2-18:待ち侘びた手紙
お待たせしました!まとめて更新していきます!
「お帰りなさいませ」
宿に駆け込み、カウンターの人が穏やかに挨拶をしてくれる。
ツカサは息せき切ってカウンターへ跳び付いた。
「ただいま!エレナは部屋にいるかな!?」
「先ほど、丁度戻られていましたよ」
勢いよく来られたのでスタッフは少し身を引いて驚いていたが、問いかけにはすぐに答えてくれた。
「ありがとう!」
礼を言い、ツカサは階段を二段飛ばしで駆け上がる。
ドアをノックするのも忘れいきなり開けようとしてガチャガチャとドアノブを引っ張ってしまった。
「エレナ!ただいま!俺だよ!」
「まぁまぁ」
とんとん、と近寄ってくる足音がもどかしい。鍵が開いてエレナが出迎えてくれた。
「おかえりなさい、どうだったの?」
「そんなことより!これ!」
ツカサは部屋に入りながらエレナに手紙を差し出した。
「まぁ!」
「今ギルドで受け取ってきたんだ、居ても立っても居られなくて」
「まだ読んでないのね?」
「うん、それどころじゃなくて」
「えぇ、わかるわ、だからこそツカサ」
ピタっとエレナが人差し指をツカサの眼前に突きだした。
「お風呂に入っていらっしゃい」
ツカサは何度かぱたぱた地面を踏んだが、装備を外して風呂場へ駆け込んだ。
―― 温かい湯はツカサの緊張をほぐし、ある程度の落ち着きを取り戻させた。
ほかほかの湯上り、髪をざっと乾かしてエレナが淹れてくれたお茶で一息ついた。
「ありがとう、落ち着いた」
「じゃあ読みましょうか、もちろん、ラングとアルのお手紙から」
「うん」
二人でテーブルに着いて封筒を開く。
封蝋は宿の安い蝋燭で、ラングの短剣の柄で押してあった。マジェタから脱する前にラングが【真夜中の梟】へ送ったときのことが思い出された。
指が震えてしまって、少しもたついた。
封筒から手紙を取り出す。それなりの枚数が入っていて驚いた。
エレナと顔を見合わせて手紙をテーブルに置いた。
―― ツカサ エレナ
こちらは無事だ。
アズリアへ着いた。
スカイへ渡る手段を探す。
わかり次第連絡は入れる。
ゆっくり見て回ってこい。
―― ラング
「ア、アズリア!?」
「あら、随分先にいたのね」
エイーリアでダンジョンに居る間に追い越されたのだろうか。
「でもやっぱりというか、端的だなぁ」
「アルの手紙に期待しましょう」
残った手紙は全てアルが書いたものらしい。走り書きのような、若干汚い字だ。これはきっとラングに急かされていたのだろう。ところどころ文字が繋がっており、慌てていたことが見て取れる。
笑いそうになって堪えたが、エレナも同じ見解なのだろう。顔を見合わせてついには声を上げて笑ってしまった。
なんだか肩から力が抜けた。手紙だというのに流石アルだ。
お茶で喉をもう一度潤し、手紙に向き直る。
「読もうか」
「そうね」
音読はせず、机に手紙を広げた。
―― ツカサとエレナへ
よお!元気か?
こっちは元気、ラングの難解な言い回しにも慣れてきたよ。これをすんなり理解してたツカサ本当すごいわ。
おっと、ラングが手紙を早くしろってうるさいから、こっちの状況をばばーっと書いてく。
魔獣を引き受けたのは良いんだけど、空を飛ぶ厄介な奴が一匹いて、そいつを討伐しようとして空に持ってかれちまって。
着地できる場所を選びながらトドメ刺したらそこがエルキスだったんだ。
「エルキスって、ここか、フェネオリアと、アズファルの間、山の間にある国」
「そうね、精霊信仰の盛んな国家だったはずよ。決まった国との交易しかやっていない閉じた国だわ」
「うん、ブルックの本にそうやって書いてあったね」
エルキスで牢屋に入れられちゃって、そこでいろいろあって、ちょっと滞在が長引いた。
四ヶ月くらいかな。
それからいろいろあって、アズファル側へ抜けることになった。
アズファルは俺が土地勘あるからスムーズにアズリアへ行ったよ。
エルキスには冒険者ギルドがなくて手紙を送ることも調べることも出来なくてさ、二人の動向なかなか掴めなかった、ごめんな。
アズリアの冒険者ギルドで【真夜中の梟】に連絡をして、二人が今オルワートにいることをやっと知ったんだ。
心配かけたみたいでごめんな。
ロナとカダル、エルドにマーシからもすごいお叱りの手紙貰ったよ。
今はアズリアの港街、ヴァンドラーテを目指すところだ。
スカイへの船はある程度あるみたいだけど、手続きだとか金額だとか、まだこれから調べるところなんだ。
わかったら連絡するから、ヴァンドラーテに着いたときに参考にしてくれ。
俺たちはツカサたちを待たないでスカイに行く。
ラングが手紙に書いたって言ってたけど、よく見てよく経験してから来いよな。
ゆっくりでいい、一期一会を楽しむのも、冒険者の醍醐味だからさ。
あと、マジェタで採掘した宝石類、悪いけど旅の資金にさせてもらってる。
アズファルはダンジョンが少なくて、護衛依頼で移動したけどやっぱ一応な。
そっちも手っ取り早く資金調達に使うように、って今横でラングが言ってる。
まぁ、言われなくてもまともな金銭感覚のツカサな
「文字途切れてるんだけど」
「ラングに睨まれたんでしょうね」
とにかく、こっちは無事。五体満足。
また連絡するよ。
オルワートを出る前にはまた手紙入れてくれ。
こっちもスカイへ渡る前に手紙をヴァンドラーテの冒険者ギルドに残すから、必ず確認に行ってくれ。
それじゃ、またな。
―― アル
嵐のような手紙だった。
けれど、今まで胸にあった不安が払拭され、ツカサは椅子に沈んだ。
エレナも同じようで、隣で安堵の息を吐いて手紙を撫でた。
「でも、牢屋ってなんだろう」
「しでかさない訳がないのよ」
「まぁ、それはそう」
何一つ否定が出来ずに笑ってしまう。
「本当によかった」
ツカサの呟きに、エレナが頷いた。
それに、ラングはやはりツカサの前を歩き続けてくれていた。
ツカサたちはフェネオリアルート、ラングたちはアズファルルートと道は違うが、アズリアで調べて、行動して、残してくれる。
先への安心感は今までのツカサの緊張を溶かしていくようだった。
「ロナとカダルのお手紙も読みましょう?」
「あ、そうだね」
ぱっと体を起こして二通の封筒を開ける。
まずはロナから。
―― ツカサへ
もしかしたらもう受け取っているかもしれないけど、ラングさんから連絡来たよ!
まさかのエルキス経由でびっくりしたけど、無事が確認できて安心した。
でも、一年以上経つのに今まで連絡なかったんだって?
僕は心を鬼にしてラングさんとアルさんに手紙を書いたよ!
ラングさんとアルさんの無事はマジェタの冒険者ギルドにも伝えたから、もしかしたら王女サスターシャ様の声明で冒険者ギルドに回るかもね。
それで知るよりも、ラングさんからの手紙で知れるといいんだけど。
王都マジェタの状況を伝えるね。
壊れた城郭の修理はほぼ終わったと言ってもいいよ。
家屋の修繕も、解体場も掘っ立て小屋じゃなくてきちんとしたものになった。
魔獣が出てくるペースが二年近く変わらないから、もうしばらくは手伝うことになりそう。
もうたくさん稼げちゃって、これが終わったらまた休養期間取るんだ、ってエルドさんが息巻いてるよ。
なかなか書く決心がつかなくて遅くなったけど、ミラリスさんと話したよ。
ツカサのおかげで変われた、って本人が言ってた。
マジェタの迷宮崩壊が落ち着いたら、冒険者として旅に出るそうだよ。
こっちはまだしばらくマジェタにいるから、手紙はここでお願い。
またね。
―― ロナ
「ミラリス…」
【変換】のスキルが怖くて、責任が怖くて仕方なかった。
結果がわからず考えないようにしていたが、ロナの手紙からやってよかったのだと思った。
エレナはミラリスに会ったことはない。深く追及はせず、カダルの手紙を開いた。
「あら」
エレナの声にツカサも手紙を覗きこむ。
―― ツカサ、エレナさんへ
ラングとアルの消息がわかった。すでにアズリアにいるようだ。
【真夜中の梟】から手紙を送ったから、きっと二人の手元にも連絡が来ていると信じている。
何度かやり取りをしている間に、あいつらさっさと移動するものだから捕まえるのが大変だった。
移動が速すぎて【ここ】という確定が出来ず、連絡が遅れたことすまない。
ぬか喜びをさせるのだけは嫌だったんだ。
何かあれば手紙をくれ、援護射撃はさせてもらう。
―― カダル
相変わらず配慮のある人だと思った。
エレナと顔を見合わせて笑い合う。
「なんだか、安心したらおなかすいちゃったな」
「夕方だもの、食事にしながら護衛依頼の件も聞かせて頂戴」
「そうだったね、それも話さないと。前にエレナが連れてってくれたお店が良いんだけど、いい?」
「もちろんいいわよ」
ぐーっと体を伸ばして立ち上がる。
手紙は大事に空間収納に仕舞い込んだ。
「すっごいおなかすいた」
「たくさんお食べなさいな」
明るい声で部屋を出て、扉を閉めた。




