1-1:新しいはじまり
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オルト・リヴィア大陸。その西側、海沿いにその国はあった。建国者が空色の髪色だったとか、瞳だったとか、はたまた誰も彼もを受け入れるその様から空のように心が広いと比喩されたりと多くの詩や書物に憶測混じりに逸話が残っている、空の国。
その国のやや西に位置するおかしな形の所領、小フェヴァウル領。港を一つ抱えたその領地の中、独立国家のような街が存在した。
街の名はイーグリス。誰かが言うには、それは他の世界の名を元にしてつけられたものらしい。だが、どうしてそれが他の世界の名なのか、説明を受けたことはない。この話もまたどこからか流れてきた噂に過ぎず、ここに住む者たちにとっては理由を知ったところで、ここがイーグリスなのは変えようのない事実だった。
魔法と知恵が組み合わさった魔道具が溢れ、生活は快適に溢れていた。旅人を困らせないように生活排水は浄化され、水道やトイレなどの上下水道も整い、薪ではなく魔石を利用したコンロや明かりが夜の闇を照らしていた。ここには故郷と変わらない生活がある。それよりも便利かもしれない、という両親の言葉の真意を理解することもなく、子供は大きくなっていった。
最初から身の回りにある便利なものは楽を覚えさせる。使い方を知らなければ生かすことのできない多くのものは、無知であることを周囲に知らせることになる。
そういった経験の無さを補えればいいと、この年、イーグリスの学園に一つの学科が生み出された。
【冒険者クラス】。スカイ王国、フェヴァウル領イーグリス管轄内、イーグリスの街にある大きな学園。さらにその中に設立された冒険者を目指す若者向けのクラスだ。週四日、朝から夕方まで、座学、鍛錬、実戦を繰り返し、ダンジョン研修なども存在する。試験的にまずは一年で卒業を目指す形で授業内容は構成されており、卒業時点で銅級は与えられる。学びながら、卒業する際には銅級スタート。灰色から始めて細々とした依頼を請けて上がるよりも、はるかに楽に冒険者を始められるとあって、申し込みが殺到した。
元々、こうしたクラスを設立しようと言ったのがスカイでは有名どころの金級冒険者パーティ【快晴の蒼】のヴァンとラダンであったこともまた、詰めかけた理由の一つだった。ヴァンもラダンも教鞭を執るくらいには物知りで、後輩冒険者の育成に力を注いでいることは知られている。その彼らが創ったというだけで、信頼が違う。
問題はそれを任された金級冒険者の名があまり有名ではないことだった。【冒険者クラス】を預かるのは、【快晴の蒼】から助力を乞われた【異邦の旅人】、そのリーダーであるツカサという青年だったのだ。
誰だよ、という声は彼方此方で上がった。ただ、学費は免除、それならばどんなものか見てやろうという学生が多かった。【冒険者クラス】が合わなければ普通学科や専門学科に移籍して、生きるために国の基礎を学び、魔法や剣術を学び、経済や製作を学べばいくらでも手に職をつけられる。逃げ道のある若者たちは緩い気持ちで足を踏み入れたのだ。
それが彼らにとって、生涯を通して自身の道標となる色褪せない素晴らしい経験であり、そして地獄のような時間になるとも知らずに。
新しい生活、新しい冒険へようこそ。
ぶれることなく最終話を迎えられ、そして予定通り次が書ける喜びに溢れています。
やりました、やりきりました。
本編完結しましたので、次の物語へとご案内させてください。
こちらの『処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚』では引き続きツカサや、【仲間たち】、その他、まったくと言っていいほど書き切れていない物語を、もっと、さらに、書いてまいります。
それと同時、向こうに戻った、行った【仲間たち】はどうしているのか……。
そちらの新しい物語もよろしければ是非、覗いてみてください。
【異邦の旅人】 で書き始めています。
引き続き様々な旅路をお楽しみいただけますように。
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