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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
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第四十四話 ガリュディーンの戦い その四

第四十四話 ガリュディーンの戦い その四


 「ドームールーファ様! 援軍が到着してバケモノ達を全て倒しました!」


 辺境伯屋敷三階の大広間に第九騎士団所属の女性騎士が飛び込んで来た。第九騎士団は第一から第八と違い、女性だけの騎士団である。主な任務は女性王族の守護だ。


 「本当ですか! 援軍はどちらの! 侯爵様ですか!」


 第九騎士団を率いているドームールーファ・コールスルス法衣騎士爵は顔を上げる。


 「いえ! グレルアリ騎士爵家です! 殿下が、殿下自ら騎乗しあの時の男の子と共に早駆けにて馬上から魔法を用い、バケモノを駆除です! 余りにも神々しいお姿でした!」


 入って来た報告はとんでもない内容だった。大広間には辺境伯家の奥方を始め、女性と子供が待避している。もしもにそなえ、第九騎士団九名が護りに着いている。


 ガーフシャールがミーエルスーテアに侯爵令を喰らってから、ミーエルスーテアがヒステリーの様にガーフシャールを殺せと喚くので第八騎士団と第九騎士団も行動を取れずにいた。やがて辺境伯が判断を下し、ガーフシャールを捕らえるとなったらバケモノが襲ってきたのだった。


 「奥方様! ミーエルステーア様! やりました! バケモノは駆除されました! 勝ったのです! ミーエルステーア様?」


 ドームールーファは奥に座っている二人に声を掛けたとき、ミーエルステーアは振るえ始める。


 「あが、あが、あが・・・いぁああ! 産まれる! 産まれる!」


 ミーエルスーテアは端正な顔を歪ませ、急激に膨らむ腹を押さえて床を転げ回る。


 「ああああ! 嫌よ嫌よ! 産みたくなああいいいい!」


 「み、ミーエルスーテア様・・・?」


 ドームールーファは何が起きているのか、理解出来なかった。異様な光景に呆然と立ちすくんでいると、益々腹が大きくなる。


 「いやあああ! 助けてぇぇぇぇ!」


 ミーエルスーテアの絶叫が響き渡る。


 「何? なんなの?」


 ドームールーファは動くことが出来なかった。動けなかったのは大広間に居る全員だったが。


 「がああああ!」


 死出の絶叫と共に、ミーエルスーテアの腹から鋭い爪が突き出た。


 「が、が、が・・・」


 鋭い爪を持った者は腹を引き裂き、立ち上がった。ミーエルスーテアは大量の血を流し、絶命した。


 「ぐああああ・・・・」


 毛むくじゃらで、鋭い爪を持ち、翼を持った小さなミーエルスーテアだった。顔がミーエルスーテアに見え無くないと言った方が正しいだろう。


 「我はこの者の狂気に呼ばれたのだ・・・極上の狂気であったぞ・・・邪魔者か・・・去ね」


 横たわるミーエルスーテアに手を当てると口から血を流しながら立ち上がる。腹からは内臓が飛び出ている。


 「外の五月蠅いのを始末するのだ」


 ミーエルスーテアは内臓を引きづりながら大広間から出て行った。


 「そこの女騎士。ここは何処なのだ?」


 「全員抜剣! 奥方様! お逃げ下さい! 我らが時間を稼ぎます!」

 




 「どういうことだ・・・何をしていた・・・?」


 スーデクアリ辺境伯は呆然と立ち尽くしている。


 「お気づきか、辺境伯様。魔の者に心を奪われていた様子。すっかり抜かりましたな」


 「魔の者だと・・・?」


 「ええ。ミーエルスーテア様かと」


 「・・・」


 スーデクアリ辺境伯はバルゴ副団長の声に黙り込む。


 「辺境伯様。ミーエルスーテア様は公国の血を引くはずでございます」


 「・・・そうか。成る程、話を聞かねばなるまい」


 デルーグリが言うと、スーデクアリ辺境伯は符に落ちたようである。


 「ガーフシャール、どうだ?」


 「は。恐らく人であると断言出来ぬほど強い魔力を放っております。お気を付け下さい・・・あ・・・更に大きくなった・・・」


 「・・・かの者は人ではないのか・・・?」


 「は。少なくともまともな人間に人を支配する魔法を掛けることは出来ません」


 「そうであるな。デルーグリ、本件についてそちの見解を述べよ」


 「はい。事の発端はわかりませぬが、ガーフシャールが公国公子を討ったのが一因かと。もしかしたら輿入れかなにかあったのかと」


 「・・・和睦のために大公家に輿入れが計画されていたと聞く」


 「婚姻相手がガーフシャールに討たれたか、公国が攻め込んで来て和睦が流れたか・・・なるほど。それだけか? 公国は魔の者を使うのか?」


 「第三者につけ込まれたと考えるのが適当かと」


 「何処の者だ?」


 「わかりませぬ。ガーフシャールは・・・わからないか」


 デルーグリの問いにガーフシャールは首を振る。


 「公国と良くわからぬ者の工作に乗ってしまったのか・・・閣下申し訳ございませぬ。このミキギ、一生の不覚にてございます。後ほど罪を購えさせていただきたく」


 スーデクアリ辺境伯はシューリファールリ王女に深々と頭を下げる。


 「辺境伯。顔を上げてください。ミーエルステーアを・・・彼女はもう人ではないのですね・・・楽にしてあげてください・・・」


 「は。それでは侯爵令嬢ミーエルスーテア・デルコーヅス法衣騎士爵の捕縛を行う。作戦指揮はデルーグリ、そちが取れ。必要な人員を言え」


 「は。では当家リーゼロッテ、ガーフシャールの両名にて事にあたります。ガーフシャール、作戦を」


 「は。屋内作戦になるため、当家龍騎兵隊は運用できません。突撃人員は俺、リーゼロッテ様、デルーグリ様、デデ。助手に四名の龍騎兵。我らは遠隔攻撃のため、第八騎士団にご助力を。屋敷内の安全確保に領兵を。領兵は屋敷に一斉に突入、意識を奪われた人間の捕獲。殺さぬようお願いいたします。龍騎兵隊と殿下は騎乗にて屋敷前庭にて待機。内二名は殿下の補助。辺境伯の安全確保をお願いいたします」


 「わかった。勇者殿の指揮に入ろう」


 バルゴ副団長が剣を握り直す。


 「では作戦を述べます。捕縛対象は既に人では無く、魔物と考えて行動します。戦の状況は押さえているでしょうから、何かしらの妨害があるかと思います。我ら突入隊は捕獲対象に一気に詰め寄ります。領兵は我らの突入後、各階に別れて行動、戦闘発生時は必ず二人以上で戦う様に。生存率が上がります」


 「よし、屋敷に行くぞ!」


 ガーフシャールの説明が終わると、スーデクアリ辺境伯は大きな声を上げる。ガーフシャールとリーゼロッテは先頭になって城門に入り、屋敷の前に並ぶ。


 屋敷は大きかった。三階建てである。指輪の力で魔物の位置を調べる。正面のドアの前に大きな反応がある。小さな反応が屋敷のあちこちにある。一際大きい反応が三階の奥にある。


 「辺境伯様、正面に一際大きい魔物がおります。目標、三階の一番奥。突撃隊は三階に一気に登ります」


 「・・・そうか・・・」


 「全員配置。我らは銃撃用意。騎士団の二名はドアを一斉に開けて下さい。我ら四名は立ち膝にて射撃」


 ガーフシャールが言うと、四人は横に並び、銃を立ち膝で銃を構える。後ろに弾込めが終わった銃を持った龍騎兵が準備する。第八騎士団五名はドアの両側で指示を待つ。


 「ドアを開け!」


 ガーフシャールの声が響くと両開きの大きなドアが一気に開かれる。


 「嘘・・・・何が・・・?」


 「何が起きた・・・?」


 リーゼロッテとデルーグリは目の前にいるものが何なのか理解出来ずにいた。女が内臓を露出させながらゆっくりと階段を降りてくる。ガーフシャール達を認めると、階段の手すりに手をかけ、へし折って即席の棍棒に変えた。


 「どうした!」


 スーデクアリ辺境伯が屋敷を覗き込む。


 「ミーエルスーテア様・・・?」


 血だらけで歩いて来るミーエルステーアの死骸を見て、辺境伯は絶句する。


 「辺境伯様、攻撃許可を! もう死んでいます! あの腹で生きているわけがありません! しっかりしてください!」


 ガーフシャールが叫ぶと、スーデクアリ辺境伯は気を取り直す。


 「攻撃を許可する」


 「デデ、俺が撃つ」


 ガーフシャールの銃から火花が飛び、眉間を撃ち抜いた。至近距離で命中し、ミーエルスーテアの死骸は後ろへ吹き飛ぶ。


 「デデ、銃の用意」


 「肝が据わっているな」


 「想定内です」


 ガーフシャールはデデローコグリツデセスの銃を受け取ると二発目を発射する。倒れている頭を狙う。命中すると体がビクリと痙攣する。


 デデローコグリツデセスは後ろの龍騎兵から弾込め済みの銃を受け取り、ガーフシャールに手渡す。三発、四発、五発と次々に発射する。五発目で動かなくなる。


 「デデ! 銃を持って来て下さい!」


 呆然として動けない他の人間を余所に、ガーフシャールは銃を構えていつでも撃てる態勢で屋敷に飛び込んで行く。デデローコグリツデセスも真似して銃を構えて屋敷に飛び込む。


 「銃口を向けていつでも撃てるように」


 「わかった」


 二人は階段下で横たわる死骸を確認する。頭が石榴の様に吹き飛び、原型をとどめていなかった。ガーフシャールは銃口と視線を死骸から離さず、手招きして皆を呼ぶ。三番目に入って来たのはリーゼロッテで、次はバルゴ副団長とデルーグリだった。


 「死んだのか?」


 「恐らく。でも油断無きよう」


 デルーグリの問いにガーフシャールが答える。


 「こ、これは・・・」


 「死霊術にて死骸を動かした物と」


 「し、死骸を・・・」


 ガーフシャールはピクリと手が動いた気がした。


 「!」


 ガーフシャールは銃をデルーグリに手渡すと腰から剣を抜き、思いっきり胸を突き刺した。剣は胸を貫通し、床板に突き刺さる。


 「うわあ!」


 死骸はリーゼロッテの足を掴もうと動くが、床に固定されていて動けなかった。


  「こ、これは・・・」


 バルゴ副団長は暴れる死骸を見て絶句している。


 「そいつは後です! 三階の奥から巨大な魔力の塊があります!」


 ガーフシャールは叫ぶ。


 「不味い! そこは皆が避難している!」


 辺境伯はガーフシャールの声で我に返る。


 「龍騎士隊! 第八騎士団! 突撃用意! 領兵は各階の制圧! 行くぞ!」


 ガーフシャールは大声を上げ、銃を構えて階段を駆け上がり始めた。

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