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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
終章 異邦の旅人

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4-14:新しいマント

いつもご覧いただきありがとうございます。


 他にも聞きたいことは山ほどあったが、あまり詰め込んでも疲れてしまうよ、と言われ、その夜は休むことにした。定時連絡はやっておく、不寝番も今夜はいい、と背を押されツカサはテントに潜り込んだ。


 翌朝、前夜残った食事とツカサの作った野菜スープで朝食を済ませ、一行は移動を開始した。

 イーグリスを早急に離れる理由や、どの組がどのような調査を行うのかなど知りたいことは多いが、ヴァンの脳裏には多くの絵図が描かれているらしく一言で説明するのは難しいと首を横に振られた。

 説明に時間がかかりそうだから夜まで待ってね、と待機期間を区切られたので大人しく待つことにした。


 旅の方角は南、ルフレンの常歩(なみあし)に合わせて駆けていく。すっかり季節は夏に向けて変わり始めていて、日差しが前よりも強い気がした。

 走る道の横では青い草がさらさらと体を揺らし、木々は新緑から深みある緑色に変わり太陽を受けて胸を張っているように見えた。空の青さにも拍車がかかったようで春の水色ではなく海を思わせた。

 風通りのいいスカイでは小麦の生産も盛んで、風車の周辺では緑と黄色の入り混じった波が揺れていた。土竜の月に入ればすべてが黄金色に変わり小麦の収穫を行うのだという。見てみたいと思った。

 ざぁっと吹き抜ける風が気持ちいい。湿気がないせいか太陽は暑いが風は涼しく、火照る頬を冷やしてくれるのが心地よい。

 ルフレンもご機嫌で走っていてツカサは定期的に全員にヒールをかけた。魔法障壁もツカサが展開しており、シェイは時々指摘をするように魔力を発し、弱いところを教えられた。

 商人も活発に動いていて通り過ぎ様に帽子を上げて挨拶をしてくれる。

 朝から走り通しで昼に差し掛かるころ、ヴァンがゆるりと足を止めた。


「昼食にしよう、食後は一時間程度休んでからまた移動だ。次は街に着くまで止まらないよ。ツカサ、頼めるかな」

「わかった」


 アッシュから渡された目録を確認し、米を炊いて野菜と豚肉で丼を作ることにした。夜まで走りこむなら腹持ちがいい方がいいだろう。ツカサが食べたいものでもあった。

 簡易竈で火を熾し、米を仕掛けて肉と野菜を切る。用意だけしておけば米が炊ける前にざっと炒めるだけだ。炊けるまでの二十分程度手持ち無沙汰になるのでルフレンの世話をしに立ち上がった。

 水と餌を置いて体をブラシで撫でる。ルフレンは毛艶が良いので撫でているこちらも気持ちがいい。


「旅を始めたきっかけがラングだったんだって?」


 アッシュが手伝いにきて声をかけた。ルフレンの鼻面を撫でてご機嫌を取り、視線はツカサに向いている。


「うん、そうだよ。俺はサイダルってところの近くに落ちて、そこで生活をさせてもらってたんだ。それでラングが現れてさ」

「元々言語が通じなくて、君を通訳として雇ったんだっけ」

「そう、ラングから聞いた?」

「少しね、あの人寡黙だから必要最低限」


 水を飲みながらそう答えるヴァンを振り返った。


「君に多大な影響と縛りを与えたんだろうねぇ」

「影響はあるけど、縛りって、第三者からだとそう見えるの?」

「こうなりたい、こう在りたいという憧れは原動力にもなれば自分の進む道を狭めるものでもある。難しいんだよね、憧れと現実と自分がどうしたいのか、そのちょうどいいところを見つけるっていうのは。すべてを手に入れられる道はあるのかな」


 ルフレンの体を撫でる手が止まる。

 ヴァンはじっと考え込んで呟くように言った。


「どれほど願ったところで、その人と同じ人間にはなれない」


 ――― 私をすべてにするな。


 ラングが言いたかったことは、これなのだろうか。

 何度も言ってくれていた言葉の意味を様々な場面で理解していたような気になっていたが、背中を冷たいものが流れる気持ちだった。

 ツカサが背中を追っていたことも、同じ戦闘スタイルに憧れていたことも、ラングはよくわかっていたはずだ。草原で秘伝を伝えても必ず使えとも、遺せとも言わなかった。ただ何かあった時にそれがツカサを生かすかもしれないから伝えたにすぎず、それどころか他に師匠を求めろとすら言われていた。

 ラングはわかっていたのだ、ツカサがラングにはなれないことを。

 冒険者(ギルドラー)になるか冒険者になるかという二者択一で悩んでいたことだって見透かしていたのではないだろうか。

 エレナが言っていたツカサのためにアルを加入させたという言葉がふわりと脳裏に浮かんだ。

 そういえば、アルにもマジェタのダンジョンでどうして学ぼうとしないのか、と言われたことがあった。


「あぁ…」


 思い出し、あまりの羞恥にしゃがみ込んだ。

 あの時は単純にビースト・ハウスの場所を選ぶことを指しているのだと思っていた。冒険者ギルドでの情報収集を叱っているのだと思っていた。いや、その意味合いもあっただろう。

 だが、真意は違うのだ、言葉少ないラングに代わり、アルはツカサなりの応用を見せろと言っていたのだ。

 考えることをやめるなと言われ続けた意味を今わかった気がした。

 ヴァンが敢えて尋ねてきた。


「どうしたの?」

「いろいろ、子供だったなと思って恥ずかしさに悶えてるところ」

「ほうほう、それはいいことだ」


 楽しそうに言うヴァンにアッシュが苦笑を浮かべてツカサの肩を叩き、そろそろ米が炊ける、と言った。

 真っ赤になったり青くなったりして、ツカサはのろのろと簡易竈に向かって肉野菜炒めを作った。

 気づくかどうか、物事を選び取るのはいつでもツカサ自身だというラングの言葉が今になってあまりにも重い。

 とにかく、不味い食事をさせたくはなかったので野菜が焦げる前に火から下ろし器に米をよそい、その上に炒め物を載せた。

 戦女神ミヴィストへの祈りといただきますの声で食べ始め、美味しい、と感想を貰うことができた。

 ばくばくと食事の進むヴァンとアッシュに比べ、シェイは随分とスプーンが進まない。


「俺の好みで味つけてるんだけど、口に合わない?」

「いや、美味い。…米が苦手なんだ」


 ぎょっとした。米が苦手な人がいることに驚いたが、そういう人もいるだろう。シェイは眉間に皺を寄せながらちらりとツカサを見た。


「残しはしねぇよ料理長。ただ、次はもう少し、俺のは米の量を減らしてくれ」

「わかった、けど、無理だったら少し俺の器に移してもいいけど」

「んな礼儀知らずなことするか!」


 怒られてびくりと肩が震える。シェイはばくりと食べ、小さな声で美味いと言った。ヴァンはくすくす笑いながらツカサへ言った。


「スカイの文化はまだ勉強中? スカイでは一度出されたものは完食が相手への礼儀なんだよ。店で共有する大皿料理でもない限り、作った人から直接渡されて一度手に取ったものを誰かの皿へ移すのは、お前の料理は食べるに値しない、という意味になるんだよ。基本的に自分の皿を誰かと共有することはないんだ」

「知らなかった。酒場とか食事処とか、大皿料理ばっかりだったし」

「冒険者はそうだよね。とにかく、最初に必要な量を言わなかったシェイが悪いんだ、気にしなくていいよ」

「うるせぇ、わかってる」


 残されるよりはいいと思っての気遣いだったのだが、正直驚いた。

 いままで入っていた店の種類が冒険者向けだったこともあり大皿でのシェア、エフェールム邸では一人一人に提供されたものを美味しく完食していた。

 気づかなかっただけでマナー違反をしていなかったかどうか心配になった。これからはそういった文化を知っていこうと思った。


「休憩時間、少し長くしないとだね」


 三人の器の中の減りと、シェイの器の中の残量を見てヴァンが仕方なさそうに呟いた。


 予定より一時間長く休憩をとって移動を再開した。

 休憩中、ヴァンは何かしらの魔道具を使って仕事をしていたようで難しい顔をしながら紙を眺めていたが、時間までにはきっちりとそれを終わらせていた。怠惰な姿を見慣れていたので意外だった。


 日が傾きだしたころ、走ることに飽きてツカサは質問をした。


「そういえば、どこに向かってるの?」

「イーグリスから南、僕らはイーグリステリアの背後に回る予定だ。今夜はこの先にある街で休むよ」

「メルシェツ、オーリレア、ヴァリュート、場合によりもっと南下するならポルファティだな」


 エレナの故郷を経由すると聞き、ツカサは少し大きめの声で言った。


「オーリレアで少しだけ時間もらってもいい? 届け物を預かってるんだ」

「届け物? イーグリスで依頼でも受けていたのかい?」

「俺たちのパーティメンバーのエレナの故郷なんだよ。向こうの大陸(スヴェトロニア)で初めて会った時、スカイに行っても知り合いがいないのは困るだろう、ってエレナが手紙と石鹸を持たせてくれていて、まだ届けられてないんだ」


 ふむ、と走りながらヴァンが小さく首を傾げた。後ろからはそう見えただけで、ヴァンは少し考え込んでいるらしい。二十歩ほど走ったところで後ろを見遣って回答が告げられた。


「いいとも、じゃあオーリレアで一泊しよう。本来はヴァリュートで食料やら君の装備を見直す予定だったけど、メルシェツでそれを済ませて時間を作ろう」

「ありがとう! 装備も助かるよ、マントに穴開いてるし」

「うん、ラングから聞いてる。矢で射られたんだってね。もしかしてヤンにやられた?」

「ヤンさんを知っているの?」

「お喋りに余裕だな?」

「おっと、続きは後にしよう」


 シェイからの声にヴァンは慌ててスピードを元に戻した。話しているとつい相手に近づこうとして足が遅くなるものなのだ。

 そういえば【自由の旅行者】で著者は草原に流れ着いていた。そこで友ができたというのはヤンのことなのだろう。そうであれば、ヤンがスカイに伝手があると言ったことにも納得がいく。

 ひとまず会話はそこまでにして、その後はせっせと距離を稼いだ。


 日が沈んでさらに二時間を走っただろうか、遠くに見えていた明かりの場所へ辿り着いた。

 流石に汗をかいて気持ち悪い、時折水は飲んでいたものの、喉もからからだ。立ち止まるとぶわっと熱が放たれて自分から湯気が出ているのではないかと錯覚する。

 メルシェツの街はオレンジのとんがり屋根が可愛い街並みだった。石畳の道も温かみのある橙色、家々の壁も白ではなくやや黄色がかり、全体的に柔らかい印象だ。小石で壁に柄を造ってあるのも愛らしい。二階の窓枠に植物が植えてあるのがまたそれらしい雰囲気だ。そこに街灯の明かりが混ざるとゲームの世界のようだった。

 スカイはどの街もそこ特有の趣がある。それは国の成り立ちも関わっているのかもしれない。旅人が居ついた国ならば、様々な文化が混ざっているはずだ。

 考えてみれば不思議だ、そうした多くの文化と人が混ざった国がスカイ王国として、人々が国民意識を持ち戦女神ミヴィストを奉じている。ヴァンとラダンが戦女神ミヴィストのことを調査したがる気持ちが少しだけわかるような気がした。

 さくりと手続きを済ませて中に入る。入門税はかからなかった。


「最近、入門税払うのが当たり前だったけどここはいらないんだ」

「いやぁ、違う違う、特権ってやつ」


 アッシュがこそりと声をかけ、ヴァンを指さした。

 なるほど、冒険者として入るが軍師としての特権も使ったというところか。


「職権乱用ってやつじゃない? 大丈夫?」

「大声で国の安寧のために活動してます、とは言えないけど、結果国を守るためには繋がるからさ」


 だからいいんじゃね、とアッシュのノリは軽い。

 なるほど、と腕を組んでいればヴァンに呼ばれた。


「ツカサ、宿に求めることはある?」

「お風呂」

「わかりやすくていいね、メルシェツは温泉もあるけど」

「是非」

「ははは! じゃあ湯の付き合いでもしようか」


 裸の付き合いということだろう、見せて困るものはついていないので頷いた。

 結局【真夜中の梟】とも温泉に入れず、ラングとは絶対にできないことでもあり少しだけ楽しみだ。

 ノスタルジックな街並みの中、ヴァンは息を整えながらゆっくりと歩いた。周囲を見渡し、人々の営みに笑顔に目を細め、屋台を覗いて勧められたものを食べ、買う。人とのやり取りを心から楽しむヴァンの横顔に言い知れない感情を覚えた。

 一期一会、今この一瞬を、出会いを目に焼き付けているヴァンの在り方は常に死ぬことを覚悟している人のそれだ。


「大丈夫かい?」


 はい、と差し出されたソーセージの串を受け取り、足が止まる。


「ヴァンさんは死にかけたことがあるの?」


 問われ、きょとんとした後ヴァンは滲むように笑った。


「さぁ、どうだろうね」


 行こう、と促されアッシュに背中を叩かれて再び歩き出した。

 途中、アッシュは先に宿と食事を確保しに行った。ツカサはヴァンとシェイに連れられて武具屋に足を踏み入れた。

 ここでも多くの冒険者が武器防具を手に取り、試着し、庭にある木人に試し切りをしたりと賑やかだ。近くにダンジョンはないらしいが、イーグリスが近いこともあり事前に準備をする冒険者が多いようだった。イーグリスの物価がわからないこと、先日までごたついていたことも理由の一つだ。

 ツカサはシャドウリザードのマントと似たような素材で探すつもりだったが、ヴァンの考えは違うらしい。


「君がドロップ品のマントとか持っていれば話が早いんだけどねぇ。職人が素材から手作りした物もいいけど、やっぱり付加価値のあるドロップ品は便利だからねぇ」

「素材はたくさん持ってるんだけど、マントは前に炎のマントが出たくらいで、あぁ、水っぽいのはあったかな」

「どれだい?」

 

 これ、と水のマントを出せば周囲からちらちら視線を感じた。ヴァンは手に取って撫でて、ツカサに返した。


「これは少し違うかなぁ。うーん、素材の加工は時間が必要になるからねぇ」


 ふぅむ、と唸りながらヴァンは置いてある様々なマントを手に取って勝手にツカサの肩に当てて合わせていく。いまさらだが気になったことを尋ねてみた。


「マントって必ずいるもの? ラングみたいな装備ならわかるけど、俺どうなんだろう」

「最初はどういう理由で手に入れたんだい?」

「冬支度だった、ジェキアで冬越えするのに用意したんだ」

「その後使ってはいない?」

「いや、フェネオリアでは雨を防ぐのに使ったし、草原では寒さ対策に」

「素材は?」

「シャドウリザード。トカゲみたいな魔獣の革を使ってあった。通気性も伸縮性もよくて、重宝したよ」


 もう一度ふぅむ、と腕を組んでヴァンはツカサを眺めた。


「動きを邪魔しないのであれば、いざという時の一枚になるからできればほしいところだ。シェイ、魔導士の観点から意見は?」

「俺の服もそうだが、魔力を保持できるようなもの、もしくは流れのいいものを選ぶべきだろうな。いくら短剣も使えるとはいえ、最大の火力が魔法であるならば、そちらを伸ばすべきだ」

「だそうだよ」

「雨や寒さは魔法障壁を工夫すればそれで事足りる」

「…だそうだよ」


 ヴァンは達観した様子で肩を竦めた。魔法障壁という魔法が様々なものに転用できるのだと知り、それにも驚いた。思えばハミルテでシェイが寒さを防いでくれていた。あれもそういうことだったのだ。

 ツカサは魔力の服以外に魔力を高める装備を身に着けたことがなく、これはこれで初体験だ。


「シェイさん、選ぶコツはありますか?」

「よく見ろ、やり方は教えてる」


 言葉少なではあるが、それは目に魔力を込めろ、ということだ。ツカサは少しだけ深呼吸して目を開いた。魔力を持つ人々の色が見える。それをすり抜けて防具のほうへ向かい、見渡す。

 その中で自分を呼ぶように揺れている魔力を見つけた。手に取れば軽く、さらりとした触り心地。シャドウリザードのそれよりも薄いが触れたところから海に手を入れた時のような心地良い漣を感じた。

 色合いは灰色でとても地味だ。けれど、羽織ってみてこれだと思った。


「これ、落ち着く」

「すまないけどこれを貰えるかな?」


 質問をすることもなくヴァンが店員に声をかける。ツカサは財布を取り出したがヴァンが首を振った。


「パーティとしての投資だ、君はそれをしっかりと活かしなさい」


 穏やかな笑みながら圧の感じる言葉にツカサは一つ頷いた。目の前での支払いを見守り、マントの金具をかちりとはめて裾を広げるようにして馴染ませた。短剣もショートソードも隠れ、長さは膝丈。走る時には邪魔にならないだろう。魔力の服と同調するような感覚がして魔力の巡りがよくなる気がした。

 【鑑定眼】で見たところ、これはアーシャヴァエンという魔獣の素材で作られたものらしい。魔獣手帳を確認し記載がないのを見てから暇そうにしているシェイに尋ねた。


「アーシャヴァエンってどんな魔獣か知ってますか?」

「蛇とドラゴンのちょうど中間の生きものだ。一応分類は蛇だというが、沼地のダンジョンで出てくるらしい」

「沼地のダンジョンって、ドラゴンがいるっていう話は聞きました」

「あぁ、そこだ。魔力を溜め込む性質の魔獣で、加工方法を知る者が扱えばそれみたいに効果が保たれる。この辺までその素材の流通があるのは珍しいんだが、見た目が地味なのが功を奏したな」


 ツカサたちの会話を聞きながら冒険者らしい魔導士がアーシャヴァエン、と呟きながら同じように装備を探し始めた。


「まぁ、もうここにはないだろうがな」


 すぱりと期待を切って捨てたシェイの言葉に苦笑を浮かべた。ヴァンはじゃあ行こうか、と笑って外に出た。

 魔力の服だって心地よかったがアーシャヴァエンのマントはさらに快適な気分だ。指先、爪先まで巡る流れを感じて装備一つで変わる感覚に驚きを禁じ得ない。少しだけふわふわした気持ちで歩いていればシェイから軽く小突かれた。


「お前、それ魔力酔いだぞ」

「え?」

「妙な万能感があるだろ、そういう波を制御、調整しろって言ってんだぞ」


 言われ、自分を見てみればこのところなかった大きな波が現れていた。慌てて地に足をつけるように歩き直し、魔力を整えた。先ほどまであった高揚感は収まり、思わず額を拭ってしまった。焦った、こんなこともあるのだ。


「日頃より巡りがいいと調子がよくなるように感じるからな」

「ありがとうございます」


 何度目かわからない、詳しい人がいることへの有難みを感じてツカサは胸を押さえた。

 向こうからアッシュの声がして顔を上げた。


「おーい、宿ここ! 飯も宿で出してくれるってよ!」

「じゃあ、少しゆっくりしようか」


 頷き、ツカサはこの旅で初めて宿に入った。





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