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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第三章 オルト・リヴィア

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3-43:治療



 時折、呻き声はあったがラングは三時間ほど眠り続けた。



 目を覚ますと小さくはっ、と息を吸ったので全員が覗き込んだ。

 それを押しやって体を起こし、しばしぼんやりとしてそれから手を握ったり開いたりした。最後にぐっと拳を握るとアルの頬を殴った。眼を見開くツカサの横でシグレは咳払いをして立ち上がって離れ、アーシェティアは見なかったと言いたげに眼を閉じた。


「なん!?」

「随分と軽い口のようだ」

「聞いてたのかよぉ!」


 もう一発いるか、と尋ねるように首を傾げるラングに、アルはごめん、と小さな声で謝った。


 リポップはなさそうなのでラングの体の心配もあり、ここで一日を過ごすことにした。不寝番はツカサとアーシェティア、アルとシグレで回すことにした。

 ツカサは氷魔法で広いボス部屋の端の方に五つの小部屋を作った。トイレだ。ツカサも含めそっと入りに行ったので作って正解だった。後で見に行ったら一時間程度で消えていたので安心した。

 昼を食べずにいたので空腹だ。ラングはまた空間収納の中の食事で済ませるように言いつけ、薬湯を再び作るとそれを飲んで横になった。毒への耐性があるとはいえ、解毒にはそれなりに時間を要するようだ。

 そもそも毒の種類も分からない中、このくらいの対応で済むのだから良い方なのかもしれない。ツカサの解毒魔法が足りていない証拠ではあるので精進が必要だ。この機会に繰り返し使えと言われたので定期的にかけている。

 ラングは布を巻いて枕にし、シールドを鼻先まで上げて呼吸しやすいようにし、時々深い息を吐く。ちらりと見たがやはり鼻から上は見えない。


「あの二人は見たのか」


 解毒魔法をかけながらなんとなくそれを見守っていたら声をかけられ、アルが冒険者証を差し出した。


渡り人の街(ブリガーディ)の方の冒険者みたいだ。ここで二人なのは、もしかしてダンジョンを停止するつもりだったのかな」

渡り人の街(ブリガーディ)はダンジョンの停止方法を知らないはずだ」

「でも、ボス部屋ってボスを倒すか、それで中にいる冒険者が出るか、冒険者が死ぬかしないと越えられないよね? たまたまこの二人はタイミングが悪かったんじゃ」

「今はただでさえ迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)中だ、例えば二人を置いて次の階層に抜けた可能性も無きにしも非ずだ」

「あぁ、それに一度踏破していれば五十階には行けるだろう。ツカサ」

「あ、もういいの?」


 冒険者証を差し出されて受け取る。ラングは寝位置を直して深呼吸をした。


「この先、渡り人の街(ブリガーディ)の冒険者がいることを念頭に置くべきだろう」

「いるのかな」

「どうだろうな、ただ、迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)の後か先かわからないが、ここに死体があったことだけは事実だ」

「生死はわからないがそのつもりでいよう。もしかしたら、食料のこともありパーティで来ている可能性もある」


 シグレはラングの意見を否定はせず、腕を組んでじっと考え込んだ。その横で頭の後ろで腕を組み、アルがきょとりと尋ねた。


渡り人の街(ブリガーディ)の冒険者と遭遇したらどうする?」

「邪魔をすれば殺す、しなければ放置」


 端的に答えるが容赦のない方針にツカサは目を瞑る。


「あーまぁ、ツカサは目を逸らしてていいよ。兄貴も手を出すなよ、いざとなれば俺がやるから」


 アルが苦笑しながら拳を打ち合わせた。シグレはそれに無表情で返し、ツカサは困惑した表情を浮かべた。


「遭遇したら、の話だろう。まだいるかはわからない」


 アーシェティアが一旦話を切り上げた。

 方針については共有できたのでこれ以上全員の士気を下げる必要はないと判断したのだろう。正直助かった。


 また静かな時間が過ぎていった。


 ラングはぱちりと何度か懐中時計を鳴らしてツカサに時間を確認するように催促し、慌てて全員に時間を告げた。

 食事をとり、武具の手入れをして、ラングに解毒魔法とヒールを使い、時間は思った以上にゆっくりと流れた。

 その間話したいこともあったような気がするが、ツカサの前でじっと療養に努めるラングを見ていると何を言う気も失せてしまった。

 時々、つぅと汗が流れるのを見ればおずおずとタオルを取り出して拭う。ラングはそれをツカサに任せてくれた。浄化の宝珠の効果で常に身綺麗ではあるがこうして見ると発熱もしているのだろう。

 薬湯をと思ったが既に服用しているものとの効果がわからず、癒しの泉エリアの水を出してもらい水に塩とハチミツと柑橘類を入れたものをコップで渡し、その時に背を支えた。

 少しずつ呼吸が楽になって来たのを見て膝を抱えた体勢のまま尋ねた。


「毒って、どうやって治すの。解毒魔法はおいといてさ」

「詳しいことは知らん、師匠が言うには、毒に対する抵抗力と()()だと言った。実際にそれで何度も生き永らえているのだから、あながち間違いではないのだろう」

「どんな修行だったの?」

「毒草と解毒草の死なない程度の毒サラダ」


 何を言われたのか意味が分からず一瞬反応が遅れ、その間に次が出てきた。


「毒蛇の肝と毒腺を入れた毒スープ、無理矢理舐めさせられた毒のナイフ、全身痺れる麻痺毒茶」

「殺す気なの!?」

「耐えきれなければ死ぬだけだ、と見下ろされていたな。今思い出しても腹が立つ」

「何歳から始めたんだ?」

「師匠からは九つの時に」


 シグレが尋ね、ラングが答える。答えを聞いてシグレは、ふ、と優しい笑みを浮かべた。


「徐々に毒に体を慣らすのは大事なことだ。きっと、口ではなんと言っても調整を」

「する訳がない」


 ぴしゃりと否定されて眼を瞬かせる。


「あいつは」


 そのあとに何が続くはずだったのだろう。ラングはすぅと眠りに落ちてしまった。

 全員で顔を見合わせて苦笑を浮かべ、座り直した。


「やれやれ、ツカサ、早いところ解毒をできるようになった方がいいな」

「え?」

「うーん、記憶混濁してるだろ、これ」

「え!?」

「毒蛇に噛まれて死にかけた仲間に似ている」

「嘘!?」


 ツカサは慌てて解毒魔法をラングに使った。ただかけるだけでは意味がないのだとようやく気づいた。

 いつもヒールを使う時のように、悪いところを探しながら、毒を見つけるように手を動かした。


 そうだ、ロナはあの時噛まれたツカサの腕からすーっと掌を滑らせて解毒魔法を使ってくれた。毒の道を癒すようにしてくれたのだ。解毒魔法の使い方に気づいた気がした。

 ツカサはラングが盾にした腕を手に取り、そこからゆっくり掌を滑らせていった。緑色の淡い光がすぅっとそのあとに続き、ぽこんと何か弾けるような音がした。魔力が消費された感覚がして解毒ができたと確信を持った。

 そのままラングの体中に手をかざし滑らせ、何カ所かで弾ける現象が続く。特に臓器の辺りではそれが多く、ラングの体が毒に抗っていたことがわかる。


「このぽこぽこ言って弾けてる緑の光が、解毒?」

「そうみたい」

「こんだけ毒抱えててあれだけ話せるのがすごいな」


 ツカサの手元で泡のように弾ける光を見てアルはいっそのこと笑ってしまった。

 

「だが、次に目を覚ますときにはもう大丈夫だろう。よくやった、ツカサ」

「俺、魔法をもっと勉強する」


 魔法障壁や盾魔法、解毒魔法、今回のダンジョン攻略は自身の力不足を痛感することの連続だ。イメージや使えるような形に成ってはいても、その本質を理解しなくては、使い方を知らなければ意味がないのだ。もっと鍛練しなくては、とツカサは解毒魔法のあとに丁寧にヒールをかけ直して拳を握った。



 不寝番を交代し、朝になって全員が起きる頃になってラングも目を覚ました。

 前に目を覚ました時と同じで体の確認をし、立ち上がった。


「世話をかけたな」


 しっかりとツカサに視線を置いて言うあたり、何が起きたかはわかっているようだ。


「ううん、遅くなってごめん」

「良い、よくやった。すまんが少し湯をもらえるか」

「うん」


 桶に水を入れ沸かす、ラングは手拭いを温めて軽く腕や顔を拭った。アイテムの力はあるとはいえ、こうして清めるのは気分が違うのだろう。

 とんとんとその場でジャンプ、呼吸を整えてぱっと姿が消えた。離れたところで振り返り地面を滑って止まる。


「問題なさそうだ」

「よかったよかった、朝飯食ったら行くか。五十階層は魔獣が多そうだぞ」

「良いリハビリになるだろうな」


 いつものラングのように見える。けれど、ツカサはまだ心配だった。この後大量の魔獣の中を抜けるだろうし、渡り人の街(ブリガーディ)の者たちがいればそちらの対処も要求される。


 大丈夫だろうか。

 漠然とした不安はボス部屋を出てもツカサの首筋を撫で続けた。



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