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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
終章 異邦の旅人

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4-72:家を求めて

いつもご覧いただきありがとうございます。


 結論。家は無事に見つかった。


 ヴァンが出ていった後、少しの時間を置いて胡散臭いノリで部屋に入ってきた王太子殿下(フィル)にツカサは驚いた。確かに、なにか商売をしているとは言っていたが、まさか不動産だとは思わなかった。

 王家は軍師にいろいろと押し付けたイメージがあったので少々辛辣な出迎えにはなってしまったが、帽子の下には疲れた顔があり、その肩を掴んだ。冷静に、なにがあったのかと問えば、防音魔法障壁を張って二人で会話することになった。またもや待ちぼうけのモニカは少し頬を膨らませていたが、待っていてくれた。

 最初、言い訳はしないよ、と言ったフィルに、いいから教えてと詰め寄れば、苦笑交じりに機密に触れない程度で、と話してくれた。

 別に押し付けて遊んでいたわけでも、ティータイムを過ごしていたのでもなかった。王家は王家でやるべきことをやっていただけだった。国王は被害に遭った南部の援助や再建のため、昼夜宰相たちと予算や復興案について議論し、それを執り行うことに注力、つまり内政に混乱をもたらさないようにしていたらしい。災害のための予算はあるものの、即座にそれを出すには様々な手続きがいる。国王は国庫ではなく王家の私財からそのほとんどを賄い、対応に迅速さを求めたという。

 王太子は王太子で元々他国との外交予定があったりと忙しく諸外国を飛び回っていたらしい。他国に対し、黒い雨、天変地異、ダンジョン、それがどうした、我が国はそうしたことにも対策を講じ、盤石である、と胸を張り余裕を見せることが大事なのだとフィルは言った。それもそうか、あの黒い雨は広範囲に降ったと聞いているし、スカイそのものが原因ではなくとも不吉な兆候がある国に対し、今が好機と攻め入ってくる国がないわけではない。他国がどうかは知らないが、スカイがダンジョン含め、肥沃な大地をもっていることは知っている。解れた網目から潜り込むように、狙わない国がないとも限らない。だからこそ、負担をかけるとはわかっていても、国内の軍事を軍師に任せるしかなかったのだとフィルは肩を落とした。

 ツカサはテレビで即座に流されるニュースのことをふと思い出していた。この世界、自ら情報を得ようとしなければ欲しいものに辿り着くことはできない。その分情報統制はしやすいだろうが、王族の動きはどこまで公開されるのだろうか。シグレなどは知っていそうだが、一般市民や冒険者はどこまで調べられるのだろう。王家が国を守るために動いているとわからなければ、不満は溜まっていくだろう。その点を尋ねれば、市井に紛れ込ませている影たちにそれとなく噂を流させるのだという。そうでなくとも派閥の貴族が情報を広げる、と権謀術数を垣間見せた。自分の得た情報の信憑性と、その方向性に気をつけなくてはいけないな、とツカサが少し違うことを考えながらフィルの話に言葉を失っていれば、小さな呟きが最後に落とされた。


「信頼して任せられる者は、どうしても限られてしまう」


 フィルは言い、帽子に髪を収めなおした。それからこほんと咳払い、にっこりと笑顔を取り戻して胡散臭そうに手を叩いた。


「それはそうと、案内はしっかりやらせてもらうからね! 僕にとっても息抜きだ、遠慮なく聞いてくれ! いくつか物件も見繕ってある! さぁ、なにから行こうか!」


 手元の資料を叩いて商人よろしく売り込みが始まり、笑ってしまった。ツカサは防音魔法障壁を解き、モニカを振り返ってお待たせ、と手招いた。

 エフェールム邸を出て、フィル、ツカサ、モニカで馬車を利用して物件に移動しながら雑談に興じた。モニカはフィルとツカサの出会いが気になって尋ね、草原の帰り、イーグリスの街中で出会ったことを話せばジト目で睨まれた。あの時帰りが遅かった理由がフィルだと知り、モニカは少しだけ拗ねた感情を思い出したらしい。慌ててご機嫌をとって、フィルも謝った。

 雑談の中、フィルから時折出てくる王太子殿下、という単語に、モニカはおうじさまの関係者、と青い顔をしていたが、王太子殿下の事業の代理なんですよ、とフィルが滑らかに真実交じりの嘘を吐いて場を取り繕っていた。ちなみに、御者はグレンだった。馬車の周りにも複数人の気配を感じたので護衛はしっかりついているのだ。

 馬車の中で取り留めもない会話もした。まさか不動産を扱っているとは思わなかった、という話題では、フィルは自分で事業を持つことの大事さを熱弁していた。


「国費と王家の財産は別なんだよ。君のお兄さんには王太子殿下の財布から支払ったんだからね」

「そうだったんだ。王子様も大変なんだね」

「いや、まぁ、とはいえ、これは趣味と実益を兼ねていらっしゃるよ。他国の王族や貴族を出迎える際に迎賓館を準備したりするのにちょうどいい仕事なんだ。多少面倒事もあるが、僕も楽しませていただいている」


 フィルが楽しそうに物件の資料をめくり、これから行くところの説明も流暢に語ってくれたので言葉に嘘はないのだろう。それならよかった、とツカサは笑った。

 内見もいろいろあった。一軒目、二軒目と内見を行い、モニカとどんな生活をするか夢を膨らませながら見ていった。元からついている設備、洗濯物を干すための動線はどうか。お互いにつくりたい部屋はできそうか。子供部屋は、エレナとアーシェティアの私室は、そして、ラングやアルのための客室はどうか。キッチンの使いやすさ、モニカが草花を育てたいというので庭の広さは。ツカサが鍛錬できるだけの広さもあるかどうか。風呂は納得のいくものかどうか。市場の距離、生活に必要な店が近くにあるかどうか。本当に多くのことを話し合った。

 加えて、ツカサははっきりと、家に多くいるのはモニカなので、モニカの希望に合わせたい。ツカサは本を集めたいので書斎があって、鍛錬できるスペースがあれば嬉しい、と伝えた。モニカはわかった、と答え、ツカサよりも熱心に内見に挑んでいた。

 そうして三軒目、お互いにこれならと思える物件に辿り着いた。


 イーグリスの南東、ちょうど南門、東門、どちらも同じ距離の辺りだ。学園がどこかというとイーグリスの南西側なので、のんびり走行の市内馬車でいけば二時間かかるかどうかだ。市内馬車は停留所での乗降時間もあり、想定よりも時間が掛かるうえ、故郷のバスや電車ほど時間に正確でもない。ルフレンに乗れば人に気をつけて走ったところで四十分ほどだろう。ルフレンの日頃の運動にももってこいだ。徒歩でもそれなりの距離のため、イーグリスに実家はあっても寮生活を選ぶ学生は多いらしい。

 家は敷地をきちんと囲ってある大きな洋館で、城郭に面している分、敷地は広かった。家の中はフローリングで、ダイニングテーブルや椅子など、ちょっとした家具だけはそのままついていた。キッチンは魔石を利用して使えるコンロやオーブンが完備されており、ラングが喜びそうだと思った。水道も完備、蛇口があって、水圧でちゃんと出るようになっていた。トイレが水洗であることも有難い。風呂は魔石でも薪でも沸かせる仕様のはめ込み式の立派なもので、タイル造り。使い方は日本を彷彿とさせるスタイルで、ほっと胸を撫で下ろした。モニカは贅沢な仕様だとごくりと喉を鳴らしていた。そして貯蔵庫と、そこから移動できる地下室もあった。食料やワイン樽なども置いておけるだろう。

 部屋数もリビング、ダイニング、キッチン、前述の貯蔵庫と地下のほか、一階、二階に大小合わせて九部屋もあった。一階にツカサの書斎やモニカの作業部屋をつくり、二階に夫婦の寝室、一応子供部屋を二つ、エレナとアーシェティアの部屋を用意しても二つは客室にできる。

 事前に一緒に暮らそうと打診されたエレナは、新婚のおうちに悪いわよ、と辞退していたが母とともに暮らしたいとツカサとモニカに言われて折れ、アーシェティアは自分で家を借りると言っていたが、モニカの寂しそうな顔に最終的にはこちらも折れた。

 アーシェティアには冒険についてくるかどうかも尋ねた。時と場合による、というのでその時々で毎回問うことを決めた。アーシェティアの中で、戦うことより、守ることに比重が傾き始めているらしかった。初対面、戦えと迫ってきた姿からは想像もできない変化だ。これもまた外を知り、新しいかかわりを得たからかと思うと不思議だ。ツカサは自分もまた他者からそうして変化したことを驚かれたのだろうな、と頬を掻いた。


 改めて外に出て外観と敷地内を確認する。敷地には広々としたスペースがあり、洗濯物を干したりできそうな場所や、馬を二頭は入れられる厩があった。外観はシックな焦げ茶色のレンガでデザインを整えてあり、出窓だったり、二階にテラスがあったりとお洒落だ。

 裏に回れば、城郭との間もそれなりに広く、こちらでも鍛錬ができそうだった。薪割用の台と薪を置くための棚もあったので、こちらでそういった作業も想定されているのだろう。敷地内の配置は城郭が東、家の正面が西なので、日当たりは太陽が頭上に昇ってからになりそうだが、西側に高い建物がないのでじっくりと夕陽は見られるだろう。モニカは洗濯物はゆっくり干すので構わないと言った。

 お互いに、ここ、いいね、と頷きあった。家の入手方法、賃貸か購入かでツカサは帰る場所の確保、自分になにかあった時のために購入をしたいと言った。モニカはお任せします、とスカートを握り締め、二人から視線を受けた不動産屋はにっこりと笑った。


「冒険者だと賃貸が多いけれど、年に四か月近く離れるならば、確かに購入の方がいいだろうね」


 帽子を深く被って目元を隠した不動産屋は、うんうんと頷きながら手元の資料を叩いた。ツカサは腕を組んで強気に笑ってみせた。


「安くしてよ、()()()


 ツカサの言葉に、帽子の下で不思議な色彩に輝く王太子の眼が笑い、それから思わせぶりに資料を見て唸った。即座に価格が出てこず、首を傾げた。


「それで、いくら?」


 ツカサがずばり尋ねればフィルはこほんと咳ばらいをした。


「真面目な話、ここすごくいい物件なんだよね。市場も近いし、市内馬車停留所も近い。家の背面が城郭だから、敷地も広いしお隣さんも少ないでしょ」

「そうだね」

「だからね、高いんだよ」

「…いくら?」


 そっと、モニカから離れてフィルに近寄り、お互いに声を潜めた。


「土地代含め、二億リーディ」

「は!? …えっと、何枚?」

「あぁ、そうか、スヴェトロニア大陸では枚数で言うんだっけ。そちらで慣れているんだね。白金貨だと、二百枚」


 白金貨で二百枚。ツカサは空間収納の中をごそごそとあさるようにショルダーバッグの中を触った。モニカはそうっと近寄ってきて、いくらか尋ね、気を失いそうになっていた。その背中を支えながらツカサは空間収納の中を確認していた。

 かつておかしくなっていたジュマでざくざくと手に入れた白金貨。ラングと二人で行った際にも、【真夜中の梟】と行った際にもかなりの分配を受けていたため、さくりと全額支払うことはできる。少しだけ欲をかいて、もう少し安くならないかと値切りたい心がうずいた。


「フィル、値段交渉ってできる?」

「商人を相手にはっきり言うね。どこまでできるか、みてあげようか」


 にっこりと笑う笑顔に口端を引き攣らせ、お願いすることにした。まずはフィルが切り出した。


「そもそも、ここ、つい最近まで利用されてたんだ」

「誰か住んでるの? 確かにちょっとした家具はついていたけど」

「王国騎士団の保養所の一つなんだよ。名義は王太子殿下個人のもので、賃貸料は王国騎士団の予算から、格安でね。なにせ、保養所だから」


 言われ、御者としてそこにいたグレンに目がいった。視線が合うとにこりと微笑まれ、頷かれた。


「室内の清掃は済んでいます」


 聞きたいのはそういうことではないが、それも大事だ。けれど、そうなると家、つまり上物(うわもの)は新品ではない。その点に関して値引きができるのではないかと言えば、にんまりと笑われた。怖い。


「【渡り人】の人って、誰かが使っていない新品に価値を感じる人と、誰かが使っていたからこそ価値を感じる人がいるけど、ツカサは前者なんだね」

「あぁ、うん、そうかも」

「今後、スカイや他国で別荘を買う時のために教えておいてあげよう。スカイや周辺国家では、誰かが住んでいた方が価値が高い」


 なぜだかわからず首を傾げれば、そうっとモニカが言った。


「住みやすいように、住んでた人が工夫してるから」

「そのとおり! さすがです」


 フィルは素直に拍手をしてモニカを称賛した。イーグリスでは最初から住みよいように造られてはいるが、住めば足りないところも出てきたりする。それに住民が手を加え、工夫することでさらに利便性がよくなるのだ。よくよく思い返してみれば、モニカと暮らしていたアズリアのアパルトメントもモニカが使いやすいように棚に細工がされていたり、たった数か月とはいえツカサも扉の軋みを直したり、油を差したりと手を加えていた。顎を撫でながら記憶を掘り起こしていれば、フィルが笑顔で声を掛けてきた。


「寝具はさすがに撤去したから、そこは揃えてもらう必要があるけど、君たちも内見して使いやすいと感じただろう?」

「…確かにね」


 丸め込まれた気がして声が低くなってしまった。確かに、階段の手すりが色を塗り直し、艶出しをされていたのも触り心地がよかった。あれは元々剥き出しだった木材に、ヤスリがけし、色を塗り、蜜蝋で艶出しなど、誰かが工夫をしたのだろう。ささくれ立った木の欠片が指に刺さった人でもいたのかもしれない。同じように小さな工夫が随所にされていたので、騎士団の中に手先の器用な人がいたのだろう。庭にあった洗濯物を干すためのロープや物干し竿、それを置くための支柱などの設置も工夫の一つだ。馬を入れるための厩も騎士団が設置したもので、本来そういったものもないのだという。

 ツカサはううむ、と唸った。言い値で払ってもいいのだが、負けた気がするのが嫌だ。


「なら、オマケつけてもらうことってできる?」

「どんなオマケかな」

「いい土が欲しいんだけど、どこで手に入るかわからないからさ。そういうの、庭に運んでほしいな。モニカが石鹸に使う花とかハーブを育てたいから、種とか、苗とか」


 隣でぱぁっと嬉しそうな気配を感じて照れくさくなった。手配しよう、とフィルはメモを書き込み、ほかには? と首を傾げた。

 ツカサは家具を良心的な価格、かつ、質のよいものを買える場所の紹介、住所の登録などが必要であれば、そういった自身が詳しくない、細かい手続き関連を一手に引き受けほしい、教えてほしいと言った。フィルは意外そうに目を見開き、それから胸を叩いた。


「そうだね、君たちはスカイの住民権を持っていないから、その手続きに関しては目の付け所がいい。わかった、そこはこちらで手配するよ。スカイ国民としての住民権、それから、所属はフェヴァウル領イーグリス管轄都市、イーグリスで間違いないかな?」

「うん、それでいい。モニカは元々アズリアで籍があったんだけど、どうなる?」

「どうなるもなにも、問題ないよ。モニカさんがスカイ国民と呼ばれるのが、嫌でなければね」


 スカイとアズリアの関係性は悪い。フィルは困ったような顔で尋ねたが、モニカの答えは快活だった。


「スカイ国民で大丈夫です。その、そもそも国にこだわりがないので」


 ツカサとフィルはきょとりとした後、少しだけ笑った。なぜ笑われたのかわからずモニカが頬を赤くして、ツカサは可笑しくて笑ったわけじゃない、とフォローした。単純に、モニカの強さが眩しくてなんだか堪らなく嬉しかったのだと言えば、男の人って変なの、と言われた。

 一頻り謝罪とご機嫌取りが済んだ後、モニカが前に出た。


「税金ってどうなりますか?」

「イーグリスでは三か月、半年、一年分で支払いの額が区切れます。一年分で支払うのが一番安いですよ。冒険者であれば定住を決めた場合、冒険者ギルドの口座から、商人であれば商人ギルドの口座です。現金でのやり取りは一年分の時だけ許されています。毎月だと、手間ですからね」


 税金。そんなものもあったか。入門税しか支払った経験はないが、冒険者一パーティにつき毎回五万リーディと考えれば、住民の税金はやはり安い。街道の補修工事や、今回歪みの生きもの(ナェヴァアース)にひっくり返された街中の補修など、そういったものに使われる金だ。それを負担した分、還元されるとわかっているので出し渋ることはないが、感慨深い。今までは移動し、決まった期間しか滞在していなかったものが、そういった責任も圧し掛かってくるのだ。わかっていたことではあるが、生きていくということは、金が掛かる。ツカサが腕を組み深く頷きながら思案に耽っていれば、フィルとモニカは話を進めていた。

 大人一人、三か月分支払いで三万リーディ、半年分支払いで五万リーディ、一年分支払いで十万リーディ。子供は十歳まで無料、十五歳までその半分、十八歳から大人価格になるらしい。毎年ではなく、年数もまとめて支払えるため、住民兼冒険者は稼ぎのよい時に思い切り支払う人も多いという。ツカサもそうしたいと思った。


「家の権利と一緒に、まとめて手続きしておこうか? 税金もまた、ギルドの口座から自動で引き落とされるよ」

「そうしようかな。十年分くらい先にまとめて払っちゃいたいかも。あの、子供が増えた時はどう手続きすればいいかな」

「教えてあげるよ。それもまたオマケ」


 ありがとう、と言えばフィルは胸を叩いた。


「僕のいる商会を伝えておくから、疑問があればなんでも問い合わせてくれ。今ここで出た要望に関しては僕が手配はしておくからさ」

「わかった、ありがとう」

「いいよ、商売だしね! 支払いの方法はどうする?」

「あー、冒険者ギルドの口座にお金入れるから、そっちからってできる? 今渡せるけど、金額的にちょっと怖いし」


 もちろん、と快諾を得て、ツカサは大人四人分、十年分の税金、家と土地の購入資金などを計算してもらい、メモをもらった。土地の購入含めての場合、土地税が免除されるらしいので、しめて二億四百万リーディ、この金額を期日までに口座に準備しておけばいいらしい。税金に関してエレナとアーシェティアは文句を言うかもしれないが、その時はその時だ。ラングは帰るし、アルは自分でどうにかするだろう。イーグリスに戻るのならば、シグレが手を回さないとも限らない。

 エレナの国籍はそのまま、所属をオーリレアから変える必要があり、アーシェティアはツカサ同様国籍の取得からになる。勝手に手続きを進めて申し訳ないが乗り掛かった舟だ。冒険者ギルドで名前の照会ができるというのでアーシェティアのことは任せてしまった。そこは商人ではなく、王太子の権限を使うらしい。アーシェティアへは断りを入れておくように言われ、頷いた。


「家はもう、君たちのものだ。好きに使ってくれて構わないよ。権利書も役所に届けておくから、気になったらそっちで確認してね。住所と名前、身分証を出せば見せてくれる。基本、そういった書類は家には置かないからね」


 住所のメモはこれ、鍵はこれ、と差し出された三本を受け取った。正面玄関、裏庭への扉、洗濯場から外への扉の三か所の分だ。スペアキーが欲しくなり、それも尋ねれば鍵屋があることも教えてくれた。フィルはぽんと手を打って思い出したかのように言った。


「そうだ。アーシェティアの名前は聞いたけれど、君たち二人のスカイ国民としての国籍と住民権、名前はどう登録しようか?」


 ツカサはモニカと顔を見合わせ、笑い合ってからフィルを見た。


「ツカサ・アルブランドー」

「モニカ・アルブランドー」


 フィルは嬉しそうに笑って、おめでとう、と祝福した。それに続けて、招待はしてくれないのかと文句を言われ、慌てて声を掛けた。正直、王太子が来るのは面倒だなぁと思ってしまったのは秘密だ。




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