を踏み入れ、その立派な洋館におぉ、と感嘆の声を零した。


「すごい、ここって騎士の保養所じゃなかったですっけ? 前に王都の近衛騎士団が逗留しているのを見ましたよ。生徒たちが手合わせを直談判しにいって、収拾が大変だった記憶がありますよ」

「あぁ、そう記憶していたが、いつの間に……」

「買ったのか、借りたのか?」


 驚く姿を見るのは少し気持ちがいい。ルフレンを厩に入れ魔法で水を出し、食事を桶に入れて少しブラッシング。一通り世話が終わって、ツカサは焦らしてから振り返った。


「一括で買った」

「冒険者は稼げるのだな……」


 ゲオルギウスが口を開けっぱなしにしている横でジークが難しい顔で腕を組んだ。ズィールは少しだけ踏み込んできた。


「王国騎士団の保養所を買い上げるなど国に目をつけられそうなものだが、いったいどうやって買ったのだ」

「家を探してるって話したら【快晴の蒼】が不動産屋を紹介してくれたんだよ。その結果の購入で、詳しいことは知らない」


 真実を混ぜ込みながらぼやかして答えれば、ズィールはまだ納得がいっていないようだったが追究はやめた。少し待ってて、とツカサは玄関の前に立った。数日ぶりの我が家だ。ラングたちと【赤壁のダンジョン】に行って戻って来るよりは短い時間だったが、仕事で帰れない夫という立ち位置でのこれは初めてだ。ノックする必要もないだろう、けれど、緊張もあってドアを叩いた。


「ただいま」


 ぱたぱた、カチャ、と扉が開いてアーシェティアが出迎えてくれた。あれ、モニカじゃないのか、と少し覗き込んだ。


「ツカサ殿、おかえり。あちらの方々は?」

「学園の教員仲間。調べ事があって全員で冒険者ギルドに行ってて、少し顔出せそうだったからさ」

「なるほど、そうだったのか」

「おかえり、ツカサ」


 そろりとモニカが顔を見せてくれたので玄関に入ろうとしたらアーシェティアに止められた。きょとんと長身のアーシェティアを見上げれば、むぅっと唇をきつく結んでこちらを見ていた。困惑してモニカを見れば、そちらはなんというか自信に溢れた、何か嬉しいことがあったような、高揚した顔をしていた。ずっと見たかった顔があって、腕を広げた。


「ただいま、モニカ」


 ぱっと笑ってモニカが腕に入ってくる。ぎゅうっと抱きしめて温もりを充電しているのを、アーシェティアがようやく、ふふっと小さく笑みを浮かべて見守ってくれた。腕の中の感触が少し変わったような、不思議な心地を覚えていればモニカがもぞりと顔を上げた。


「少し顔出せそうって言ってたけど、ツカサ、すぐに行っちゃうの?」

「ちょっと問題が起こっててね。なるべく早く解決できるようにするから。エレナの調子はどう? アーシェティアも」

「大丈夫、私は元気だ。エレナは相変わらず少し不調だけれど、医者からは問題ない、いずれ治ると」

「治るんだ、よかった。モニカは? ……なんか、変わった?」


 腕の中に感じた違和感に尋ねれば、満足そうな笑顔が返ってきて、言葉はなかった。ゆっくりとモニカが離れてアーシェティアの陰に隠れた。


「ツカサ、お仕事落ち着いたらじっくり時間頂戴。いろいろ話したいことがあるの」

「それだったら今でも。あいつら追い返すし」

「ううん、他に考えることがない状態で、じっくり、話したいの。だから早く帰ってきてね」


 うん? うん、とツカサは頷き、玄関が閉まっていくのを眺めてしまった。


「頑張ってね」

「おやすみ、ツカサ殿」


 パタン、と閉まった扉。向こう側で鍵が閉まり、きゃあきゃあと楽しそうな声が響いた。とにかく、これは、家に入れない、と理解してふらふらと教員連中のいる場所に戻れば、ジークがそっとツカサの肩を叩いた。


「追い出されたのか……?」

「いや、そういう空気じゃなかったような」

「ツカサ先生、泣かないでください」

「泣いてないけど」

「君、妻が二人もいるのか? どこの生まれなんだ」

「俺の妻はモニカ一人だよ! 身長の高い方はパーティメンバー!」


 詳しく聞かせてくれとせがむゲオルギウスの声量が近所迷惑になりそうで、ツカサは仕方なく三人を引き連れて酒場に行くことにした。

 ゲオルギウスが冒険者の空気を味わいたいというので、少し離れたところになるが、外にも席がある開放感のある店を選んだ。日頃食堂で食事を済ませるジークも、騎士然としているズィールも慣れないらしく、いい年をした大人が緊張気味に座っているのは笑ってしまった。この店はツカサがずっと慣れ親しんだ形式で注文ができる。イーグリスの冒険者だけではなく、他の街、他国の冒険者にも配慮している店なのだ。

 厨房でざかざかと焼かれる肉や、野菜たっぷりのシチュー、バタールが一本まるまるテーブルに置かれ、それを自分たちで切り分ける。注文をするタイミングで金を支払うので皆が財布を慌てて取り出すのを見てニヤニヤしてしまった。

 全員がエールを注文し、テーブルの上に肉とシチュー、パン、魚の揚げ物が並んだところでツカサが杯を掲げた。


「なんか結局、決起会みたいになってるけど、まぁ、よろしく」

「これが冒険者の酒盛り! よろしくお願いします!」

「早期解決を目指そう」

「うむ、生徒のためにもな」


 それぞれが自由に言葉を口にして、掲げた木製コップにゴツリと当てていく。こういうのも臨時パーティというのだろうか。言えばゲオルギウスがうるさそうだなと思いながら、ぐびっと飲んだエールはよく冷えていて美味しかった。

 さて、なんだかんだ空腹だ。ツカサは肉を皿に取り、バタールをパン切りナイフでザクザクと切っていく。それをじっと眺められて首を傾げ、あぁ、と思い至った。スカイの文化は一人一人皿で食べる。一度よそったものを食べきれないと返すことも失礼に当たる。だからこそ、食堂のルールは厳しいのだ。そして目の前の先輩教師たちが冒険者の作法を知らないことに気付き、ツカサは咳払いした。


「周りに迷惑を掛けなければ騒いでも平気。大皿で来てる料理は自分で食べたいものを皿に取る。こうやってパンがまるごと一つ置かれた場合は、テーブルの全員で好きに分ける。シチューのおかわりは有料だよ。酒もそう。さっき俺が頼んだみたいに、先払い」

「なるほど、なるほど! 酒で酔っても会計は先払いだから店が困らないんだ! よくできた仕組みですね!」

「取り分ける道具もないのか、なんとも野蛮な食べ方だ」

「これは、仲間内でないと来られないだろうな……」


 一人大興奮のゲオルギウスは置いておいて、ズィールもジークも食事の作法は綺麗だ。よかった。ツカサは冒険者の賑わいに耳を澄ませて肉を齧った。ずっとこの空気の中で旅を続けてきたというのに、数か月離れているだけで懐かしく思うのだから不思議だ。ゲオルギウスはシチューを食べて、美味しいだと、と驚きながらバクバクと食べている。ズィールもダンジョンドロップ品だろう美味いのは当然だ、と言い、下拵えしてるからよ! と店員に叱られたり、ジークは思った以上に酒に弱くてすぐに真っ赤になっていたりと周囲と相まって賑々しい。

 この空気もなんだか久しぶりだ。今度、ロナとマーシが戻ったら、事の次第の報告含め、一緒に酒場に行こう。



面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

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