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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
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第四十六話 銃の披露

第四十五話 銃の披露


 「デルーグリ、まずはご苦労であった。加勢が無ければ被害は多大であった・・・いや、我が領は崩壊していたぞ」


 「は。ありがとうございます」


 「褒美はおいておいてだな。聞きたいことが沢山有る」


 「は。何なりと」


 デルーグリとスーデクアリ辺境伯は向かい合って執務室のソファーに座っている。


 「まず聞こう・・・今回襲ってきたバケモノどもはなんなのだ?」


 「・・・わかりかねます。話では聞きましたが見たのは初めてでしたので・・・」


 「だろうな・・・想定はないのか?」


 「・・・神話時代の物語に似たようなのが出て来ますが・・・」


 「神話か・・・馬鹿者と言いたいが・・・」


 「全くです」


 「あやつは何と言っている」


 「ガーフシャールですか? 魔物と言っておりましたが。魔物を操る魔道師が居ました。あの魔道師が魔物を操っていた様子です」


 「魔道師・・・?」


 「ええ。倒していますのでご安心を。ガーフシャールは魔道師なる者が魔物を召喚したと考えているみたいですね」


 「そうか・・・で、お主達が使っている武器はなんであるか? 殿下まで使用していたな。バルゴはそれこそ神話時代のドラゴン咆哮ブレスと言っていたが」


 「・・・秘密と言いたいですが」


 「ならん。秘匿するゆえ、話せ」


 「銃と言います。恐らく、先ほどの神話でのドラゴンブレスの正体でしょう、これを撃ち出すんです。強力な礫です」


 デルーグリはポケットから弾を取りだして手渡す。


 「これは・・・鉛か・・・?」


 「はい。距離は四百メリルは届きます。最初に大物を倒したのはガーフシャールとリーゼロッテの遠隔狙撃です。中型の鬼は見られていたでしょう。殿下とガーフシャールが馬上にて射撃をいたしました。馬上で射撃が出来るのはガーフシャールと殿下だけです。恐ろしい使い手です」


 「お主は使えるのか? 銃なるものを?」


 「的があって当てるのは出来ます・・・しかし実際には撃てませんでした。ガーフシャール曰く、人は無意識に人に撃つのが出来ないそうです。実際、私とリーゼロッテ、ガーフシャールともう一人に銃を持たせましたが、撃てたのはガーフシャールだけでした。明かな魔物は撃てるんです。屋敷内に入ってからは駄目でした。人型のものは撃てませんね。ガーフシャールの疲労具合から、相当な精神的負担を強いているはずです。あいつは戦病なんです」


 「なんと、戦病か・・・女をあてがうか・・・? 戦病は女と酒をあてがい、駄目なら先陣を切らせて武勇の誉れ高く逝かせてやると聞く」


 「は。それも難しくてですね。姉に義理立てして女を抱こうとしませんし、まあ十四の子供なんですが」


 「む、そうであったな。まだ子供か。ではどうする」


 「姉に世話をさせます。ガーフシャールの戦病を良くしたのは姉ですので。先ほどご褒美とありましたが、姉への婚儀や妾などは全て断っていただきたく。姉には当家の軍を率いる仕事と、ガーフシャールの面倒を見る仕事がございますゆえ。子が出来てしまったらそのとき考えます。その時はガーフシャールは平民ですが、婚儀をお許し下さい」


 「なるほど。承知した。美貌の騎士を手に入れる貴族は居ないということだな」


 「は。弟ながら、見とれるくらい美人です」


 「正直いうと側室に欲しいと思っているが諦めるか。だが平民と貴族の婚儀は難しくないか? 男性貴族だったらまだしも。お主達は元子爵家、やはりリーゼロッテも立派な貴族であるぞ。それより銃を見せろ」


 「は。では呼んできます」




 「ガーフシャール、お呼びだ。起きろ」


 ガーフシャールはデデローコグリツデセスに肩を揺すらせて目覚めた。横では山と積まれた銃が分解されて置かれていた。デデローコグリツデセスとリーゼロッテ、シューリファールリ王女が分解整備を行っていた。


 「どうしたの? 寝かせてあげなよ」


 「姉さん、辺境伯様が話を聞きたいと言っている。銃を持って行くぞ。デデ、銃の事をある程度聞かれるがいいか?」


 「ん? 全部大将に引き渡している。硝石の山も大将のものだ。そちらで判断してくれ。さあみんな行った行った。銃の整備はやっておく」


 皆はデデローコグリツデセスに追い出され、辺境伯の執務室へ移動する。


 「デルーグリです。皆を連れて来ました」


 「入れ・・・殿下まで、どうぞ」


 シューリファールリ王女は辺境伯の隣に、他は向かい合ってソファーに座る。ソファーの前にはテーブルがあり、二丁の銃を置いた。通常の銃と短銃である。


 「これが銃なるものか」


 「ええ。ガーフシャール、ご説明しろ」


 「・・・良いんですか?」


 「いいぞ」


 「はい。撃つだけなら難しくありません。火薬を銃口、ここから入れて、弾を込めて押し込みます。ここ、火皿と火道にも火薬を置いて火縄で火を付けると火の薬が爆発して弾を撃ち出す仕組みです・・・どうぞ、持ってみてください」


 ガーフシャールは肝心な部位の説明を省く。ライフリング加工してあり、命中率と威力を高めているとは言わない。


 「重いな・・・鉄の筒なのか・・・」


 「はい。引き金を引くと、撃てます。弾も火縄も入っておりませんので、引き金を引いてみてください」


 「うむ」


 辺境伯は構えないで引き金を引く。カチャリ、と火ばさみが火皿を叩く。


 「これで撃ったのか・・・?」


 「はい。撃ちました」


 「そうか・・・あの工房で生産しているのか?」


 「ええ。機織り機を作った職人が生産しています。現在十二丁しかありません」


 「当家にも入れて貰えないか? 調練を含めて」


 「・・・威力を落としたものであればお売りしますが、調練も含めてとなると銃十二丁及び調練で金貨五百枚は頂きたく」


 「・・・言うな・・・当家のみ同じ威力にせよ。金貨二百枚とそちの侯爵令を取り下げを願ってくる。勘弁せい」


 「えっ、あの侯爵令はまだ・・・」


 辺境伯は銃を構えてみる。ガーフシャールは思わず声を上げる。


 「まだ動いているご遺体を持って侯爵様に掛け合ってくる」


 「わかりました。それで受けましょう」


 ガーフシャールが驚いている間にデルーグリが話を受ける。


 「わかった。頼んだぞ・・・王国は荒れるだろう・・・対抗できるのは残念ながらそちの隊だけだ。ガーフシャール、お前の考えを聞こう」


 「考えと申されても・・・地図はあります?」


 「地図か・・・仕方ない、他言無用だぞ。本来は平民には見せてはならないのだ」


 辺境伯は机の中から地図を取り出した。


 「ええと、我々は・・・」


 「ここだ。大陸の真ん中。我らのガルス王国。南西側が大辺境と言われている我が辺境伯領だ。デルーグリの領地は我が領の北側になる。もっと北に王都があるが、山脈がある。南西にミリク帝国、南にコルド大公国があるが山脈で行き来しづらい。接しているのはデルーグリの元の領地だな。平地部はもっと西には突き出た半島にカ王国が、ゲ王国やミカ王国といった島国と自由諸島連合がある。王国の北は広い大陸でミキールス大公国と接している。他に四つほど国があり、もっと北には北方族と呼ぶ民族が居るらしい」


 「帝国・・・」


 「ガーフシャール、帝国は龍騎士公の子孫を名乗っている。話が本当なら、王家と親戚筋になるけど二百三十年前の大内乱時に皇族がことごく討たれ、一度別の国家となっている。今の皇族は滅亡した旧皇帝の二世の孫という怪しい人物だぞ。おそらく直系の血統は途絶えている。傍系かもしれんがな」

 「なるほど。古い血を狙ったか、我々がいるのは大辺境地区でしたっけ。ここって南北は山に囲まれて、西は海。陸は東だけ。独立するには格好の地ですよね」


 「フム。確かに言われると独立するなら我が領が一番であるな・・・考慮せねばなるまい・・・大公国か帝国か、または第三勢力か・・・どう考えても第三勢力の可能性が強いな」


 辺境伯は大きくため息をついた。


 「相手は恐ろしい魔術士達です。どの国の首脳部が操られていてもおかしくははありません」


 「確かに、ガーフシャールの言うとおりだ。荒れるか・・・王国も、帝国も・・・デルーグリ、ガーフシャール、お前達はどう読む。どう動けばよいか?」


 「どうだ? ガーフシャール」


 「デルーグリ様、大公国も帝国も、我らの元の領地なら欲しいと思うのでしょうが、大辺境は欲しいですかね? やはり魔物を扱う者どもを調べないと駄目ですね。何処に潜んでいたのでしょう? 帝国? 大公国ではない気がしますが。周辺国の動向も調査が必要かと。同盟を組まれて攻め込まれたら敵いません」


 「・・・フム。デルーグリの手では調査は難しいだろう。調査は進めてみる。では明日、王都へ向かう。シューリファールリ王女殿下、そろそろ王都に戻られた方が良いかと」


 「はい・・・デルーグリに馬と銃をいただきました。あの、みなさんお元気で」


 シューリファールリ王女は悲しそうな顔をしてデルーグリ、リーゼロッテと握手をした。ガーフシャールと握手をするとき、涙がこぼれて、感情を抑えられなくなった。


 ガーフシャールに抱きついたシューリファールリ王女はガーフシャールの胸で大泣きに泣いた。ごめんなさい、ごめんなさいと何回も謝った。


 「ね、しゃがんで」


 シューリファールリ王女はガーフシャールをしゃがませると頬にキスをした。シューリファールリ王女はガーフシャールの持つ自由な空気に、思わず素が出た。ガーフシャールは驚いたが、優しく頭を撫でた。


 「お元気で」


 「うん」


 大変な不敬であろうが、皆は見ない振りをした。皆は、シューリファールリ王女の初恋で失恋なのだろうと直ぐに理解した。

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