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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第2章 南部編 
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第五十四話 王国の闇

第五十四話 王国の闇


 「着たか。見せたい物がある。お前ならわかるだろう? ミキギよ。デルコーヅス侯爵がいると死刑しか叫ばないからな・・・死霊と化した娘を見ても生きているとしかいわぬしな・・・」


 ミキギ・スーデクアリ辺境伯は王の執務室に呼ばれいる。時刻は深夜に近い。秘密裏に呼ばれているのだ。


 「は。何でございましょう?」


 王は年齢が二十二、精悍な男である。筋肉もあり、王家に現れた百年ぶりの正常な男子である。辺境伯は一つ年上で、辺境伯を継ぐ前は小姓を務めていた。王にとって数少ない腹心とも言える人間であった。


 「これだ。魔法の杖と言っているが・・・火を噴いて魔物の蜘蛛を打ち倒したらしい。見てくれ。魔人が持っていたそうだ。魔人同士が殺し合い、死にそうな所を監禁しているらしいぞ。そちの領で暴れた魔物の親玉ではないかと言ってきている」


 「む・・・」


 辺境伯にとって見慣れた銃であった。


 「わかるんだな? 話せ」


 「は・・・大辺境ミーケールの村で製造される銃と言う武器でございます。数が少なく、グレルアリ家のみの運用であります。シューリファールリ王女殿下がお詳しいかと」


 「うん? 妹が?」


 「は。相当な使い手で有りますゆえ」


 「そうなのか? おい、今からあの厩にいくから、妹を厩に呼んできてくれ。王命だ。必ず連れてこい」


 遠くに控えていた騎士が礼をして出て行った。


 「妹は恩に着る。誰かが殺そうとしたんだろう。俺に報告がなかったのだ。帰ってきてから一切姿をみせないんだ」


 「なんと・・・」


 「王宮は何かが起きている。気を付けろ。王家は百年、まともな人間が居なかったからな」


 「は・・・」


 「でだな、見せたい物はもう一つある。美しい魔物を捕らえた。見てくれ」


 王は二丁の銃を辺境伯に持たせると、騎士を引き連れて王宮の外に出る。巨大で豪華な王宮にしては規模が小さな厩に到着すると王は指を差した。


 「なんとペガサスだ。どうなっているんだ? 見覚え有るか?」


 「・・・」


 辺境伯は驚いて声が出なかった。


 「驚いただろ。龍騎士公は龍に乗っていたと言うが、あながち嘘じゃないかもしれんな・・・驚いて声も出ぬか・・・俺もそうだった」


 「お、お兄様・・・な、何でございましょう・・・」


 短銃を構え、蒼白な表情のシューリファールリ王女が現れた。狙いは王に向けられている。騎士はわかっておらず、後ろから悠々と歩いてくる。


 「シューリファールリ王女殿下! お気を確かに! グレルアリ家に何かが起きている様子なのです! こちらをご確認を!」


 「あ・・・嘘・・・」


 辺境伯が間に割って入る。銃の恐ろしさを知っているのは辺境伯とシューリファールリ王女しかおらず、一発で殺せる状態になっている事を騎士達は理解していない。シューリファールリ王女はきつく王を睨む。


 「ご返答を・・・お兄様でも、容赦はいたしません。さあご返答を。私を殺そうとしたうえに、さらにあの方まで殺すのですか」


 「いけません! 銃を降ろして下さい! 殿下! 殿下ならおわかりでしょう! この銃は私の記憶ではガーフシャールの銃ではないですか! この馬も! ガーフシャールは白い馬に乗っていたと記憶があります!」


 「え? キーミル?」


 シューリファールリ王女は銃を降ろし、キーミルを見る。キーミルはどるる、嬉しそうに嘶き、側に寄ったシューリファールリ王女に頭を擦り付けた。


 「キーミルあなた・・・その翼はどうしたの? ガーフシャールの事だから不思議な術を使ったのかしらね? それより、どうしてここに居るの? ガーフシャールはどうしたの・・・え? 乗れって? そう言うこと・・・」


 「どういう事だ、シューリは何処に行っていたのだ? 何が起きている? 俺は傀儡だからって話せないことなのか? 話せ、昼では監視の目が多い。私には一切の情報が入ってこない。突然おかしな死霊を見せられたり、この杖のような武器を見せられたり、何が起きている? 話したらミキギに害が及ぶかもしれんが、話してくれないか? どうしてシューリは命を狙われるのだ?」


 「お兄様・・・?」


 「すまない、シューリ。私はお飾りの王で、事情を全く聞かされていないのだ」


 「大辺境の地は恐るべき魔物の襲撃に遭い、大変な目に合っていますわ・・・リーゼロッテの兵だけがまともに戦えて、大辺境から魔物を駆逐しましたわ・・・リーゼロッテの右腕であるガーフシャールの銃と、乗馬のキーミルです。白い方の不思議な銀の銃は龍騎士公の遺品と言われるもので、ガーフシャールの持ち物です・・・生きているのですか? どうして、殺すのです? 一人で王国を守って、殺されるなんてあんまりです!」


 「一人で王国を守る?」


 「は。半年前、ガーフシャールが兵二百を率い、侵略した公国軍五千を退却させ、公子の頸を取ったようです。俄に信じられませんが、デルーグリが見ていたそうで間違いなさそうです。公国も死にものぐるいでガーフシャールを探しています」


 「フム・・・公子は公国の嫡子だな? 確かに変わったと聞いたぞ・・・戦があったと聞いていないぞ・・・? ミキギが珍しく王宮に滞在しているのはこれが理由か・・・?」


 「は。ガーフシャールは我が領においても功績ある人材です。死霊と化した侯爵の娘が狂ったまま侯爵令で死罪を言い渡しましたゆえ、説得を続けているのですが上手くいかず・・・」


 「なんだ、侯爵令とは」


 「は。死霊の娘とシューリファールリ王女殿下はガーフシャールが新たに作った布でドレスを作るために我が領へ向かった際、図ったように魔物を用いる一団に襲われ、殿下と死霊の娘を攫われたのです。見事ガーフシャールは助け出したのですが、無礼だということで侯爵令を出しました。高貴な身分に平民が触った罪だそうです」


 「なんだそれは?」


 「私や護衛した第八騎士団の面々も死霊の娘の術で操られ、正気を失っておりました。死霊の娘の腹から魔人が産まれ、魔人が死骸を生き返らせたのが例のアレです。頭が無いのに動いていました」


 「魔人はどうなったのだ?」


 「ご安心を。ガーフシャールが打ち倒しています」


 「なるほど・・・色々起きているな・・・ミキギはどう読んでいる?」


 「ガーフシャールが言うには謀反か侵略かと。帝国の手先が入り込んだか・・・自然発生した魔物が暴れている・・・というにはかなり無理があろうかと。殿下を狙ったのは魔人を腹に宿すつもりだったのかもしれません。龍騎士公の血は魔人どもにも良いのでしょう」


 「ふむ・・・王家は嫡流ではない。嫡流はグレルアリの家だけだ・・・今は二人か」


 「王家は龍家の嫡流では・・・?」


 「ミキギ、先の継承戦争の際に途切れている。今の王家は血は引いているが傍流なのだ。極秘だぞ。龍の血は嫡流が濃く受け継ぐと聞く。ミキギ、今の二人はどうなのだ? 謀反を起こした兄達の方が濃いのではないか?」


 「いえ。当主のデルーグリは判断力と政治力に優れ、姉のリーゼロッテは侯爵をも恐れぬ胆力の騎士です。軍を率いる将器です」


 「ふむ、ふむ。だいぶスッキリしてきたぞ。公国と帝国の動きはどうだ?」


 「公国は動きはありません。帝国はなかなか探れず、状況が見えてきません」


 「挟み撃ちだったな。公国が敗れたから帝国が兵を出さなかったと見るべきだろうな・・・同時に内乱でも起こすのか・・・? 俺が死ねばどうなる?」


 「王弟様の宰相派、第一王女様の侯爵派、公爵派が王位を主張して争いになるでしょう・・・立太子にはまだまだ時間がありますゆえ」


 「派閥に属さない貴族はいるのか?」


 「私とデルギルグフィ伯爵位でしょうか」


 「この銃とペガサスはジョコクエーズ子爵からもたらされたものだ。奴は伯の子飼いだからな・・・どうだ? ミキギとデルギルグフィ伯爵で他の派閥と戦に勝てるか?」


 「難しいでしょう・・・」


 「あの、お兄様・・・? 王国は・・・」


 「何者かの奸計で分裂、消滅の危機にあるな。ガーフシャールなるものが一人で食い止めていると言う形か・・・おいミキギ、ガーフシャールなんて人物、いたか? 如何に王家に力が無いと言っても、貴族の名前はわかるぜ」


 「平民の一兵卒です。だから頭が痛いのです」


 「そうだったな・・・だから侯爵令が取り消せないのか」


 「は・・・平民に向けた侯爵令が取り消すことは難しいかと・・・」


 「辺境伯、基本的に領地を跨ぐ令は王族か宰相のみだ。放っておけ。俺が無効と書状を書いてやる。公爵といえど、躊躇うだろ。言うことは聞かないと思うがな・・・ミキギ、俺の書状を持ってデルギルグフィ伯爵を説得しろ。恐らく捕らわれたガーフシャールなる者を釈放させろ。侯爵に知られる前に急げ。お前もいくか? シューリ」


 「は、はい! 行きます!」


 「よし、明日の早朝、出発せよ。龍の尾を掴むには神速を持って為す、だ」


 「は」

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