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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第二章 別々の場所で

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2-20:こんにちは、私

本日三話目です。


 すっかりと居ついてしまったオルワートの滞在も、あと三日となった。


 出立のための食糧調達や行先の確認、ラングとアル、【真夜中の梟】へ移動をすることも伝えた。

 次の湖交易都市ルフネールへは馬車移動で六日、そう遠くはないが鈍行で行けば十日ほどだろう。ツカサは屋台で食事をちょこちょこ買い込んだ。


 解散した【微睡みの乙女】のメンバーは、それぞれが別のタイミングで挨拶に来た。

 タチアーナとベルベッティーナはギルドマスター・アイリーンの手配で、信頼のおける商人の隊商護衛としてヴァロキアの王都まで行くことになった。女子二人で旅をするよりは安全だろう。

 タチアーナはこれまたしっかりしたもので、ツカサにヴァロキアの冒険者を紹介してほしいと言い、ツカサは【真夜中の梟】に許可を得た上で彼女たちに紹介状を持たせた。

 ファーリアはまた別の隊商の護衛として、他の冒険者とともに出立をした。こちらはアイリーンからの紹介状を持っていくことになり、ツカサは手を出さなかった。

 アイリーンからの援助はこれが最後だ。

 ファーリア自身もそれを理解し、王室からの援助金はギルドに預金したという。今後はファーリア自身の足で立たねばならない。

 一言、視野を広げます、とファーリアはツカサに伝え、オルワートを旅立っていった。



 きっと、良い方向へ行ってくれるはずだと願わずにはいられなかった。



 ツカサ自身の出立の前日、彼の下を訪ねる人がいた。



「こんにちは」


 それがダンジョンで剣を交えた相手であれば、さすがにツカサも驚いた。


「ナルーニエ、顔出していいの?」

「私、ナルーニエじゃありません」


 つんとそっぽを向いて答える姿は確かに()()()()()には見えない。

 髪型は変わらず、装備も同じなのに全くの別人に思えた。

 ツカサは首を傾げてみせた。

 

「じゃあ、君は誰?」

()()()()()、私はミリエール。元は男爵家の娘でしたが、潰れたので冒険者になりました。といっても、ご存じでしたよね?」

「まぁね」


 ツカサは肩を竦めてから少女、ミリエールに向き直る。鑑定でナルーニエ以外の名前を持っていることも把握していたので驚きはしない。


「明日出立するから準備で忙しいんだ、何の用かな」

「まず伺わせてください、目的地はどちらですか?」

「スカイ」

「そこまで連れて行ってもらえないでしょうか」


 深々と頭を下げ、ナルーニエ改めミリエールは皮袋を差し出した。


「金貨五十枚、あります」

「依頼ってこと?」

「はい」


 頭を下げたままのミリエールを鑑定する。


【ミリエール・アンドゥロ(16)】

 職業:元暗殺者 元男爵家令嬢 銀級冒険者 

 レベル:40

 HP-- - -  ---

 MP:-- - -

 【スキル】

 変装

 剣盾術Lv.3


 年齢と名前、称号、スキルを確認する。

 HP、MPが表示されなくなったのは一年程前だ。

 

 ツカサの中でレベルとは何か、表示される情報が何かを考えている間に、見えるものと現実の人との乖離が進んだ結果だ。レベルは参考値程度に留めてはいるが、HPがあっても急所に当たれば死ぬのは当然、MPはあっても使用できなければ持ち腐れ、とツカサが意味を見出さなくなってからは表示されなくなった。


 ツカサはふと、表示されるHPは生存率の高さなのだと気づいた。


 そうであれば納得がいくのだ。ラングは危険を事前に潰して回避する、だからこそHPが多い。逆に、まだ駆け出しと言える冒険者のHPは今にも死にそうなほど低い。それは危機管理能力によってある程度ふり幅があるのだ。

 今のツカサには生き残るための術もあれば対策も講じられる。初期に比べれば生存率は上がったと言える。


 ツカサは漠然と、そのうちレベルも表示されなくなりそうだと思った。


「大丈夫ですか?」

「あぁ、うん」


 声を掛けられ、ツカサは眉間を揉む。

 人を前にして考えに耽るのは悪い癖だとわかっていながら、これがなかなか直せないでいた。

 苦笑いを返しつつ、ツカサは改めて目の前の少女の依頼に向き直る。


「ミリエールはこの大陸(スヴェトロニア)を出てもいいのか?」

「というよりはむしろ出ないと危ないかなと。ファーリアが無事に王籍を外れてくれたから、アズリアがフェネオリアに余計なことをする確率は減りました。でも、私、要は失敗した暗殺者な訳なんです」 

「しれっとしてたらだめなの?」

「誤魔化してくれてる人はいますけど、私がどこかで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を交渉材料にするかもしれないじゃないですか」

「危険分子は排除される可能性のが高い、か」

「そうなんですよ」


 ミリエールは大きく頷いてツカサを正面から見た。


「なので、スカイまで連れていってください。もちろん、私も働きますよ。身に着けたタンクの技は見かけ倒しじゃありません」

「それはわかっているけど、エレナに相談だな」

「ここで待ってます」

「押しが強いな、まぁいいけど」


 ツカサは肩を竦めて部屋に戻り、エレナに状況を伝えた。

 エレナは驚いていたが、ツカサの判断に従うと答えた。


「パーティには入れるの?」

「いや、入れない。依頼なら護衛対象で居てもらったほうがいいからね」

「そうね、ツカサがそう判断したならそれに従うわ」

「エレナ」


 ツカサはそっとエレナの手を取り、真面目な顔で尋ねた。


「含みがあるよ、言ってほしい」


 エレナは苦笑を浮かべ、自分の手に置かれた手をさらに上から包み込んだ。


「老婆心だわ、ツカサの人が好すぎて心配なのよ。少なくともあなたが引き受けることではないもの。ラングだったら即答で断るでしょう?」


 言われ、ツカサはぐっと喉を詰まらせる。

 ミリエールを連れて歩くことは、他の暗殺者に追われる可能性を孕んでしまう。

 エレナの言うとおり、ラングであればすぐさま断っていただろう。アルであっても、わざわざ危険を受け入れることはしない。

 

「ねぇ、ツカサ。なぜ受けようと思ったの?」


 それは当然の疑問だ。ツカサ自身も問われたことで改めて考える。

 なぜ、ミリエールの依頼を自然と受け入れようとしているのか。


「たぶん、俺は、死んでほしくないんだ」


 ぽつりとこぼした言葉だからこそ、素直な気持ちだった。


「ラングにも言われたけど、俺は、知っている人が死ぬの、嫌なんだ」


 かつてジュマで【真夜中の梟】とダンジョンに行くことになった経緯もそうだった。ラングはそれを仕方ないと受け入れ、付き合ってくれた。


 だが今ならわかる、それはラングに守れるだけの力があったからだ。

 だからこそ師匠の教えに倣ってツカサの背中を押してくれた。


 ツカサはようやく、自分の中で一つの覚悟が決まった気がした。


「エレナ、俺はミリエールをスカイへ連れていく。死ぬだけの罪を背負っているとは思えないから、だったら生かしてあげたい。ただその代わり、俺はエレナもミリエールも必ず守るよ」


 エレナは仕方なさそうに微笑み、ツカサの頬を撫でて頷いた。


「わかったわ、その覚悟があるのなら文句はないわ。ただね、あなたのその優しさがいつか命取りになるんじゃないかって、心配なのは変わらないのよ」

「わかってる、証明も難しいし行動と結果で信用してもらえるようにするよ」

「そうして頂戴」


 ツカサはエレナに笑顔を見せてそっと手を離し部屋を出た。

 異世界でここまで気にかけてくれる人がいる、そのことを幸せに思いながらツカサはミリエールの下へ戻った。

 ミリエールは宿のロビーの端で気配を消して立っていたが、階段を降りる足音に駆け寄ってきた。


「どうでしょうか」

「依頼は受けてもいい、だけど先払い、スカイへの船代は自分で出すんだ。アズリアまでの道のりで食事代とか宿代とかで金貨五十枚はかなり減ると思う」

「ダンジョンに同行して、私の分け前を二割入れます、どうですか?」

「宿も一緒に出すんだ、三割」

「わかりました、それで頑張ります」

「出発は明日の朝、日の出と共にオルワートを出る南の門前で集合する、遅れたら置いていく。合流したら支払ってもらうから、今はまだ受け取らない」

「わかりました。私、今日中に城下は出るので、外で待ち合わせでもいいですか?」

「そうか、わかった。じゃあ城下を出て合流で」

「はい、よろしくお願いします。そうしたら私は早速動くので、また」


 ミリエールはぺこりとお辞儀をして笑顔を見せた。


「私、私として冒険するの初めてなんです」

「それはおめでとう」


 ツカサは何も考えずにそう言ったが、それはミリエールにとって最高の一言だったらしい。

 ミリエールは踊るように軽やかなステップで宿を出ていった。





 ―― 翌朝、毎日の薬湯は変わらず、朝一に喉を潤す。

 幸い、出立の朝は良い天気で青空が広がっていて気持ちが良い。


 道すがら朝食に屋台の食事を買い、ルフレンの手綱を取りながらサーモンサンドを頬張る。

 南門で出立の手続きをして出門税を支払い、オルワートに別れを告げた。


 しばらく道なりに進むと岩に腰かけたミリエールを見つけた。


「おはようございます」

「おはよう、はいこれ」

「あ、でた、サインするやつ」


 ミリエールは御者席から差し出されたノートを見て笑う。受け取り、中身を確認してペンを借りる。サインをしてツカサに返すときに革袋も差し出した。


「よろしくお願いします」

「よろしく、敬語は良いよ、長い旅になるし」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 こほん、とわざとらしい咳払いの後、ミリエールは朝陽の中でパッと花開くように笑った。


「よろしく、ツカサ!」






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