4-6:真実を詳らかに
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はっ、と息を飲んだのは誰だったのか。
周りを見渡して音の元を探したが、ツカサは自分の喉が鳴ったことに気づいていなかった。皆の再起動を待たずにヴァンが続けた。
「シグレ殿は前回の対談に不参加、フィルは小箱で聞いていたとはいえ、まずは聞くだけ聞いてほしい。この会話に参加していいのは僕と、シェイ、ラング、アル、そしてツカサだけだ。円滑な会話のために協力してほしい」
全体に釘を刺し、質問を重ねたがる唇を閉じさせ、ヴァンはまるでそこに五人だけしかいないとでもいうような雰囲気を作り出した。王太子であるフィルですら逡巡の末肯定し、ラングは頷いて掌で先を促した。
「続けろ」
「以前ラングが駐屯地でもたらしてくれた魔法の神の話、貰った三か月間でいろいろ調べた。結果の一つがこれ」
とんと改めて紙を指さす。書かれていたのは向こうの大陸のマナリテル教と各国の関連性だ。ネットもないこの世界でどう集めたのかが気になるが、それこそ精霊の力を借りたのだろうか。
簡単に説明すると、と前置きを置いてヴァンは以下のことを話した。
マナリテル教は大小様々な大きさで向こうの大陸の国々に潜り込んでいる。実際、前回会話したとおり魔法の穴を開ける技術があるため、特にダンジョン都市ではその存在を認知されている。ただ、同様に宗教であるので国教を信仰する者からの風当たりは強い。マナリテル教徒の選民思想も過激なところがあるという。
ツカサはマナリテル教が大きな組織だと思っていたが、そう聞くと流行っていないようにも聞こえた。
それを問えば、ヴァンは補足をしてくれた。
「民間の風習の一種として興った宗教を国が認めているわけじゃない。ただ、害がないから民の拠り所の一環として見ないふりをしている、が正しいかな。そういった中でダンジョン攻略に魔法が有利というのがわかってきて、魔法に憧れる若者、かつては虐げられた者たちが居場所として求めて大きくなった。君は魔導士だから特にマナリテル教が近く感じるのかもね。自分が知っていると、それそのものが皆にも知られていると思うものだ」
「確かに」
自分が好きなアニメを友人が知らなかったとき、自分の中で流行っているそれが他者の中で流行っていないと分かったときの感覚に似ていた。補足に礼を言って続きを待った。
ヴァンはポーチから小瓶を取り出して机に並べた。
緑、青、赤、見たことのある色だ。
「ポーション?」
「あぁ、知ってた? 説明の手間が省けるよ」
ツカサは頷き、マブラの薬屋で聞いたことを思い出すために手帳を取り出した。これもまた懐かしいメモだ。
――― 効果は緑から赤に向かって高くなる。原材料はほぼ同じ、緑は三等品、青は二等品、赤が一等品。薬草が育つ過程で色を変えて、それがそのまま色に出る。
ふと気づいた、ツカサ自身回復魔法を扱えたことで実際に使用したことがなくあまり気にしていなかったが、マナリテル教同様、この大陸でポーションを見かけたことがない。ダンジョン都市であるイーグリスですら見たことがないのだ。
声に出して内容を確認するようにヴァンを見れば、にっこりと微笑まれた。
「これ、確かに怪我は治るけれど、麻薬の一種」
「え!?」
アルがガタンとたじろいだ。その視線が素早くラングを見て、ふむ、と相棒は腕を組んだ。
「青いポーションをアルに使った」
「それは! 大丈夫、なのか」
シグレもガタリと立ち上がり、口元を押さえたり固く結んで堪えていた【快晴の蒼】のメンバーの視線に晒され尻すぼみに声が消えていく。
ヴァンは苦笑を浮かべなだめる様に手を揺らした。
「大丈夫、青なら十本と使わなければ問題ないよ。赤は十五くらい、緑は三本くらいみたい。それに、飲んだか、かけたかでも違う。飲んでいなければもっと大丈夫。これ、マナリテル教の資金源みたいでね」
「なるほど、怪我の多い冒険者はそれがなければ不安に耐えきれず、一定の量を一定の額で、良い収入になる。特に駆け出しの冒険者であれば狙い目か」
「そういうの薄利多売、っていうんだっけ。でも、ポーションに使われる薬草は国で栽培を管理されているって聞いたよ」
「そう、そこが問題なんだ」
ヴァンの視線を受けてシェイがばさりと紙を出した。そこには筆跡の違う文字で様々な経緯が書いてあった。これは集めた生の情報なのだ。ツカサたちは紙を手に取り読み上げる。
「元々はマナリテル教の中庭に生えていた花をすり潰し、切り傷につけて使用していたのが始まり」
「そこから加工技術を研究、現在のポーションへ、花の栽培方法はマナリテル教のみ保持? なんだそりゃ」
「多少の権限を取り上げるために国の管理という名目にした、か。結局栽培を一手に引き受けているのがマナリテル教であれば、何も変わらん」
「国の試験を受けて免状をもらうって聞いた気がする、けど、この感じだとその試験もマナリテル教が関わってるよね?」
「だろうな」
ラングが放った紙はぱさりと机に落ち、その上に一輪の花が置かれた。中心は血のような赤、外側に向かうにつれて濃い紫へ変わり、ほんのりと淵が輝いているように見えた。ラングが強く拳を握った。
「なるほど、アズリアが温床か」
「どういうこと?」
「情報源はダヤンカーセだな」
「そのとおり。ツカサ、説明してあげるからそんな顔しないで」
どんな顔をしていたのかは聞かなかった。
この花、アズリアでは暗殺や傀儡に使われており、要は毒花なのだという。特殊な技法で毒を抜くことで美しい染色剤にもなることから、今ではアズリアの染色産業になくてはならない花らしい。
これをダヤンカーセは長年追っており、つい最近強引な方法で数本を手中に収めた。これはそのうちの一本だ。
そして、この花からポーションも作られる。
切り花というものにツカサは詳しくないが、随分と瑞々しい花だと思った。
「実際には茎と葉が緑、花びらの外側が青、中心の部分が赤のポーションになる」
「毒の応用だな。中毒性は敢えて抜かないか」
「そうみたいだ。そして、じゃあ、これをどう栽培しているのか、って話。ここで君がくれた情報が突破口の一つになった」
アルは素直に話を聞く姿勢だが、ツカサは経緯を知りたくてラングを見た。
小さく息を吐いてラングは言った。
「軍の駐屯地で【渡り人】を尋問し、何故帰れないのかと尋ねた。奴らは向こうの大陸から渡ってきた一人の男から、魔法の神曰く、故郷に帰ることは出来ない、と伝えられたらしい」
「それで、あいつら頑なに、ってか」
アルが頭の後ろで腕を組んでソファに深く寄りかかった。ツカサの手前その後に言葉は続けなかったが、内心では文句を言っているだろう。【渡り人】に突き付けられた真実という理由があったとしても、アルにはアルで故郷を脅かされたという理由がある。
ツカサもぐっと堪えた。戻れない、帰る場所がないと言われ動揺したこともある。それでも前を向けば、覚悟を決めれば生きることは出来るのだ。
小さく頭を振って今に戻った。
「神が関わっている、それも魔法の神が、というわけで、僕たちは情報を提供した」
「誰に?」
「時の死神セルクスにね。介入出来るだけの事由がないと二の足を踏んでいたそうで、ラングに感謝していたよ。彼は消えた魂の行方を追っていたから」
「それでわかったことは?」
「その花、一応名称として万能の花とマナリテル教が呼んでいるらしいそれ、肥料が人の命だということがわかった。その命が怪我を治すみたいだ。こうして花も枯れない」
おえ、と隣で音がして、アルが食べたものを吐いた。びちゃりと毛足の長い絨毯に変色したサンドイッチのかけらや紅茶が胃酸と共に滴り、吐いたことにアル自身が一番驚いて目を見開いていた。
嫌悪よりも驚きと心配が先に立ち、ツカサは慌ててカートからナフキンを引っ張り出してアルに差し出した。
受け取れるだけの余裕がないらしく、ラングがそれを奪い取って再びえずくアルの手に押し付けた。
「いい、吐け」
言われれば止まらなかった。アルは再度襲って来た波にどうにかふらりと立ち上がり、ソファから離れトイレに向かおうとした。驚きのあまり動けないでいるエレナの足に蹴躓き、絨毯にみっともなく倒れた。受け取ったナフキンも意味を成さず、もう一度体の振動に併せてびちゃりと音がした。
小さく舌打ちをしてラングがアルに近寄り、口に葉っぱを突っ込む。ハーブの一種、恐らく気付けか何かだろうとツカサは思った。アルはそれを反射で咀嚼して、ぐぷっとなった胸を押さえて堪えた。ラングに引き起こされ憔悴した顔で絨毯の吐瀉物をぼんやり眺めていた。
相棒の肩を叩いて意識を取り戻させながらラングは真摯に言った。
「すまん」
「いい、知らなかったのは、知ってる。あの薬を使ったのも、俺が工夫できなかった、からだし。カイラス、悪い、部屋汚した」
「お気になさらないでください、ただ、お部屋は移したほうがよろしいかと」
シグレへの進言、あぁ、と応えて席を立つ。
「もう少し広い部屋に移動しよう」
人数に対しこの部屋が手狭だから移動しようと、言葉使いに配慮を見せたシグレをツカサはすごいと思った。
「大丈夫?」
「大丈夫」
移動した先で一人掛けソファに座り、ひじ掛けにぐったりと体を溶けさせてアルが答えた。水にハーブを入れたものを少しだけ飲んでようやく落ち着きを見せ、話続けて、と呟いた。
こほん、と一つ咳払い。ヴァンは気を取り直して話を戻した。
「ラングが前に言っていた、マナリテルが人の命を食べているんじゃないかって、話。あれは正しかった。そして青い炎があったと言っていたね」
「あぁ」
「その全てがこの世界の人々の魔力だった」
「赤が【渡り人】、青がこの世界の」
「そう、ツカサはシェイから習っていたね。マナリテルが魔法の穴を開けるのに使っていたようで、各支部に一定量が回されていて、お心に応じて使われていた。おっと、君まで吐かないでくれよ。話が続けられなくなるからね」
釘を刺されたが一応吐き気はないと伝えた。
【渡り人】は魔力の素養はあるが転移や転生で花開かなかった場合、スイッチを入れるようにして起こす電気療法のようなものが魔法の穴。そのために必要なのが【色の違う魔力】だった、というのが真相らしい。
サイダルで魔力を通してくれた魔導士、魔力を通すということに抵抗がなかったのは【渡り人】の血筋で本人が魔法の穴を開けたからだったのかもしれない。そして、同じ色、もしくは赤に近い魔力を通されたからツカサは体が拒絶反応したのだ。
あぁ、真実が少しずつ詳らかにされていく。ぎゅうっと目を瞑り拳を握る。怖いとも聞きたくないとも思う。けれど、それを上回る好奇心と知的探求心が目を開かせた。
「マナリテルが【渡り人】の命、魔力を好んでいるというのは当たっていた訳だな。花を育てる肥料というのも、この世界の魔導士の命を流用したのではないか?」
「うん、どうやらそうらしい。セルクスは花に命の片鱗を見つけ、そこからマナリテル本体に辿り着いた」
「辿り着いたの!?」
「けれど、逃げられた」
「神なのに?」
「神だから、だ」
シェイがここに来てようやく口を開いた。
「話してただろ、神は決まりごとの中にいる。神が神を殺すことは出来ねぇって」
「ということは、マナリテルは本当に神ってこと? 神託だと力を奪うって、使うって消費されることだと思ってた」
「いろいろ思い出してほしいな。【魔力を重ね、我が力とする】んだ。【命を食らって力を得よう】としたんだ」
「つまり、どういう訳かこの世界に渡ったマナリテル、いや、イーグリステリアと呼称しよう、そいつは人を食らって奪われた、使われた力を取り戻し、神に戻りつつあるということか」
「そうだ、とセルクスが言っていた」
「あいつはここに来ないのか、本人が話したほうが齟齬がないと思うが」
「来られないんだよ」
ヴァンが言い難そうに深呼吸をした。それでも言葉が出ず、シェイが代わりに引き受けた。
「イーグリステリアの首を刈ろうとした際、制約を受けたらしい。セルクスは今、怪我を負って療養している。真っ先に首を狙ったのが不味かった、致命傷だからな」
「それは誰からの情報だ」
「ぼろぼろの姿で本人が僕らの前に現れたんだよ。今伝えた情報を届けるためにね。その後意識を失って、眷属が回収に来た」
「その状態で仕事は回るのか? 忙しいと言い張っていたのを覚えている」
「仮で神仲間に仕事を頼んだみたい、事情を話しに来た奥さんが、そう、妻子がいるんだよ、セルクス。愛妻家でね」
「話を逸らすな。つまりイーグリステリアの消息は神側からは追えなくなったということだな」
「そういうことになる。ただ、つい最近マナリテル教の関係者だろうと推察される者たちが、ウォーニンからスカイへ入ったと報告があった。君が話し、僕らがダヤンカーセから聞いた風貌と合致しているから、イーグリステリアで間違いないと思う。目的については鋭意調査中だ」
ふむ、と腕を組んで暫く、ラングは唐突に立ち上がった。驚いてそちらを見遣ればさっさと扉に向かって歩いていく。
「待って! シェイ、止めて!」
ヴァンが慌てて立ち上がり、シェイが扉に障壁を張る。突然の事態に混乱していればラングは迷いなく剣を抜いた。
「これ以上は話を聞く必要がない」
「ここまで聞いたんだから最後まで巻き込まれろ」
「断る、殺してでも押し通る」
「そうしたら君は故郷に戻るための最高の伝手を失うことになるぞ」
「どうにか探す、時間はかかっても構わん」
「こんなこと僕が言いたくないけど、この世界の神が君に印をつけてる!」
ラングが盛大に舌打ちをした。日ごろ感情を露わにしないラングが剣を振って構える姿に言葉が出ない。皆が皆ラングとヴァンとシェイを順番に見て状況を把握しようと努めていた。
「お前が神狩りをすればいい。一度経験しているならば、それでいいだろう」
「出来ないんだ。一度やっているからこそ、もう僕の手は届かない」
何かしらのペナルティか、もしくは本当に文字通り手が届かないのかもしれない。
ツカサはラングに課せられようとしていることに気づいてゆるりと立ち上がった。そしてラングが今部屋を出ようとしているのは、師匠の教えがあるからだ。
ジュマの迷宮崩壊、逃げの一手を即断即決したラングの行動の速さを思い出した。
ヴァンはぎゅうっと拳を握り締め、大きく息を吸ってから掠れるような声で言う。
「全く無関係の【渡り人】である君に迷惑はかけたくはない、けど」
「断る」
「最後まで聞いてよ!」
「巻き込まれるのは御免だ、情報を提供しただけでも釣りが来る。冒険者に話を聞いて欲しければ納得のいく報酬を提示することだ。伝手などと曖昧なものは要らん。私が欲しいのは実現される、必ず果たされる約束、報酬だ」
「リシト」
聞き覚えのある名前にツカサはそろりとラングを見た。微動だにしないのは流石だが、ラングの代わりにツカサがその後に続く言葉に身構える。
ゆっくりとラングは双剣をヴァンへ向けた。
ぶわっと部屋中を満たす威圧、エレナの呻きにアーシェティアがその体を支える。ラングはそうした仲間の様子にも頓着はせず、感情のない声を響かせた。
「言葉には気を付けることだ。当てずっぽうで死にたくはあるまい」
「さっき言っただろ、セルクスは仕事を神仲間、友に預けた。その神というのは、刻の神と呼ばれる神だ」
「その神は知らん」
「その人の心臓が脈打つたびに、今僕らがこうして生きている時間が、動く」
「いまいち想像がつかん」
「その人が管轄する世界を手放せば、動かなくなるんだ。何一つね」
「私の故郷を人質にでもしているつもりか」
「違う! あぁ、もう、本当ならこの話は僕からじゃなくてセルクスがするんだったのに! 僕は君たちと争いたくはないんだよ!」
ヴァンはぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜて苦悩を滲ませた顔でラングを見た。
「今朝、セルクスから微かな声が届いた。リシトという人を助ける機会、それが、報酬でどうか、って、聞いてほしいと」
ふっと威圧が消えてフィルはがくりと体を倒し、グレンが支えたのを視界の端に映しながらツカサも息を吸った。ラングはシールドの中で眉を顰めただろう、僅かに首を傾げて詳細を促したように見えた。
ヴァンにはそれが通じなかったのか膠着状態が続き、ツカサが代わりに言葉に直した。
「あの、どういうこと? リシトさんを助ける機会って、なに?」
「さっきも言ったとおり、僕たちが時間と呼んでいるものにも神が携わってる。全容は僕だって知らないけど、実際にその人が手放した時、確かに何もかもが止まったんだ。それにセルクスもその人も、嘘を吐くような神じゃない」
「時間についてはわかってないけど、そういうものなんだなって思うことにする。ラノベとかでも時間停止スキルを見たことがあるし、漫画だって、修行するのに時間が外ではゆっくりとか。それはいいとして、まぁ実際に神様を見てるわけだし。そうじゃなくて、助ける機会って、どういうこと?」
「詳細は知らないけど、このままだとリシトって人と、一緒にいる人たちが死ぬらしい。ほら、セルクスは魂を運ぶからある程度の死期がわかるんだよ。それで、なんか、なんだっけ?」
ヴァンはシェイに助けを求めた。
「刻の神がセルクスの仕事を一部担うことから手が回らなくなる、だから刻の神は一度、ラングの世界そのものの管轄を辞める。そうすればリシトって奴が死ぬ前で世界は止まったままだ。今回、厄介ごとに巻き込むにあたり、セルクスは全ての理の神と命の女神に直談判した。その結果、ラングが世界の運命に介入する権利、その許可を得た、だそうだ」
「えっと、要は、ラングが助けに行けるように元の世界に戻すってこと? 時間とか場所をちゃんと選んで、間に合うように」
「あぁ、そう言えば早かったな」
シェイはツカサの要約に頷き、ラングを窺った。
「あんたにとってリシトが誰かは知らないが、神が引き合いに出すんだ、浅い関係ではないんだろ? だとしたら死地を救えるのは悪くない報酬だと思う」
「代わりに私が死ぬだろうがな」
「させないよ! 僕たちだって協力するさ、ここは僕らの世界なんだ。神に手は届かなくても、露払いは出来る。こうして情報を集めることも調べることも僕らは君たちより上手く出来る。だから協力してくれないか」
「それがリシトの運命だというのならば」
スゥ、と双剣を鞘に納めながらラングはいつもより大きな声を出した。
「あいつがその運命に抗えないのならば、それまでの男だということだ」
ラングの淡々とした声は本人の感情を悟らせない。諦念とも取れる発言、悟りを見せる横顔、誰もが沈黙を守った。
「障壁を解け」
「…あぁ」
すいと手を振ればぱちんと泡が弾けるような音がした。ラングは防音の宝珠を切るといつもと変わらぬ様子で扉を開き、そして出ていった。
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