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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
終章 異邦の旅人

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4-66:時間は止まってはくれないから

いつもご覧いただきありがとうございます。


 イーグリス周辺のダンジョンが落ち着くまでの間、この一か月で家を探そうと決めた。


 家を決めただけでは終わりではなく、引っ越しや家具の調達もせねばならない。物により入荷まで時間のかかるものもあるだろう。特に、今は西側に新しく住民が入り始めているので家具屋はてんてこ舞いだ。ダンジョンを後回しにするのであればそうしたいと言えば、ラングとアルからは賛成が返ってきた。家を探す方法について【快晴の蒼】に尋ねれば、不動産屋を紹介すると言ってもらえた。ここでも不動産屋は存在するのだと思い、お願いすることにした。打ち合わせ可能な日程が分かれば連絡するから、と例の紙の通信魔道具を渡され、ツカサはどきどきしながらその日を待つことにした。

 ぱちりと焚火が鳴って新しい薪を要求されながら、ラングはハーブティーを一口飲んでから言った。


「家は女の意見を通せ」


 全員から視線を注がれ、首を傾げられ、ラングはゆったりとした体勢のままツカサを見遣った。


「お前がどういう職を選ぶのかは知らんが、ダンジョンに行くことを前提としても家にいるのはモニカの方が長いだろう」

「そうなる、かな。石鹸も家で作業部屋を用意すればそこで作れるだろうし」

「だからこそ女の意見を蔑ろにするな。リシトが家選びの件で延々と文句を言われているのを見ている。恐らく、あれは一生言われるだろう」


 合点がいった。長い時間家に居て、多く使う方のニーズに合わせておかなくては喧嘩の素になるのだ。ツカサは自分の書斎というものにも憧れがあるので、モニカの作業部屋の件と合わせてこれも要相談だろう。話し合いは大事なのだ。エフェールム邸ほどの図書室は無理でも、壁を埋めてみたい気持ちもある。家に対しての夢は膨らむばかりだ。ツカサが少しばかり空想に耽っている隣でラダンがこめかみを撫でて考え込んでいた。


「ツカサは冒険者から転職を考えているのか?」

「いや、旅は好きだから冒険者ではありたいんだけど。でも家にも居たいしなっていう…」

「冒険もできて、家に帰る時間もあればいい?」

「まぁ、ざっくりそんな感じだけど、なんで?」

「家を空ける合法的な理由が欲しいという理解であっているか?」


 心の奥底で考えていたずるい気持ちをズバリと言い当てられ、ツカサはどきりと体が揺れてしまいラダンへの返答が喉に詰まった。誰もはっきり言わないでおいてやったのに、とアッシュが苦笑を浮かべて焚火をいじった横で、ははぁん、と目をにんまりさせたのはヴァンだ。


「ツカサ、前に僕が言ったこと覚えてるかい? ラダンの推薦状は強いぞって話」


 勉強をしたい、やる気があるのならば紹介状を書いてやると言われた件だ。頷いて返せばヴァンが身を乗り出し、肩を叩かれ正気に戻ったラダンが姿勢を正した。


「実はさ、提唱して計画したのは僕なんだけど、主だって行動してくれているのはラダン、というのが一つあってね」

「ヴァン、俺が言うのもなんだけどさ、本当自分で自分の首を絞めてるよね? わざわざ自分でいろいろ蒔いてるよね?」

「思い立ったら実行せずにはいられない性質(たち)なんだよ。それにこれはラダンが引き受けてくれてるから僕の手は八割離れてる」


 残りの二割は離れていないということなのだがそこを指摘するのも面倒になった。しかし、こうして考えたことを行動に移せる力があるからこそ、人の上に立ち、結果を出し、能力を発揮できるのかもしれない。アルが頭の後ろで腕を組んで話の先を求めた。


「そんで、なんの話だよ?」

「ざっくりと言うと、冒険者を育てようって話」


 漠然とした説明に首を傾げればラダンが手で制した。


「きちんと企画書を作成して提案したい、ツカサ、近々時間をくれないか」

「企画書とかそんな大袈裟な。今ざっくりと聞かせてくれた方が俺は嬉しいけど」


 クルドが頬を掻いて視線を右斜め上に置いて眉を顰めた。


「草案ならあるんじゃなかったか? お前ら軍の仕事の合間の息抜きだ、なんて馬鹿みたいなこと言って書いてたろ」

「救いようがないな」


 ラングがハーブティーを新しく淹れながら呆れを含んだ声で言い、ヴァンだけではなくラダンも小さく肩を縮めた。結局なんの話なのかわからなくなりつつあったので本筋に戻し、草案でいいから持ってきてもらうことになった。

 徹夜続きの男たちのハイテンションが窺える文字の羅列に顔を引き攣らせながら、ツカサはそうっと目を通した。半ば朦朧とした意識の時に書いたのもあるのだろう、ただ横に引かれただけの線や、途中から文字になっていない部分もあった。ラダンはこういった状態で見られるのがとても恥ずかしいらしく、細々とここはこうで、この意図はこうで、と補足が多く、申し訳ないが少し邪魔だった。

 曰く、冒険者に対し一律の規則を、その場その場で学び取るのではなく、前知識を入れておきたい、ということらしい。

 この草案、一年ほど前から暇を見つけて練られているらしいが、今回、渡り人の街(ブリガーディ)の件や、他にも軍が協力を要請しにくいと感じたことから本格的にやろうという話になったそうだ。マナリテル事変の途中、ロナが言ったように冒険者へ協力を仰ぐことができればさらにやりやすかっただろうことも理由の一つだ。

 冒険者には、無辜の民を傷つけない、奪わない、殺さない、などの大枠の規則はあれど、軍の動きを邪魔しない、などの規則はない。冒険者ギルドとの調整も必要だが、スカイ王国付きである冒険者たちには、いざという時に軍との協力体制を築けるようにしておきたい、というのもあるらしい。

 冒険者というのは自由な生きものだ。だが、その反面、土地の規則にはきちんと従う習性もある。各地の冒険者ギルドでその土地のダンジョンの情報を仕入れるのもそのためだ。フェネオリアのオルワートでもツカサはそうしてきた。


「思い浮かんだことを書き殴ったものだからわかりにくくて申し訳ないが、要は、スカイに冒険者を育てるための学校を作りたいということなんだ」

「【渡り人】だって増えてきているし、二世、三世が冒険者になることだって今もある。でも、君は知っているだろうけど、ダンジョンに入るのに手続きはないが、規則や規範、等級はあるわけさ。そういうのを事前に教えておけば、問題が減るだろう?」


 言わんとすることはわかる。でもなぁ、とツカサは腕を組んだ。


「これって、冒険者を軍事利用しようってことじゃないの?」

「言われると思った。違うとはっきり否定しておくよ。軍からの協力要請はあるが、強制ではない。そこは変わらないよ。邪魔するなってだけ。今回だって冒険者ギルドに依頼を通して、協力してもらえる人だけに護衛や警備に立ってもらっただろう?」


 確かに、冒険者ギルドでヴァンとシェイがあれこれ対応しに行っていたことは知っている。温泉ダンジョンにしても調査が終われば解放すると言っているのに、いまだ無理矢理突破しようとする冒険者もいる。中に入り、そこが温泉だとわかれば大人しくしょっ引かれているのだが、こういった点でも手間なのだ。ヴァンはただね、と声を置いて咳ばらいをした。


「スカイ所属で、スカイ生まれの冒険者には是非とも協力してほしいところではある。たとえば他国が攻めてきた時、蹂躙される村人を眺めながら酒場で酒を飲み続けるなんてことはないようにはしたい。【渡り人】の冒険者に、自分はスカイの民なのだ、というのを、根付かせたいんだよ」


 今、【渡り人】はこの世界の住民になれている者といない者がいる。そして今後も現れる【渡り人】が自分のいる場所を、自分の居場所を守るようになってほしいのだ。それは受け入れる側の願いでもあった。


「それにね、何代かの【渡り人】を見ていると、故郷の世界は、と話す人はいても、それを実際に知らない世代はぴんとこないものらしくてね」

「あぁ、それはわかる。ばあちゃんが昔話もしてくれたけど、それを俺は見れなかったからなぁ」


 実際に渡り人三世にあたるアルは深く頷き、ヴァンがそうだろう、と膝を叩いた。


「そこでだ、ツカサをその学校の、先生に推薦したいわけだよ」

「なんで? 前後の話と全然繋がらないんだけど?」

「君は【渡り人】で、最高の冒険者に様々なことを習ってる。この世界の金級冒険者に依頼するよりも、質が高い」


 ちらりと向いた視線の先、ラングをツカサも見遣った。ヴァンは言った、基本的な立ち居振る舞いにも問題がなく、ラングの一番弟子として最高の技術の粋を学んでいるツカサが、その上澄みだけでも若く新しい世代に教えられたならば、質の底上げができる。スカイにはダンジョンがあり、経験を積むには申し分のない環境はあるが、それと同じだけ死者が多いのだという。誰かに止められることもなく、進みたいように進もうとするからこそ駆け出し冒険者の死亡率が高いのだ。如何に冒険者ギルドがもう少し経験を積んだ方がよいと言ったところで、ダンジョンの入り口で止める人はいないのだ。


「その点を【快晴の蒼】としても問題視しているんだよね。ダンジョンから持ち帰った資源で品種改良なんかも成されて、小麦の品種はいまや外の方が圧倒的に質が高い。ダンジョンの攻略死亡率がこれ以上高くなると、死んでも夢を追いかけたい者以外、冒険者は減少してしまう。資産ができた、年だからと引退する者だって毎年いるし、冒険者が減ることは迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)の危険性だって上がってしまう」


 専属契約の間引きパーティがいるくらいなのだ、ダンジョンの手入れをする人員が減ればそれだけ危険性が上がるというのも納得だ。冒険者とダンジョンは共生の関係にあるのは、よくわかっている。ヴァンはどうかな、と決して強要はしてこなかった。ツカサは前向きに考えている自分の気持ちを感じながら、即答はせず質問を重ねた。


「学校、授業のやり方がわからないけど、どうすればいいんだろう?」

「君が習ったことを、君が教えやすいようにやればいい。最初からできるとはこちらも思っていないから、三年は学費免除で学生を募る予定だ。一年で教えるか、二年で教えるか、期間もツカサに任せる。君にももちろん固定給、ダンジョンの下見も必要だろうから、一年の内、四か月はダンジョン休暇を用意しよう。ダンジョンに行くもよし、家族で過ごすもよし、そこは上手に使ってもらって構わない」


 むず、と心が動いた。オルワートで手探りでやった引率も大変だったが、いい経験だった。あの時の失敗を取り戻したい気持ちもどこかにあった。仕事だからと言い張ってダンジョンに行けるのも後ろ髪を引かれなくて正直助かる。突っ込んで尋ねれば、ダンジョン休暇中も固定給は支払われるというので生活に余裕も持てる。考え込むようにしてちらりとヴァンを見た。


「でも、三年後は?」

「君がそれ以上やりたくないと言うのなら、離任給を支払って契約を解除しよう。僕の予想では上手くいくと思うけれどね」


 ふふん、と自信満々な様子に笑みが浮かぶ。それに、とヴァンがぐっと体を寄せてきた。


「君が授業を受け持つ先生である限り、他の授業はいくらでも、タダで、受けて構わない。ラダンの推薦状があればそれも可能だ」


 ぐっときた。勉強がしたいと言ったことをきちんと叶えてくれるらしい。どこで、と問えば、イーグリスにある学校での授業の一つとして検討していると言われ、場所も申し分ない。人に教えながら自分も学べる、冒険にも行ける、休みもある、金も入る。あまりにも話が美味すぎないかと不安になった。助けを求めるようにラングを振り返ればシールドは夜空を向いていて我関せずだ。今後自分で判断を重ねていけということなのか。ツカサはふとラングに言われたことを思い出した。そうだ、いくつもの道を模索してもいいだろう。ふむ、とラングのように顎を撫でてツカサはぼやいた。


「…いつから?」

「君の了承が得られれば、早くて来年の春の新学期かな」


 この世界でも新学期という言葉があるのだ。この世界の学生の生活について詳しく知らないなと思いながら、来年の春ならば準備と気持ちにも余裕が持てるだろう。


「やって、みたい」

「よく言ってくれた! その言葉しかと聞いたからね!」


 呟けば、ヴァンにがしりと両手で握手をされた。ラダンはいそいそと草案の束を回収し、すっくと立ち上がった。


「きちんとした企画書はツカサにも提出する、君の結婚式前に少し時間を取れるようにしておいてくれ。ヴァン、後は引き受けるがいいか?」

「いいとも、ラダン、思う存分やっちゃって!」


 強く頷き、ラダンは天幕の一つに真っ直ぐ向かっていった。アルは頬杖をついて小さく笑った。


「外堀から丁寧に埋められちまって、ツカサ、これから大丈夫かよ」

「乗せられたな」


 ラングがぼそりと付け加え、ゾッとした。ヴァンを素早く振り返ればにっこりと貴族らしい笑みを浮かべ、尊大に足を組んで視線に応えた。


「口の上手さは軍師の腕の見せ所だよ。いやぁ、君は素直で大変よろしいね」


 でも、悪い提案じゃないだろう? とヴァンが言えばシェイがくつくつと喉を鳴らした。


「諦めろ、こいつが絵図を描いた時点で巻き込まれる奴は逃げようがねぇんだ。悪い提案はしねぇから、乗っておいて、踏み台にするくらいの気持ちでいりゃぁいいさ」

「酷い言われようじゃないかな」

「事実だ」


 ラングまでもがぴしゃりと言い、ヴァンはちぇ、と唇を尖らせた。男たちが笑い、ツカサは肩を背中を叩かれて苦笑して、いろいろ経験してみようと思った。そういう場を提供してくれる人たちにも感謝しようと胸に手を当てて礼を示せば、その場にいる全員がまた笑った。



 一晩、軍の駐屯地で様々なことを語り合い、ヴァンの吟遊詩人の腕前を披露してもらったり、クルドがツェイスに言いつけて剣舞をさせたりと余興もたくさんあった。イファ草原への道中で吟遊詩人の詩に惹かれたツカサは、ヴァンの奏でる音にも魅了された。各地に残っている詩を聞いて回りたい気持ちにもさせられた。それを持ち帰るからこそ、流れの吟遊詩人が重宝されるのだと聞けば、それもそうだと思った。歌ってみろと言われ拒否をすれば再びもみくちゃにされ、今度は装備を守った。ダンジョンでラングの歌声を聞いたことを聞けば羨ましくなって強請ったが、当然、にべもなく断られた。

 余興繋がりで夜空を彩った魔導士隊の織り成す美しい花火魔法は実に見事だった。どうやって色を変えているのかと問えば、魔力に絵の具を混ぜるイメージでやっているらしい。【渡り人】は不思議な式を用いて色を変えるのだとルーンが言い、ツカサが知っているのもそちらだと答えれば質問攻めにあった。詳しいことはわからないと素直に言えば、やはりあれは専門職なんだね、と熱っぽい様子でルーンは目を輝かせていた。魔力で創りだす魔導士は、物理でそれを成す人を心から尊敬するのだという。決して誰かを下に見ないその在り方がツカサには気高く思えた。

 朝になって中の状況の確認を兼ね、温泉ダンジョンで朝風呂をした。さわさわと木々を揺らす風は心地良く、火照る頬を撫でてくれるので長湯も可能だ。奥の洞窟からすっかり身支度を整えたラングが出てくれば、断られるのを前提に皆が誘い、相手にもされないことをお互いに笑い合った。魔獣が出てくる気配もなく、代わる代わる調査と入浴を行う軍人たちに挨拶をされながら体を温めた。

 軍人の中にはエーディアのように女性もおり、そちらは直接確認ができないので詳細な報告書を提出してもらい、どうにかしているらしい。

 不動産屋、授業の件、報酬など決めたり受け取ったりしなくてはならないことは多々あるが、これで一度失礼することにした。シェイだけは近々邪魔するぜ、とツカサの肩を叩いた。


「そうだ、シェイさん、ティリ・カトゥーアを返さないと」


 戻ったあの日、魔力が完全に戻るまで貸しておいてやる、と言われて既に何日だろう。左耳のピアスを外そうとしてまた手で制される。


「次に会う時でいい。そう待たせねぇよ」


 それがいつなのかはわからないが、この人が言うのならばそうなのだろう。ツカサは頷いて左耳から手を離した。ラングが無言で歩き出したのでツカサは【快晴の蒼】にお辞儀をしてから追いかけ、アルはのんびりと手を振ってそれを追った。

 帰りは空を飛ばなかった。徒歩だと時間がかかるとわかっていながら、それを要している。ラングを挟むようにしてツカサとアルが並んだ。軍の駐屯地での感想を言うことはない。楽しかったね、と声を掛けることもできたが、なぜかそんな空気ではないように思えた。歩いて一時間もした頃、ようやくラングが口を開いた。


「帰る日が決まった」


 ざぁ、と風に揺られラングのマントがぱたりと音を立てた。ツカサはぎゅっと一度唇を結んだ後、息を吸ってゆっくりと尋ねた。


「いつ? 帰る日程も、それが決まったのも」

「決まったのは先ほどだ。温泉を楽しんでいたらセルクスが来た。新年祭(フェルハースト)の少し前、日付で言えば氷竜の月、二十五日」

「クリスマスだ」


 ふふ、と笑いながら言えば首を傾げられ、故郷でのイベントだと説明をすれば覚えやすくていいな、と肩を竦められた。なぜ日付が指定されているのかと問えば、今は止まっている向こうとの時間を合わせるためらしい。シェイの師匠が渡った時とは違い、こちらとの時差が消えるというわけだ。いつから向こうの世界が止まっていたのか気になったが、ラングも進んで力を使わなかったのでわからないと言った。


「確かに、繋がらなくなったことは疑問だったが、元々私が持っているこれは私のものではないからな。そういうものかと思っていた」

「使いこなし始めたのも最近だしね」

「ツカサの結婚式は無事に参加できそうでよかったな」


 本当にそうだ。ツカサはうんと頷き、よかった、と笑った。氷竜の月、およそ四か月か。この短い時間でラングとの思い出もたくさん残そうと心に決め、顔を上げた。


「今日はイーグリスに戻るだけになっちゃうけど、明日からなにをしようか。ダンジョンはお預けだもんね」

「鍛錬だ。まだ教えることは多い」

「あと戻ったら今度こそツカサの冒険者証の更新な。アーシェティアも銀級には上げておかないとだぞ。【黄壁のダンジョン】で実力はわかってんだから」


 アーシェティアの冒険者証はいまだ灰色のまま、身分証でもあるので、陸地にいる限りは必要になる。ラングはそれに、と付け加えた。


「お前は魔力に甘えているところもあるからな、今後は魔力での手入れをしない武具の扱いも知らねばならん」

「あ、あと、【紫壁のダンジョン】含めて報酬の鑑定とかもしてなくないか? ラング、俺は分配を要求するぞ!」

「そうだったな」


 鍛錬、ツカサとアーシェティアの冒険者証の更新、武器の手入れ方法、補修方法、道具の揃え方、すっかり忘れていたがダンジョン報酬の分配など、後回しにしたことがいろいろとできそうだ。それはそれで楽しみだな、と笑い、賑やかな会話を続けながら歩を進めた。

 イーグリスに戻った夕方、その日のうちにアーシェティアも呼び出して冒険者証の更新を済ませ、手入れ道具を購入した。ラングが帰ることを念頭に置いて【異邦の旅人】のリーダーはツカサに変更された。アルではないのかと問えば、きょとんとしたアルが当然のように言った。


「古参はツカサだろ? それに、元々二人が冒険するためにつけた名前なんだ、引き継ぐならツカサが適任だろ」


 な、と背中を叩かれ、ツカサは背筋を伸ばして応えた。リーダーとして、責任を移されたような気がした。

 仏頂面のシェイに伴われてヴァーレクスがラングの下を訪れたのは、それから三日後のことだった。



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