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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
終章 異邦の旅人

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4-54:ハーブティー

いつもご覧いただきありがとうございます。


 ぐわっと魔力を練り上げたシェイの前に飛び出したのはツカサとアッシュだった。シェイに気を取られ、居たことにすら気づかなかったが、お互いに同じタイミングで飛び出したので顔を見合わせてから異口同音に叫んだ。


「揉めてる場合じゃないよシェイさん!」

「落ち着けって! ヴァンに頼まれたこと果たさないとだろ!」

「ラングがなにをしたのか知らないけど、代わりに謝るから! ごめんなさい!」

「とにかく今は収めろ、な!? 時間がないはずだしこれからどうなるか!」


 竜虎睨み合う間に挟まれて必死の声で仲裁をする二人に、先に長いため息を吐いたのはシェイの方だ。ラングはその後に肩を竦め、アルは小さな声で、やっぱやばかったんだな、と両手を合わせて何かに祈りを捧げていた。いったいこいつら何をしたのだとツカサが咎めるように振り返れば、アルはすぅっと視線を逸らした。ラングはふいとシールドをヴァーレクスへ向けた。


「お前も剣を納めろ、話ができん」


 気づけば、タルワールを手に今にも飛び掛かりそうな体勢で長身の男が立っていた。ラングとの戦いを求める男は、獲物の横取りという行動を許さないのだ。シェイが瞬きに合わせてヴァーレクスを見遣れば、ようやくタルワールを背中へ戻した。

 ほーっとツカサはアッシュと共に肩から力を抜いて苦笑を浮かべ合い、シェイはずかずかと癒しの泉エリアへ入り、どかりと座った。


「茶を一杯くれ、それが飲み終わるまでに話と貸与を済ませたい」

「わかった」


 ラングが癒しの泉エリアの水をポットに入れ、湯を沸かし始めた。その間も話すのだろう、ツカサも、他の全員も円を描くように座った。ここでも話を切り出したのはアッシュだった。そうだ、この人はそういう役回りだ。


「状況を知らせてくれてありがとうな、おかげでこっちも動きが取れた。時間がないからさくっといこう。まず、ネルガヴァントの武器が何か、気になるだろ?」

「気になる、俺、こいつがダンジョンに刺さってたことしか知らないんだよな」


 ずいっと食いつくようにアルが声を出した。こうした話し合いの中では珍しいことだが、恐らくこの中で一番の当事者だ。アッシュはだろうな、と頷いてから短剣を差し出した。綺麗な装飾もなく、革製の鞘に入ったシンプルな短剣だ。


「こいつはガレンフィニア・ネルガヴァント。名前が長いから俺はガーフィ・ネルって呼んでるんだけど、世界に開いた穴を塞ぐ力を持つ短剣で、こいつに力を借りて俺たちは世界の穴をちょくちょく塞ぎに旅に出てる。その時に金級冒険者パーティ【快晴の蒼】はすごく便利なんだよな」

「世界の穴って、そんなにちょくちょく開くものなの?」


 ヴァンの話していたことを思い出しながら問えば、アッシュは頷いて返した。


「紙が一枚あるとするだろ、片側から押して通せば、片側に向かって穴が開く。手順がどうあれ結果穴が開くことに変わりはないから、全てとは言わずともある程度、できる範囲で塞ぐ必要があるんだ」

「ラングが正規の手順で渡ってきても開くものなんだ。でも、どうして塞ぐ必要が?」


 あー、とアッシュの視線がヴァーレクスを見た。世界の真理の一つだ、聞かせる相手は選びたいのだろう。すいとラングが手を差し出して促した。


「制約がないのならば話せ、時間が惜しい。こいつは必ず、私が殺す」

「うふふ、それは楽しみですねぇパニッシャー」


 ずる、と体中に纏わりつくような威圧がヴァーレクスから放たれる。ツカサは深呼吸してそれを払い、アッシュの話に向き直った。その視線を受けてアッシュがシェイと顔を見合わせ、頷いた。


「あー、ラングの世界と、この世界の時間のズレがあるのは知ってるよな?」

「うん、ええと、うん」


 シェイの師匠がこちらからラングの世界に渡った際に、かなり時間のずれがあったのは聞いた。だからこそセルクスの報酬が意味を持ったことも思い出す。仲間たちに世界を見守る者(シェイフォンド)の話はしていないと言っていたが、ここにいるアッシュだけは多少なにかを知っているのがわかった。ただ、確かにあまり公言はできない話だ。


「細かいこととか原理は知らないけど、穴がぼこぼこ開いてると徐々にくっついて、最後はどかんとぶつかるらしい。それはそれで問題だろ?」

「なんとなく、わかる気がする」

「だから気づいたところだけでも塞ぐんだ。特に危ない穴に関しては、時間を司ってもいる刻の神(クロノス)の眷属から依頼がくる。サイダルのようにな」


 あの時、【快晴の蒼】はラングの通った穴を塞ぎに行っていたのか。横を見ればラングは興味深そうに顎を撫でていた。

 なるほど、イーグリステリアはそもそもが消滅したのでそういった事故もなかったのだろうが、以前聞いた通りたまたま重なって人が落ちてくれば穴が開く、今存在する別の世界の時間が混ざる、ぶつかる、というのはよろしくないのはわかる。映画などでもそうしたタイムパラドックスや時間を題材にしたものがあったはずだ。そして、それを塞ぐためにガレンフィニア・ネルガヴァントという短剣を使うのだ。そこまではわかった。


「で、じゃあ、そもそも、ネルガヴァントってなんなんだ?」


 アルがそわそわと落ち着かない様子で尋ねた頃、ラングがポットから湯を注ぎ、ハーブティーを全員に渡した。時計を見ているわけではないが、着実に時間が過ぎていっていることを認識した。アッシュの口調が僅かに速さを増した。


「古い逸話があるんだ。かつて全てを手中に収めようと、世界を思いのままにするための武器を造ろうとした武器職人がいた」


 その武器職人の名はネルガヴァント、腕の良い職人だった。木をひと振りで切り倒せる斧、鉄をひと振りで両断できる剣、城壁を一突きで崩せる槍、男の作品は確かに素晴らしかった。腕の良い職人はさらに高みを目指し、壊せないもの、切れないものへ挑戦を続けていった。そうして、この空を、大地を切れたらどうだろうか、と世界へ矛先を変えていった。

 ただの素材ではどうにもならなかった。鉄も、鋼も、金剛石もミスリルも、オリハルコンでさえ、ありきたりなものでは世界に太刀打ちできないのだと早々にわかった。そこで武器職人はあるものに目を付けた。


「鉱石以外の何に目を付けたんだ?」

「イーグリステリアも武器にした莫大な力を秘めたものを。…武器職人には五人の子供がいたんだ」

「まさか」


 アルの厳しい声にアッシュは頷いた。


「そのまさか、命だ。それぞれを炉に入れ、融かしてその命ごと全てを武器に変えたんだ。方法はわからないけど、成功した。さっき話した通り、世界があちこちで繋がると危険だってことで、神の裁きを受け、武器職人は死んだ。その際、武器になった子供たちは散り散りに、中には遠い空、要は異世界にまで飛ばされた…ってな。この話、今は命を弄ぶなって教訓話にはなっているが、事実だ」


 重い空気が流れた。人が最後に手を出すのは不老不死や理への挑戦であることは、少し前に知った。そのために狩りつくされた太古の竜がいたことも知っている。そして、ツカサは今なら知っている。生きるために必要な命、魂というものが驚くほどのエネルギーを秘めているのだということを。ぎゅっと胸を握り締めた。実子の命を素材として扱うその狂気が恐ろしかった。


「この世界の武器職人じゃなくて、別の世界の話が、俺やアルのように選ばれた使い手が今までにもいて、聞いて、残されてるんだ。扱う者が不純な動機で彼らを使い神の裁きを受ける度に、世界を越え、忘れ去られ、そしてまた、誰かの手に渡って、こいつらは今ここに在る」


 アルが己の槍をぎゅっと握り締め、呆然と眺めていた。アッシュはそっと短剣の鞘を撫でた。


「このガーフィ・ネルは末っ子、父親に恨みを抱いて、抵抗し、反抗し、だからこそ切り裂かれた世界を塞ぐ性質を持った」

「オルファネウルは…」

「こいつ曰く、兄さん、三男だそうだ」


 ガーフィ・ネルは物悲しい音を響かせた。アルの手の中で槍が同じように共鳴音を返し、末っ子を慰めるように、撫でるように鳴いていた。確かにそこに何かの意思があることだけはわかった。

 兄弟の再会にも頓着せず、ラングが先を促す。


「聞きたいことが三つある。一つ、いつから気づいていた。二つ、なぜ早々に提案をしなかった。三つ、ネルガヴァントの武器を持てと言われたが、どういう意図がある」


 淡々と要所を尋ね、アッシュがごもっとも、と頷いた。


「一つ目、俺はアルに会った時点で気づいていた。ガーフィ・ネルが声を掛けていたけど、わかったらアルと離されると思ったんだろうな。オルファネウルがただの槍を貫いたから、声を掛けなかった」

「別に手放したりはしないのに…お前も頑固というか…」


 アルは槍に向かって眉を顰め、槍から何か返ってきたのだろう、わかったって、と苦笑を浮かべていた。なんというか、常日頃、自分と共にあってくれる武器と会話ができるのは少し羨ましい。長い付き合いになりつつある風の短剣やショートソードが何を考えているのか知りたくはある。

 アッシュは次に進んだ。


「二つ目、一つ目の理由と被るんだけど、アルがネルガヴァントの武器を持っている、というのを俺が言わなかったせいだ。ツカサがヴァンに連絡をくれる少し前、たまたまヴァンが話題に出したから、俺がそういえば、って話したことでわかった。…しこたま叱られたから詳しくは聞かないでくれ、本当に、良かれと思ってのことで、すまなかったと思ってるんだ…」


 シェイの冷ややかな眼差しにアッシュが背中を丸めて自分を守っていた。

 アッシュという男が優しいからこそ武器の想いを優先した結果、この後手となったわけだ。【快晴の蒼】の中でネルガヴァントという武器に選ばれているのがアッシュだけらしく、情報がそこで止まっていたらしい。加えて、ガーフィ・ネルも進んでそれを言えとは言わなかった。彼らは元々【命ある人】ではあったが、現状は【武器】、ある程度の意思はあっても結局のところ使われる側で、使う側ではない。扱う人の在り方が彼らの在り方になってしまうのだ。その意思を尊重するからアッシュは懐かれたのだろうなとツカサは思った。

 少しだけ泣きそうな震えた声でアッシュは最後の一つに言及した。


「最後の三つ目、このタイミングになったことは改めて謝罪するけど、少し長くなる」


 渇く唇と喉を潤すためにハーブティーを何度も啜ってしまったため、ツカサのコップの中はいつの間にか残り少なくなっていた。意識的に飲むのを堪えた。これを飲み終わったら時間がきてしまう。アッシュは短く深呼吸をして間を置かずに続けた。


「ヴァンから前置きをさせてほしい、と言われてる」


 アッシュの視線がシェイを見て、金目が開いた。


「継続的に生命活動をしなくてはならない何か、維持するためのなにか、ヴァンはその点にかなり危機感を抱いてる」


 あぁ、言っていたな、とツカサは頷き、先を促した。


「イーグリステリアの生命活動のためだけならば、ダンジョンを細く長く生かすほうが利点が大きい。だが、黒い通路、ダンジョンを侵食するほど急速に栄養を求めていることから、イーグリステリア自身の活動のためではない、とヴァンは判断した」

「じゃあ、なんのために?」


 シェイは不愉快そうに吐き捨てた。


「何かをつくりだすために栄養が欲しいのだろう。あいつはダンジョンを利用して、子を、要は神を生もうとしているのではないか、とヴァンは言っていた」


 しん、と音が止まった。

 確かに、多くの命を抱え込んだあれは力だけでいえば女神ではあるだろう。ただ、ツカサにとっては命を生むというのは、相手や、そのための様々な手段があってのことなので思いつかなかった。敵は紛い物とはいえ神なのだ。そもそもあの女神にあるのは魔力ばかりで命は、と考えたところでざっと血の気が引いた。


「今まで食べて蓄えた命を、生むの?」

「理という器、今はまだダンジョンとして中途半端だからこそ、物事の決まりが曖昧だからこそできる力技だな。実際、俺もここに来てその予想が正しいと感じてる」


 シェイはツカサの左側に鎮座するこどもを見遣って、腕を組んだ。


「ツカサの魔力を食っちゃいるが、抗い切れてねぇな。ティリ・カトゥーアを貸しておいて正解だったと思うぜ」

「それはもう、本当に」


 ツカサは深く頷いてシェイにぺこりと頭を下げた。シェイはすいと左手を差し出してこどもを呼んだ。飛びつくようにしてこどもはそちらへ行き、シェイの左側にくっついた。魔法障壁を解いたのだろう、澄んだ魔力をシェイから感じた。


「シェイさん、いいの? 魔力は大丈夫なの?」

「事故、いや、思わぬ出来事ってやつで魔力はほぼ回復してる。お前には進んでもらわなきゃなんねぇからな、俺が代わりをするために来たんだ」


 こどもから視線をツカサに移し、にやりと金目が細められた。


「誇って良いぜ、お前の策をヴァンが採用したんだ」


 じわっと言葉を理解して胸を張りたくなった。魔法を使い、ダンジョンに力を与えるというアイデアのことを指しているのだろう。ヴァンはツカサとシェイがいれば試しただろうと言った。ネルガヴァントの武器を渡しにいくというこの結果により、それが実現できたわけだ。


「とはいえ、俺がするのはこいつを持たせることだけだ。お前らが逃げる時にダンジョンが潰れてちゃ困るからな。こいつに栄養を与えれば与え続けるほど、イーグリステリアが神を育てるのにも栄養を与える続けることになる。…時間との勝負だぜ」

「いざとなれば俺たちも帰還石と離脱石でここから出るからな。上手いことやってくれよ。紙の通信魔道具は悪いけど俺らに貸してくれ。ヴァンとやり取りするからさ」


 アッシュが言いながらコップを置いた。それを見ながらツカサはシェイを見た。


「でも、魔力量や技量的にはシェイさんの方が…」

「それは否定しねぇが、こういう時ものを言うのはどれだけ連携が取れるかだ。お前の方が適任だろ、【異邦の旅人】はお前のパーティなんだからな」


 ラングを睨みながら言うシェイに安堵と疑問が浮かぶが、ヴァーレクスが空になった二つ目のコップを置いたので尋ねるのはやめておいた。


「話を戻すけどな、ネルガヴァントの武器を渡す意図はその特性を見て理解してほしい。アッシュ」

「はいはい」


 アイテムバッグであるポーチからするりと杖が現れ、差し出された。


「この杖をツカサに。ガーフィ・ネルから話を通してあるから、力を貸してくれるはずだ。兄弟をアルが持っているしな」

「鑑定ってしても平気?」

「やめとけ、嫌われる」


 わかった、と素直に引き下がり差し出された杖を手に持った。真っすぐで、こちらもシンプルな杖だ。美しい白銀できらきらと小さなペリドットが散りばめられた、品の良いデザインだ。鉱石系の感触がし、硬く、けれどしなやかな樫のような、温かい触り心地というのが正しいかはわからないが、そんな柔らかさを感じた。

 アッシュの手元にある短剣から威嚇するような音が発せられ、アルの手の中で槍がそれを慌てて宥めるような音がした。ぎぃぃ、とか、しぃぃ、とか不思議な音の波が響いた。アッシュは鞘を撫でながら苦笑を浮かべた。


「ツカサ、その杖、マレンティリア・ネルガヴァントって名前なんだけどな」

「あ、うん」

「四番目の子、唯一の女子だから扱いは気をつけてくれよ?」

「えっ」


 ぎょっとした。しまった、撫でまわしてしまった。おかしなところを撫でていなかったかと慌ててしまい、取り落としそうになった。鑑定が嫌われるのも女性の衣服の中を覗くようなものなのだろう。勝手にやらなくてよかった。

 ツカサの狼狽に対し微笑むように、ふぅぅ、と杖から音が聞こえた。不思議なことにそれが大丈夫、安心して、と言ってくれたような気がして、あぁ、アルはいつもこうなのだと気づいた。話しているような雰囲気は、確かに会話していたからなのだ。驚きに目を見開いているツカサへラングが問うた。


「特性は」

「えっと…ふうじること、封じる、かな。閉じ込めるとか、そういう感じ?」


 杖がじわりと話し掛けてきてくれることを言葉に直せば、アッシュとアルが頷いた。兄弟武器を持つ二人は同じようにそれを聞き取れるらしい。


「すごいな、こんなはっきり聞こえるのか。今まで結構ぼんやりしてたんだけど、兄弟に会ったからか? オルファネウルはひらくことができるらしい」

「封じるってどういうことを正しく指すんだろう。オルファネウルもひらくことって何を?」


 ラングはじっと腕を組みツカサの杖を見つめて呟いた。


「影縫いのナイフ」

「これか? あぁ! なるほど」


 影縫いのナイフ、それはパーティ加入の際、カダルからアルへ渡されたものだ。腰に添えられた黒いナイフへ視線が集まった。それは影に刺せば対象の動きを封じられると鑑定されたものだ。実際、アルはキフェルへの道中の混戦でそうしてグリフォンの動きを封じ、ラングと共に大空を滑空したと聞いた。


「そっか、この子の力を借りれば、動きを封じられるかもしれないんだ。かなり有用かも」

「敵の動きを封じられるのはでかいよな」

「神が生み落とされる前に封じろということか」


 ツカサはアルと頷き合い、明るい戦略に光明が見えたところでラングが感情のない声で言った。その言葉の意味を逡巡、ツカサはぎゅうっと杖を、マレンティリア・ネルガヴァントを握り締めた。

 シェイが、アッシュがツカサを見た。ヴァンの代わりに覚悟を問うように見つめられ、ツカサは小さく喉を鳴らした。


「有用だが万能じゃねぇ、必要がなければ空間収納にでも入れておいてやってくれ。あくまでも、一時的な手段だ。結局それをどうにかしなければ、第二、第三の脅威は現れる。だが、片方を押さえることができれば、まず一方に集中できる。二つ同時に相手をしないこと、それがヴァンの策だ」


 ツカサがイーグリステリアの生みだそうとするものを押さえることさえできれば、ラングがその剣を女神に届ける。ヴァンの透明な水色の視線を感じ、ツカサは背筋を伸ばした。個人としてはこちらに賭けたい、と言ったあの言葉の真意が大きなプレッシャーとなってツカサの肩に圧し掛かった。

 けれど、ツカサは迷わずに言った。


「やり遂げてみせる。ラングが集中できるように、俺がそっちを押さえるよ」


 そのために力を貸してね、と胸中で頼めば、杖からは微笑みが返ってきたような気がした。

 アッシュはほっとした様子で笑い、シェイに目配せをした。ことりとアルが三つ目のコップを置いた。


「まぁ、本当に神を生むつもりだって言うならそうなるか。でもやり方はわかるのかよ?」

「うん、漫画とかアニメとかゲームとか、なによりラノベ(聖典)でも結構書かれてるし、この子、マール・ネルかな、が教えてくれる」

「はは、何言ってるかわかんねぇ! けど、大丈夫なのはわかった」


 朗らかに笑うアルの声に場の空気が明るくなった。ことりと次にシェイが四つ目のコップを置いた。


「ヴァンが来られなかったことは許せよ、あれであいつはスカイの全指揮を背負ってる。多少部下に任せられる俺たちと違って、今は正念場なんだ。ティリ・カトゥーアがある程度状況を俺にも知らせてくれる。死ぬくらいなら逃げろ、あんた、そういうの得意だろ」

「あぁ、なによりも得意かもしれん」


 神との戦いに力を貸せと言われたあの日、即座に逃げることを決断したラングを揶揄うようなシェイの言葉に、なんの抑揚もない声がさらりと返した。


「だが、やるからには全力を尽くす。約束は守るさ」

冒険者(ギルドラー)は信頼が全てだ」


 ことり、ラングが五つ目のコップを置いて、ツカサはその言葉を奪うように言った。

 皆の視線を一身に受けながら、最後の一口を残していたコップを手に取り、ぐいっと覚悟を飲み込んで、最後のそれを置いた。

 ツカサはラングに笑ってみせた。


「背中、任せて」


 薄い唇が少しだけ開き、それから、滲むように微笑んだ。




戦闘シーンまとめたいので少しだけお時間をいただくかもしれません。

面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やいいねをいただけると励みになります。

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