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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第三章 オルト・リヴィア

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3-57:二人並んで

いつもご覧いただきありがとうございます。



 駐屯地へ行くと言ったラングは十日経っても帰ってこなかった。



 あまりにも戻らないので軍と何かあったのかと思い、アルには止められたが駐屯地へ向かった。

 結論から言うととても迷惑をかけた。ただでさえ今ここには渡り人の街(ブリガーディ)の人々を収めていたり、後始末に奔走している最中だ。そこに右も左もわからない男が来れば疑われるのは当然だった。

 ヴァシュティで顔を見たツェイスが気づいてくれて身元を引き受けてくれてよかった。それより、本当に身元引受けなどあるのかと変な感動を覚えてしまった。


「まったく、何やっているんだ。ここは今厳戒態勢なんだぞ」

「悪い、仲間が戻らなくて」

「あの人まだ戻ってなかったのか。というか、【異邦の旅人】っていうからびっくりしたぞ。詳しくは聞けなかったけど、軍師殿の客人だっていうしさ」

「悪い、兄さん態度悪くなかった?」

「軍師殿が気にしておられなかったから、俺は気にしてない。なんていうか、実力者の風格を見せられた気がするよ」

「でしょ」

「何機嫌よくなってんだよ、俺はあんたを叱ってんだぞ」


 駐屯地を歩きながらの会話に数人が声を掛けようとして敬礼だけに留める。ツェイスはすまん、あとでな、とそれに声を掛け、こっち、とツカサを連れて一つの天幕に入る。


「あぁ、やはり君でしたね」


 中でお茶を淹れながら言ったのはスー、その隣には人見知りをするように視線を泳がせるローブの青年と、どっしりと椅子に座り背筋を伸ばしている青年がいた。

 中に入るように促されてツカサは足を踏み出し、ツェイスが外に声を掛けて入り口を閉じた。


「しばらく誰も近づけるな。伝令があった時だけ来い」

「はっ!」


 指示を出せるだけの地位にいるのだとわかり、ツカサはマントの中で少し身を正した。

 どうぞ、とスーが椅子を指し、ツカサは礼を言いながら座った。


「無茶なことをするのはリーダー譲りですかね?」

「ラングのこと?」


 糸目がにこりと笑みを浮かべ、お茶を差し出された。独特の香りがするミルクティーだ。飲んでみれば何やら不思議な味がした。


「しょっぱい?」

「無理しなくていいぞ、山羊の乳だ」

「美味しいですよ!」

「一応万人向けを出せっていつも言ってるだろ! ルーン、淹れなおし…だめだ、お前も下手くそだもんな、俺がやる」

「ど、努力はしてます!」


 若者たちがお茶一つでわぁわぁ言いながらやっているのがおかしくて、ツカサは笑ってしまった。

 ツェイスはぶつくさ言いながら慣れた手つきで紅茶を淹れて出し直してくれた。これはよく飲み慣れた味でホッとした。


「それで、お前はどうしてここに?」


 むっすりとした顔で腕を組んだままの青年が言い、ツカサは咳払いをした。


「駐屯地に行くって言った仲間が戻らないから探しに来た。【異邦の旅人】の、黒い仮面着けてる人」

「あの御仁、捕まるような玉でもないってわかるだろ?」

「そりゃ捕まったりはしないだろうけど、心配にはなるんだよ」

「わか、わかります。大丈夫とは思っても、心配はしちゃいますよね」


 弱々しい笑みを浮かべ、ローブ姿の先程ルーンと呼ばれた青年が笑う。


「とはいっても、あの御仁、どこ行ったか知らないぞ」

「え、ここに居るんじゃないの」

「いや、いない」


 腕を組んだままの青年が首を振る。

 困った、ここで何かしらしていて戻ってこないのではと考えていたので、ここまではっきり言われると困る。

 とりあえず気になったことを聞いてみることにした。


「ツェイスとスーは軍人だったんだな」

「あぁ、あの時は防衛組にいたんだ。改めて名乗っとくか。歩兵隊副隊長ツェイスだ」

「副隊長!?」

「見えませんよね」

「茶化すな、スー!」


 ツェイスが顔を真っ赤にして怒ってみせてもスーはどこ吹く風で穏やかな笑みを崩さない。袖の長いローブで口元を隠してくすくす笑った青年は、睨まれて腕を組む青年の後ろに逃げ込んだ。


「スーは工作部隊の副隊長、そこの隠れてるのが魔導士隊副隊長のルーン、それで、不愛想なのが騎馬隊副隊長のフォクレットだ」

「全員お偉いさんってことか、場違いだな俺」


 副隊長の面子に囲まれてるとわかり流石に居心地が悪い。ぽりっと頬を掻いてツェイスが咳払いをする。


「まぁ、それは置いといて、あの人あんたの兄さんだったとはな」

「お兄さん? じゃ、じゃあ、似ているんでしょうか」

「話を脱線させるな」


 フォクレットがため息を吐きながら立ち上がった。


「兄上が居ないのであれば早急にここから立ち去ってもらうべきだ」

「それもそうですね、我々も忙しいわけですし」

「う、本当、悪い。心配で」

「何をしている」

「うわっ」


 入口にいつの間にかラングが居て、副隊長たちが後ずさった。ツカサはガタリと立ち上がった。

 

「ラング! どこ行ってたんだよ!」

「所用だ、それよりここで何をしている。来るなと言ったはずだが」


 うっ、と言葉に詰まった。腕を組んで向けられたシールドが言いつけを守らなかったことを責めていた。これは分が悪い気もしたが、何も言わずに何日もいなくなったのも悪い。


「ラングが心配かけるから」

「人のせいにするな、堪え性のない。帰るぞ」

「ははは! 兄貴が正しい」


 ツェイスに笑われ、ツカサは全員から視線を逸らした。呆れた息がラングの方から聞こえ、そちらも見られない。


「世話をかけたな、軍師殿によろしく伝えてくれ」

「承知しました」

「私が外までご案内しましょう。まだ()()()ので」

「そうだな、頼む」


 スーが礼を取って先に天幕を出た。ラングが出る際には全員が軍の敬礼を取って見送った。

 先頭をスーが丁寧にこちらへと指し示して歩くことで関係者だとわかり、周囲は慌ただしく動いているものの気に留める者はいない。

 ツカサは文句を言いたい気持ちと、安堵の気持ちで複雑な心境だった。心配を他所にラングは無事でここに来た。けれど、どこに行っていたのだろう。 

 きっと尋ねても教えてはくれないだろうが、踏み込みたくなるのはそれだけツカサにとって近い存在だからだ。


 駐屯地のはずれまで来て、スーはピシリと礼を取った。


「では、こちらで失礼します」

「あぁ、感謝する」

「ツカサ、お兄さんの言うことはきくものですよ」

「わかったよ、スー」


 にこ、と微笑んでスーは背を向けて戻っていった。ツカサは暫くそれを見ていたが、振り返ればラングは既に随分と離れていて慌てて駆け寄り隣に並んだ。

 イーグリスの東門は駐屯地から徒歩十五分程度。ラングの歩く速度はそれなりに速いのでツカサも合わせる。


「十日も戻らないで何してたんだよ」

「知る必要はない」

「教えてくれないから知りたがるんだ。もう、子供じゃないし、いろいろ受け止めるよ」


 強がりも込めて言えばラングの足が緩んだ。さぁっと吹き抜けた風はラングの匂いを乗せたりはしない。


「軍が全てを片づけるまである程度時間がかかるだろう」

「そう、だろうね」

「二人で少し、旅に出ないか」


 思わず足を止め一瞬間を置いた後、ツカサは自分でもわかるほど顔がぱぁっと笑ってしまった。二人だけで旅なんてエレナが合流する前だけだった。ラングからの誘いはとても魅力的だ。

 けれど、今だからわかる。その誘いには他の思惑もあるだろう。

 それでも悩むことはない。


「いいね、どこ行こうか。俺たちが旅に行っている間、エレナたちはエフェールム邸に居られるかな」

「大丈夫だろう。伝達竜があれば連絡が取れることもわかった」

「どこ行こうか。俺、イーグリスに来るのに必死で全然見てこなかったから」


 ゆるりとどちらからともなく再び歩き始め、旅の予定を話し始める。


こっちの大陸(オルト・リヴィア)も見どころが多いってアルに聞いてさ。例えば北のアクスフェルドは平地から山岳地帯になっているみたいで、その向こうには雪国があるんだって」

「雪はもう良い」

「じゃあ東のレテンダ? 南のウォーニン? レテンダは剣闘士の国でいろんな大会があるんだって。アルもいくつか参加して良い経験が積めたって聞いたよ」

「お前の腕試しにはいいかもしれんな」

「ラングは?」

「暗殺者の技術を披露してどうする」


 眼を瞬かせた。聞きたかったことだが、本人からこうもあっさりと言われるとは思わなかった。


「やっぱりそういう技術なんだ」

「気づいていたのか」

「いや、向こうの大陸(スヴェトロニア)で暗殺者にどこの回し者だ、って言われたことがあって」

「そうか。怖気づいたか?」

 

 問われ、ううん、と首振った。


「ラングに教わったことが、俺を生かしてくれたから」


 少しの時間を置いて、ラングからそうか、と返答があった。


「まずは戻り、仲間の許可を得るとするか」

「うん、そうだね」


 ツカサは笑って頷いた。






 ――― 仲間からは二つ返事で許可が下りた。




 アルからはいいじゃん行ってこいよ、とあっけらかんと言われ、エレナからはラングを頼むわよ、と手を握られ、モニカからは石鹸をもらった。

 船では貰えなかったものが、ツカサがいろいろやっている内についに納得のいく物が出来上がったらしい。エレナは十分に私財があるからと一式を譲り受け、これからはモニカが石鹸屋をするのだそうだ。イーグリスの石鹸の質もまた、モニカの勉強に繋がっている。

 アーシェティアは少し無言だったがモニカの横に立って頷いてみせた。こちらの護衛に残るということだろう。

 旅の方角は南東、イファ草原を目指すことに決まった。

 食料も水も確保できるようになったこともあり、ラングの中でもう一度行きたい何かがあるらしい。


「世界は違うが、見せられるものはきっと似ているはずだ」


 そう言ってラングはどうだ、とツカサに尋ねた。ツカサにとっても草原の国は初見だ、見るならラングとが良い、と了承を返した。


 出発は十五日後。それまではゆっくり見られなかったイーグリスの街を散策し、入れるダンジョンで食材を集めた。

 赤壁のダンジョンでは肉を、緑壁のダンジョンでは野菜を、青壁のダンジョンでは魚を。この食材集めにはアルとアーシェティアも協力をしてくれたので手分けすることができた。米や小麦はきちんと購入した。

 

 旅の期間は往復で三ヶ月を目途にし、軍の駐屯地へ伝えればそのくらいあればこちらも対応が終わる、と回答を得た。

 再集合は水竜の月から土竜の月、六月から七月頃となった。明確な日付を指定しなかったのは旅程の遅れがあった場合を考慮してだ。

 ラスからは駐屯地を引き上げていたとしても、帰路で伝達竜を飛ばしてくれれば合わせる、と言われている。


 様々な支度をしていれば旅立ちの朝はあっという間に訪れる。

 石鹸を受け取り、餞別だと渡された食材や布やアイテム、ラングを診た医師が薬剤のセットをくれたりと有難い。


「ここからイファまでは大体一か月、まぁ二人なら足も速いしそれより短い時間で着くだろ。ゆっくり見てこいよ」

「スカイ王国内でしか効果はないだろうが、これは紹介状と身分証にしてくれ」

「ありがとうございます」


 アルから諸々を受け取り、シグレが書状を差し出してくれたので礼を言う。


「無茶はしないで頂戴ね」

「気を付けてね」

「うん、二人も体に気を付けて。三カ月後に戻るよ」


 エレナとモニカに抱き締められてぎゅっと力を入れて抱き返す。


「二人は守る」

「よろしく、アーシェティア」


 胸をどんと叩くその姿に安心して任せられる。ダンジョンで敵を砕いた実力もそれを後押しもしてくれた。


「そろそろ行くぞ」


 ラングはあっさりしたものでツカサの一時の別れの挨拶をただ待っていただけだった。けれど、誰もラングを責めない。ツカサにしたように送り出さない。

 それだけラングへの信頼があるのだと何故かわかる。ラング自身、また戻ってくることを決めているから一時でも別れを告げないのだ。


「それじゃ、行ってきます!」


 ツカサは笑顔で手を振り、ラングと共にエフェールム邸を旅立った。 




コメントありがとうございます、拝見しております。ネタバレをしてしまいそうになるので現在お返事は控えておりますが励みになっております。

誤字報告もありがとうございます、筆がのっている勢いで書いているのがバレるようで少々お恥ずかしい部分もありました。

適宜修正させていただいておりますので、お気づきの際はまたよろしくお願いします。


いいねや★★★★★を頂けることは、皆さまが想像している以上に私には嬉しいことで、モチベーションを上げていただいています。

旅路に付き合ってくださる方々がいることに、改めて感謝を込めて。


引き続き、面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やいいねをいただけると励みになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] むちゃむちゃ面白いです。 人物の描き分けと造形がしっかりしていて素晴らしいです。 [気になる点] 神とは何ぞや? [一言] 物語が何処へ行きつくのか 終わりまで読みたいです。 応援して…
[気になる点] ルビがあるとやたら字が小さくなっちゃいますね スマホで読んでるからかしら
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