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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
終章 異邦の旅人

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4-10:休息

いつもご覧いただきありがとうございます。


 何故自分の周りにいる師匠たちは全てにおいて、体で覚えろ、という方針なのか。わかりやすいがゼロか百かは辛い、とツカサは木に寄り掛かってぐったりと午後の木漏れ日を眺めていた。


 セルクスの来訪から七日、状況は一時的に落ち着きを見せていた。情報が届いておらず、まだ動けないことも理由の一つだ。

 シェイとの特訓は約束の期間続き、それが過ぎたあとはクルド、ラダン、アッシュがツカサの手合わせの相手を代わる代わるやりたがった。若者の成長は見ていて楽しい、などと言っていたが、実力の把握が目的なのは明白だった。

 あとで考えてみれば、軍師の策指揮は味方の実力を十分に把握してこそ発揮できるものだ、当然の行動であった。ついでに底上げが出来れば一石二鳥といったところか。


 ツカサが三人に追い回されている間、向こうの方でラングはヴァンと理について勉強、アルは手の空いた人を捕まえ手合わせを行っていた。

 アーシェティアが混ざっていないことを不思議に思っていたら、いつの間にか商人カードを作っていたモニカが街へ仕入れや石鹸を卸しに行く際、必ずエレナとモニカの護衛として同行しているからだった。自分のことに必死で気が回っておらず、これは申し訳なく思った。


 モニカも只事ではない雰囲気だけは感じ取っていたが、詳細は知らない。

 館の外に出るのは危険だろうとわかってはいても、これは手に職をつけるための努力でもあり、街へ行かなければならないことを謝ってきた。むしろなかなか時間が取れないことを逆に詫びて、モニカとの時間をできるだけとるようにした。もちろん、エレナも一緒にだ。

 先日話していた外出は【快晴の蒼】がここを発ってからになる。彼らが休暇として滞在している間、ツカサの鍛錬に誰かが付き合ってくれるため、限られた時間をそちらに使うことになったからだ。

 モニカは私もやれること、やるべきことをするから大丈夫、と強く頷いてくれた。


 シェイとの三日間が終われば教えてもらったことを無駄にしないよう、自己鍛錬の時間も増えた。そうして自分で努力をしていると、たまにシェイの気まぐれで追加指導をもらえることもあった。人は行動を見ているのだなと思った。

 甘えるだけでは与えられず、自らが動き身につけようとするからこそ助けを得られる。時間が有限であること、相手の時間を使わせているからこそ、身の引き締まる思いだ。そう礼を伝えたところかなり驚いた顔をされ、シェイが楽しそうに笑う顔を見せてくれた。


 ヴァンはラングとの勉強時間以外、猫のように昼寝をする姿を晒し、食っちゃ寝の怠惰な休暇も過ごしていた。

 外置きの寝椅子や室内の寝椅子、サンルームの寝椅子など、ありとあらゆる寝椅子の、ソファの寝心地を確かめるように日ごとに、時間ごとに違うところで見かけることができた。

 一応、館の主であるシグレからどこで寝てもいいと許可はもらっているらしい。時々メイドや執事がブランケットを腹にかけている光景も見かけた。

 スカイ王国最高位、軍師ラスのだらしない姿を見られるのはレアなのかもしれないが、何とも言えない気持ちでそれから目を逸らした。逸らした先でラダンが部下には見せないからいいんだ、と苦笑を浮かべていた。

 ヴァンの寝ているところだけそよそよとカーテンが揺れる動きをしていたので、風の精霊が心地よく眠れるようにしていたのだろう。快適なのは便利だ。


 シェイはツカサの鍛錬以外、涼しいところを選んでのんびりと読書と紅茶を楽しませてもらい、エフェールム邸の書庫漁りを楽しんでいるようだった。ツカサから見える窓の向こうにいるのは、見守ってくれているからだろう。

 【快晴の蒼】の他の面々もツカサの鍛錬に付き合う以外はのんびりと体を休めており、時折街へ繰り出してイーグリスを楽しんでいるらしい。クルドがアッシュとともに酒臭い息で戻ってきたときは近寄らないでほしかった。エルドとマーシを思い出す二人だ。


 王太子殿下はというと、ラングとセルクスの会話の翌日、王都へと戻っていった。早急に人相を各地へばらまき、敵の行動を制限するためだ。そういったものは王城からの知らせとして各主要都市に回した方が早いのだとフィルは言った。

 情報を集めるのにヘクターを使っているので、そのうちイーグリスに来るだろうとも言われた。フィルの正体は秘密のままで、と唇に指を添えられたので頷いておいた。

 ヘクターといえば、ツカサが草原から戻ったときにはエフェールム邸から旅立っていたので行方不明扱いだった。どこに行ったのかと思っていたら、どうやらフィルと顔を合わせないように港の方に追いやられていたらしい。

 今回、ヴァンの報告でイーグリステリア一行が入国したというので、そのままそちらへ回したそうだ。

 詳細を知らないヘクターに情報が集められるのかと首を傾げれば、何も知らないからこそ、マナリテル教を調べろ、という大雑把な指示でいいと笑った。理由を問おうとしてやめた、それは自分で考えようと思った。


「なんで大雑把がいいのか、ってことだよな」


 冒頭のツカサに戻る。

 先ほどまでシェイに指示されたクルドが手合わせをしてくれていたが、()()()左足が斬りおとされたかけた。脛から下の感覚が突然消え、体ががくりと傾いて立てなくなった恐怖を思い出して足を撫でる。踏み出した足がずるりとずれた違和感はしばらく忘れられそうにない。

 シェイはすぐさま上手にくっつけて元に戻してくれた。なぜこんな目に遭わなくてはならないのか理解ができないと言いたげにぶすくれていたら、魔法障壁が薄いからだと叱責された。

 クルドとのこの鍛錬が魔法障壁の安定と、ラングとは違う剣筋を学ぶためなのだと気づき、恥ずかしくなった。

 恥じ入るツカサの頭をぐしゃっと混ぜてシェイはいい子だ、と笑った。


 クルドの動きはラングともエルドともマーシとも、アルとも違う。

 剣術だけではなく乱暴な技術が混ざっており、剣を避ければ胸倉を掴まれる、横に逃げれば頭突きが追って来る、ツカサが斬りつければ血を流しながらも前進してくる始末だった。

 元傭兵上がりと聞いてその戦い方にも納得だった。痛みに呻いていれば死に、相手を追い詰めなければ死に、死を克服しなければ死ぬような死線を何度も生き延びてきたという。

 我武者羅に生き残る暴力さ、かと思えば、技術にも優れている人だった。

 意外と手足を斬りおとすというのは難しいのだが、クルドは動き回りながら事もなげにそれを成す。骨に引っかかる感触もなく、すぅっと入って手足が皮一枚残してぶらんとなるのは、一瞬脳がついていかなかった。

 クルドにどうやったのかを尋ねれば、ここを斬ればいいという角度や速さ、力の抜き方がわかるのだという。それもまた、死地で身に着けた感覚なのだろう。


 シェイの指示だから、ごめんな、と言って、落ち込む姿にも頭が混乱した。ほんの数分前、自分の足を斬った男と同じ人物とは到底思えなかった。

 からりとした男らしい笑みと料理が得意というおふくろを思わせるギャップからは決して想像の出来ない戦闘スタイルに、ツカサはこれもまた相手を翻弄する術なのではないかと思った。

 蛇足だが、ツカサはクルドを食堂のおふくろさんのようなイメージ、ラングには孤高の料理人のイメージを持っている。


 ふるりと頭を振る。また脱線していた、今考えたいのはそこではない。情報収集の話だ。


「あれかな、先入観のある、なしなのかも」


 イーグリステリアの消滅による神の転移、魂の移動、そこから派生したマナリテル教と大本のマナリテルであるイーグリステリア本人。こういった経緯を知っていればこそ、調べるのはイーグリステリアや、ラングが対峙した剣士、司祭と思しき男に焦点が当てられがちだ。

 それなりの人数を伴って移動をするならば末端から漏れる情報というものもあるだろう。各地で宗教がらみのトラブルもあるかもしれない。特にスカイは戦女神ミヴィストの信仰があつい国だ。

 そういった小さなことから大きなことまで、大雑把だからこそ拾えるものをすべて集めてくるのだろうか。我ながらなかなか良い推理をしたように思い、うんと頷いた。


「急に頷いてどうした?」

「うわ、びっくりした」


 声をかけられて見上げればアルがいた。


「今日もばっさりやられてたな、ほんと怖いわあいつら。大丈夫か?」

「俺の魔法障壁がまだ甘いから自業自得なんだけど、なんか、変な慣れが身につきそう」

「おいおい、やめてくれよ」


 ほれ、と差し出されたコップにはスポーツドリンクのような飲み物に氷が浮かんでいた。受け取って早速喉を潤す。動いた後のこれが美味しい。


「ありがと、いや、フィルがヘクターに大雑把に依頼したのはなぜかなって思って」

「おー、えらい、ちゃんと考えてたわけだ」


 ぐしゃぐしゃといつものように髪を掻き混ぜられ、やめろよ、とじゃれる。汗をかいて濡れているので半分本気でやめてほしかった。掌から状態が伝わったのかアルは苦笑を浮かべタオルを差し出してくれた。出そうと思っていたので素直に受け取り汗を拭う。

 それからコップを傾けて口の中を湿らせた。魔法氷のおかげでキンキンに冷えているので頬の内側に心地よい。

 ふと周囲を見渡す。騎士団の訓練も終わり自主訓練をする者や雑談を楽しむ者、武器の手入れをする者など様々な動きが目に入る。目的の人物はいない。


「そういえばラングは?」

「ちょっと休むって、結構前に部屋戻ったぞ」

「そっか、ちょっと部屋行ってみようかな。古語の件聞きたいし」

「古語?」


 アルから空のコップを差し出され魔法で水を入れながら神託の時のことを話す。

 この世界の古語がラングの故郷の古語で書き出され、いろいろ予想の幅が広がったことなどを言えば、アルは感嘆した様子で何度か頷いた。


「そうだよなぁ、ラングは俺たちの倍は生きてるわけだから、いろんな経験値が違うよな。それって戦闘だけじゃなくて、知識もか」

「そうなんだよね、見た目っていうか、肌が若いからつい勘違いするんだけどさ。それに聞いてるとラング、ずっと冒険者(ギルドラー)として活動してたはずだから、どのタイミングで勉強したのかもわからないんだよ。だからどうやったのか知りたい。もし本当に学院に行けるなら、俺、冒険者を兼業したいし」

「あぁ、そんなこと言ってたな。勉強ねぇ。とりあえず俺もラングの古語の件は気になる、厨房から軽いもんもらってラングの部屋行くか」

「だね、その前にシャワー浴びなきゃ」

「よーし、そしたら一時間後にラングの部屋の前集合! お先!」

「俺こっから部屋戻るのに十五分はかかるんだけど!?」

「走れ走れ!」


 わはは、と楽しそうに笑う声に釣られてツカサも笑ってしまう。鍛錬代わりに走って部屋に戻っていたら、道中すれ違ったエレナに叱られた。アルのせいだ。


 ――― シャワーを浴び、着替え、ラングの部屋の前でアルと合流した。軽食は厨房へアルが依頼しておいてくれたのでそちらまで届いていた。

 扉をノックすれば入れ、と声がしたので二人で中を覗き込む。

 窓際の柔らかい夕陽を明かりに、ラングはマントを外した状態で本を読んでいた。双剣やナイフはないが、いつも通り腰の後ろには短剣がある。


「どうした」

「ちょっと話そうぜ」

「聞きたいことあって」

「なんだ」


 ぱたりと本を閉じて体を起こし、ラングはソファの方へ来てくれた。カートに載っていた軽食や飲み物をテーブルの上に広げ、果実水を注いでグラスを回す。


「何を読んでたの?」

「書庫から借りたものだ」

「どんな話?」

「憎み合う貴族家の次世代が恋をして、お互いが想い合ってすれ違う、といったところか」

「意外、ラング、恋愛物読むんだ」

「暇つぶしがしたいと言ったらモリーンが数冊持ってきた、その内の一つだ」


 ラングのシールドの向きを追えば、サイドテーブルの上に十冊ほどの本が積みあがっていた。 

 ツカサはラングの専属になっている女性を思い出した。いつも穏やかな笑みを浮かべ冷静沈着に対応してくれる、気配りも上手な人だ。ツカサより少し年下の息子がいるらしく、アルのついでに可愛がってくれていると思う。そのモリーンがいったいどういう思惑で恋愛物をラングに届けたのかは不明だが、面白い試みだ。

 しかし気になるのは内容だ。

 中にはこの世界に渡ってきた【渡り人】がもう一度読みたいものを書いたか、自身が著者を騙る作品もあるのではないだろうか。著者名を読み上げてもらったところ、なんとなく聞いたことのある名前だったので前者だ。

 さすがに名を騙るにはこの場所ではごまかしもきかないだろう、然もありなん。ツカサは胸中で元の著者に敬意を払い、クッキーを齧った。

 アルは自分で紅茶を淹れて飲み、残念そうな顔をした後尋ねた。


「俺元々そんなに本を読まないからわかんないけど、面白い? それ」

「なんとも言えん」


 果実水を飲んでラングが答える。


「今読んだところまでの感想は?」

「男を叩き直したい。冷静でいることは強みになる」

「物語だから、現実の話じゃないから。俺も詳しくないけど、確かその作品、悲恋のジャンルだったんじゃないかな」

「恋愛物をラングにっていうのがだめだったのかもな」


 ツカサとアルは深いため息を吐いた。とはいえ、きちんと感想を言える辺りなんだかんだ真面目に読んだのだなと思った。登場人物に不満を抱く程度には入り込んでいた可能性がある。

 んん、と咳払い、ツカサは果実水を飲んでから本題を尋ねた。


「そういえば、ラングはどうやって古語とか勉強したの?」


 問われたラングは果実水を手に少しだけ首を傾げた。どう話したものか答えあぐねる様子だ。ツカサはアルと顔を見合わせる。すぱりと返ってくると思っていたので困惑した。

 ラングは顎に手を添えて本格的に考え込んだあと、ふと呟いた。


『娯楽』


 ツカサは言葉をもう一度言ってもらい、リガーヴァルの公用語に直した。


「娯楽?」

「あぁ、娯楽」


 なるほど、単語がわからず答えられなかったのだ。確かに娯楽という単語は使ったことがなかったかもしれない。アルは首を傾げた。


「どういうこった」

「この世界ほど娯楽がないのでな、勉強や読むこと、調べることが私の娯楽、楽しみだった」


 ノートが出されラングは話しながら勉強の姿勢だ。ツカサもノートを取り出してリガーヴァルの言語とラングの言語で娯楽、余興、遊びなど思いつく類語を書いていく。こういう時、単語は被っていてもいいと言われている。教えた単語がどれかを読み返したり探すのは時間の無駄なのだ。ラングはそれを待ち、ツカサが差し出すノートから自分の方へ書き写し、発音を聞いて真似をする。


「こうやって覚えてんだ。ツカサが先生なんだな」

「ラング、覚えがいいんだよ」


 ふふん、と自慢すればアルは笑った。ラングはしばらく単語と向き合ったあとノートを閉じた。


「古語でも学ぶつもりか?」

「いや、そうじゃないんだけど。もし学院に入学ができたら、冒険者業と兼業出来るかなって。気が早いかもしれないけど、準備はしてもいいでしょ? ラングは冒険者(ギルドラー)としてずっと活動してたのに、どうやって古語を学んだりしたのか、コツみたいな、教えてもらいたくて」

「どうやってと言われてもな」


 ラングはクッキーを手に取り記憶を掘り起こすようにして首を傾げた。


「先ほども言ったとおり、私にとって勉強というのは娯楽の一つだった。この世界のように暇つぶしでできることが多くはないのでな。幸い、師匠が本を読むことが好きだった関係で、家に書物は多かった」

「イーグリスの本みたいな? それとも向こうの大陸(スヴェトロニア)みたいな?」

「イーグリスほど精巧かと問われれば少し悩ましい。普及は大都市が主だが、印刷技術はある。高価な娯楽で、富裕層であれば小さな図書室を持っているくらいには、本は世の中にあったように思う」

「平民、市民には流行ってない趣味だったわけだな」


 面白そうにアルが相槌を打つ。ラングは空間収納から本を取り出して机に置いた。ツカサは許可を得てそれを手に取った。

 しっかりとした革張りの本、開けば少し硬く、ぱきっと音を立てるのはツカサには不思議な感触だった。紙質は悪くなく、中は手書きではなく同じ書体のようだ。つまりこれがラングの世界で製本されたものなのだ。

 表紙へ戻れば【花の都、ファシェアモェル】というタイトルがある。メルヘンに感じて少し笑みが浮かぶ。


「これはどんな本?」

「それが学者の書いた本の一つだ、ここでいう旅記に近い。学者が調べた軌跡を記していて、そこに古語と解釈も記載されている。読めばある程度それだけで勉強になる」

「面白い形式だな。でも手っ取り早い。こういうのなら俺も勉強できるかも」

「アルはまず、ラングの世界の言語を学ぶところからだね」

「それは言うなよ」


 小突かれて笑い合う。ラングは他にもいくつかの本を取り出し、机に置いた。


「どうやって勉強したかと問われれば、寝る前の暇つぶしであったり、休暇に定めた日に読んで学んだ。私は一度引退していたからな、三年はのんびり書物を楽しんでいた。元々、師匠からは暗殺者だからこそ、様々な知識を持てと言われていたしな」

「暗殺者じゃないんじゃ」

「同じことを言った。だが、無知は視野を狭めると言われれば、それもそうかと思ってな」


 リーマスという人は口がうまい人だったのかもしれない。こう言えばラングならやるだろうというコツをよく掴んでいる人のように感じた。一から技術を仕込んだのだ、性格や癖は一番よく知っているだろう。

 ツカサがそんな感想を抱いている間にラングは話を進めた。


「旅先で貴族から礼に本を貰ったりしてな。おかげで遺跡の探索には大いに役立った」

「この間もね」

「そうだな。お前が勉強をするというのならば、上手くやらなければならないとは思う。この世界ではやろうと思えばできることが多すぎる」

「そうかも」


 生活をするのに十分な金はある。だが、所帯を持って子供ができてとなると、やはり稼ぎは大事になる。現状、冒険者以外の職業に疎いため、別の仕事を調べるにも時間がかかる。それに幅も広い。

 学院や所帯、子供のことを考えるのも早すぎる気がしたが、未来の楽しい想像は胸の中で渦巻く不安と戦ってくれるのだ。


「焦ることはない」


 ツカサがじっとクッキーを眺めて考えて込んでいたら、ラングから声がかかった。


「まだ若い、今は道を悩んでも構わない。一つに決めて進むこともまた覚悟だが、肩の力を抜き、少し道を変えて違う景色を見ることも出来る。今すぐに道を一つに絞ることはないだろう。モニカともよく話すことだ」

「そっか、うん、そうだね、そうかも」


 ありがとう、と言えば、シールドがゆっくりと傾げられた。どういたしまして、だ。それくらい口で言ってくれてもと思うのも、なんだか久しぶりだった。

 アルはツカサから書物を奪い、ぱらぱらとページを進めた。


「俺も覚えようかな、ラングの世界の文字」

「どうしたの急に」

「いや、さぁ」


 アルは言い淀み、へへ、と笑った。


「なんでもない、秘密ってことで」

「なにそれ」


 気楽な男だけのティータイムは少しの秘密を残し、夕陽が沈むころ、解散となった。




話の書き溜めをしますので、3~4日に一度の更新頻度に戻します。会話が続くフェーズなどは前回同様一日一話で出せるようにします。

お待たせしてしまいますが、引き続き旅路にお付き合いください。


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やいいねをいただけると励みになります。

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