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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
終章 異邦の旅人

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4-16:大枠の策指揮

いつもご覧いただきありがとうございます。


 ツカサが不思議な涙を一筋零してしまった夜は、ヴァン以外に困惑を残したまま幕を閉じることになった。


 策が決まった、まとめるからもう一晩時間が欲しいと言ったヴァンにそれぞれが微妙な声色で頷きを返した。ラングだけははっきりとわかった、と答えた。

 結局誰がどんな行動を指示されていたのかわからないままだったが、考え込んだヴァンに代わりアッシュがざっくり補足してくれたところによると、マナリテル教の布教を進めているらしい司祭が南に、人探しを主にしている剣士が東に、謎の青年がやや港側、西に寄っているとヘクターから報告があり、それぞれを充てていたらしい。ツカサたちは司祭とイーグリステリアを見つけられれば御の字といったところだったそうだ。

 何もたった四組のパーティだけで探さなくてもと呟けば、【空の騎士軍】をいくつかの小隊に分け人海戦術も行っているという。

 様々な方針が決まった最後にツカサに声をかけたため、そのあたりの情報連携が不足していたことを謝られた。

 おそらく、ツカサが行きたくないと言えば、駄々をこねるようであれば置いていくつもりだったので情報を漏らさないようにしていたのだろう。これが引き返す最後の機会だと数度の釘を刺したヴァンの言葉の意味を知った。

 策が決まったと言っていたが、アッシュから今聞いた話とどう変わるのだろう。じっと何かを見据えているヴァンの横顔を見て、ツカサは少しだけ拳を握り締めた。


 通信を切る前、ツカサは少しだけラングと話すことができた。


「びっくりしたよ、ラングたちがもう出発してるっていうから」

渡り鳥の先を行く(先手必勝する)べきだと気づいたのでな、動きは速いほうが良い』

「まだ詳細聞いてないからよくわかってないんだ」


 ふむ、と紙の向こうでラングが顎を撫でる姿が見える。


『ヴァンドラーテの襲撃を覚えているか』

「もちろん。…あぁ、そっか、俺がいたら危ないのか」

『そうだ。イーグリステリアはお前の魔力を追ってヴァンドラーテを蹂躙した実績がある』

「そうだね。それに、イーグリスで【渡り人】を食べたとしたらもっと強くなっちゃいそうだね。もうそれなりの数食べてるらしいし、スピード感が大事なのも理解した」


 あの時ほど魔力を垂れ流してはいないが、イーグリステリアが残った魔力を辿ってヴァンドラーテに辿り着いたのだと思い出し、ゾッとした。【渡り人】の多いイーグリスからヴァンが慌てて移動したことにも合点がいった。これでツカサが行かないと言ったならば、違う防衛策でも置かれたのだろう。


『あとは軍師殿に聞け、私も今はそいつの指揮に付き合っているところだ』

「うん、わかった。明日詳細が聞けると思っておくよ」


 後ろを振り返り、ヴァンがじっと考える人になっているのを見てからそっとラングに尋ねてみた。


「ラング、ヴァンさんに怒られたりした?」

『よく見ている男だ』


 ということはラング自身も叱られたのだろう。背中を守りすぎだとでも言われ、追い出されたのだろうか。放り出されるラングを想像して少し笑ってしまった。


『お互いにまだ成長できそうだな。今のうちに盗めるものは盗め』

「了解、任せて。シェイさんっていう師匠もいるし、ヴァンさんとアッシュからも何か盗んでみせるよ」

『期待している』


 変わらないラングの在り方に安心した。なんだかんだ、やはり兄の存在は大きいのだ。

 ラングとの会話の隙を突いてアルがひょっこりと声を出した。


『ツカサ、ラングのことは大丈夫だからな。たった二日程度だけど、まぁ楽しいことになってるぞ』

「どういうことなの」

『はは、これ以上はラングの面子に関わってくるし俺が殺されるから黙っとく!』

「思わせぶりだなぁ、この通信終わったら怒られる前に逃げなよ」

『もう逃げてったな』


 苦笑交じりのラダンの声がした。相変わらずのアルにも笑って、それじゃ、と区切りをつける。


「また明日」

『あぁ、おやすみ』

「うん、おやすみ」


 余計な会話もない、それがいつものことで笑みが浮かぶ。ぼんやりした光が一つになる。この紙を閉じればそれも消えるのだ。四つ折りにたたみ直して振り返ればシェイが手を出していたのでそこに載せた。


「よくわからねぇが、踏ん切りがついた顔してるな」

「俺も理由はわからないんだけどね」

「まぁ、そういうものの答えは年月を経て自然と出るもんだ」


 それもそうかもしれない。頷き、割り当てられたベッドに潜り込んだ。


「それじゃ、お先に寝ます。おやすみなさい」

「おやすみ」

「おやすみ、ツカサ」

「あ、おやすみ、君の夢が守られますように」


 全員から声をかけられ、ツカサは疲れた心身の欲求に従い、すぐに眠りに落ちた。


 ――― 翌日、早朝から移動を再開し、日が沈み始めたころ野営を行った。ツカサはシェイに食事量を確認し、他のメンバーからも好き嫌いを教えてもらい、料理に反映した。今夜はミルクシチューを作り各々でよそってもらった。

 ルフレンは魔法で出す水を好むのだが、シェイが用意した水は気に入らないらしい。以前シェイが魔力のにおいを例えていたが、そういうものがあるのだろうか。

 食事中くだらない話に盛り上がり、それぞれのことを聞かせてもらった。

 ヴァンは泳げないらしく、実は水が苦手。昔自分で掘った落とし穴に自分で落ちたことがあるらしい。精霊の力を借りて掘ったものでかなり深く、足が折れて死にかけたと笑った。

 シェイは魔導士の特性として体力や筋肉を鍛えるのが苦手で、ツカサが羨ましいという本音も零した。

 アッシュは乗馬が苦手で、そのせいでこちらは走って移動しているのだという。付き合わせて悪いと言われ、鍛錬の一環だから大丈夫だと答えた。

 ラングたちは移動距離が長いため、数少ないコアトルを利用し移動しているそうだ。

 秘密のパーティについてはまだ教えてくれなかったがツカサも本気で探ろうとはしなかった。


 食事と雑談が落ち着いたころ、シェイが集まりだした、と紙を差し出した。

 ぼんやりとした点滅が四つ、皆が紙を開いたのだ。シェイが視線を送ってきたので覚えたての遮断魔法を使う。魔法障壁で遮断するものをよくイメージしなくてはならないのだが、これがなかなか難しい。

 音というものは空気を伝わり鼓膜を震わせて聞こえるものだと習った。単純に空気を遮断すればいいのかというとそうではない。そうするといずれ魔法障壁内の酸素がなくなり苦しくなってしまう。その都度解いているようでは会話の妨げになる。

 ではどうすればいいのか。シェイは空気の振動だけを遮断しているのだと言い、ツカサはまるで、常に両足の指を意識して広げるようなもどかしさを覚えながら魔法障壁を展開した。

 もう一枚外側に魔法障壁を感じたのは念のためだろう。有難いが悔しい、これもまた慣れが必要なのだと言い聞かせてそのまま展開をし続けた。


「お疲れ様、生存確認から始めようか」


 すべてのパーティが全員無事だと答え、ヴァンはさて、と切り出した。


「改めて全員が無事で、こうして遠隔とはいえ一堂に会することができてよかった。駆け足に移動を頼んですまなかったね、まずは状況と目的を改めて伝えておこう」


 ヴァンは静かな声でゆっくりと話した。


「僕たちはマナリテル教と、その教祖であるマナリテル、本名イーグリステリアと敵対している。奴らは人の命を使い、他者へ力を分け与え、そうして人々の依存と戦火を目論んでいる。スカイの冒険者として、軍人として、それを阻止するために国から依頼を請けて僕らは行動している」


 かなりオブラートに包んだ説明の仕方だ。相手が神だとはっきり告げないことにツカサは余計なことを言わないようにしようと思った。実際にセルクスらと関わっているツカサには神が相手だと言ったほうが早いが、知らぬ者であればただ宗教戦争と思ったほうがまだ理解が追いつくだろう。


「四組のパーティに協力してもらい、行方をくらませているイーグリステリアとその腹心たちを現在は捜索している最中だ。ウォーニンからイーグリスを目指していると想定し、被害のあった村から北上するルートを探すように、皆に今は広がって行動してもらっている。南は僕たち、東はラングたち、北がツェイスたち、西は特別な協力者たち」


 ここでも名を出さない。ここまでくると怪しさがすごいが話の腰を折るのは控えた。


「気づいたことを教えてもらえると嬉しいな。その後に今後の動きを伝えさせてもらうよ」

『あ、じゃあ、はい』


 アルがまず感想を零した。


『俺たち今イーグリスの南東にあるトートレリスにいるけど、警戒してるのか、こっち側はまだなのか、全然見かけないな』

「ふぅむ、昨日遭遇したツェイスたちは今どの辺だろう?」

『我々は鉱山から南下する道を行っています。昨日ご報告したのはヴァシュティの下あたりです。街道で声をかけられました』

「想定通りイーグリスに近いところまで来ているんだね。僕らはやや東に緩やかな曲線を描いて南下したせいで会わなかったのかな。ということはイーグリスへ直進、マナリテル教は明日にでもイーグリスに入れる位置にいるか…」

『兄貴が対策してるだろうからマナリテル教の入門阻止は大丈夫だと思うけど、本命のイーグリステリアはどこにいるんだろうな?』


 疑問は尤もだ。ツカサは答えが出てくるかと軍師を見遣る。ふぅむ、とヴァンは口元を押さえながら呟く。


「マナリテル教の動きが速いということは、教徒たちは先鋒として各地へ先んじているとみていいだろう。そちらに人員を割いて対応するように、力の分散を向こうも考えていると考えていい。もしくは別の目的も…おそらくこっちが本命だろうな。移動速度からして馬や馬車も随分使っているはずだ、追いやすくはある。ツェイス、待機させていた小隊を事前の指示通り動かしてくれるかい。すまないがこちらの捜索は離脱、小隊指揮のほうへ移行してくれ」

『はっ、承知しました』


 移動速度にも慌てないあたり、ヴァンの中ではそれもまた想定通りなのだ。ツカサはごくりと喉が鳴りそうになって水を飲んでごまかした。


「シェイとツカサ、ルーンは魔力の違和感を感じるかい?」

「いや、まだ遠いと思う。ヴァンドラーテやアズリアで感じた気持ち悪さはまだない」

「俺も、特には」

「そうか、ルーンはどうかな? 君たちのパーティは実際にマナリテル教に遭遇しているけれど」

『私もまだ何も』

『私から一つよろしいでしょうか』


 スーの声だ。もちろん、とヴァンの声を待ってから話し始めた。


『マナリテル教とは別で市井に紛れておかしな奴らが動いています。あのにおい、アズリアで嗅いだことがあります。死人臭です』

「あぁ、こちらも想定通り、特殊部隊はマナリテル教の持ち物なんだね」

『動いてよいという許可がいただければと』

「うん、任せる」

『ありがとうございます。私からは以上です』


 ツカサはヴァンドラーテを襲った集団がスカイにいるのだと気づき、ぎゅっと拳を握り締めた。ダヤンカーセの苦渋に満ちた声は忘れられない。

 そうして苛立ちを抑えていれば、すみません、と沈黙を貫いていたパーティが小さな声を上げた。どこかで聞き覚えのある声のような気がした。


『ざっくりとした説明と依頼を請けていますが、なにに気をつければいいでしょうか?』

「マナリテル教は青い炎なるもので人に魔法を与えていると言ったね、その青い炎というのは、人を殺して手に入れるものだと先日判明した。とにかく死なないようにしてほしい。特殊部隊というのは暗殺者の集団だから、危ないと思ったら君たちは逃げるの一手で」

『うわぁ…わかりました』

「ツェイス、小隊を南に弧を描くように配置してくれるかな。スー、斥候部隊の人員を相手二人に対し四、五人で分けてもらっていいかい? 殺すことはできなくても、手負いにするなり追い払うなりができればいい。可能なら南に押さえたいが手は足りるかい?」

『可能です、任せていただけるのでしたら伝手を使います』

「うん、任せた。防衛に関しては君たちを信じて手を放す」


 ヴァンはぱんと手を叩いて話の区切りをつけた。


「予定よりかなり早いが全員合流する。オーリレアで滞在理由もできているから、僕らは明日にはそこに着くので待っているよ。各々、まずはそちらへの移動と合流を目標に動いてほしい」

『わかった』

「移動中、違和感を感じ取るのを忘れないようにね。策も大枠を伝えておこう」


 おっ、とツカサは姿勢を正した。ようやく聞くことが出来る。


「イーグリステリアがどんな人物なのかを伝えきれず申し訳ないが、人を殺し、その命を奪う人智を超えた存在であるということだけは、まずはわかっていてほしい。繰り返すが青い炎は奪われた命やその魔力だと、なんとなく理解してもらえばいい」


 はい、と紙の向こうでいくつか声がした。


「彼らがウォーニンから北上しているのは先ほど話したね。足止めと防衛はツェイスたちに任せることにするが、事前に伝えてある風貌の者たちを可能なら押さえたい。司祭と、剣士、正体不明の青年だ。青年に関しての情報としては、かなり居丈高で人を人と思っていないそうだから、スカイでは目立つと思う。中でも最も注意すべきは司祭、どうやらこれが指揮官のようなのでね、出来れば真っ先に潰したい」


 軍師であるヴァンには相手の指揮官が一番の強敵なのだろう。ツカサはどういう絵図なのかが気になって再びヴァンに視線を置いた。


「さて、では我々がどう動くのか。本来ならもう少し後で合流するつもりだったが、マナリテル教徒の分布範囲から、確証はないが可能性を踏まえて次の指揮とする。主にツェイスたちに関係するのでよく聞いておいてくれ」

『はっ』


 誰からも質問がないことを確認し、ヴァンは言った。


「イーグリステリアはマナリテル教徒を利用し、マナリテル教を、延いては自分を狙う者たちがどこにいるのかを測っているのだと思う。マナリテル教徒を殺せば殺すだけ、捕まえれば捕まえるだけ、相手に僕らの居場所を教えることになると思う。直感と経験だが、そうした魔道具か何かを利用していると考えておいた方がいい気がしてね。なので、それを前提として逆に利用することにする。各パーティ地図を開いてほしい」


 がさ、ごそ、と向こうで音がした。


「僕らの合流地点をオーリレアに前倒しするのは、ここ、オーリレアの南側にもヴァリュート同様に長い街道があるからだ。ここならば大きな魔法を行使されても人を巻き込みにくい。()()()()()は僕がやる」

『そこで叩くわけだな』

「そうだ。オーリレアの先のヴァリュートやポルファティへは自然災害の可能性を理由に王都近郊の仮避難所へ移動を呼びかけてあるから、イーグリステリアには今以上の命は奪わせない。オーリレアに関しても王城へ連絡をして南には人を出さないよう通行止めにしてほしいこと、避難するようにと指示依頼をする。到着次第、僕はまずそちらの対応をする」


 精霊が根付いているスカイでは、自然災害の予知などもあるのだろう。それで民が動くというのなら少しだけほっとした。それに、とツカサはヴァンを見る。ヴァンが難しい顔で仕事をしていたあの時、既にヴァリュートやポルファティの避難を依頼していたのだろう。

 当初の予定通り進んでいたならば、持ち出されている可能性はあるが無人の武器防具屋での買い物になっていた。


「僕もラングも悲鳴を聞いていないこと、シェイやツカサたちの証言から、南でゆっくり人を殺しているだろうイーグリステリアの動きは遅い。その間、既に手中である民は犠牲になってしまうが…、大局的に見て、ある程度の犠牲はつきものだ。僕らは神ではないのでね」


 ぎゅうっと握り締められた拳はツカサたちだけが見ていた。その犠牲はこちらの準備が整うまでの足止めでもあるのだ。この両腕の届くところだけしか守れないことを知っているツカサは、その決断をするヴァンの重荷が想像もつかなかった。

 ふぅ、と小さく深呼吸してヴァンは地図に指を置いた。


「ツェイス、先ほど伝えたとおり南に弧を描いて陣を敷きつつ、まずは東西のマナリテル教徒を狩ってほしい。東西を狩ったら一日置いてからイーグリスへ到着、及び北上するマナリテル教徒を頼む。イーグリステリアから直接伝達が飛ぶ立場の者なら移動速度を落とし、あるいは引き揚げるはずだ。逆に速めたところで、僕らと遭遇するのが早まるだけだ」

『承知しました』

「それに、もし自分の身を守るために主要人物と特殊部隊を本体の下へ引き揚げさせるならもっと狙い通りだ。スーは併せて特殊部隊の動向に注視を、南へ引くようなら深追いはしなくていい。早速で悪いが動いてもらえるかな」

『お任せください、随時報告はいれるようにします』

「頼んだよ」


 失礼します、とツェイスの通信が切れた。残されたのは三組だ。


「さて、ここからは実際に神であるイーグリステリアと戦う僕らだけで会話しよう。最優先すべきは合流することなので、今から伝えることは引き続き大枠だ。構えずに聞いてくれ」


 ツカサは驚いた。ということは、秘密のパーティも神の存在を知っているのだ。いや、そうでもないらしい、向こう側で小さく、えっ、と困惑した音が聞こえた。困惑に口を挟ませずにヴァンは話を続けた。


「まず、イーグリステリアの首を斬れるのはラングだけ、僕らはそのサポートに回ることになる」


 理の加護を持つラングをイーグリステリアの下に辿り着かせる、それが最大の目的ということだ。


「神が使徒にどの程度の力を与えているのかはわからないが、一筋縄ではいかないと考えておいた方がいい。魔導士が相手ならばシェイが、ツカサがメインで対応することになるし、剣士ならば他の人員が対応することになる。一応の方針としてはこうだ」


 ラングはイーグリステリアに集中、魔導士はシェイとツカサで、剣士はアルやクルドなどの物理派が、特殊部隊はアッシュを筆頭に影が対応、ヴァンは精霊の力を借りて指揮に回る。ツカサは一つ心配事があった。


「ヴァンさんの言う精霊に力を借りる、が俺には少しわかりにくいんですけど、魔力で潰されてる精霊にどうやって力を借りるんですか?」

「良い質問だね。僕は生まれた時から加護を持つから、同化という特別な力があるんだ。人の身には負担の大きいやり方だから、進んでやりたくはないんだけど」


 曰く、ヒトと精霊、当人同士の合意が必要だが体の一部を貸すようなものらしい。精霊が潰されて何も見えないところを、精霊にヒトの目を貸し、状況を知るということなのだそうだ。視認できれば無理矢理になるが、理の力を行使することもできるという。

 ある意味で捨て身のスキルだ。


「それから、ツカサ、君のスキルを相手に使うことを恐れないでほしい」

「俺のスキル?」

「【変換】。これは僕らの強い武器になるだろう」


 ぐっと腹に力が入った。今まで言語のために使ってきたものを相手に使う。人に対してはミラリスと自分にだけ使ったそれを、敵に使えという。

 相手の無力化に使うということはわかる。


「聞いた感じだとかなり応用が利くスキルだ。それが状況を覆すこともあると思う。君の武器の一つとしてちゃんと頭に置いておいてほしい」

「わかった」


 間髪入れずに強く答えればヴァンはにこりと笑った。


「そうだ、セルクスも利用させてもらうからね」

時の死神(トゥーンサーガ)様ですか?』

「おや、知っているんだね。話が早いや、ラング、ツカサ、僕と連絡手段をもらっているからね」


 ツカサも持っているビー玉のような宝石が出されて煌めく。秘密のパーティはもしかして、と尋ねようとしたがヴァンの声が続く。


「この会話も聞いてくれているとは思うけど、神は神同士相手に印をつけることが出来る。もし、オーリレアの南側の戦いで逃すことになりそうだったらセルクスを呼んで印をつけてもらわないといけない」

『どういう印なんだ? それに足で逃げるなら追撃できそうだけどな』

「半人半神と戦うのは僕らも初めてだからね、予防線はいくつも用意したい。神ならば即座に別の場所に移動することもできる。また始めから探すのは面倒だろ? だから、セルクスに後を追えるようにしてもらうのさ」

『なんとなくわかった』


 アルのこのわかったはわかっていなさそうだ。ふとツカサは思いついて言った。


「半人半神ってことは、引っかかる制約とそうでない制約、それか、本来の神にできても今のイーグリステリアにはできないことがありそうだね」

「そう、それも僕らの好機。イーグリステリアは時の死神(トゥーンサーガ)の代替わりを知らなかったようだ。ツカサには話したけれど、仕事の肩代わりも知らないだろう。相手に手の内をすべて見せないうちに終わらせたいからオーリレアの南側で決着をつけたい」


 これもまた短期決戦の理由の一つなのだ。

 時間がない、すぐそこに戦いが迫っている。

 ここまでの旅路は長くゆっくりとした時間にすら感じていたが、こんなにも早い戦闘があるだろうか。

 ゲームではないのだ、万全を期して戦えることのほうが実際は少ないのだと知った。


「皆、頼んだよ」


 その一言にどれほどの想いが込められていたのだろう。

 ツカサはラングのわかっている、という言葉をただ聞いていた。




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