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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第三章 オルト・リヴィア

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3-53:結びつく答え



 驚きの表情でヴァンはツカサを見ていた。



「君、古語が読めるのかい?」

「あ、いや、俺【変換】っていうスキルがあって、それで言語を読めるものに変換して読めるんです」


 ツカサは慌てて説明したが、言って良かったものかどうか少し不安になりラングを見た。こちらに視線はなかったので大丈夫なのだろう。


「考古学者なら神に強請りたい(喉から手が出る)くらい欲しいスキルだね」

「違いない」


 ヴァンとラダンで苦笑を浮かべ、手記をとんと指差した。


「今ツカサの言ったとおりのことが書いてある。ここだけが古語で、誰にも読めないように、ただ、独り言のような感じで書いてある」

「ヴァンは言語が好きなんだよ、ラダンと一緒になって遺跡を巡ったり古書を漁ったり、俺にはわかんないや」

「そこに様々な物語があるのが好きなんだよ。詩も意味を伴ってこそ、というのがあるしね」


 ラダンが民俗学者ならば、ヴァンが考古学者と言ったところか。それぞれに得意があって補い合っているのが想像できるパーティだ。

 ツカサは一つ唸ってからそろりと手を挙げた。


「発言してもいいですか、その、思いついたことをだけど」

「もちろん」


 どうぞ、と掌で促されてツカサはもごもごしながら思ったことを零した。


「この世界に来てから二百年って区切りをよく耳にしてて、ちょっと気になってる。【渡り人】が渡ってき始めたのもそのくらいで、マナリテル教も二百年」

「エルキスが大火事になったのも近い年代だった」

「らしいね、それに向こうの大陸(スヴェトロニア)の冒険者ギルドでいろいろ確立させた人っていうのも、二百年前だったはず」

「あぁ、冒険の女神(オルバス)を提唱したりパーティ人数を規定した人だね。冒険者は拠り所を失うと酒に溺れ易いから、寄り掛かる先を作ったというのは素晴らしい功績だよ」

こっちの大陸(オルト・リヴィア)でもあるんですか?」

「もちろん、元々はこっちの大陸(オルト・リヴィア)の人だったそうだよ。スカイ国民ならば戦女神ミヴィストがあるけれど、【渡り人】は各々信仰がある。その中で、新しい場所で拠り所を失った人のために創り上げられたのが冒険の女神(オルバス)なのさ。場所によっては冒険者ギルドの中に小さな聖堂があったりするよ」


 つまり、元々冒険の女神(オルバス)は【渡り人】のための信仰なのだ。

 少しずつ、ツカサの中で言葉が形に成り始めた。


「もしかして、向こうの大陸(スヴェトロニア)にあるマナリテル教は、【渡り人】を保護するためのものの一つだったのかな」


 考え込みながら言葉をぽつぽつと落とすツカサの声を、皆が聞き洩らさないように注目していた。


「ロナとかキースとか、二人は【渡り人】ではないみたいだし、なんだろう、なんか、ワインの栓が抜けるっていうのが当てはまりそう。俺みたいな【渡り人】は理だとか魔力だとか、感じたこともないで来てるから、スキルとして付与がない【渡り人】は鈍いんじゃ、だから、電気ショックみたいに、起こす必要が、あったとか」


 ハッと顔を上げた。


「だとすると、どうして、誰が魔法の穴を開ける(電気ショック)なんて方法を見つけたんだろう? そう考えるとシュンは才能があった側なのかな」


 気づけば全員から視線を浴びていて、ツカサはおずおずとソファに小さく座り直した。


「シュンが誰かはわからないけど、二百年という区切りを一つの事象としてまとめて見るのはありかもしれないね」


 否定も疑問もまずは呈さず、ヴァンは受け止めてみせた。

 うん、と一つ頷き紙を引っ張り出すとペンを持った。インク壺を使わない、ツカサには見慣れたタイプだ。ペン先だけが尖っていてかっこよく見えた。


「僕らが解明したい疑問点は、さっきラングが言った三点、それからシェイの魔導士としての視点が一つ」


 マナリテル教のヴァンドラーテ襲撃理由

 何故それにアズリア王国騎士団と特殊部隊が便乗したか

 何故ツカサが追われたのか

 痕跡、混合魔法の解析


「さっき、古語で見つけた一言。魔力を重ね、我が力とする。手記全体は意訳すると、自分を助けてくれた人が困っているから、力を貸したい、といったようなものだった。随分崇拝していたようだ。古語の筆跡と全体の筆跡は違うから、書き込んだのはこの手記を書いたのとは別人か、崇拝されていた本人か」


 ヴァンは魔力を重ね、我が力とするとも書き込んだ。


「そして、二百年という区切りから起こった様々な事象」


 冒険の女神(オルバス)

 女ギルドマスター

 マナリテル教

 エルキス事変


 カリ、とペン先が音を立てて離れた。


「さて、どこまでが関係しているのか」


 いっそのこと楽しそうにヴァンは頷いた。学者目線では事象を紐解くことが好きなのだろう。

 紙を見るために前に身を乗り出しながらラングは顎を撫でた。


「魔力を重ね、我が力とする、が私にはよくわからん」

「【渡り人】の中には、相手の魔法や魔力を奪える人がいたことがあったみたいだけれど」


 エレナが答え、シェイが首肯を返した。


「うーん? あのさ、俺、なんでそんなに悩むのかよくわかんないな」


 全員の視線を集めたことに本人が一番驚きながら、アルは唸り、だってさ、と声を上げた。


「そもそも、って言って良いかわかんないけど、マナリテル教のそのマナリテルがラングは神じゃないかって言ってて、それが【渡り人】のために興された宗教だとして、相手の魔法やら魔力やらを奪うとしたら、単純に全部そいつがやったんじゃないの?」


 まるで時間が止まったかのような空間が出来上がった。アルは困惑した表情で全員を見渡した。


「え、だって、()()()()()()だろ? ラングの言った食事だってその、魔力とか、魂とか、自分の物にするためだって言うなら、まぁ、そうなんじゃないのか? いくらでも魔力補充とかできるように、この世界の人と【渡り人】どっちも、信徒を確保するのだって理に適ってるだろ? エルキスにあんなに手をかけた理由は知らないけどさ、そのせいで理が弱まってたなら、【渡り人】じゃなくても栓が抜けなくなっちゃって、マナリテル教が必要かもしれないし。今までの話って要はそういうことじゃないのか?」


 アルが身振り手振りでわさわさと話し、ヴァンはおかしそうに笑って涙を拭った。


「あは、あはは! そうだね、確かにそうだ! 僕たちは難しく考えすぎていたかもしれないよ」


 まだ笑いが収まらないながら、ヴァンは文字を全て囲うように丸を描いて、神、と書いた。


「僕たちは少し、神様と近すぎたのかもね。アルの視点は今までの話からして大筋正しい気がする」

時の死神(トゥーンサーガ)理の神様(クリアヴァクス)刻の神(クロノス)、まぁ、知ってる顔は多いしな」


 今まで黙っていたクルドが疲れた笑みを浮かべて神の名を羅列していく。聞いたことのある神とない神が混在していて、ツカサは不思議な気持ちだった。

 地球に居た頃には多くの神の名を見聞きしてきたが、ここで聞く神たちは確かに存在するのだと、何故かわかる。その一柱に会っていることが実感になっているのだ。

 ただ、疑問には思う。


「どうしてそんなに多くの神に()()()ことがあるんですか?」

「話すと長いからな、今の話が終わったら、今度な」


 クルドはニッと渋い笑みを浮かべてウィンクを見せてくれた。男らしいかっこいい人だなと思いつつ、今の話題に戻った。


「理詰めにするのは悪い癖だったな。アルの言うとおり素直に行こう。マナリテル教の祖であるマナリテルは神、信徒は()

「ツカサを追った理由にもなるな。推察通り【渡り人】の保護という名の食料確保で【渡り人】の魔力を好むのであれば、ツカサの魔力量は魅力的だろう。ヴァンドラーテまで追いかけてくる理由にもなる」

「王都氷壁事件から時間が空いたことは気になるけど、辻褄は合う」

「何人もの魔力と魂を喰らっているのならば、痕跡の混合具合にも俺は納得がいく」


 シェイの言葉に自身の身の潔白が証明された気がして少しだけ息を吐いた。


「とすると、残るのは何故アズリア王国軍と特殊暗殺部隊がいたのか、だね。冒険の女神(オルバス)を提唱したギルマスの件は一旦置いておいても問題ないだろう」

「的外れかもしれないが、二つ」


 前置きを置いてラングが手を組んだ。


「アズリア王都で潜入した際、マナリテルの配下の者と少し剣を交えたのだが、そいつは公にマナリテル教ではなさそうだった。適材適所という言葉を使っていたので、外部の人間だと思うが」

「名はわかるかい?」

「女神の剣、ペリエヴァッテ・ヴァーレクスと名乗っていた」

「ヴァーレクス、聞き覚えのある名前だ。もう一つは?」

「白い爺が次はいつ頃が良いかと食事のタイミングを尋ねていた。女は次は別の国で、一カ月後、あまり短いとバレてしまうから、と言っていた」

「あぁ、アズリア王国軍も、時間が空いた理由もわかったね。それに良い報告ができそうだ」

 

 要はツカサが王都で魔法を使った際、マナリテルの女神はアズリアを離れていたのだろう。戻り、魔力痕にそそられて追ったが、既に海を渡った後だったのだ。

 ヴァンは軍人の顔で言った。


「ヴァーレクスはアズリア王国の騎士一族の名だ。スカイアズリア戦争の際も前線で一個大隊を率いていた。彼の家系は特殊暗殺部隊を率いて裏工作なども行なっていたから、僕らが直々に取り潰させた家だ」

「取り潰したところで、いくらでも作り直せるだろう」

「そうだね、イタチごっこだ」


 ヴァンは疲れた笑みを浮かべ、前髪をくしゃりと混ぜながら早口でまくし立てた。


「あぁもぅ、暗殺者たちも殺したのに新しく作ったか? 国王の所管でないのは、率いるヴァーレクスが個人所有している可能性が高いなぁ? あの一族なら三男が平民落ちして生きているから、それがペリエヴァッテかな。傍系の王は軍事力を落としたくなくて引き入れたか、その知恵は一体どこから湧いて出たんだろうね。また調べることが増えたなぁ、休みはどこに行ったんだ? 僕はそろそろ日向ぼっこして猫のように体を伸ばしたいよ!」


 ふぅ、と息を吐いてソファに背を預け、ヴァンは眼を瞑った。ツカサはそれを哀れなものを見る目で見てしまい、アルからこそりと見てやるなと囁かれた。聞こえてるよ、と言われて二人とも慌てて口を噤んだ。

 ツカサの身の潔白は晴れ、マナリテル教の在り方も予想がつき、アズリア王国の関与もある程度見えた。ヴァンはゆっくりと目を開いた。


「まぁ、なんにせよ様々なものが明確になった。嫌だな、また戦争が起こるのかな」

「お前は軍人なのだろう? 何故冒険者に扮している」


 ラングの疑問はツカサの疑問でもあった。興味を惹かれてツカサも少し身を乗り出す、


「この方が情報を集めやすい、というのと、基本的にスカイは戦争が無い国だからね、給料泥棒にならないようにするためさ。ここ数年が異常なんだよね」

「フェヴァウルと言えば貴族だろ? それも辺境伯だ。戦争無い時は領地に戻るとかしないのか?」

「あはは、もちろんそういう時もある。それに、それを言うならシェイだってアッシュだってそうさ。僕たちは一応、各地の視察も込みだってことだよ」

「どういうことだ?」

「軍人として立つとき以外は、今まで通りの名前で呼んでね」


 話題を振られた仲間は仕方なさそうに笑い、シェイは盛大なため息を吐いた。


「本名はリシェット・フェオルヴァレルだ」

「俺はアッシュじゃなくて、アース・ハーベル」

「ラダン改め、ラジャーン・デイア」

「クルド改め、デヴァイン・イーストー。俺は正真正銘の平民だぞ?」


 いくつか聞いたことのある名前だ。ハーベルは港も持っている公爵、デイアはフェヴァウルに吸収された元貴族の名前だったはずだ。フェオルヴァレルは地図上でしか知らないが、こちらも広大な領地を囲んでいた名前だ。クルド以外が全員貴族だということだ。


「まぁ俺は領地を返上してる元貴族だけどな。おかげで好きなことができてる」


 ラダンが苦笑を浮かべて言い、肩から荷を下ろした旅人のように膝に肘を置いた。


「視察とは、向こうの大陸(スヴェトロニア)に行くことも含まれているのだな」

「そうなんだよ」


 ヴァンは体をよっこら起こして言った。


「アズリアで戦争の機運がまた高まっているからね」


 こちらが終わればあちらが戦争、ツカサはテレビの中の話のようにそれを聞いていた。

 そういえば、フェネオリアのオルワートで無理矢理戦争の切っ掛けにしようと命を狙われていた少女がいた。彼女は今どうしているのだろう。


「とにかく、だ」


 ぱん、とヴァンが手を叩いて切り替えた。


「君たちが敵ではないことはよくわかった、尋問を許可しよう。フィルから会いたいと言われていた別件は、全て落ち着いてから声をかけさせてほしい」

「あぁ」


 検討する理由というのはツカサのことだったわけだ。何とも言えない気持ちで項を摩った。

 話は終わったと言いたげに立ち上がったヴァンにアルは首を傾げ尋ねた。


「エルキスの件はいいのか?」

「あぁ、理の強い土地を魔力でというのは、均衡を壊すと天変地異を起こしやすいから、それが狙いだったんじゃないかな」

「信徒獲得と混乱を狙ったのか」

「たぶんね」


 んーっと腕を伸ばし、ヴァンはよし、と自身を奮い立たせた。


「僕らはイーグリスの東側に本陣を置いている。君のことは伝達をしておくから好きな時に来てくれていい」

「わかった。一つ聞いていいか」

「なんだろうか」

「何故ダヤンに魂のことを言わなかった?」


 ヴァンは寂しそうな笑みを浮かべて答えた。


「仲間の魂が彼らの海に戻っていないなんて悲しいこと、言えなかったのさ」




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