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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第三章 オルト・リヴィア

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3-41:ボス部屋での休憩



 大量のトカゲ素材と攻略報酬を空間収納に仕舞い、一行はボス部屋で休むことにした。


 リポップはあるかもしれないが先ほど癒しの泉エリアが機能しなかったことも踏まえ、ボス部屋の方が安全だと判断した。

 シグレ曰く、癒しの泉エリアは下層から上層に向けて停止していく。理由はわからないが光苔が光を失っていくとそうなるのだという。

 ツカサは無我夢中で気づかなかったが道中枯れた光苔を見つけたそうだ。知識量に救われた。


 ラングは自身の装備を元に戻すと炎の剣を空間収納から取り出してシグレに渡した。シグレが剣を捨ててツカサを守ったことは明白であるし、丸腰で居させるわけにはいかない。


「助かる。剣も盾も失うとは情けない」

「いや、賢明な判断だ」


 ラングの言葉に苦笑を浮かべ炎の剣を受け取り腰に吊るし直し、シグレはふぅと息を吐いた。ダンジョンで武器がないことは命の危機だ、人心地が着いたといった様子で口元に微笑を湛えた。

 部屋の隅の方で火を熾し、魔獣除けのランタンとトーチ、ラングのランタンで十分な明かりを確保した。


「すみません、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「あの、由緒ある剣とかじゃなかった?」

「長年使っているだけの数打ちの剣だ、問題ない」


 ダンジョン産の良い物でなくてよかった、ほっと胸を撫でおろした。

 武器を投げつけるなど見方を変えれば愚行だ。だが、あれだけの表皮の硬さ、ロングソードで、かつ目を狙ったからこそ効果があったと言っていい。

 実は前足を上げるかどうかは賭けだった、と囁かれて血の気が引いた。昔、黄壁のダンジョンでの魔獣との戦闘経験があの行動を取らせたようだ。

 ぱちりとラングが懐中時計を確認した。


「ここを出れば四十九階層だ。この場所でじっくり休憩を取る」

「食事どうしようか」

「空間収納の食事で済ませる。湯だけは沸かし、調理器具は出さない」

「了解」


 リポップには警戒を続けるということだ。

 いつものハーブティーを待ってツカサは綺麗な布を敷いて空間収納から焼き物やパン、コロッケなどをどさりと出した。アズリアで買ってそのままだったピザなどもある。

 全員で手を合わせた。


「お! 流石ツカサ、いろいろあるじゃん」

「ほう、これはどこの食事だい?」

「これは向こうの大陸(スヴェトロニア)のフェネオリアのサンドイッチ。サーモン…鮭に似た魚のサンドイッチで美味しいんだ」

「ラング、アズファルの飯ないの? エルキスのパンは食っちゃったっけ」


 各国料理を広げる雰囲気になり、ラングは小さく息を吐いて食事を出した。パンは無いがラムチョップや生地に挟まれたものが出てきた。おぉ、と声を出して思わず手に取る。


「アズファルは羊肉美味しくてさ、これ屋台で焼かれてた香草焼きだ」

「羊ってあんまり食べなかったかも。アズファルはどんな国だった? あ、美味しい」

「飯の美味い国だったな、こう、国土は山岳地帯から海に向かって降りてってる感じでさ、畜産が盛んで」


 食事を発端に、お互いの旅路を話す機会になった。

 アズリアの食事は通ってきたのでこれ美味しいよな、と笑う。シグレは物珍しそうに食事について事細かに聞いてきた。そういった姿勢が統治者(オルドワロズ)としての素質なのだろう。

 ラングはシグレの問いに答え、そちらはそちらで楽しそうに見える。

 アーシェティアは食事に目を輝かせておかわりを強請り、誰よりも食べた。相変わらずの燃費の悪さだ。


「不寝番はするぞ、二人、三人の組みだ。私とアーシェティア、アルとツカサとシグレの組みだ」

「珍しい分け方だね」

「なんだよ、ツカサ、お兄ちゃんとがよかった?」


 にんまりしたアルの顔がイラっとした。多少図星だったせいでもある。


「別にそうじゃないけどさ」

「ラング、戦力分散と私が起きられないことを念頭に置いた人員なのはわかるが、せっかくなのだしツカサとでどうだ?」


 シグレが悪びれずハーブティーを楽しみながら言えば、ラングは深いため息を吐いた。


「随分と危機感のない話だ」

「なに、貴殿の実力と弟の実力、アーシェティアの一撃を信じているまでさ」


 叱責にもとれるラングの発言をさらりと受け流す度量を持つのは、このメンバーの中ではシグレだけだろう。灰色の眼が何かを伝えるようにラングを見て、ハーブティーを飲んでからラングは言った。


「良いだろう、では、ツカサは私と先に不寝番だ」

「いいよ」


 少しだけ声が喜色を含んでしまったからか、アルが笑った。それを咎めればあちこちから笑い声が上がってしまってもっと恥ずかしくなった。ラングはハーブティーを飲んでいたのでわからなかった。




 食事が済めば各々が自由時間だ。とはいえ、ボス部屋、行くところも無い。


「そういえば、【快晴の蒼】とどうして知り合った?」


 槍の手入れ中にアルがふと尋ね、ツカサはショートソードから顔を上げた。ドロップ品、魔力を込めればメンテナンスが出来る種類なのだが、周囲で全員が手入れをしているのでせっかくだから見ていた。


「どうしてって、ううん、説明が難しいんだけど。ダヤンカーセに用があって、そこで。というかそっちはどうして?」

「紫壁のダンジョンの踏破のメンバーだったんだよ、向こうは十人で踏破が必要だったから」

「そうだったんだ。あれ? ダンジョンの停止っていつやった?」

「去年だな」

「おかしいな、俺は新年早々に会ったんだよ。どうしてラングとアルに会ったことを教えてくれなかったんだろう。俺ちゃんと名乗ったのに」

「そういえばそうだな」


 こくりと首を傾げ、ラングを見る。しばらく双剣を砥石でシャーシャー言わせていたが、ゆっくり顔を上げた。


冒険者(ギルドラー)で名乗った」

「それじゃん!」

「え、待って何そのギルドラーって」

「あぁ、ラング話してないの? 処刑人(パニッシャー)のことも」

「どうだったかな」

「なぁ、パニッシャーってなに?」


 ふふ、とシグレが笑った。


「君たちは本当に面白いな、まだまだお互いを知ることが出来る。不思議な良いパーティだな」


 途中で分断されたこともあり会話不足なだけなのだが、シグレにはそう思えるらしい。

 ツカサはラングが説明を任せると言ったのでラングの故郷での役職、称号であると説明をした。

 物騒な仕事だな、とアルは腕を抱いて震えてみせたがラングは呆れたように息を零すだけだった。


 アルはツカサの故郷の話も聞きたがり、それにはシグレも食いついた。

 ラングは武器の手入れを終えると装備の点検に入り、アーシェティアは目を閉じて微笑んでいた。


 会話はいくらでも続くが時間は来る。

 ぱちりとお決まりのラングの懐中時計が音を立てて不寝番を知らせてきた。


「アル、シグレ、アーシェティアは眠れ」

「わかった、おやすみ」

「よろしく頼むよ」

「おやすみ」


 三人は壁に寄りかかって武器を手に素直に目を閉じた。

 目を瞑り息を整えるだけでも体力はかなり回復する。が、ラングはそれぞれに近寄り手をゆるりと額に置いた。

 恐らく、三人は何をされるのか疑問に思う気持ちを抑え出来事を待っただろう。その結果を知ることも無く夢の中だ。

 ツカサの横に戻りランタンの明かりを確認し、ラングは切り出した。


『【快晴の蒼】のことだが』

『あぁ、なに?』

『話せないことは除いて、どういう状況で会ったのかを話せ』


 アーシェティアの時には濁してくれたが、【快晴の蒼】にはそれを許さないらしい。


『ダヤンカーセと友達みたいで、ヴァンドラーテの不測の事態に対応するために途中で会ったんだ』

『ヴァンドラーテに何があった?』

『襲われたんだって言ってた、それで【快晴の蒼】に協力を求めたって』

『いつの話だ』

新年祭(フェルハースト)の時に』

『なるほど』


 ラングは何かを納得して頷いた。首を傾げてどういうことかと促せば、言葉が続いた。


『奴らが急いでイーグリスを出ていった、とアルから聞いた。恐らくアギリットからの依頼を受けて出ていったのだろう』

『アギリットさんどうやって連絡したんだろう』

『そうか、話していなかったな。ここだと少し示し難いのだが』


 ラングは腕を組んで言葉を選んだ。


理使い(ナーラー)というのを覚えているか?』

『忘れないよ、イーグリスの出来事のことだし。一番初めエレナにも聞いたからね』

『私はそれになった』

『うん?』

理使い(ナーラー)だ。風に力を借りれば、遠くまで声を届けることも出来る。それと同じように魔導士でありながら魔力を捨てれば、魔術師として』

『待って待って待って、ラングが理使い(ナーラー)になったって話からにして』


 ツカサの困惑は言葉の少ないラングに質問をいくつか重ねたうえでようやく解消されたが、その後は頭を抱える羽目になった。


 そして思い至ることもあった。


 ルフネールの街で不思議な声を聞いた。それがラングの関係だと理解したのだ。すぐに手紙が返ってきたことも今ならわかる。タイミングが良いという訳ではなかった。

 ラングが新しい力を得ていることは構わない、ただ、それをすぐに話してもらえなかったことは不満だった。


『もっと早く話してくれても良くない?』

『忘れていた』


 全く以てラングという男は変なところがマイペースで困りものだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 戦力の確認という意味ではこれはラングが悪いと思う
[一言] いつまで経っても成長しないツカサ、いい加減うんざり
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