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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第二章 別々の場所で

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2-73:アズリアへ

二話目です。


 ガルパゴス側の国境都市シュルワッツェルは、衛兵が闊歩していることを除けば穏やかなものだ。


 冒険者や商人がざわざわと耳を騒がせ、国境を越える前の買い物や思い出作りに勤しんでいる。

 商人はガルパゴスの最後の仕入れを行い、アズリアでの商売に備えた。同様に、アズリアからこちらへ来た商人も早速物価の調査などに忙しい。


 馬車を持つ冒険者であるツカサたちは通りすがりにじろじろ見られることもあるが、悪いことをしている訳ではないので堂々としておく。

 宿を取ってエレナとミリエールを休ませると、ツカサはすぐに冒険者ギルドとゲイルニタス乗合馬車組合へ顔をだした。あまりゆっくりしていたくはなかった。


 ツカサはまず冒険者ギルドで再び金をおろし、懐に仕舞いながら様子を尋ねてみた。預金をこまめにおろすのはあまりに大金だとギルドが支払えないのと、目立つからだ。特に国境都市であれば次の国に備えた引きおろしだと思われやすい。

 ツカサは金を受け取ってギルドのカウンタースタッフに尋ねてみた。


「アズリアで船に乗りたいんだけど、今、アズリアってどうなの?」


 カウンタースタッフは少しだけ目を瞠って、それから抑えた声で言った。


「ここでそんなこと、大声で聞いちゃだめです」


 少しだけ息を吸って、止めて、ツカサは小さく頷いた。倣って声を潜めて返した。


「それって、どうして?」

「アズリアとの国境ですよ、ガルパゴスは友好国として接していますけれど、アズリアがどこで聞いているのかわかりませんよ」

「…アズリアってそんなにやばい国なの?」


 ツカサは方々でアズリアの悪い噂を聞いては来た。実際にこの国境都市中央にそびえ立つ城郭と、街中に向けてある大砲からも恐怖は感じた。けれど、それは自国の防衛のために必要な措置だろうともわかる。

 皆が皆、口を開けばアズリアへ怯えているが違う感想はないものだろうか。


「港に行くのでしょう?でしたら気をつけた方が良いです」


 スタッフはそれっきりその話題について話すつもりはないらしく、次の方、とツカサの後ろへ声を掛けた。仕方なしにツカサは場所を譲り、ゲイルニタス乗合馬車組合へ足を向けた。

 ラングからもらった紹介状はもうない。価格は覚えていたのでいざとなれば言うつもりだったが杞憂で済んだ。

 担当してくれたのは若い女性だったがとても丁寧で、かつ、親身になってくれたのだ。


「王都を避けて通るのは逆に危険だわ」


 ブロンドを一つに束ねた釣り目の女性スタッフ、フォウが声を潜めて言う。やはり大声でするような会話ではないらしく、自然、お互いに身を乗り出して内緒話になる。

 ツカサは素直にヴァンドラーテという港を目指すこと、王都を通るのは怖いと感じていることを話した。その結果、フォウからは先ほどの答えが返ってきたというわけだ。

 アズリア国内のルートにも明るいというここの乗合馬車組合は、ツカサと同じような問い合わせも多い。そして、安全なルートを教えてこそのプロなのだ。


「逆に危険なのは、どうして?」

「地図はある?なければ出すわ」

「こういうので良ければ」


 ツカサはいつもの地図を出して見せた。これでいいわ、とフォウは地図を指差して教えてくれた。


「ヴァンドラーテという港はこの辺りにあるの。この国境から真っすぐに東へ行って王都、そこから少しだけ北上した海沿いなの。ここまでは良いわね?」

「うん」

「東へ直進すると王都を必ず通るのよ。これを迂回するとなると時間もかかるし、わざわざ通らないというのも正直怪しいの」

「でも、それって旅人の勝手じゃないの?」

「だって、大きな街道をはずれると道中山賊とかもいたりするのよ?そんな危険を冒してまで王都を避けて通るなんて、後ろめたいことがあると言っているようなものよ。あるの?」

「いや、ない」


 山賊や盗賊くらいなら相手取れる気もするが、王都を迂回するだけでそんな目で見られるとは思わなかった。ツカサは腕を組んだ。


「迂回するとそんなに危険?」

「どうしてもというなら止めないけど、非がないのなら真っすぐ()()()を行くことをお勧めするわ」


 ここまで言われるからには何かあったのだろう。ツカサは王都を通る道で了承し、ヴァンドラーテまでの印をつけてもらった。

 王都まで東へ直進、王都を出てからゆっくりと北上してヴァンドラーテへ行くルートだ。アズリア側の乗合馬車組合で今のやり取りをしていたら、少し危なかったかもしれない。

 ルートの策定が完了して宿に戻り、エレナとミリエールに共有をすればただ頷かれた。


「まぁ、悪いことしたわけでも考えてるわけでもないし、それが無難なのかしら」


 ミリエールが呟けばツカサも苦笑を浮かべた。エレナは少しだけ考え込んだあと、言った。


「アズリアでのルールを決めましょう」

「ルール?」

「えぇ、まず一つ、ラングとアルの名前を呼ばないこと」


 きょとりとエレナを見て首を傾げた。逡巡しツカサは危険性に思い至り、頷いた。


「名前バレてるのかな、でも、もしもがあるよね。わかった」

「それから、滞在は必ず三日」

「一日ではなく?」

「物資も補給せずに出るのは、馬車もちの冒険者としてはおかしいでしょう?」

「それもそうか」

「あと、馬車にある程度荷物を載せるわよ」

「どうして?」


 尋ねたのはミリエールだ。


「明らかにアイテムバッグやアイテムボックスを持っています、というのがバレるからよ」

「あ、そっか」

「ツカサは鑑定をされないように気をつけるのよ」

「わかった」


 貴重なアイテムは持っていない振りをしたいということだ。ツカサは頷き、ジュマでもらっていたサツマイモの箱に干し肉などの食材を入れることにした。おかしくないよう、明日食材を買って詰めて国境を越える。

 鑑定に対しては、見せたくない、見せない、と強く思うことにした。阻害に関わるスキルはまだ形になっていない。


「エレナ、前にアズリアを通った時はどうだったの?」

「十年以上前よ。何一つ役に立たないから全て初見でいた方が良いわ」


 エレナがいつになく誰よりも慎重に、緊張しているのがわかる。

 それはきっとラングとアルの手紙が切っ掛けで、年長として、若人に任せておくには不安だと思っているからだ。ツカサは少しだけ不満でありショックでもあった。ここに来るまでエレナから信頼を得ていたと思っていたが、こういう時、どうしてもツカサは子供扱いされてしまう。頼ってほしい気持ちが、プライドが育ってきていた。


 ラングが相手なら、エレナは何も言わずに頷いただろうと容易に想像も出来た。


 俺だって、という言葉が喉の奥で叫ぶ。


「ツカサ?」

「あ、ううん、何でもない。いろいろ準備しないとだね」


 ツカサは顔を覗き込んでくるミリエールに嘘の笑顔を浮かべてみせた。

 

 少しだけラング(師匠)と離れすぎていた。

 追いつきたかった背中は徐々に霞み始め、鍛錬では勝てる割合が増えた。

 短剣を、ショートソードを、魔法を駆使して膝を突かせるイメージだけが増えていく。

 

 これでいいのか、いいや、本当はもっと強い、けれどもしかしたら。


 共に行動した一年弱よりも長くなった離れた時間。それはツカサを成長させもしたが、増長させることにもなった。

 きっと完璧に務めてスカイへ渡ってやる。

 ツカサのそんな声を知る者はいなかった。




 膿んだ決意を抱きながら、翌日ギルドで手紙を出し、買い物をし、馬車に詰め込んで国境を越えた。



 

 扉一つ通ってがらりと変わる雰囲気。どの国境を越えても感嘆の音が零れる。

 ガルパゴスの白基調の家屋から、オレンジがかったレンガの石組がカラフルに見える。ツカサは街並みを温かいと感じた。

 とはいえ温かいのは家屋の雰囲気だけだ。役人の、オイルでピシリと撫でつけられた男性の髪や、ぎゅっとひっつめた女性の髪形、首元まで閉めたボタンの服などはツカサに閉塞感を覚えさせた。

 商人は目立たぬように馬車を走らせ、足早にガルパゴスへ抜けていく者もいれば、慣れているのかリラックスしてやり取りを行う者もいる。買い物のやり取りは笑顔を見せてくれているので、役人が少し特殊な立ち位置なのかもしれない。

 国境都市に一般市民は少ないらしく、ここではそういう人たちばかりが目に付く。加えて、鎧を着た衛兵が足並み揃えて巡回していたので驚いた。今にも犯罪者に飛び掛かりそうな雰囲気に、訳もなく緊張した。

 ガルパゴス側で買い物も済ませてきていたのでそんなアズリア側の国境都市はすぐに出立することになっている。足を止めずにそのまま国境都市を出た。

 馬車に摘んであった食材が証明になりすんなりと出ることが出来た。


 ここから東へ向かい、中継地点スヴェニを目指す。

 

 火竜と潮騒の月の変わり目、少しだけ暑い風が吹き始めた季節。

 小麦の刈り取りが終わった畑は広々としていて、冬の作付けが行われていた。黄金の小麦畑も見てみたかったが贅沢は言わない。


 とにかく、無事にこの国を抜けるのだ。






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