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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第三章 オルト・リヴィア

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3-40:黄壁のダンジョンのボス



 ツカサがヒールを使い、癒しの泉エリアの水をまた一口もらう。



 戦い方は先陣をアルが切ってラングは遊撃手、アーシェティアが一撃を入れられるようにサポートする方針だ。ツカサは癒し手を主体とすることになった。屍の合成魔獣(エルキマイラ)で習得した盾魔法(シードゥ)を出したり消したりして精度を上げていく。

 シグレはロングソードをゆったりと構えてじっと前を見据えている。こちらはラングとアルのサポートに回る。


「来るぞ」


 真っすぐな通路の先は薄暗くてよく見えない。けれど、ラングの眼には見えるらしい。

 他の魔獣が来ないよう、魔獣除けのランタンはツカサが腰につけている。


 謀略のマントを空間収納に仕舞い、いつもよりもすらっとした姿でラングが立った。すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、といつもと違う呼吸音が聞こえた。

 こん、こん、こん、とラングの双剣の柄が叩かれ、三回目でツカサがトーチを広げアルが地面を蹴った。


 その後を全員が続く。


 おりゃぁ、と雄叫びを上げながらアルは槍を右斜め下から掬い上げた。通路の幅を最も広く使える角度だ。

 ガリガリと引っ搔いた音がしたあと、僅かな表皮が散った。


「かってぇ!」

「避けろ!」


 フォンと軽い音で振られた長い何かが慌てて屈んだアルの頭上を通り過ぎた。

 ドパンッ、と弾けるような音を立ててダンジョンの壁が揺れる。凹んだり砕けたりしないダンジョンの壁なので、真の威力のほどは当たらないとわからないが、あれは簡単に人を殺せる動作だ。

 アルは太い鞭のように唸るそれから器用に逃げてきた。


「通路いっぱいだな、前にしか空きがなくてキツイ」

「私が後ろへ回る」

「どうやって、え!?」


 くるりとラングが背を向けて通路を走って戻っていく。もしやダンジョンをぐるりと回るつもりかとツカサはぎょっとしたが、しばらく行った先でまた振り返った。上着も空間収納に仕舞い、装備が露になる。腰に吊っていた双剣も後ろにあった短剣も、太腿のナイフも全て片付けた。

 こうしてみると無駄なものが付いていなくて本当にスタイルが良い。頭のフードとシールドだけがそのままだ。


「道を空けろ」


 言うが早いかラングが消えた。

 視界の外で大きな間隔のタン、タン、タン、と床を蹴る音が聞こえ、ハッとして魔獣の方を見る。

 ぐおぅ、と唸り声を上げながら()を振るいラングの接敵を防ごうとする魔獣、それをギリギリで躱して床を滑るようにラングが巨体の下へ消えた。


「後ろは広い、こちらから対応する。尻尾はあるが問題ない」

 

 巨体の上は鼻が届く可能性がある、足元ならば巨躯を支える足が素早くは動かない、しゃがまない、などのことを判断しての()()()()だ。離れたところから助走ついでに幅と高さを確認した上で成し遂げてみせた。

 さっと覗いてみたら向こうにラングの足が見えた。 


「よし! 行くぞ!」


 アルが先頭で声を張り上げる。ツカサは頷き、アーシェティアは戦斧を構え、シグレはロングソードを手に馴染ませた。


 向こう側でラングが双剣かナイフか何かを振るっているのだろう。魔獣は後ろを向こうとして壁に阻まれ苛立たし気に咆哮を上げる。

 隙を見て【鑑定】をした。


【モルオドゥ】

 黄壁のダンジョン 最下層ボス

 レベル:表記不可

 散歩中


 散歩でこんなところに来るな、ボス部屋はどうした、と突っ込みたいのをぐっと堪えた。


「モルオドゥ! やっぱりこのダンジョンのボスだ!」


 反応は返ってこないがそれぞれが聞こえたと言いたげに武器を握り直した。

 向こう側でラングが魔獣、モルオドゥの気を散らし、アルが穂先で皮膚を割く。シグレが逆側を敢えて攻めて気を引き、その間にアーシェティアが傷を狙って戦斧を叩きこむ。

 時間のかかる戦い方だが、堅実だ。ツカサは疲労回復の意味合いも込めてヒールを何度もかけ、鼻の軌道が心配であれば盾魔法(シードゥ)を唱え仲間の前に盾を展開した。最初は驚いていたが、すぐに順応した。


 じわじわとモルオドゥに疲弊と憔悴が見える。巨躯ゆえに防御力はあってもスタミナはないのだ。


 このままいけば問題なく討伐できるだろう。

 それが隙になった。


 モルオドゥが今までになく激しい咆哮を上げ、小さく前足を振り上げる。

 がつ、と地面を掻く。あのサイのような魔獣を思い出した。


「突進が来る! 避けろ!」


 どう避けろというのか。ツカサは通路をざっと見た。

 アルは器用に槍をポシェットに仕舞い、身軽に鼻を掻い潜りモルオドゥの背中と天井の隙間を抜けた。

 アーシェティアは斜めからモルオドゥの頭を戦斧で殴り、軌道を変え無理矢理作ったその隙間を抜けた。

 行くとしたらアーシェティアが作った隙間を行くしかない。壁に寄って盾魔法(シードゥ)で幅を確保しようと試みた。

 モルオドゥが体勢を直し、その反動でツカサが抜けようとした側へ体を寄せてきた。

 不味い。

 あの巨体を盾魔法(シードゥ)で堪えたとしても、そのまま引きずられ壁に当てられては即死してしまうかもしれない。


「ツカサ!」


 ぐいと腕を引かれシグレに寄せられた。

 シグレはロングソードを逆手に構えると真っすぐに投げた。モルオドゥの小さな目に刺さり、前足が上がって突進が緩む。ツカサは咄嗟に魔法を放ち、氷でなだらかな足場を作った。その上にモルオドゥの足が乗った。ビシリ、とすぐにヒビが入る。


「今だ!」


 前足が上がり増えた足元の隙間に飛び込み、不穏な蹄音を立ててモルオドゥが頭の上を通過していく。

 背後で音が止むのを待ちたい気持ちだったが首根っこをシグレに掴んで引き起こされる。すぐさまそこを駆けだせばガシャンと氷が砕けた音がした。


「怪我は」

「ない、大丈夫」


 ツカサたちが歩いてきた道の向こうでドシンと壁に当たる音が聞こえた。モルオドゥが突き当りの壁に当たり、その足を止めたのだろう。


「来い! 走れ!」


 ラングが叫ぶ。モルオドゥとは逆、目的であった癒しの泉エリアの方へ駆けていく。

 走りながらヒールを全員にかけてツカサは叫ぶ。


「どうしたの!? トドメは!?」

「放っておけ、それよりも安全地帯かボス部屋へ行く」

「理由!」

「雑魚が集まってきている」


 モルオドゥが突進する前にしていた咆哮がどうやら魔獣呼びだったらしい。魔獣除けのランタンはあっても迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)中の魔獣は構わず突っ込んでくることがある。進行方向にいればこちらからも突っ込むことになる。


 ラングは目の前に現れた魔獣を双剣でスパリスパリと斬っていく。後続のツカサは灰を払いながら走った。

 シグレは周囲を見渡してから叫んだ。


「ラング! 癒しの泉エリアはだめだ! 泉が濁る前兆が見える!」

「了解、ボス部屋を目指す! アル!」

「任せろ! うおおぉ!」


 ラングが指で行先を示し、アルが一歩前に出る。

 四足の魔獣を槍で刺し貫き、そのまま突進するように足を進め続けた。柔らかい眼や関節、首を狙うことだけはやってのけ、ラングがトドメを引き受ける。アーシェティアはさらに漏れた魔獣を払いのける動作で続いた。戦斧で払えば壁にぶち当たり砕ける魔獣も多い。

 ツカサは素材をパッパッと拾いながら走り、シグレは周囲の確認を行う。


 途中見かけた癒しの泉エリアはシグレの言うとおり淡い光も無く、水が流れる音もしなかった。加えて魔獣が闊歩していた。


「左! ボス部屋! 開けろ!」


 ラングの指示に従いアルが曲がれば大きな扉が見えた。魔獣を蹴散らして扉に飛びつくと肩を当てて押す。ずず、と相変わらず開くときは重い。

 次いでラングが体当たりをするように飛びついて押し、アーシェティア、シグレが続く。


「ツカサ! 魔獣どうにか防いでおいて!」

「どうにか!?」


 振り返り逡巡、全身に渡らせていた魔力を練り上げ、得意の氷魔法を放った。

 魔獣が角から出てきた瞬間、ツカサの放った氷は波のようにそれを押しやり、刺さり、天井までの壁となった。向こう側は見えないが魔力を放ち続け氷の棘が通路を埋め尽くすイメージをする。

 無駄な魔力を使わないように、途切れさせないように気をつけた。


「開いた! 入れ!」


 アルの声にツカサはじりじりと下がり、最後に扉を潜った。

 内側からはすぐに閉められる。冒険者を拒み、入れば逃がさない、ダンジョンの嫌なところだ。


 僅かな深呼吸で自身を落ち着けたラングとアルはすぐさま部屋を睨む。

 アーシェティアとシグレも息は上がっているが余力がある。ツカサは大きく深呼吸をして四人に倣った。


 本来、四十八階層のボスはツカサが渡り人の街(ブリガーディ)の外で倒したライオンのような金獅子だ。小麦の草原を想像させるような美しい鬣が特徴のボスだと書いてあった。

 その姿はなく部屋は暗い。ツカサはトーチを部屋中にばらまいた。


 途端、ぎょろりと赤い眼が四方八方から光った。


 しゅるりと走ったのは大きなトカゲのような生き物だ。ちろりと覗いた舌は真っ赤で気味が悪く、天井まで這っているほどに数が多い。目を瞑ればツカサのトーチの中でも姿が消え、しゅるしゅると走る音だけがする。

 ツカサはごくりと喉を鳴らした。


 ふと、ゆらりとラングとアルが前に出た。


「やりやすい相手だ」

「もぉゆっくり座りたいから容赦しないぞ」


 どう攻略するかを考えていたツカサを置いて、苛立ちをぶつけるかのような二人の無双に呆気にとられる。

 気配というものを読めるようにならないとなぁ、と暢気なことを思い、ツカサはトーチだけは切らさないようにした。




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