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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
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第四十三話 ガリュディーンの戦い その三

第四十三話 ガリュディーンの戦い その三


 バルゴ副団長が苦虫を噛みしめた顔をする。


 「こ、この恥知らずが! 貴方、それでも騎士なの? 助けて貰って、早駆けで命を賭して戦ったのに? バルゴ副団長、いえ恥知らずのバルゴ! 今すぐこの場で頸を斬りなさい! 貴方みたいな腐った人間は名誉ある王国騎士団に不要です! さあ、自害なさい! 騎士は! 高潔で! 正しく有らねばならない! そこの四人! あなた方は騎士失格です! 全員自害なさい!」


 リーゼロッテが高らかに叫ぶと、領兵は動揺を始める。


 「早駆けしたあいつかよ・・・」


 「嘘だろ・・・」


 領兵達がざわめきを始める。バルゴ副団長が右手を上げると、兵達は静かになる。


 「リーゼロッテ様。あなたも侯爵令の重みを知っているでしょう。ましてや兵卒に出された侯爵令、撤回などあり得ないことを。どのような経緯で出されても、侯爵令は侯爵令だ。ここは辺境伯領だが、辺境伯様に対抗出来ないのも知っておるだろう。撤回はありえぬ。抵抗すると辺境伯領と弟殿の新領は無くなる」


 バルゴ副団長は言い切ると唇を硬く結んだ。


 「如何に英雄であっても、侯爵令が放たれた時点で遅いのだ。今なら一人の頸で済む。差し出さぬ場合、何人死ぬかわからぬ。侯爵家にとって、騎士爵家など歯牙にも掛けぬ存在であろう。まして、辺境伯になりたい者は多数おろう。辺境伯家は独立色が強く、侯爵様は不快に思われているのだ。もう、個人の話の段階は過ぎたのだ」


 「そういうことでしたか。侯爵様による辺境伯家及び我が騎士爵家乗っ取りでしたか。我ら二家を手にしたら広大な領土が手に入りますからね。少々口が軽すぎましたね。殿下、殿下が狙われたのはもしかして仕組まれたのかもしれません。違うな。侯爵様のお気持ちを汲んで誰かが勝手に動いたんでしょう・・・もしかしたら侯爵様も利用されたのかもしれません」


 デルーグリが馬を降り、シューリファールリ王女を伴って前に出る。


 「なんと・・・バルゴ、余りにも下衆です。貴方は騎士だと思っていましたが違いました」


 「・・・仕方ないのです。さあ、捕らえよ!」


 バルゴ副団長は大きな声で叫ぶが、誰一人兵は動かなかった。特に騎士達は蒼白な顔をしている。


 「どうしたのだ! 第八騎士団、捕縛せよ!」


 「副団長、我らは戦場に生き、死する者。不名誉を抱えたままでは待っている者達に顔向け出来ませぬ」


 騎士の一人が剣を抜き、バルゴ副団長の前に立ちはだかる。


 「我らは王国の楯。単なる兵ではございませぬ。その下命、承伏いたしかねる。戦場を早駆けする勇者に向ける剣はありませぬ」


 デルーグリを始め、皆がガーフシャールを捕縛するか否かで一発触発の雰囲気になっている中、当の本人は違和感に悩まされていた。


 違和感がふっと抜けると、頭に掛かっていたもやのようなものがすうっと消えていった。もう一度皆を見る。ガーフシャールは指輪を嵌めなくてはならないと、感じる。指輪が願えと強く主張していた。目に見えぬ物を見えるように、強く願えと。


 ガーフシャールは指輪を嵌め、強く願う。見えぬ物を見えるように。悪しき物を陽に晒すように。


 「!」


 場を見まわしたガーフシャールは余りの驚きに声を失った。バルゴ副団長にどす黒い何かが取り憑いており、シューリファールリ王女に叱責されたときに薄くなり、ガーフシャールを捕らえようとする意識を強く持ったときに濃くなった。三人の騎士は薄く、ガーフシャールの為に剣を抜いてくれた騎士影がなかった。


 「魅了チャームなのか・・・?」


 ガーフシャールが一歩進むと、皆は静かになった。ガーフシャールは魔術で意識を奪われているのだろうと見当を付ける。


 ガーフシャールはシューリファールリ王女の前に進み出た。


 「殿下、第八騎士団の四名は悪しき者の魔術により意志を奪われております。手をとり、お声を掛けてあげてください」


 ガーフシャールの声に、皆が静まり返る。


 「魔術・・・?」


 「ええ。魔物を呼べるほどの魔術師がいるんです。人間の意志を奪う事くらい朝飯前でしょう。本来は意志が強い人間は支配を受けないのですが、俺の件で揺さぶられてましたよね」


 「・・・わかりました」


 シューリファールリ王女はバルゴ副団長の手をとった。子供の、非常に小さな手だった。


 「バルゴ。しっかりして。目を覚まして。私は優しくて強いバルゴを知っています。バルゴがバルゴでないなんて嫌です」


 シューリファールリ王女は取った手を頬にあてた。すうっと涙がこぼれ、二人の手に吸い込まれた。


 「は・・・?」


 バルゴは素っ頓狂な声を上げると、左右を見まわしたが、直ぐに状況を把握したようだ。


 「わ、私はなんと恐れ多いことを・・・」


 シューリファールリ王女はにっこりと微笑むと、強く手を握った。


 「仕方ありませんよ・・・?」


 「申し訳ござりませぬ! 殿下の護衛を放棄し、魔に心奪われるなど!」


 バルゴは御前で跪き、蒼白な顔でうな垂れる。


 「顔をあげて。強いバルゴが戻りましたね」


 シューリファールリ王女は三人の手を次々に取り、目を覚ましていく。ガーフシャールの為に剣を抜いた騎士は既に跪き、声を待っていた。


 「流石騎士ベルク。見上げた騎士です」


 「有り難き幸せ」


 「おいガーフシャール、どういうことだ」


 デルーグリが小さな声でガーフシャールに声を掛ける。リーゼロッテも聞き耳を立てる。


 「指輪です。あの指輪が魔術を見せてくれました。で、誰かが公国のスパイで有る可能性と、既に魔術で支配を受けている可能性と、中身が入れ替わった可能性と・・・魔術を行使している以上、入れ替わっている可能性が」


 「・・・そうか・・・わかったぞ。流石だな」


 デルーグリが小さく頷く。


 「おい、どうしたのだ! 早く捕らえよ!」


 声を張り上げながらスーデクアリ辺境伯がやって来た。鬼の形相でやはりどす黒く、強く魔術支配を受けている。


 「聞けぬか! 処刑である!」


 辺境伯は剣を抜き、ガーフシャールを向き、剣を振るった。ガーフシャールは後ろに下がり、一撃を躱す。ガーフシャールは身を守るために剣に手をかけた。


 「止めろガーフシャール! お前が剣を抜くと無礼討ちになる!」


 辺境伯は目を狂気の色に染め、口から涎をながしてガーフシャールに向き直り、剣を振る。甲高い音を立て、バルゴ副団長が辺境伯の剣を受けた。


 「目を覚ましなされ! 辺境伯様! 卿の一番大事な仕事は、殿下の保護であるぞ! 仕事をせんか! 馬鹿者が!」


 バルゴ副団長の一喝は場にいた全員を振るわせるほどの迫力だった。既に、誰の目にも正気でないのは明らかだった辺境伯の狂気が和らぎ始めている。


 「心を強くお持ちなされ!」


 バルゴ副団長は辺境伯の剣を跳ね上げると、地面に剣が突き刺さった。


 「辺境伯様! お気を確かに!」


 あろうことか、バルゴ副団長は辺境伯の頬を思いっきりひっぱたいた。バチンという音が響く。


 「・・・」


 スーデクアリ辺境伯は支配から脱し、呆然と立ちすくんでいる。


 「どう? ガーフシャール君?」


 「もう大丈夫かな?」


 バルゴ副団長の一喝でスーデクアリ辺境伯からどす黒いものが消え去った。ガーフシャールはどす黒い物を見ようと意識を城門に向ける。屋敷の方角にどす黒い塊が見えた。


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