表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
41/64

第四十一話 ガリュディーンの戦い その一

第四十一話 ガリュディーンの戦い その一


 「来ないわね」


 リーゼロッテが城壁の上から荒野を眺めながら呟く。一週間が過ぎ、シューリファールリ王女の短銃も四丁出来上がっている。


 「うーん、本当に兵が派遣されるかな? 冷静に考えると王族令じゃないんだから他領に命令を出せる訳がないしな。そもそも寄親でもないし、寄親だって寄子の内政に干渉できないぜ。侯爵は王家の縁戚でいざというときは王を排出するが、王族じゃないしな」


 「えっ」

 「えっ」


 デルーグリの言葉にリーゼロッテとシューリファールリ王女は揃って声を上げる。


 「当たり前じゃないか。建前は貴族は全て王の元にあるだけだぞ」


 「デルーグリ、確かに・・・言われて見れば・・・」


 「それよりも王都の騎士団を動かすには王命か王族の警護が必要なじゃないの? 姉さん。まさか侯爵領兵が派遣されるのか? 姉さんどうなの?」


 「・・・ああ、あんたの言葉で頭が冷めてきたわ。今まで侯爵の眉間を撃ち抜く事しか考えていなかったわ・・・確かに騎士団が派遣される訳はないか・・・じゃあ殿下もそろそろお帰りにならないと・・・」


 「・・・私は・・・死んだ事になっているのでしょうか・・・それとも皆さんに捕らわれた事になっているのでしょうか・・・捕らわれているのであればご迷惑を・・・出来れば王宮には戻りたくありません」


 「辺境伯様に会いに行くか・・・よし、明日出陣。ミシェリは済まないけど屋敷を頼む。念の為全軍で動こう。殿下、ご安心を。恐らく辺境伯様預かりが良いところかと」


 翌朝、デルーグリ、リーゼロッテ、ガーフシャール、シューリファールリ王女と龍騎兵隊二十名で出撃した。基本、銃を持っているのは屋敷の四人とデデローコグリツデセス、シューリファールリ王女だけだ。


 各自二丁、シューリファールリ王女だけ四丁持っている。バレルを半分にしたので四丁の短銃が出来てしまったのだ。短銃の命中精度は思ったよりも悪くない。ガーフシャールであれば通常のサイズの銃と同じく命中させることが出来る。


 各自の馬は銃が二丁くくり付けられるようになっている。シューリファールリ王女の馬は四丁の短銃が積まれるようになっている。


 「なあ大将。大将も驚くほど上達したが流石王族だな。軽々と馬を乗りこなすとは思っても見なかった。王族ってみなああなのか?」


 デデローコグリツデセスとガーフシャールは先頭を気持良さそうに走るシューリファールリ王女を見る。併走するのはリーゼロッテである。


 「・・・銃も上手くて立派な龍騎兵ですよ。馬上射撃なら一番上手いです」


 「そうか・・・それより我ら二人はどうなるのだ? あのクソ女貴族の命令は?」


 「デルーグリ様は流石に執行されないだろうって言ってますがね・・・」


 「まあ逃げるかクソ女の眉間に風穴を開けるかしてやるがな」


 一行は二泊、野営しながら行軍した。二日目の野営は寝付けなく、うつらうつらしているうちに朝になった。


 「どうした、ガーフシャール。やはり緊張するか?」


 「はい・・・皆さんとお別れのかもと思うと・・・」


 デルーグリも目をさまして、ガーフシャールに声を掛ける。


 「デデ」


 「なんだ? 旦那」


 「昼には伯爵様の都に着く。もしもの時は二人で逃げろ。デデは荷馬を曳いておけ。ミーケーリリル族の秘宝はデデが持っていろ。これから我が領で生産するのは性能の低い銃だけだ」


 ガーフシャール、デルーグリ、デデローコグリツデセスの三人で野営を行っている。リーゼロッテはシューリファールリ王女と二人で野営である。


 「わかった」


 「ガーフシャールを頼む」


 「任せろ」


 「ガーフシャール、もしもの時はお別れだ。何時か会おう。世話になった」


 「・・・」


 ガーフシャールは声が出ず、黙っていた。


 「やっぱり駄目なのか?」


 「わからん。だが用心は必要だ。さ、起きるぞ」


 一同は朝食を摂り、出発した。直ぐに城壁が見えてきた。辺境伯領都ガリュディーンだ。


 「ん? 全軍停止!」


 リーゼロッテの声が響くと全軍が停止した。


 「どうしました? リーゼロッテ様」


 ガーフシャールはリーゼロッテの横に駆け寄る。


 「何か城門にいない? この前のバケモノじゃない?」


 「あっ!」


 思わずガーフシャールは叫んだ。城壁の回りに衛兵の遺骸が散らばっている。一つ目の巨人が城壁から兵士を掴んで二つに裂くと、腹をガブリと噛んだ。巨人は地面に事切れた兵士を投げ捨てると、上半身が鷲で下半身が獅子の巨大な四つ足が兵士を啄み始める。グリフォンが遺骸を放り投げると、背の低い人型らしきものがわっと集まって貪り食い始める。背の高い魔物は小さい魔物を掴んで放り投げると貪り食い始める。地獄であった。地獄が展開されている。百近い小さな醜い二つ足歩行と三隊の大柄な魔物が居る。


 ガーフシャールは指輪を嵌める。距離は四百メリル、六百四十メートル。大物は巨人一頭、グリフォンらしき魔物一頭。後ろに魔法使いらしき人物がいる。


 「リーゼロッテ様と俺が射撃手。ここから射撃を行う。後ろに二名着いて、弾込めを行う。リーゼロッテ様の目標は四つ足の魔物。俺は後ろの魔法使い。俺は魔法使いを倒したあと、巨人を狙う。巨人を倒したあと、中くらいの二足歩行を射撃する。残りは抜剣して待機。二足歩行を倒した後突撃を敢行する」


 ガーフシャールは短く言い放つと、馬を降りて腹ばいになる。


 「射撃ね? デデとデルの二人は弾込めをお願い。デルーグリと殿下は銃を渡してあげて」


 ガーフシャールは火皿と火道に火薬を置くと、ランプを借りて火縄に火を付ける。一丁だけは弾込めがされている。


 「ガーフシャール君、後ろの黒いマントが魔法使いなのね? 一撃で仕留めなさい」


 「はい」


 ガーフシャールは引き金を引くと銃声が轟いた。弾は正確に頭を撃ち抜き、黒いマントの男は吹き飛んだ。銃声で魔物は動きを止め、左右を見まわしている。やはり銃と言う物がよくわかっていない。


 「やるわね。私も」


 リーゼロッテはが引き金を引くと、グリフォンの胴に命中した。グリフォンは腹と口から血を吹き出しながらうずくまる。







 「辺境伯様! お逃げ下さい! 城門はもうすぐ破られ・・・・うわあああ!」


 第八騎士団の騎士が巨人に捕まると巨人は力で騎士を真っ二つに切り裂いた。臓物が飛び出、したたる内臓と血を巨人が飲み込む。


 「ならぬ! 死しても門を死守せよ!」


 スーデクアリ辺境伯は声をからして叫ぶ。本人もわかっている。神話で王を助けた龍騎士が倒したとされる魔物だ。


 「ベルゴ殿! ここが辛抱どころぞ! ベルゴ殿何処だ! ベルゴ殿! ベルゴ殿・・・」


 「辺境伯様! お逃げ下さい! そして王にご報告を! 我らは騎士、逃げる事はできませぬ! 第九騎士団をおつけします! 早くお逃げくだされ!」


 「出来るかたわけ! ここは俺の街だぞ! くそ、あの忌々しいバケモノめ! せめて一矢報いるぞ!」


 スーデクアリ辺境伯は今朝、突然に襲ってきた魔物二頭から街を守るために防衛をしているが、巨人が衛兵を摘んでは食い、投げ捨てると四つ足の魔物が啄むということを繰り返している。必死で戦っているつもりであるが、魔物側は実っている果実をもいで食う程度に見える。十名居る第八騎士団は五名が死亡。領兵は既に八名が死んでいる。女性騎士団である第九騎士団は屋敷の防衛を担当している。


 スーデクアリ辺境伯は死を覚悟し、城門を開けて突撃するか迷っていた。どのみち、勝ち目は無い。民達を逃がす時間もなかった。


 遠くで音がした気がした。続けて二つ目の音がした。


 「ギャアアア!」


 四つ足の魔物の腹から血が吹き出し、魔物は動けなくなった。巨人は何が起きたのか理解出来ず、左右を見まわしている。


 三つ目の音がした。一つ目の巨人の喉が破れ、血が吹き出す。四つ目。四つ足の魔物の頭から血が吹き出し、音を立てて地面に伏した。五つ目。同様に巨人の目が潰される、


 余りの痛みに巨人は声にならない叫びを上げ、両手を滅茶苦茶に振り回す。六つ目と七つ目は同時だった。巨人の体から血が吹き出し、音を立てながら倒れ込む。


 「ど、どうしたのだ!」


 「辺境伯様! あれです! 恐らく救援ですな! 精強な寄子をお持ちで! 小さな騎馬隊が見えますから、リーゼロッテ様の隊でしょう! 者ども! 救援が来たぞ! あの強いリーゼロッテ様の騎馬隊だ! 顔を上げろ! 弓を構えろ! 下にいる鬼どもを叩くぞ!」


 「何? リーゼロッテ隊だと?」


 「ええ! 弓を構えろ! 射ろ!」


 騎士と領兵は雄叫びを上げながら弓を射る。皆、希望が芽生えてきたのだった。


 「ええ。余りに強く、美しいです。リーゼロッテ殿と、侯爵令を受けた小さき兵は!」


 「小さき兵・・・ガーフシャールか・・・?」


 城壁の上にいた者達も、異形の鬼達も音の方向を見つけた様だった。


 「ウガアアア!」


 体の一際大きい鬼が指差すと、騎馬隊の方へ走って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ