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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
終章 異邦の旅人
306/470

4-36:綻び

いつもご覧いただきありがとうございます。



 明朝、早速キフェルに魔道具を用いて問い合わせを入れた。


 キフェルの門を預かる憲兵からファーリアという冒険者を入国させた履歴が提出され、その際、連れてきたはずの隊商と冒険者はファーリアを置いてフェネオリアにトンボ返りしたという。少なくともフェネオリアのギルドマスターが手配した一団が、何故そのような対応をしたのかが気になり、調べさせることにした。

 それとは別にファーリアの今の所在を探すようにも言いつけた。キフェル以降どこにいるのか所在不明なのだ。王都マジェタで他の冒険者に混ざっているわけでもなく、食事をとりに店に入るわけでもなく、目撃証言というものもなかったのだ。

 いっそどこかで死んでくれていた方が話が早いのだが、そんなことは口が裂けても言えなかった。


 ロナとマーシがアズリアに差し掛かるころ、ファーリアを運んだ隊商と接触が出来、何があったかを知った。だが、それでもファーリアの所在が未だ不明であることは不吉にすら感じられた。


 同じタイミングで王城を尋ねてくる者たちがあった。


 謁見申請は正規の手続きで通っており、今回サスターシャが女王の座に就いたことを祝福したいと、マナリテル教からの申し込みだった。

 ラングやロナからの情報で警戒をしている最中のこと、サスターシャは戦装束を身に纏い、隣立つカダルは冒険者服を、騎士だけではなくエルドたち数名の冒険者にも控えてもらい、いざというときに備えた。かつ、マナリテル教司祭に同行している人物について報告が上がり、急遽対策も講じられた。

 謁見の間が解放され、大扉から五人の人物が歩み寄って来る。後ろに控えた四人は頭を垂れて礼を尽くしていたが、先頭を行く少女は胸を張って堂々とサスターシャの前に立った。

 磨かれた肌は美しく、身に纏う物も一級品。冒険者の様相だが最前線で戦う冒険者ではなく、後方でふんぞり返っているタイプに見えるのは何故だろうか。腰に吊る下げられた剣は本来謁見の間に入る前に取り上げられるのだが、事前に敢えて取り上げないよう指示をしておいた。サスターシャは玉座から慈愛の眼差しで少女を見つめた。


「お久しぶりね、ファーリア」

「えぇ、お久しぶり、サスターシャ」


 ざわっ、と謁見の間に同席していた大臣や貴族たちがどよめく。不敬だ、と誰かが囁けばファーリアはすぐさまそちらを睨みつけた。

 サスターシャが手をゆるりと上げ雑音は静まっていく。それを確認してから視線をファーリアに置いた。


「マナリテル教に改宗したのかしら。今日の謁見はマナリテル教カデキウス殿が主だったと記憶しております」

「女王陛下、美しきヴァロキアの太陽にご挨拶申し上げます。どうか、発言をお許しいただけますでしょうか」

「許します」


 頭を垂れていた男がゆっくりと顔を上げ、深々と丁寧な礼をして見せた。穏やかな笑みを浮かべているものの、それが胡散臭く見えてしまうのは穿ちすぎか。


「わたくしはマナリテル教キフェル支部の司祭を務めておりますカデキウスと申します。この度は女王陛下に謁見させていただきましたこと、感謝申し上げます。ご戴冠、おめでとうございます」

「ご丁寧にありがとう、不思議なこともあるのですね。ヴァロキア王都マジェタにもマナリテル教は居を構えているはずですが、キフェルからいらっしゃるなんて」

「フェネオリアとの国境だからこそでございます」

 

 カデキウスは微笑みを浮かべてファーリアを見遣った。その視線を受けて優雅に頷く少女にサスターシャの眉が僅かに顰められる。


「して、何用かしら? 祝辞を述べるだけならば、もう下がりなさい」

「せっかく来たのにそんな言い方しなくてもいいじゃない、サスターシャ」


 ぐっと拳を握ったカダルを手で軽く制し、サスターシャは凛然と尋ねた。


「あなたは誰なのですか?」


 質問の意図が汲み取れずきょとりと目が瞬く。素直に首を傾げる姿に変わらない少女の本質を見た。


「もう少し噛み砕きましょう、あなたは、フェネオリアの王女ファーリアとしてここに居るのか、それとも冒険者ファーリアなのか、はたまたマナリテル教のファーリアなのか、と問うています」


 あぁ、と理解して頷き、ファーリアは胸を張った。


「私は、私よ」


 ふふんと自信満々に言う姿に、以前はなかった王族としての自信も垣間見える。

 その芽生えがもう少しだけ早ければ、それが自覚と共に成っていたならばこうはなっていたかっただろうと思いながら、サスターシャは淑女の微笑を浮かべた。


「質問に答えられていないわ、ファーリアがどのファーリアなのかと問うているのです」

「だから」


 パァン、とサスターシャの掌に王笏が当てられる。瞑目のあと、微笑も消える。


「控えなさい、無礼者。貴女がフェネオリアの第三王女だとしても、冒険者だとしても、マナリテル教のファーリアだとしても、余はヴァロキアの女王である。今その首を刎ねることも出来るのです」


 ザッと騎士が剣を構え、緊張感が走る。ファーリアは面白くなさそうに周囲を見渡しただけで怖気ることはなかった。


「何をしに来たのですか?」


 マナリテル教を連れ、ヴァロキアに来てもダンジョンに入ることも無く、冒険者としての実績を積むでもなくただここに来ただけのファーリアに、サスターシャは言い知れない不愉快さを感じていた。目的がわからない相手というのはサスターシャの理解の範疇外なのだ。気味の悪い生き物でしかない。


「カデキウス」

「はい、ファーリア様」


 なるほど、絵を描いたのはあの男なのだ。王族としての自覚、自信を得はしても、ファーリア自身の幼さはそのままということか。

 サスターシャはちらりと騎士団、カダル、エルドに視線を送った。騎士団は大臣ら貴族を下がらせ前に出て、エルドは腕利きの冒険者に頷き、いつでも動けるようにした。カダルはサスターシャのすぐ横に立つ。

 緊迫した空気をものともせず、カデキウスはオッホンとわざとらしい咳払いの後に腕を広げた。


「お時間も限られておりますゆえ、本題に入らせていただきましょう。我々マナリテル教はこの度、一つの鍵を手に入れたのです」


 ぐるぅりと回って全員に視線を合わせるようにして語り部は続けた。


「ご存じでしょうか? 我らが魔法の女神は魔導士を愛してくださっております。かつて魔力持ちが差別されていたことを憂い、嘆き、我らに寄り添ってくださった」

「マナリテル教の成り立ちは存じております。ヴァロキアの何割かの魔導士がそれを心の拠り所にしていることも、魔導士になるための手段であることも把握しています。要点を述べなさい」

「失礼、単刀直入に申し上げます、マナリテル教を国教になさってください。そして魔導士の価値を、立場を、女王陛下の声明で確固たるものにしていただけませんか」


 ふふ、あははは、とサスターシャは可笑しそうに笑い、それから冷ややかな表情でカデキウスを見据えた。


「ヴァロキアの国教は地神ティタノクス、我が国を支える山々を、その血である水を信仰しています。たかが二百年程度の薄さで国教とは馬鹿げたことを」

「お言葉にはお気をつけください、女王陛下」


 カデキウスは不思議な余裕を見せて胸の前で手を合わせた。


「真実、魔法の女神がいらっしゃる、それが全てです。ティタノクスなどお会いしたことがありますか?」

「口を慎め、それ以上は我が国への無礼だ」

「女王陛下、わたくしめは真実を申し上げているのです」


 捕らえるか、いや待て、おかしい、とエルドとカダルが目で会話する。

 四方を騎士や影、加えてエルド率いる冒険者に囲まれながらどうしてああも余裕が持てるのか。往々にして何かしらの策があるからだとカダルはカデキウスに視線を戻す。


「女王陛下」

「わかっています。カダル、緑の箱を開けなさい」

「承知しました」

 

 カダルは後ろに置いてあった緑の小箱を開いた。王笏を床にコンと当ててうっとりとしたカデキウスの視線を向けさせる。


「確かに、時の死神(トゥーンサーガ)がいらっしゃるのですから魔法の女神もいるでしょう。だからと言って我が歴史ある地神ティタノクスを廃する謂れはありません」

「女王陛下、お分かりではないのですね」


 カデキウスのやれやれと肩を竦める仕草もまた不敬だ。もはやそれを指摘することはないが、国にマナリテル教を置いておくことの不利益を確信した。


「マナリテル教は大局を見ております」

「カデキウス、大言壮語はそのくらいにして下がりなさい」

「マナリテル教が国教になれば!」

「警告はしました。衛兵!」

「この大陸すら統一は容易いのです!」


 さっ、とサスターシャが手を出し兵を止める。それににんまりと笑みを浮かべ、カデキウスは朗々と続けた。


「女王陛下も魔導士の力はご存じでしょう? ダンジョンでもその力は遺憾なく発揮され、マナリテル教の我々が徒党を組めば、そう、怖いものなどありません。彼のアズリアとて、市民に扮した我らが内から壊すことも容易い」

「なるほど、脅しているのですね?」

「滅相もない!」


 サスターシャは王笏を再び掌に打ち付けた。


「して、そこにフェネオリアの元第三王女、ファーリアがいることとなんの繋がりがあるのです?」


 話題に出されたファーリアは無言ながら自信満々に胸を張った。カデキウスは恭しくファーリアに礼をしてからサスターシャに向き直った。


「人質でございます」

「え」


 想定外の一言にファーリアの顔から笑みが消える。サスターシャは呆れたような息を吐いた後、的確に言い当てた。


「フェネオリアと戦争をさせるつもりですか?」

「ちが、私はフェネオリアの女王に」

「黙りなさい、ファーリア」


 はぁー、と深い息とともに言い捨て、サスターシャは額を押さえた。


「聞き心地の良い言葉に踊らされたと考えるべきでしょうが、少なくとも貴女は元王女、自分が利用されることを少しは考えても良いものです。それを防ぐために貴女は市井に下り、第三王女を名乗る権利を自ら手放したのではないのですか?」

「私は、ただ国のために」

「国のために、なんです?」

「私の国を守りたいだけよ! みんなから尊敬されて、平和で、みんながお金に困らないような、そんな国にしたいだけ!」

「そのために貴女は何が出来るのですか? 何をして来たのですか? どう守り、どう国を発展させるのですか?」


 ずきん、と頭が痛くなった。


 ――― 君は、役に立ちたいと言いながら、何を学んできた? 導くとは、何を?


 やめてよ、じぶんなりにいっしょうけんめいやってきたのよ。


「その装備も使用感を感じられないことから、貢物でしょう? ファーリア、貴女のその身には、貴女が自らの手で手に入れたものが一つも無いように見受けられます」

「うるさい! なんでも出来てなんでも持っている奴が、私を、私を馬鹿にするな!」

「それが貴女の世界ならば、もう何も言うまい。ですが、ファーリア、今貴女が祖国を危険に晒していることだけは理解なさい」


 王笏がカツンと音を広げ、サスターシャは立ち上がった。


「司祭カデキウスが危険思想の持ち主なのかもしれませんが、マナリテル教の存在は我が国に害を及ぼす可能性があると知れた。これよりマナリテル教への徹底的な制約を課すこととする」

「女王陛下、とても賢明なご判断とは思えません。それではファーリア王女殿下が死んでしまいます」

「なんですって? どういうこと?」


 ファーリアは驚き、付き従っていたネラーリェを振り返る。視線を受けたネラーリェは尊崇した様子で興奮気味に頷き、ファーリアの手を両手で包んだ。


「大丈夫です、ファーリア様、すべては女神様のためでございます」

「何言って、るの」


 愕然として体中から力が抜ける気がした。床に頽れることは堪えたが、内心では項垂れて泣き出していた。


「だましたの、あなたたちもわたしを、ばかにしてたの」

「何をおっしゃいます! ファーリア様は女神様に選ばれた尊い御方です。ネラーリェもお供させていただけることを光栄に思っております」

「人質なんて、なんなのよ、どうして!?」

「茶番はそこまでになさい」


 再びサスターシャの王笏が床を鳴らし、狂気に落ちかけたファーリアの視線を呼んだ。

 この娘、冒険者になったときに第三王女を名乗ることさえやめていたならばこんな目に遭わずに済んだというのに。名乗ってしまい、噂になってしまい、第三王女のまま冒険者であると認識されてしまったがために、利用された。マナリテル教がファーリアの所在を隠しヴァロキア内で噂にならなかったことだけが救いだ。

 純粋にただのファーリアであれば苦労はしても、新しい場所で、新しい名で生きられただろうに。

 サスターシャは瞬きで思考を振り払った。


「カデキウス、一応確認をしますが、何故ファーリアが死ぬのですか?」

「全ては魔法の女神の思召すまま。この世界でただ一つ、真なる神として女神を。そしてその僕としてわたくしは在るのみ」

「狂信者め」


 エルドが吐き捨て、カデキウスは声高に笑った。サスターシャは一度瞑目し、ゆっくりと開きながらファーリアを見た。


「ファーリア、貴女は貴女だと言いましたね」

「そ、そうよ」

「ではファーリア、ここで死になさい」


 え、とまた短い声を上げ、ファーリアは後ずさった。


「ただのファーリアとして、フェネオリアのために死ぬのです」

「い、いや」

「そこの男は貴女を第三王女として殺すことで、フェネオリアとヴァロキア間の不仲を、戦争を画策しています。戦争を回避するためには魔導士を重用し、国教を変えろと脅し続けるでしょう。そして我が国民を怯えさせ続けるでしょう」

「国教なんて変えればいいじゃない! いやよ死にたくない!」

「貴女のために我が国が犠牲になる理由はない。ファーリア、せめて最期は自国のために立つのです」

「なんでよ! どうしてわたしがそんな目に!」

「貴女が選んだ結果です。カダル、先方は事前の約束通り聞いてくれていますか?」

「返事が来ている」


 緑の小箱から紙を取り出し、苦虫を嚙み潰したような顔でそれを読み上げた。


「フェネオリアの国王陛下からだ。フェネオリアに、ファーリアという王女は…いない」

「は? なにそれ、どういうこと? そんな紙っぺらがなんなのよ」

「捕えなさい」


 王笏は容赦なく向けられた。騎士団と冒険者がわっと捕縛に動く。マナリテル教徒たちは慌てることもなく、ただ穏やかな表情で手を胸の前で組んだ。

 全身から光を放つ魔導士が一人、二人と増えていく。ネラーリェに再び手を取られたファーリアも光り始め、自らの全身が意図しない状態になることへの恐怖に怯え、周囲を見渡す。


「なにこれ、やめて、ネラーリェ!」

「何か来る、離れろ! 盾を持つものは前に! カダル!」

「サスターシャ!」


 エルドは大盾を前に出して土魔法でなけなしの壁を作る。冒険者もそれに倣い大臣たちを庇い、騎士団は玉座前で隊列を組んで衝撃に備え、カダルはサスターシャを庇った。


「よもや連絡の取れる手段があるとは、使えない王女でしたね。だがわたくしは満足ですよ、魔導士に栄光あれ! 女神様の御許へ! マナリテル万歳! あははは! これは始まりです、女王陛下!」

「いや! いや! おとうさまたすけて! おとうさ」


 ぱっと弾けた光に続き窓ガラスが割れ、カーテンが散り散りになり、最後に轟音と熱風が全員を襲った。サスターシャの髪が爆風に引っ張らればたばたと音を立てる。次は髪をまとめておこうとやけに冷静に考えてしまった。

 爆発は永遠に続くかのように思われたが実際には五秒ほどだった。ゴトン、カラン、破片の落ちる音に、砂煙に、燃えるにおいに体を身じろがせる。


「皆、無事、ですか」


 サスターシャのか細い声にあちらこちらから動く気配がした。自分を強く抱きしめている腕を軽く撫でれば飛んできた破片が掠ったのか頭から血を流すカダルが体を離した。

 カダルはサスターシャの無事を確認するとサッと煙の立ち込める謁見の間を見渡した。


「エルド!」

「無事だ! 怪我しちゃいるが、冒険者も、お偉方も!」

「視界の確保を! 誰か風魔法を使える冒険者はいるか、騎士団でもいい! 生き残ったマナリテル教の奴らがいるかもしれない、気を付けて行動しろ!」


 視界不良の中でざわざわと皆がそれぞれの役割を果たすために活動を再開する。


「マナリテル教の調査と必要に応じて駆逐が必要ですね、王城に務める者の中にもいるでしょうから、まずは内密に。宣言しておらず、隠れ教徒はいるかもしれませんけれど」

「そうですね、それに今日の警護をマナリテル教徒以外で固めておいて正解でした。あまりに無謀な駆け引きをしてきたようにも思う、これが終わりでもなさそうです。立てますか、陛下」

「ありがとう、まったく、迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)が終わったところだというのに…!」

「城壁に穴を確認、位置把握、風魔法を使います!」


 ぶわっと風が吹き抜け砂や煙様々なものが外に追い出されていく。

 美しかった謁見の間は瓦礫と黒ずんだ爆発痕で色褪せ、盾を歪ませ、衝撃で傷ついた騎士や冒険者の呻き声が聞こえるようになってきた。

 穴の開いた壁からは城下が見渡せ、そちらで煙が上がっていないことにようやく体から力が抜けた。そっと抱き留められて深呼吸、もう一度強く立ち、振り返った。


「一部緘口令を敷きます。今回のことはマナリテル教の一司祭による独断専行、狂信的行為だったと発表し、国はマナリテル教そのものを責めないと声明も出します。他のマナリテル教を刺激しないように努めなさい、秘密裏に調査と駆逐を行います」

「ハッ!」

「皆、感謝します」

「勿体ないお言葉です」

「怪我人の手当てと、被害を調べて報告なさい。協力してくれた冒険者と、守ってくれた騎士たちへの褒賞も頼みます」

「承知しました」


 全員が動けるところで礼を取り、サスターシャはついにカダルに寄り掛かるようにして意識を手放した。その体を抱き上げてカダルは息を吐く。その横にエルドが立ち苦笑を浮かべた。


「見ろこれ、奴ら本気で殺しに来てたぞ」


 ダンジョンドロップ品の盾は少し歪み、威力のほどを想像させた。謁見の間を振り返れば床についた五つの黒いシミが目に入る。思うことはあっても感想を言うことはない。


「お前も血を流してるな、大丈夫か」

「問題ない、運悪く破片が掠っただけだ。それより、お前の土壁も役に立つんだな」

「そらそうさ、何年盾役として使ってきてると思ってんだ。実績があるっての」

「違いない」


 エルドと互いに笑いあい、無事を喜んでから再び城下を眺めた。


「ラングの旦那が危険視したのが、この事態だったんだろうか」

「わからん、旦那の考えることは俺にはわからん。だが、まぁ、おかげで警戒は出来た」

「ロナとマーシにも伝えておこう」

「そうだな」


 城壁の破片が下にいた者を傷つけていなければいいのだが。

 エルドとカダルはこれが始まりだと確信を持って頷きあった。




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