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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第2章 南部編 
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第五十一話 新たなる旅立ち

第五十一話 新たなる旅立ち


 「久しぶり、かしら」


 「そうですね・・・」


 ガーフシャールとリーゼロッテは城壁を見上げる。見上げる街の名はガルーシャ。


 「宿場街での情報は芳しくなかったわね。原因は父にあるのだけどね・・・」


 新領主の名はミールフ・ジョコクエーズ子爵。中年のデルギルグフィ伯爵派、デルーグリの新領地の元の持ち主である伯爵の派閥だ。領地無しである法衣子爵が領地を与えられた形になる。カロディン卿の指示もあり、最初に訪れたのだ。


 公国との戦のあと、役職を賜ったデルーグリの父親が領地の男を根こそぎ連れて出陣し、反乱軍となったのだ。略奪を行ったとされる五百人は鉱山に送られ、罪が軽いとされる千五百人は返されたらしい。領地が立ちゆかなくなるからだ。それでも五百人が帰還せず、領地は男不足になっているらしい。


 新たに来た子爵の評判は悪く無いらしい。前領主が酷すぎるだけであったのだが。


 「ガーフシャール君、大丈夫? この街は色々あったわよね」


 「はい・・・初めてリーゼロッテ様に殴られて気絶したのがいい思い出ですね」


 「ちょっと! 意地悪ね! さあ行くわよ!」


 城壁の門へ移動すると、貴族用の門を通してくれた。衛兵はリーゼロッテを見て敬礼してくれる。厩のある宿に入り、夕食を摂っている。


 「・・・やはり気が重い? 食欲が無いようね」


 「はい・・・なんだか砦を思い出しちゃって」


 ガーフシャールは元々食の細い方で有ったが、パンは食べず、シチューを半分食べただけである。ガーフシャールの脳裏に焼き付いた凄惨な死骸の数々が未だに攻め立てるのだ。


 「今日はもう休んだ方が良いわ・・・」


 二人は夕食を摂り終わると、それぞれの部屋に入った。ガーフシャールは眠ろうとするが、何度も何度も砦の仲間達が現れては消え、現れては消えていった。仲間達は鬼の形相でガーフシャールを睨み、攻め立てた。


 「うわあああ!」


 ガーフシャールは汗だくで飛び起きた。悪夢だった。


 「俺は・・・PTSD、戦病が治っていないんだ・・・」


 ガーフシャールは大きく息をして、汗を拭う。びっしょりであった。


 「大丈夫?」


 リーゼロッテが入って来た。薄着で、美しい体のラインが強調される艶めかしい服装だ。


 「だ、大丈夫です・・・」


 「嘘よ。叫び声が聞こえたわ。こっちいらっしゃい」


 リーゼロッテはガーフシャールを抱き寄せる。豊かな胸の感触と良い香りに落ち着きを取り戻す。リーゼロッテはそのままガーフシャールをベッドに押し倒し、二人で抱き合った。リーゼロッテはガーフシャールと唇を重ね、舌を差し込んできた。


 ガーフシャールは夢中でリーゼロッテの舌を貪った。唇を離すと、ガーフシャールは情けなくて、どうにもならなくて涙が出た。大丈夫だと思っていたのだが、やはり駄目だった。


 「もういいのよ、ガーフシャール君。もう良いの」


 ガーフシャールは無性に泣きたくなり、声を上げて泣いた。リーゼロッテは優しくガーフシャールを抱き寄せた。いつの間にか眠ってしまっていた。


 朝起きると、書き置きが置いてあった。


 「辛い思いをさせてごめんなさい。もう戦の無い生活を送って。ゆっくりと良くして。でもこれだけは言わせてもらうね。私も弟も生きているのは全てガーフシャール君のおかげ。ありがとう。君の魂は大人だけど、体はまだまだ子供なの。無理させちゃったね。本当にごめんなさい。君が苦しくなったとき、私は君を殺せないから、立ち去るね」


 書き置きの横には金貨の入った袋が置いてあった。横には相当量の弾と火薬が入った袋。


 「・・・リーゼロッテ・・・」


 銃は二丁、不思議な指輪もそのままだった。一丁は不思議な銀で出来た銃である。涙が出るかと思ったが、冷静に受け止める自分が嫌だった。


 ガーフシャールは朝食を摂らずに宿を出る。支払いは済んでいた。厩に行くと葦毛のキーミルがどるる、と嬉しそうに鳴いて出迎えてくれた。


 ガーフシャールは手綱を引き、宿を出た。朝の街を歩き、遊郭街へ向かう。ジャオンルーの前で立ち止まると、ガーフシャールは声を掛けられた。


 「おや、お前さんどうしたんだい。立派な馬を連れてさ。女を買いに来たのかい? 来るんじゃないって言ったじゃないか」


 ジャオンルーの女将が腰に手をあて、ため息をついていた。


 「ん? 随分と顔が青いじゃないか・・・まあお上がり。馬は裏に繋いでおくれ」


 ガーフシャールは裏の厩にキーミルを繋ぐと、二階の部屋に案内された。見覚えのある部屋である。


 「お前さんが以前泊まった部屋だよ。戦病だろ、お前さんは。見たらわかる。まあ茶でも飲みながら休みな。少し寝た方がいいんじゃないかい。ここの夜は喘ぎ声で寝られやしないからね」


 女将は茶を置くと、扉を閉めて出て行った。ガーフシャールは懐かしさで気が緩み、寝息を立てた。


 「ん・・・誰か居る・・・?」


 ガーフシャールが目覚めると、見知った顔が二つ、覗き込んでいた。


 「こら、うさなれながら名前を呼んでいたぞ? どうして私達でなく、リーゼロッテ・・・もしかしてリーゼロッテ様? あちゃあ、こりゃあ勝ち目無いわよカリールリーファ・・・おはよう。気分はどう? お姉さんに話したら楽になるかもよ? リーゼロッテ様との所を特に詳しく」


 「ギリーさん・・・カリールリーファも・・・」


 ガーフシャールのベッドの横に居たのは元娼婦のギリーと元付き人のカリールリーファだった。


 「あの・・・ひさしぶり・・・です・・・」


 「うん、久しぶり・・・って顔を会わしづらいというか・・・」


 「で、まずはリーゼロッテ様とどういう関係か話なさい」


 「ええ?」


 「いいから話す。楽になるから」


 「・・・俺って、迷い魂というやつなんですよ。ガーフシャールの体に、ケンという人間の魂が入り込んだんです。今の俺はほぼケンの人格です。魂が二つあった状態だったんですが、魂が揺さぶられると臆病な兵士のガーフシャールが強くなっちゃうんで、リーゼロッテ様が直してくれたんですよ」


 「へえ。どうやって?」


 二人は興味津々だ。


 「あの、その」


 「んもう。男らしく無いなあ」


 「む・・・一緒にお風呂に入って、私にキスしなさいって全裸で迫られまして」


 「うんうん!」


 「!」


 ギリーは無論、カリールリーファまでも鼻息を荒くしている。ガーフシャールは観念する。


 「やはり貴族である主人を抱きしめるのは抵抗があって、ガーフシャールの臆病が出てくるんですけど打ち破って抱きしめてキスしました」


 「ふんふん! で?!」


 「で、口を離したら貴族の裸を見た罰だって言われてお腹に一発くらって気絶させられました」


 「ええ? 嘘よ?! 未婚の貴族は乙女だから、乙女を貰ったんでしょう? じゃあ今は身重なのね?!」


 「違いますよ? デルーグリ様の家臣は姉のリーゼロッテ様とミシェリしか居ないですから、軍を率いるのはリーゼロッテ様なんです。多分しばらく結婚出来ないと思いますよ」


 「へ? 違うの? 本当にキスだけ? 嘘でしょ? 兵隊のお偉いさんなんて誰でも一緒でしょ?」


 ギリーは驚くが、ガーフシャールは首を振った。


 「リーゼロッテ様は王都騎士団の元エースっぽかった人で、軍を率いると滅茶苦茶強いです。指揮官で全く違いますから。今リーゼロッテ様を軍から外す訳にはいかないでしょうね。今は大変なんですよ。ガリュディーンではバケモノが大挙して現れて、まともに戦えたのはリーゼロッテ隊だけでしたから」


 「・・・ね、ギリーさん。兵士さん達のうわさ話で王女様が少年兵を連れて見事に早駆けをされたって・・・古の魔法でやっつけたって・・・兵士さんは天晴れといっていました・・・辺境伯様の兵隊さんはバケモノに驚いて何も出来なかったって」


 「あ、それ俺ですよ。魔法の部分は内緒です」


 「あんたは・・・信じられない話ばっかり・・・この前の公国を倒した話といい・・・」


 「まだ続きがあるんです。狂った女貴族がバケモノに腹を食い破られて魔人を生み出して、無論俺がやっつけて、ああ、頭を吹き飛ばしても死ななくて暖炉で焼いたんですよ。次の日に大聖堂に行ったら大神官の正体は蠅の魔人で、女性の神官に魔人の種を植え付けていたり・・・無論倒しました。被害に遭った三名は一人が自殺、二人は気が狂ってしまったそうです。蠅に抱かれたと、正気に戻って気が付いちゃって・・・」


 「は、蠅・・・」


 「ええ。もの凄く気持ち悪かったです・・・」


 「大活躍ね・・・」


 「あの指輪、恐らく龍騎士公が残された指輪のようです。不思議な力があって、魔人の種を解除したり出来るんです」


 「ええ?! そんな凄いお宝なの?!」


 「ええ。選ばれていない人が付けると死ぬらしいです。俺は指輪に呼ばれたような気がして嵌めたんですよ。あとで指輪を守っていた人達に聞いた話です」


 「す、凄い・・・まだ話はありそうね・・・でも顔色が良くなって来たわ。ね、デリールリーファ」


 「はい・・・良かったです・・・」


 「よし、じゃあやるか。ここを辞めてからしていないのよ。頭がおかしくなりそうなの。その前にデリールリーファよね」

今回から新展開です。

よろしくお願いします。

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