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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
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第三十八話 バレルの製造 その一

第三十九話 バレルの製造 その一


 「おい、筒はどうやって作るんだあ? つくれないぞお?」


 翌日からバレルの製造に入っている。バレルの製造が銃製造の肝である。


 「細長い薄い板を用意して棒に巻き付けて熱して叩くんですよ。層が上に成る程、細くして巻き付けるんです。焼いて叩く鍛接をすればくっつきますから」


 パイプは製造が非常に難しい。鍛冶でハンマーを叩いて製造出来るものではない。パイプを作る、と言う言葉を聞くとガーフシャールは心がうずく。機械エンジニアとして長年勤務していた記憶が沸き上がる。


 「わかったあ。やってみるぞお。お前さんは撃つ練習をしておけえ」


 「撃つんですね!」


 何故か目を輝かせているシューリファールリ王女が居る。銃に興味を持っているようだった。


 「行きましょうか?」


 「私も行くわ」


 リーゼロッテは護衛を兼ねている。


 「俺も行こう」


 デデローコグリツデセスは無論来るようだ。


 「みんな行くのか?」


 「じゃあ行くわ」


 デルーグリ、ミシェリの二人も来るようだ。


 「じゃあ皆さん馬に乗って来て下さい」


 「馬に乗るの?」


 「ええ。リーゼロッテ様。馬に慣れて貰おうかと。恐らく驚くかも知れませんね」


 「・・・まずはキーミルだけでいいわ。キーミルは大丈夫よ。あの子はよく調教されているから」


 「じゃあ私が乗っていい?」


 シューリファールリ王女は村に滞在している間、キーミルに乗って乗馬の練習をしているようである。リーゼロッテがニコニコ顔でキーミルに乗り、乗馬気分を味わっている。実際は乗っているだけである。


 村の外にある的に到着する。距離を三百メリル、約五百メートルに取る。射程ギリギリである。射撃姿勢は俯せ、膝立ち、座り込み、スタンディングとある。五百メートルはかなり遠い。


 ガーフシャールはデデローコグリツデセスに弾を込めて貰うと俯せの姿勢を取る。ブローンと呼ばれる姿勢だ。体を地面に密着させ、銃を持つ両肘を地面に付ける事で銃がぶれなくなる。


 「立って撃てば良いんじゃないの?」


 「姉さん、静かに」


 「うん・・・」


 五百メートルも離れると、的が狙いを付ける先目当てに隠れてしまう。それでもガーフシャールは息を止めて引き金を引く。


 ズバン!


 火花が吹き、煙が立ち上る。


 「当たったわ、凄い・・・大丈夫よ、キーミル」


 射撃音でキーミルが驚き、周囲を見まわしている。リーゼロッテに頭を撫でられると直ぐに落ち着きを取り戻した。


 ガーフシャールは膝立ち、ニーリングの姿勢を取る。左膝を立て、銃の先を持つ左手の肘を左膝に置く。俯せの場合は両肘を固定出来るためぶれないが、ニーリングの場合は固定が一カ所になるために銃の揺れる幅が大きくなる。


 ガーフシャールは意を決して引き金を引く。


 ズバン!


 何とか的には当たったようだった。最後は立って撃ってみる。やはり銃の揺れる幅が大きくなり、当たらなかった。


 「ふー。的の側に行きましょうか」


 的に近づくと、ガーフシャールは一同を止める。距離は五十メリル、八十メートルだ。ガーフシャールは立って撃つと、何とか的に当てる事が出来た。立って当たるのは距離五十メリル程度なのかも知れなかった。


 「じゃあ皆さん撃ってみましょうか。最初はリーゼロッテ様」


 「え? 私?」


 「ええ。最初は弾込めです。火薬を銃口から入れて、弾を入れます。槊杖を引き抜いて、弾を押し込んで下さい」


 「う、うん」


 リーゼロッテはおっかなびっくり弾を込める。


 「では火皿と火道にも火薬を置いて下さい・・・じゃあ撃ちましょうか。先目当てと元目当てを合わせて下さい、こういうふうに。合わせた方向に弾が飛びますから」


 ガーフシャールは左手で人差し指を立てて手を伸ばす。目元にはV字を作った右手を置く。


 「わ、わかったわ」


 リーゼロッテは意外にも堂々と銃を構え、撃った。残念ながら弾は外れた。


 「当たらないわ」


 恐らく、狙うという行為自体の理解が無いのだろう。


 「次はデルーグリ様」


 「おう」


 デルーグリも当たらなかった。三番目はミシェリ。


 「見ていたら何となくだけどわかって来たわ」


 ミシェリは的になっている鎧の端に辛うじて当てる。皆からおおっと声が上がる。


 「四番目はデデさん」


 「まかせろ」


 デデローコグリツデセスもコツがつかめていたのか、鎧の真ん中の近い部位に見事当てた。おおっと歓声が上がる。


 「ガーフシャール、あの」


 「撃ちますか? 重いですよ。持てますか?」


 「きゃあ! 重い!」


 「ちょっと難しそうですね・・・」


 「駄目ですか・・・私は剣は持てないので、この銃という武器であれば自分を守れると思ったのです・・・」


 「・・・いや、大丈夫です。命中精度は下がりますが小さい銃を作ります。もう少し待っていて下さいね」


 「はい!」


 ガーフシャールがブラシでライフリングの掃除をして、また皆で撃った。合計五回づつ撃つと、皆は的に当たるようになった。


 音に慣れたのか、キーミルが驚かなくなったので、騎乗して止まった状態で撃ってみる。的には当たる。次に常足なみあしで撃つ。ゆっくりと歩く速さである。常足は馬の背が上下しないので的に当てる事が出来た。


 速歩で撃ってみる。まだ当たる。背が上下してしまう駆足では当たらなかった。


 「か、かっこいいわね・・・」


 リーゼロッテがしみじみと言う。


 「銃を持った騎兵を龍騎兵と言うんですよ。龍の咆哮に例えるんです。俺が龍騎兵の第一号ですね」


 「うわあ・・・」


 シューリファールリ王女が尊敬の眼差しでガーフシャールを見る。


 「デルーグリ、私にも馬が欲しいわ。また魔物の撒き餌にされちゃうんでしょう? せめて自分の身は守りたいの」


 「・・・は。銃と馬は用意しましょう・・・ガーフシャール、銃は頼んだぞ」


 「は。では今日はここまでです。戻ったら銃の整備について説明しますね」


 ガーフシャールは全員を引き連れて倉庫に戻る。戻ると嬉しそうな顔をしたウスさんがいた。


 「どうだ? できたぞお」


 ガーフシャールは出来上がったバレルを手渡される。一応筒になっているが、鍛接が甘く完全に密着していない。三回程地面を叩くと割れが出来た。


 「ありゃあ、まだまだあ」


 「さ、みんな、銃を撃ったら必ず整備をしてください。まずはバレルを外します。これはリングで固定していますのでリングを取ります。大事なのは尾栓を外して、きちんと掃除をする事です。弾の鉛のカスや、煙の鉄を腐らせる成分がありますので」


 桶の水でブラシを通しながらゴシゴシと洗う。洗い終わったら槊杖に巻き付け、注射器の様に水を吸い上げ、吐き出す。何回か繰り返して硫黄の煙、硫酸の付着を洗い流す。最後にお湯を通して乾燥させる。からくり部は拭き掃除にとどめておく。


 「掃除しないと腐って使えなくなりますから、撃ったら必ず掃除してくださいね」


 掃除が終わると解散になった。組み立てるとウスさんはバレルの製造を始める。夜中までバレルを作った。七本目でようやく良さそうな筒が出来上がった。


 「余り根詰めちゃ駄目よ。ほら、食べて」


 作業を切り上げようと思った頃、リーゼロッテがやって来た。手にはお茶とサンドイッチを持っている。


 「わあ、ごちそうだあ」


 「ウスさんも食べましょう」


 リーゼロッテは柔らかな表情でサンドイッチを食べているガーフシャールを見る。


 「ん? なにが着いてます?」


 「ううん。なんだか楽しそうね」


 「そうですね。後少ししかない命ですから、楽しく過ごさないと駄目ですよね。俺を捕まえに来る侯爵家の使いに例の魔法使いが着いてくるのでしょうし。そうしたらそもそも勝てるのかわからないですよね」


 「・・・」


 着々と銃が出来上がって行く。機織り機の製造、銃の製造はウスさんに教え、村にはエールの製造、機織りを教えた。ワインの製造はやってくれるであろう。


 ガーフシャールは村のためにやれることはやり終えたと思っている。後は村の人口を増やしながらワイン、エール、銃、機織りの製造量を増やせば良いだろう。


 リーゼロッテは涙が出て来てしまい、急いで鍛冶場を出た。ガーフシャールが落ち着いて日々を過ごしているのを見て、絶対におかしいと思い始めた。


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