(12)ヘイジーばあさんのお出迎え
シスター・ペトラという予期せぬ嵐が過ぎ去った後。
リュイとレッキ・レックはヘイジーばあさんの住まう小さな森に分け入っていた。
小さな森と言ってもそれなりの広さがある。
間伐のされていない森は昼間でも暗く、視界が悪い。どこか不気味さを感じるのはばあさんが張った結界の影響だろうか。
「毒のある虫や蛇なんかいるかも知れないにゃ」
「捕まえたら薬の材料になるかも知れないね。でも他人様の森だから採取はだめかな」
「いや、気をつけろって言いたかったんだにゃ……」
リュイの斜め上な反応にレッキ・レックはがっくりと肩を落とす。
「僕は森に入るのなんて初めてなんだから気をつけようがないよ。ほらほら、結界が作用してないか探るから先導して」
「張り切るのはいいけど転んだり服引っかけたりしないようにするにゃ。まあ小さな森だけど、その服上等な――んにゃ?」
レッキ・レックは言葉を途中で止め、ピンと立った耳をぴくぴくとさせる。
「――鳥の羽音が聞こえるにゃ」
「そりゃあ森なんだから鳥くらい――とは言い切れないね。何せ魔術師のテリトリーだし」
そう言ってリュイが周囲を見渡すと、数えきれないほど大量のカラスに取り込まれている。真っ黒なカラスは
「にゃっ!? いつの間にこんなにカラスがいたにゃ!? 確かに羽音はしたけどこんなに数はいなかったはずにゃ!?」
動転するレッキ・レックに対してリュイは冷静だった。
「落ち着いてレッキ・レック。これは全部使い魔だ。ヘイジーばあさんは僕らのことを大歓迎してくれてるみたいだよ。――ところで鳥が祖霊の獣人族っているの? そういう場合鳥葬の習慣があったりするのかな?」
「遠い国にはいるって聞いたことがあるにゃ。――ってそういう話じゃないにゃ! カラスにつつかれるの嫌にゃ~!」
「使い魔なら魔力のパスを切っちゃえばいいんだけどこの数はちょっと厳しいな。一応奥の手があるにはあるけど、僕、殺生は嫌いなんだよねえ」
そうは言いながらもリュイは上着の中に手を入れてごそごそと何かを取り出そうとしている。リュイの魔術では基本的に物理攻撃ができない。だからいざという時のために、護身用の武器を持ち歩いているのだ。ただ大分物騒なものなので、リュイとしてもできれば使いたくないものではある。
その動きを止めたのは肩にのったパッフの鳴き声だった
「どうしたのパッフ?」
リュイが上着の内を探る手を止めてパッフの頭を撫でる。ふかふかもふもふだ。気持ちいい。
「ぷうう~~~~!」
パッフは高らかに遠吠えを上げる。リュイからすれば可愛らしい鳴き声に過ぎない。しかし、カラスたちにとっては違ったようだ。
パッフの鳴き声を聞いたカラス達は恐慌状態に陥る。カラスたちは翼をばさばさと乱し、おカアカアと喚き始めた。かと言って襲ってくるわけでもない。
「――な、何が起こってるにゃ?」
「わからないけど、カラス達はパッフのことが怖いみたいだね。とりあえず襲われる心配はなさそうだよ。先に進もう」
そう言ってリュイが前進を促すと、
『お待ち! 他人様の森に物騒なもの持ち込んでいるんじゃないよ!』
突如、老人特有のしわがれた、しかしよく通る声が辺りに響いた。
『あんた達も落ち着きな! それでもあたしの使い魔かい!』
一喝されて、恐慌状態に陥っていたカラスたちが一斉に翼を畳み、見事に整列する。
『まったく。来るだろうとは思っちゃいたがとんでもない小僧が来たよ、ちょいと脅かし過ぎたかね』
ぶつぶつと声が愚痴る。
『アルキバ! 案内してやりな!』
その声に、一際体の大きなカラスがカア、と鳴いた。
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