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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第2章 南部編 
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第五十七話 砦の仲間

第五十七話 砦の仲間


 「これからどうするか・・・」


 ガーフシャールがキーミルの頭を撫でるとどるると嘶き、頭を擦り付けてくる。ガーフシャールはキーミルに荷物を載せると、飛び乗った。腹の痛みはかなり減った。


 キーミルを曳いて南門へ向かう。ギリー飯店が見えて来る。


 「ここがギリーさんのお店か・・・」


 ガーフシャールがキーミルを曳くと、見物人がわらわらとやって来る。凄く目立つ。


 「なに? 外が騒がしいわね・・・あんたかあ! 無事だったのね! うわ、あんたの馬、翼が生えているわよ?」


 「カリールリーファから魔力を奪ったとき、キーミルが吸い取っちゃって・・・」


 「ははあ、そういうことか・・・裏に繋ぎなよ。見えないからさ。さ、見物人は帰った帰った!」


 ガーフシャールは裏にキーミルを繋ぐと店内に入った。店はまだ開店前のようだった。


 「紹介するわ! 旦那のデルゴイよ。あんた、ガーフシャール君よ。あんたと同じ砦の兵士だったのよ! 公国をこっぴどく打ち破ったのはガーフシャール君よ!」


 厨房から出て来たのは三十代半ばの精悍な男であった。足がすこし悪いようだった。


 「妻から聞いている。英雄ガーフシャールを迎えれるとは光栄だ! 我らは仲間の為に! 我らは家族の為に!」


 「え?」


 「生き残ったのは君だけじゃないんだ。三人生き残ったんだよ。まあ足に怪我を負って気を失ったのが良かったようだ! 皆気絶して遺体だと思われたんだ。あの突撃は凄かった! ハッハッハ! 俺は偉そうな公子だったけか、討ったのを見たぜ! そうだ、カリールリーファの事は残念だったな。猫のバケモノの何かに取り憑かれたんだろ?」


 ガーフシャールは力強くデルコイと握手をする。


 「驚いた?! 生き残りが居るのよ。みんな怪我をしちゃったけどね」


 「嘘だ・・・俺は一人だけボーンデに背負われて生き延びて・・・砦の外でボーンデも死に、俺だけになったと・・・」


 「歓迎する、戦友よ! たった四人だけの砦の兄弟だ! 戦病になりながらも頑張ったと聞いているぞ! お前は良くやった! 俺達の誇りだ!」


 ガーフシャールは不意に涙が出て来た。


 「俺、この世でたった一人だと・・・」


 「おい、今日は店なんてやってられん。みんなを連れて来る。いいよな?」


 「仕方ないわ。行ってらっしゃい」


 デルコイは慌てて店を出て行った。


 「来たら紹介するわ。みんな私のお客で、筆降ろしも私なのがね・・・まあしょうがないと割り切っているけどね!」


 「カリールリーファなんですが・・・」


 「どうなの? 何処に行ったの?」


 「皆さんが来たら話しますが、とりあえず放っておこうかと」


 お茶を頂いていたら男三人が入って来た。


 「ハッハッハ! ガーフシャールじゃねえか! 良く生きていた! ハッハッハ!」


 「そうだな、兄貴! ハッハッハ!」


 ムロークとベルフォスの兄弟だ。同じ第二隊だった。ガーフシャールは二人を見たとき、懐かしさで涙が止まらなかった。


 「ムロークさん・・・ベルフォスさん・・・まさか生きて・・・」


 ガーフシャールは嗚咽の余り言葉が出なくなる。見たところ二人は普通に歩き、腕などの欠損も無さそうだった。二人とも痩身の男だ。兵は基本、痩身である。食い詰め者がなるからだ。


 ガーフシャールは二人に肩を抱かれ、赤ん坊の様に泣いた。


 「よし、デルグ第二隊長の遺言だ。ガーフシャール、心して聞け。突撃の際、大きく言い放ったのだ。誰か生き残ったら、良い人生をありがとうと、必ずガーフシャールに伝えるようにと。確かに伝えた」


 兄のムロークが静かに言い放つ。


 「デルグさんが・・・」


 「我らの誇りを守ってくれてありがとう、ガーフシャール。戦病になったと聞いた。苦労を掛けてすまない」


 ガーフシャールは心が少し軽くなった気がした。


 「はい。確かに受けました。で、お二人はどうして生きて・・・」


 「俺は死んだふりだ。上手くいったな、兄貴」


 「ああ。俺は違うぞ? 肩口に傷を負ってしまって痛くてな・・・うずくまっていたら兵がいなくなってだな・・・助かったよ」


 「さて、ガーフシャールの話を聞かせてくれ。大活躍だそうじゃないか」


 「そうだな兄貴。見事一騎駆けをしたときいたぜ」


 ガーフシャールはデルーグリと一緒に新領地へ赴いたこと、二十名の小さな総騎馬隊を組織したこと、銃と言う新しい武器を作ったこと。


 機織り機を製造して布を織り始めたこと、エールも製造したこと。黒いエールでなかなか旨いこと。山に葡萄の木を植え始めたこと。


 辺境伯家に赴いた際侯爵令を受けて死刑を宣告されたこと、魔物や魔人と戦ったこと。この街でも魔人が発生して戦ったこと。戦病は収まったかに見えたけどこの街で再発し、リーゼロッテはガーフシャールを殺せなくて立ち去ったこと。


 カリールリーファが魔人となって何処かへ去ったこと。時間を掛けて全て話した。リーゼロッテとの秘め事だけは話していない。


 「そうか・・・色々あったな・・・俺達は飯を食うだけで精一杯だったんだ。みんなの懐から死出の銀貨を貰って馬車を手に入れたんだ! ハッハッハ! 悪いと思ったけどよ! 明日からガリュディーンの街へ行くから来いよ! どうせする事なんてないんだろ?! なあ兄貴! いいだろ?!」


 「おい、カウンターに座れ。アレを食うぞ。砦名物麦粥だ」


 デルコイはカウンター席を指差す。麦粥とは麦を煮て塩を掛けただけのものだ。


 「麦粥?! 折角集まったんだから何か作れば良いじゃないの? 美味しくないよ?」


 黙って聞いていたギリーが驚いた顔をする。


 「俺達は食えなくて、麦が食えるって言うだけで隊に入ったんだ。いっつも麦粥でな。新隊長が来てからはどんどん麦を減らされてだな・・・クソ野郎め!」


 「そのときボーンデと一緒に偵察に行きましたよ。決戦の日でしたね」


 「お、麦を貰ってか!」


 「はい。殆どボーンデが食べましたけど」


 「ハッハッハ! あいつは体がでかかったからな! なあ兄貴!」


 思い出話をしていたらデルコイが麦粥を炊いてくれた。


 「うわ、本当に麦を煮ただけね・・・」


 「さあ食うか。塩有るぞ」


 「私も?」


 五人で麦粥を食べた。目を閉じると砦に居るようだった。


 「ね、ガーフシャール君。うちの店さ、目玉が無くてね。何かいいメニュー無いかな?」


 ギリーは顔を顰めながら口に麦粥を運ぶ。ガーフシャールは荷物から天然酵母の入った瓢箪を出すと、小麦粉を貰って生地をこね始める。発酵させた柔らかいパンを焼くのだ。練り終わった生地を二つに分け、胡桃と干し葡萄を練り込んでいく。


 「この酵母を混ぜて生地を捏ねると、膨らみますから。柔らかいパンになりますよ」


 ガーフシャールが焼いたパンはリーゼロッテと食べたパンだ。ガーフシャールは少し胸がちくりと痛む。


 一刻したら生地が膨らんだ。


 「本当ね。膨らんだわ」


 「膨らんだら生地を切って、もう一刻置くと又膨らみますから。瓢箪の中身が減ったら水と小麦粉を足しておいて下さい」


 皆が見守る中、生地が膨らんだので竃で焼いて貰う。お店にパンが焼ける良い香りが漂う。


 「もういいかな・・・どうぞ」


 ガーフシャールは皆にパンを配る。


 「や、柔らかい・・・おいしいわ・・・私でも焼けそうよ。どう? あんた」


 「ギリー、旨い・・・パン屋でも良かったな」


 ギリーとデルコイの夫妻はパンを噛みしめながら食べている。ムロークとベルフォスの兄弟はワッハッハと笑いながら食べている。


 「あ、腸詰めがありますね。お湯で茹でて、パンに切れ目を入れて挟んで食うんですよ」


 デルコイは腸詰めを人数分茹で、ホットドックを作ってくれた。


 「毎日でも食べられるわね・・・小銅貨三枚ってところかしら?」


 ギリーは既に勘定を始めている。


 「皆さん甘いですね・・・エールにあうんですよ」


 ガーフシャールがいうと、デルコイは皆にエールを出してくれる。皆でグビグビとエールを飲みながらホットドックを囓る。旨い。


 「うん! これだぜ! なあ兄貴!」


 「そうだな、弟よ! そうだデルコイ、すまねえが明日の朝同じ物を六つ頼む! 三人で明日は旅をするからよ! 朝と昼に食うぜ!」


 弟のベルフォスの注文に兄のムロークは頷いている。


 「あら、お弁当になるのかしら。エールは馬車に乗りながらは駄目よ。でもガーフシャール君の馬は目立ち過ぎじゃない? 大丈夫? 盗まれるんじゃない?」


 「ワッハッハ! 馬は貴重だからな! なあ兄貴!」


 「違うのよ。見たらわかるわよ」


 皆で裏に行くと、キーミルはどるると嘶き、ガーフシャールに頭を擦り付ける。


 「うわ! 聖堂に使徒が降臨したって聞いたけど、ガーフシャールだったのか!」


 ムロークは翼の生えたキーミルを撫でようとするが少し怖いようだった。


 「え? 何ですそれ?」


 「使徒と天馬が舞い降りて聖堂に現れた悪魔を倒したと評判だぜ?! なあ兄貴!」


 「じゃあ使徒はカリールリーファか・・・何処に行ったのか・・・」


 「そうなるな・・・弟よ! 北に向かって飛んで行ったんだよな?」


 「馬鹿だな兄貴は! 北しか行く方向が無いじゃないか!」


 「北か・・・」


 キーミルは目を輝かせ、ガーフシャールの服を噛んで引っ張った。乗れと言っている。


 「こら、今日は行かないよ。明日だよ!」

 

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