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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第三章 オルト・リヴィア

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3-6:先んじて

仕事が忙しくてなかなか筆を持てませんでした。

お待たせしました、少しですが投稿します!

今回の投稿、キリが良いところまでが長く、文字数多めになっていますのでごゆっくりどうぞ。

ラングとアルのターンが続きます。

一話目です。


 季節は戻り夏の終わり頃。スカイに着いて早々、ラングはイーグリスへの道を調べた。


 ダヤンカーセたちと挨拶を済ませ、あまりにもあっさりと背中を向けたのであいつは海賊以上だな、と笑われた。

 ダヤンカーセとしてはもう少し話したいこともあったようだが、癒しの泉エリアの水の礼や、いざとなれば船に乗れば良いなどの勧誘が煩わしいらしく、ラングは取り合わなかった。

 その代わり、弟を頼むと言い、一度だけ強く握手をした。

 ダヤンカーセは笑って頷き、その後同じように背を向けた。


 そしてアルが久々の帰郷に喜ぶ暇もなく、懐かしい港町の食事に舌鼓を打つでもなく、一日だけ宿で体を休めてさっさと移動を決めてしまった。


「なぁ、もう一日宿に泊まろうよぉ!」


 イーグリスへ行くのに馬車をいくつも乗り換えることもあり、合間どれだけ揺れない布団で眠れるかわからない。スカイの馬車は揺れ対策がされているとはいえ、揺れるものは揺れるのだ。

 スカイの道中の安全具合もかつて十五で旅をして無事だったことからよくわかっているが、アルはまだ船旅の揺れが残る体で移動したくなかった。良い歳をしてガキっぽく地団太を踏んだ。


「なら後から来ればいい」

「うぉおおなんでだよぉ!そうじゃないだろ!」


 乗合馬車の同行者は苦笑したり呆れたり様々な顔で二人のやり取りを眺めていた。御者は懐中時計をぱちりと閉じて苦笑を浮かべた。


「お客さん、そろそろ決めてくれないかな?出発時間になってるんだよ」

「ラングー!」

「…はぁ」


 ラングは呆れたように息を吐き、ぽんとアルの肩を叩いた。


「では、イーグリスでな」

「嘘だろ!?」

「出してくれ」

「はいよ」

「うわあああ!」


 アルは待ってぇ!と情けない声を上げながら容赦なく出発した乗合馬車を追いかけて慌てて乗り込んだ。


 しばらくぶつくさ言いはしたものの、故郷の風や風景はやはり嬉しいらしく、アルは次第に機嫌を直した。乗合馬車の面子の気風も良く、アルに話しかけてくれたこともありがたい。

 隣の大陸(スヴェトロニア)まで旅していたことを話せば向こうで見聞きしたものを聞かせてくれと言われ、時間も随分潰すことが出来た。

 

 ラングは乗合馬車から風景をじっと眺めていた。


 整備された街の美しさに驚き、穏やかな気質の人々に出迎えられたハーベル(フェネア)

 宿の性能の高さにも言葉を失い、冒険者ギルドの質の良さにも感心しきりだった。

 街を出れば歩きやすく走りやすい道をそこまで振動を伝えない馬車がことこと言いながら走り、その横ではただ長閑(のどか)な風景が広がっている。

 遠くに見える山々は青く、空はどこまでも高い。隣の大陸(スヴェトロニア)で同じような景色を見ていたはずなのに、不思議と生命に溢れている気がした。

 ラングたちがこちらの大陸(オルト・リヴィア)に渡った頃は季節が夏から秋へ入るところで、時々涼しい風が吹くのが心地良い。


 乗合馬車は夜を迎えて宿場町に着いた。

 同乗者たちはばらばらと降りて宿を取りに向かう。御者はここで別の者と交代をするらしい。

 引き続き夜間を走る馬車に乗ろうとすれば、だめだめ、と乗車を拒否された。


「流石にそっちの兄さんが可哀想だ、今日は宿で寝かせてやんなよ」


 味方を得て顔を輝かせるアルに舌打ちをして、ラングは踵を返した。

 宿場町ゆえに宿は周りを見渡せば簡単に見つかった。二人にしては広めな部屋の窓から外を覗けば多くの馬車があちこちから入っては出ていく。ランタンを吊るした馬車の周囲は明るく、御者が魔導士の場合はツカサのようにトーチを自分で置いている者もいた。風が気持ちよかったので窓は開けっぱなしにした。

 次に風呂を確認すればこちらもちゃんとついていて、かつ蛇口をひねればお湯が出た。


 実のところラングにとってはこの蛇口という存在が驚きだった。

 捻れば水が出る、お湯が出る、というのが不思議でならなかった。アルは詳しい構造を知らないというので理解出来なかったが、故郷では手押しポンプで水を得ているラングにしてみればこれもまた魔法だった。

 スカイに来て使い方がわからず、アルに聞いて逆に驚かれたりしたのだ。

 向こうの大陸(スヴェトロニア)ではツカサと別れた後、空間収納に川などで水を入れておき風呂桶に出し、浄化の宝珠を入れて浄化、そこへ本来の使い方ではないがファイアドラゴンからドロップした炎の剣を突っ込んで沸かしていた。魔石湯は時間がかかるので面倒だったのだ。アルには意外と()()()()なんだな、と呟かれた。とはいえアル自身もさっさと風呂に入りたい性質なので人のことは言えなかった。

 在る物を上手に活用してこその冒険者(ギルドラー)だ、と言っておいた。


 ラングが部屋を確認している間にアルは夕食を買ってくると上機嫌で出ていき、しばらくしてたくさんの袋を抱えて帰ってきた。

 串焼きからパンにソーセージが挟まれたものなど、ラングも知るよくある食事が並んだ。鍋に入れてもらってきたワーテルーイというスープ料理はラングには懐かしい味だった。

 向こうの大陸(スヴェトロニア)で食べていたものも美味かったがこちらも美味い。パンの質はとても良い気がした。


「なぁ、ラング、聞きたかったんだけどさ」


 ごくんと食事を飲み込んでアルが首を傾げた。

 齧ろうとしていた串焼きを一度離してラングは続きを促した。


「なんでそんなに早くイーグリスに行きたいんだ? ツカサが来るのだって少し時間かかるだろ。スカイ散策はしないの?」


 素朴な疑問だが当然の質問にラングは串焼きを改めて齧って、一口食べてから答えた。


「孫が生まれてな、早く戻れと言われている」

「孫!?」

「…あぁ、そうか」


 【渡り人】であることなどは話していたが、自身の身の上というものを端折って話した気がする。

 ラングが【渡り人】であるから元の世界に戻りたいのはわかる、だが、それを急ぐ理由は知らないのだ。

 

「そうだな、ツカサが知っていることになるのだが」


 ラングは自身が本来であれば五十路(いそじ)になること、体が若いのは夢見師(レーヴ)という呪い師(シャーマン)に依頼の報酬として時間を渡されたからであることなどを話した。

 その報酬のせいで夢見師(レーヴ)は眠り続け眼を覚まさないこと。

 夢見師の(レーヴ・)加護(ベネディクション)を使って眠るとその夢見師(レーヴ)と繋がり、いろいろと向こうの状況が知れること。

 その中で息子が結婚し、孫が出来、生まれたこと。

 元々の目的は夢見師(レーヴ)を目覚めさせるための世界渡りだったが、解決したこと。

 

「だから、あとは帰るだけだ」


 話し終わって食事を再開するラングに、アルは口を開けたまま唖然としていた。


 アルは暫く動かなかったが徐々に自分を取り戻し、もそりとパンを齧った。


「思った以上にいろいろあってちょっと理解に時間はかかったけど、なるほどわかった。ラングが時々親父くさい理由も納得」

「そうか」

「イーグリスに早く行きたいのもわかるよ」

「そうか」

「ツカサと早く合流できるといいな」

「あぁ。…あぁ、そうだ」

「んあ?」


 卓上コンロで沸かしたお湯をコップに注ぎ、いつものハーブティーを淹れながらラングは言った。


「急いではいるが、ツカサの身の振り方が決まるまで帰るつもりはない」


 その一言ですとんと落ちてきた。

 何を聞いても目の前の男はラングなのだ。


「へへ、了解」

「何を笑っている、気味の悪い」

「何でもないって!そしたら明日からは乗り継いでさっさとイーグリスに行こう。ツカサと合流して、軍師殿と話して、まぁその後だってスカイ散策は出来るしな」

「あぁ」



 なにやらご機嫌な相棒(アル)を珍妙なものを見る目で見てしまったが、恐らくバレてはいないだろう。

 



 ――― 翌朝、イーグリス方面へ行く乗合馬車へ乗り、また乗換、乗換、目的地に着いたのはハーベル(フェネア)を出てから十日後だ。

 乗り換えた馬車の中で眠り、時々宿場で宿に入り体を休め、かなりの強行軍で来た。普通に来るなら凡そ三週間はかかる旅程を突っ走った。

 さすがに体がギシギシ言っていたがお互いにそれは悔しいので口に出さず、御者が着きましたよと馬車を停めればすぐさま降りた。

 イーグリスで降りたのは何人かいたが、ラングとアル以外は商人だった。


 慣れた手つきで手続きをする商人の後ろに並び、入門手続きをしようとした。


「冒険者?はい、止まって止まって」


 気安い雰囲気で声を掛けられ顔を見合わせる。

 言われた通り押し出されたところまで戻り、手にした冒険者証を改めて差し出す。それを確認した後ラングとアルをじろじろ眺め、他の人と話しに行ってしまった。

 その場に放置されて少し待った。声が掛からないのでアルへ尋ねてみた。


「…イーグリスは入門手続き方法が違うのか?」

「いや、どちらかというと緩い方なんだけど、おかしいな?」


 アルは困惑した様子で首を傾げ、ラングはふむ、と先ほどの青年を見遣った。

 向こうは向こうで何やら話し込んで時折こちらをちらりと窺ってくる。

 暇なので地元民(アル)に詳細を聞く。


「本来はどういう手続きなんだ?」

「うーん、あっちの大陸(スヴェトロニア)と変わらないぞ? ここまでの街だってそうだっただろ。住民カード使ったり商人カード使ったり、冒険者証出したり、それで入門税を払う」


 アルが指差した方には透明の板がある。あの魔道具はここまでの街々でもお世話になったものだ。

 

「何故止められたのだろうな」

「それがわかんないんだよなぁ」


 うーん、と腕を組んでアルは唸った。 

 ようやく先ほどの青年が戻り居丈高に顎をあげて言い放った。


「冒険者は一人十万リーディだ、払ったら入っていいぞ」

「え!? 一パーティ五万だろ!?」

 

 今までの街々の金額よりも高く吹っ掛けられアルが叫ぶ。その声に釣られて青年と話していた男たちもぞろぞろとやって来る。

 ふぅ、と小さくため息を吐いてラングが前に出た。


『すまない、こちらの国には来たばかりでまだ疎いんだ』

「え?」

『言葉が通じないか?』


 敢えて、ラングの故郷の言語で話した。ツカサ同様に【変換】を持つ者がいれば内容がバレるので、ここはおかしなことを言わないように気をつける。わざとらしく肩を竦め、困った声を装う。


「違う大陸、スヴェトロニア、来た。決まり事よく知らない、まだ」

「あ、あぁ!なるほど、海を渡ってきたからわかんないって?」

「そうです、街、五万、パーティ、で払う」

「なるほどなるほど、よーくわかった」


 青年とそれを見守っていた男たちが馬鹿にしたように笑う。

 アルは何かを言いかけたが、ラングが腰に吊るした双剣に肘を置いてバシリと太ももを叩いて黙らせた。いって、と呻くアルに怪訝そうにしながらもニヤニヤした顔で男たちはラングへ向き直った。


「じゃあさっさと払ってもらおうか、二人合わせて二十万リーディだ」


 手を差し出され要求を受けてラングは言われた通りの金額をその手に乗せた。

 アルは何かを言いたげだったがマント越しにわかりやすくラングの肘が動いたのでぎゅっと唇を噛んだ。容赦なく叩かれたので太ももがじんじん言っていた。


 水晶板にカードを当てて中に入り、背中に感じていた視線が次のカモに移ったのを確認してから路地へ入り込んだ。


「何すんだよ! 痛かったんだぞ!」

「お前がうるさいからだ。おかしいことくらい私にもわかる、だがまずは入らねば話にならないだろう」

「だからって!」

「黙れ、お前は声が大きい」

「うぐぐっ」


 ラングが子供をあやすように唇に指を立てたので、喉まで出掛かった文句をぐっと堪えた。それを確認し、ラングはふぅー、と長い息を吐きながら街を煽り見た。


「失敗したな、道中この街の情報収集を怠ってしまった」


 言われ、ハっとした。

 確実な手がかりと足掛かりになるだろう期待は旅に気の緩みを与えていた。目的地に重点を置いてしまったがために、目的地自体の情報収集をしなかったのだ。


「まぁ強行軍だったから…それに、俺の故郷ってこともあって、俺も…」

「街の雰囲気はどうだ? 記憶に相違ないか?」

「…おかしい」

「どうおかしい」

「…()()()()()()()()()…ように見える」

「…なるほど不穏だな」


 ラングはスイと体を反転させた。


「では情報収集といこうか」





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