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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第二章 別々の場所で

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2-49:旅の初心者と玄人 <ラング・アルside>

2話目です。


 アズファルとアズリアの国境都市ジャンヴェードを目指す。


 道中、ダンジョン都市を一つ、街を一つ、最後に国境都市へ到着する予定となっている。

 旅程としては王都ヴォレードから国境都市ジャンヴェードまで凡そ二、三か月と言ったところだ。

 ただこの見込みはルノアー青年のかつてのボロ馬車基準なので、今回はもう少し早いだろう。心配なのは冬を迎えることだ。

 エルキスにいた期間が長すぎたため、暦の上では既に雪花の月、十一月に差し掛かろうとしている。空気は冷え込み、びゅうと吹き抜ける風は肌を刺すようになってきていた。


 ルノアー青年、名はカシア・ルノアーが言うには、アズファルとアズリアはどかりと雪が降った後は早々に雪雲が離れるらしく、足止めをされてもひと月ほどだという。

 その時期はダンジョンのある街ヴェレヌに滞在をするようにしているので安心してほしいと言われた。冒険者には有難い配慮だ。



 道すがらヴァロキアでのことも質問を受けた。

 


 ジュマの迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)のこと、マジェタの予言と道中の防衛のこと。

 多くを語る言葉を持たないラングは沈黙を貫いていたが、その姿がまたかっこいいとルノアーには映ったようだ。

 マジェタの件はアルが既にいたので、大きな身振り手振りを交えてラングやツカサ、エレナのことを語って見せた。

 アルが自分を少し良く見せようとするとラングから補足が入るのがルノアーは楽しかった。


 馬の速さに合わせてラングが前、アルが後ろを護衛する。時にすれ違う冒険者や隊商があれば横に。馬車が新しくなったこともあり車軸の滑りも良い、ルノアーは機嫌よく手綱を打った。

 それを止めたのはラングだった。


「馬が疲れる、定期的に休憩を取るべきだ」


 それは二つ目のキャンプエリアで言われたことだった。

 ルノアーは近づいてきたラングの開口一番がそれで驚いた。馬の鬣を梳いて手入れしていたルノアーは馬とラングを交互に見た。


「気を付けているのですが…」

「速すぎる、元々死にかけた馬を手当てしたのだろう。であれば、他の隊商の馬と同じに考えない方がいい」


 ぶるる、と嘶く若い馬は血気盛んに蹄を掻いた。もっと鬣を梳けとでもいうのだろうか。


「新しい馬車で車軸がよく回り、進みが速い。後に響く」

「お詳しいんですね」

「故郷に愛馬がいる。それまでにも何頭か。殺されたり、若いころ知らずに無茶をさせ体を壊させてしまったりな」


 馬の首を撫でながら言い、ラングはルノアーを見遣る。


「長い付き合いにしたければ、相棒の体調にはよくよく気を配るんだな」


 経験からの助言に、ルノアーはこくりと素直に頷いた。ぽん、とラングは馬の首を叩き野営に戻る。

 馬はルノアーの髪をむしゃりと食んで鼻息を浴びせた。


「お前、あの人の方に懐いてるな?だめだぞ、相棒」


 ルノアーは馬の首に抱き着いて駄々をこねた。


 野営はとても快適だった。

 食事をせっせと支度するルノアーだが、石を組んで竈を作るより冒険者が簡易竈を組み立て火を熾す方が早く、硬いパンをそのまま食べるよりスープに浸す方が当然のように美味しい。

 ラングは途中から食材を引き受け、料理をするようになった。

 アルはそれがラングのストレス発散だとツカサから聞いていて、もじもじしているルノアーに好きにやらせてやってほしいと頼んだ。


 調味料や薬味の入った棚のような鞄、手際よく鍋の中で仕上がっていく料理。火で少し炙ったパンのさくさく感。

 ルノアーはその食事に毎回驚かされた。


「報酬額を上げないといけない気がします」


 温かい野菜スープとパンで腹を満たし、分けてもらったハーブティーを啜りながらルノアーが呟く。

 まだ駆け出し、まだ子供に近い青年。

 大人の厚意が有難く、そして誇りがあるからこそ申し訳なかった。


「気にするなよ、俺たちのが大人だし、旅も慣れてる。お前、これが二回目なんだろ?」

「はい、前回はマイロキアまでで…、アズリア方面は初めてです」

「だとしたら旅は慣れてるやつから習うべきだ。後々のためにもな」

「ありがとうございます」


 アルがにかりと笑い、ルノアーも控えめに笑う。


「それに、ラングにはラングの目的があるみたいだし」

「目的?」

「まぁ、いろいろ」

「はぁ」


 ハーブティーを啜り、ちらりと大人二人を眺める。


 道中、ここまで安全とは言い難かった。


 前述のとおり冬が近づいており、路銀の計算が出来なかった冒険者や仕事にありつけなかったならず者というのが数組現れていた。

 こういう時期だからこそ護衛を雇ったのだが、その護衛が優秀すぎた。


 よくある荷物を全部置いていけ、とか、少し恵んでくれ、などの口上が終わる前に全員が呻くだけに変わる。若い商人にこんな手練れがついているとは誰も思わないのだろう。

 そうしてボコボコにした相手から僅かばかりの情報と荷物を奪う鬼畜具合、ルノアーはきゅっと唇を噛んで悲鳴を抑えるので精いっぱいだった。

 

「稼げるダンジョン行けばいいのになぁ」

「そういう知恵がないからここにいる」

「そらそうかもしれないけどさ、おい、突き出されるのと謝罪するのだとどっちが」

「甘やかすな、殺すの一択だろう。こういう輩は何度も繰り返す」

「ひぃっ!謝罪で!本当にすみませんでした!真っ当に働き口、探します!」


 こんな会話が毎回繰り広げられるのだ。



 冒険者って怖い。



 だのに戦闘以外では非常に親切なのでルノアーは混乱を極めていた。

 今まで商人畑で生きてきたので、冒険者と関わったのはこれが初めてと言っても過言ではない。だから野営の方法なども詳しくなかった。

 だが冒険者というのは非常に快適に過ごしていた。前回、マイロキアまで襲われないか、積み荷を奪われないか、常に緊張して行動していたので冒険者からも距離を取っていた。



 知らなかった、ダンジョンでドロップするアイテムバッグの有用性を。

 知らなかった、火を熾すためのアイテムを。

 知らなかった、夜道を照らすランタンが、冒険者には容易く手が届くものだということを。


 

 ルノアーは毎日目を回していた。



 そして共に過ごすうちに、この二人が異常なのだとも気づいた。



 他の冒険者や隊商と少し距離を空けるのは礼儀、ルノアーは調理を任せるようになり、観察に注力した。

 簡易竈を持つ冒険者は多いが、やはり携帯食や乾燥野菜、干し肉を食べる冒険者が多い。ラングのように新鮮な野菜を取り出す者はいない。

 聞けばアイテムバッグ持ち、かつダンジョン産らしく時間停止機能付き、容量は少ないというが決してそうは思えない。

 ただ、鑑定の出来ないルノアーにはそれを信じるよりほかになかった。



 他の隊商と情報交換や商売をする際にはアルがひょっこりついてきてやり取りを眺めていた。



 年若いルノアーは歴戦の商人に買い叩かれることも多い。それに、これはあまり売れない、こちらは売れる、など一方的に言われ価格を決められそうになってしまう。

 もちろん、ルノアーはやられっぱなしではいないので、理路整然と反論もする。だが、相手の人数が多いと不利になりがちなのだ。

 隊商(キャラバン)というだけあって主人と仕えと護衛、大きくなればなるほど人数が増え、取り扱い商品の幅もある。経験があるのだと暗にアピールするのだから気後れすることがある。

 そういうとき、ふと、アルが口を出すのだ。


「それ、どうやって加工するんだ?」


 これで三回目の口出しだった。


 相手の商人がこれはアズリアで売れるぞ、と言った素材。それの加工法を尋ねた。

 商人はきょとんとしたあと、営業スマイルで語った。


「これはアズファル西部のダンジョンで出土した物でして、マルルグスという大蛙の皮です」

「特性は?」

「それはもちろん、伸縮性です!水はけもよく雨に強い、冒険者の方もよく身に着けておられます」

「そうかな?俺にはそれ使いにくそうだけど」

「何をおっしゃいます、一度使えばやめられませんとも」

「ふぅんどう使われるんだ?」

「マントや幌の素材です、冒険者には前者のマントですね」

「触ってみても?」

「どうぞどうぞ」


 アルはひょいと紐で縛られた皮を持ち、それから撫でた。


「広げていいか?」

「もちろんですとも」


 紐を解いて広げ、また撫でる。

 ルノアーの方へも広げ、顔を少し傾けて触れと示した。


「…思ったよりごわついていますね」

「これ鞣して直るもんか?」

「もう一枚薄皮を剥げば触り心地は悪くありません」

「手間がかかるな、この状態でいくらなんだ?」

「それは元値を教えることになるので」

「多く見積もっても五万リーディくらいだろ」


 アルがすぱりと言い、商人は一瞬だけ笑顔が固まった。ルノアーはそれをしかと確認した。


「加工が必要で、そのあと製作費もかかるだろ。加工費込みだと十三万程度、そこからマントに仕上げていったら技術料、雑費込みで十八万くらいか」

「まぁまぁ高値になりますね」

「それで、これを未加工の状態でいくらだって言ったっけ?」

「人気だから八万と言っていました」

「ぼったな。武具屋に直接卸しに行く冒険者舐めんなよ」


 アルは皮を商人の馬車へ戻した。

 ルノアーはアルに背を押されラングと自分の馬車の方へ促された。


「どうだ?」


 尋ねたのはラングだ。


「ラングの言うとおり、(たな)だと強いだろうけど、行商人としてはまだまだだ」

「そうか」


 ラングが差し出すコップを受け取り一口飲むと、すーっとしたミントの香りに甘いハチミツのお茶だった。ハチミツはなかなか手に入らないのでルノアーは目を輝かせた。


「ルノアー」


 名を呼ばれ顔を上げる。


「その男、ケチだからな、武器防具屋に直接素材を売るので物の価値は詳しい。行商なら冒険者も相手にすることがある、盗めるだけ盗め」

「ケチって言うなよ!堅実って言って!」

「あの、どうしてそこまで」


 おずおずと尋ねたルノアーにラングは答えた。



「使える良い商人を育てるのも冒険者(ギルドラー)の役目だ」

 






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[一言] 弟子のツカサがいない代償行為でもある?
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