(14)使い魔について
もし「続きを読みたい」「ちょっと面白い」と思っていただけたら、
「ブックマーク登録」「広告下の評価ボタン(できれば★いつつで!)」「いいねボタン」を押していただけると更新の原動力になります。ぜひよろしくお願いいたします。
「うん。じゃあいい機会だし、息抜きに使い魔について説明しておこうか」
そういうと、リュイはエルクラッドの向かいに腰掛ける。
「魔術――というか魔法全般かな。これらにおいて『名』と『契約』の概念はとても重要だ。エルクは『破門』って聞いたことある?」
リュイが首を傾げて問うと、エルクラッドが少し考えて問う。
「教会の懲罰の一つだよな? 火あぶりに次ぐ極刑で、竜祈法が一切使えなくなるとか言う――社会的にも教会から追放されて、行く場所がなくなるってやつ」
エルクラッドの言葉に、リュイが頷く。
「これが『名』を媒介にした『契約』――正確には『呪い』の一種なんだ。魔術師ギルドにも『破門』はあるけど、実を言うと『破門』を受けても体の仕組み的には、魔法が使えない体質になるわけじゃない。授かった術を使わないという約束が強制的に交わされるだけなんだ」
「なるほど。ところでお前なんで『破門』されてないの?」
エルクラッドの言葉にリュイは何も言わずににこりと微笑んだ。エルクラッドは軽口を叩くのをやめることにした。
「――とにかくね、相手の『名』――特に『真名』を知っていると魔法による干渉が容易になる。だから魔術が隆盛を極めた古代文明においては、貴族を含めた有力者は諱と言って本名と通名を分けて使っていたみたいだね」
水差しから木のカップに水を注いでエルクラッドの前に差し出すと、リュイは自分も口を湿した。柑橘系の果実とミントの葉をわずかに浸した水は、清涼感が強い。
「使い魔っていうのは、この『名』と『契約』を利用した魔術なんだ。対象となる生き物の『真名』を利用するか、それがない場合『名』を新たに付ける。その上で、対象の同意が得られれば使い魔として『契約』を結ぶことができる。これには対象の信頼を得ている必要がある。この庭のイバラたちみたいな植物だと同意も何もないけど、動物なら話は違ってくる。普通の魔術師は動物を子供の頃から育てて、信頼関係を築く。その上で使い魔にするんだけど、エルクは元々動物に好かれやすい質みたいだから、野生動物でも使い魔にできるかもしれない。梟や鷹みたいな猛禽の類は、狩猟や斥候の役に立つ。大きな犬なら護衛になってくれるし、馬なら自由自在に操ることができるようになる」
立板に水の如く話すリュイに、エルクラッドが口を挟む。
「鷹ならうちで飼ってるぞ。一年前だったかな。巣から落ちてたのを俺が拾って育てたんだ。馬の世話も好きだ。出産にも立ち会ったことがあるんだ。――まあボトンドはいい顔をしないけど」
「ボトンドって言うと、伯爵家の執事長さん?」
エルクラッドの出した名前に聞き覚えはあるが顔が思い浮かばず、リュイは首を捻る。
伯爵家には何度か招かれているが、執事長のボトンドにはなぜかあったことがない。
「ああ、昔から口うるさいんだ。年取ったせいか最近は腰痛で寝込んでることが多いけど」
隠居しろって言っても聞かないんだよなあと、頬杖をついてエルクラッドがぼやく。
「次の執事長ってなると、ジャンさんでしょ? まだ二十歳そこそこだって言うから、若すぎると思ってるんじゃない?」
そういうと、リュイはもう一度口を湿して話を戻す。
「使い魔になった動物は魔術師と精神的――あるいは魔術的なつながりを得ることで生き物として様変わりする。知能の上昇だったり、口が利けるようになったり――身体能力の向上、魔術師と同程度に寿命が延びたりする。条件は不明だけど稀に何らかの魔法的能力を得る場合もあるみたいだね。これを作為的に起こせないかと研究している人もいるけど、今のところ原理は解明されてないよ」
「使い魔って俺でも持てるもんなのか?」
リュイの解説に興味を示したエルクラッドが、自身もカップに口を付けてそう問う。
「使い魔契約の魔術式は魔術師側の『名』も使い魔側の『名』も違うから、個別に術式を組み立てることができないと難しいね」
リュイは「つまり」と付け加える。
「その程度の数学で躓いてるようじゃ話にならないってこと」
リュイが『初級数学』の、先ほどからエルクラッドが苦戦しているページをとんとんと指で示すと、エルクラッドがぐっと喉を詰まらせる。
「――善処する」
そう言うと、エルクラッドは再び『初級数学』に向き合い始める。
「まあ今日はもう休もうか。あんまり根を詰めすぎても仕方ないし」
リュイがそう言うと、エルクラッドも大きく伸びをして「そうする」と同意した。




