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【書籍化】処刑人≪パニッシャー≫と行く異世界冒険譚  作者: きりしま
第二章 別々の場所で

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2-8:【真夜中の梟】のあれから 2

予約できてませんでした…。

2話目です。


 王都マジェタに着いてサスターシャと食事を共にした後、【真夜中の梟】はまず宿を探した。


 宿賃の半額を王家が持つことを宣言しているからか、日ごろ泊まれないような宿へランクアップした冒険者が多く、【真夜中の梟】が泊まるランクは軒並み満室だった。

 正直困った。体が良い布団に慣れているせいでランクを落として泊まることが出来ない。加えて金級冒険者という肩書が世間的にランクダウンを許さない風潮もある。

 金級冒険者はその肩書のとおり、金級らしい生活を余儀なくされる。良い生活を見せることで他の冒険者を炊きつける役割も担っているのだ。

 

 どうしたものかと往来で相談をしていると、見知った顔に声を掛けられた。


「ようやく来たのか」

「そっちは随分前から来てたみたいだな、アルカドス」


 っち、と舌打ちをしながらも男、アルカドスはゆっくりとエルドの前に出た。

 アルカドスの後ろにはメインメンバーの五人も一緒にいる。この数か月で欠けた人員はいなくて安心した。


「あの生意気なパーティはさっさと尻尾を巻いて逃げたらしいな」

「目指す先が遠いんだ、それにヴァロキアの専属でもない。先を急ぐパーティならままある話だろう。あいつらは名声も求めていないしな」


 エルドの言葉に再度舌打ちをして悪態を吐く。

 しばらくにらみ合いが続いた後、アルカドスが口を開く。


「宿がねぇんだろう」

「あぁ、贅沢をしている冒険者が多いみたいでな」

「ッハ!今背伸びしてランクを上げた宿に慣れちまったら、あとで困るのはテメェらだろうによ」

「それには同意する。ところで何の用だ?」


 こうして会話を続けること自体が珍しい。

 かつて、まだお互いが青年であった頃、ジュマの迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)で隣り合わせになり時に背中を預けて戦った相手だ。命を守られて腕利きの冒険者を、夫を失わせてしまったことに負い目を持って進む道を違えた相手。お互いにある程度の理解はあれど、その道は決して交わることはない。

 アルカドスはむっすりとした顔をしたまま、ただエルドを睨み続けている。


「宿があるよ、って、言いに来たんだよ」


 ぽつりと言葉を落としたのはアルカドスの後ろにいた女性だ。

 気の強いマチルダがそう言った。


「あたしらがここに来た時にも苦労してさ、それで、ギルドが金級を集めてる宿があるんだよ」

「王女から案内を、その、任されてる」


 ツカサにナイフを投げて返り討ちにあった男性がばつが悪そうに言う。

 マーシは眉を顰めた。


「そら有難いけど、あの王女サマがそれをお前らに頼むことも、話し忘れるとも思えないな。何が目的だよ?」

「そ、そうかもしれないけど!でも本当に引き受けたのよ!」


 マチルダの横にいる女性が声を上げる。

 エルドはじろりと【銀翼の隼】を一瞥した。


 勝気なマチルダ。

 比較的冷静なミリアム。

 遊撃手のジャシャル。

 魔導士のミデラー。

 近接のレイドラント。

 それから、リーダーのアルカドス。


 ジュマの七十八階層を越えたメインメンバーはそれぞれが気まずそうにエルドから視線を逸らし、アルカドスだけがその視線を正面から返した。


「何が目的だ、アルカドス」


 エルドが尋ねればアルカドスは大きく肩を竦めた。


「あのガキ…ツカサが俺の怪我を治したと聞いた」

「あぁ、そうだ」

「礼と謝罪を伝えてほしい」


 むすりとした顔はそのままにアルカドスはそう言い、【真夜中の梟】はぽかんとした顔でそれを見ていた。


「なんだその顔は」

「いや、まさかそんな発言を聞くとは思わずにな」


 エルドが咳ばらいをすればアルカドスは盛大な舌打ちをした。


「宿は【金龍の籠】が対象だ、すでに部屋はあるだろう。一々冒険者ギルドで情報を集めるのも面倒だ、宿に集めるように指示してある」


 言い、そのまま背を向けてアルカドスは歩き出した。

 慌ててついていくメンバーの中、ジャシャルがその場に残りエルドの前に出た。


「あんなんで悪い、でも、あぁしたことをしたにもかかわらず情けを掛けられたことは堪えたらしいんだ。ちょっと、素直にありがとうとごめんが言いたくても、向こうも、ほら、俺たちに関わってほしくないだろうから…。すまないが、もしやり取りがあるなら一言伝えてもらいたいんだ。どうだろうか」

「それはまぁ、構わないが…ロナ、頼めるか?」

「はい、わかりました」

「恩に着る。アルカドスが言ったように、今のところのダンジョンや魔獣の情報は【金龍の籠】に全部集まってる。情報を得た上で前線基地に来てもらえれば詳しい指示があると思うぜ」

「あぁ、ありがとうな」

「伝えるべきことを伝えたまでだ。それじゃ、俺たちは先に前線に戻る」


 じゃあな、とジャシャルは手を上げてメンバーの後を追いかけた。

 しばらく呆然とした後、マーシが呟いた。


「なぁ、ラングの奴、これを見越してツカサに治させたのか?」

「わからん、旦那の考えていることはわからん」

「いいから行くぞ、少し目立ち過ぎた」


 カダルがエルドの背中に拳を入れて先を促す。アルカドスとの往来でのやり取りは人目を集めてしまっていたので、【真夜中の梟】は一旦言われた通り【金龍の籠】へ足を向けた。


 【金龍の籠】は貴族向けの良い宿だった。宿で手続きを済ませれば、話に聞いていたとおり部屋は確保されていた。

 このような状況下でも食事は十分、部屋付きの風呂は大きく、望めば女性をつけてくれる。マーシはそわそわとしていたが、カダルが断固として拒否を貫いた。宿で女を抱くのはパーティへの配慮が足らないマナー違反、するなら外へ出ろ、というのはどこのパーティも同じだ。

 貴族と冒険者の違いはそういった点でも見ることが出来る。


 ホールに臨時で看板が出され、そこに現状や時系列がまとめてあった。


 大体はサスターシャと門兵から聞いた通りの内容だ。

 金級は日替わりで魔獣討伐を最前線で行い、討伐魔獣により報酬の上乗せがあるシステムだ。


「カダルがわざわざ言ったけど、本当狩場がダンジョンから外になっただけだよな」

「必死だと視野が狭くなるものだろ」

「おーおー、ノロケちゃって」

「マーシ」

「はいはい、悪かったよ。それで、いつから行くんだろうな?」


 マーシが貼りだされた紙をきょろきょろと見渡す。

 ボードには紙が大量に貼られているので欲しい情報を探すのが大変だった。全員が紙をめくり、時に剥がして内容を確認する。


「あった!移動日は出陣を避け、翌日に前線基地へ顔を出すこと。指令は銀級冒険者パーティはマジェタ・ギルドマスター・グランツ、金級冒険者パーティは王女サスターシャへ仰ぐこと。だそうですよ」

「お、よくやったぞロナ」


 わしわしと撫でられてロナは少しだけ照れ笑いを浮かべた。


「よし、今日は休むぞ。酒は残らない程度にしろ。…迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)は冒険者を喰うからな」


 いつになく真面目なエルドの物言いに全員が頷き、その日は大人しくふかふかの布団で体を休めた。



 ―― 翌朝、【真夜中の梟】は前線基地に赴いた。

 前線とは言え場所は東口、崩れた城郭の中に仮設の建物がいくつも出来ていた。城郭の組み直しのために職人が走り回っていたり、討伐が済んだ魔獣を荷台に乗せ運んでいたりと忙しない。

 その中で見たことのある人物がいて、全員が足を止めた。


「そちらの解体場は今は埋まっている!悪いがその荷車は三番の解体場へ回ってくれ!その後ろは五番だ、少し離れるが解体場を広く取っているからそいつも入るだろう!」


 手に持ったバインダーを確認しながらテキパキと指示を飛ばしているのは、かつてロナを殺しかけたミラリスだ。

 髪をばっさりと切り、ギルドのスタッフ服を着て腰には剣が吊り下げられている。

 

 ジェキアに冬を過ごしに出ていたもので、あれからのミラリスをよく知らない。

 そんな【真夜中の梟】の視線を感じたのかミラリスが振り返り、目を見開く。少しだけ口元をもご付かせた後、そばにいたギルド職員にバインダーを渡し業務を引き継ぐ。


 恐る恐るといった様子で近寄ってきたミラリスは後悔の色を目に宿していた。


「あんたも来ていたのか」

「あぁ、ジル殿にお願いをして手伝わせてもらっている。貴方たちも召集されたのだな」


 あぁ、と答えるエルドの声が固い。ロナは杖を強く握りしめた。

 ミラリスはその様子に一度強く目を瞑り、それからゆっくりと頭を下げた。


「その節は大変申し訳なかった」


 前日の【銀翼の隼】にもそうだが、再び全員で顔を見合わせてしまった。


「本来なら出向いて謝罪し、許しを請うべきなのだが。どうしても顔を合わせられなくて、今になってしまった」


 申し訳なかった、ともう一度言い、ミラリスは窺うようにロナを見た。


「特に貴殿には、謝っても許されないことをしたと思う。だから許して頂かなくて良い、この迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)が落ち着いて保護観察が終われば、私はジュマを出ていく」

「あ、いや、そう、そうか。しかし、そのなんだ」


 ミラリスの殊勝な態度にエルドが困惑を極めた。

 その様子に苦笑を浮かべてミラリスは自分の胸に手を当てた。


「あの少年、ツカサが私の何かを変えてくれたのだと思う。突然、頭がはっきりとしたんだ。そしてやったことの恐ろしさを自覚した」


 語るミラリスを、カダルは目を細めてじっと鑑定を行なった。


「…あいつにあった【偽りの正義】のスキルが変容している。【軌道修正された正義】だと」

「なんだそりゃ、つーことはあいつのあの態度は全部スキルの影響だったってことか?」

「そこまではわからない、だが、ツカサが何かしたということだけは確かだろう」


 そのヒソヒソ話を聞きながらロナだけは小さく微笑み、一歩前に出てミラリスを真っ直ぐに見据えた。


「気づけたことを大事にしてください」


 声をかけてもらえるとは思わなかったのだろう、ミラリスは暫し言葉を失った後、小さく頷いた。


「はい、必ず」


 改めて頭を下げたあと、ミラリスは己に課せられた業務へとまた戻っていった。

 エルドは頭を掻いてから気を取り直した。


「よし、そしたら稼ぐか」

「そうだな」


 【真夜中の梟】はこうして迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)に挑み始めた。




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