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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
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第三十八話 マスケット銃の製作

第三十七話 マスケット銃の製作


 「すみません。お騒がせしました」


 「ガーフシャール君・・・」


 屋敷内で出迎えたリーゼロッテは、ガーフシャールの余りに厳しい顔に何も言えなかった。


 「まあ座れや」


 デルーグリはようやっと言葉を発した。デルーグリはガーフシャールの悲壮な覚悟を感じ取った。貴族令は撤回できる物では無い。ましてや、侯爵家が、騎士爵家という綿花の綿毛のような存在に、更に一兵卒に発した令である。撤回すると侯爵家の面子が失われるであろう。デルーグリも声に出すことは出来なかったが、皆で交戦して死ぬか、ガーフシャールとデデローコグリツデセスが死ぬか二択しかないと思っている。


 ガーフシャールは座ると革袋をテーブルの上に置いた。


 「ミーケーリリル族の秘宝を譲り受けました。俺が直面する敵は二つ。侯爵家と一つ目の怪物を召喚した魔道師です。俺は秘宝を譲り受けた事により、両者の遂行が可能と判断しました。リーゼロッテ様、あと当家が助かる道は俺の首を侯爵家へ届ける事です。この場合はデデさんは山に逃がしてあげてください」


 「・・・ちょっと、何を言っているのよ・・・」


 「冗談ではありません。俺が助かる道は、侯爵家の血を引く人間全員の殺害、追捕使の殺害、後継貴族の殺害と、延々と貴族を殺し回る事です。恐らく侯爵家の人間を殺したところで捕まるでしょうね」


 「ちょっと、何を言っているのよ」


 「間違ってますか、デルーグリ様」


 「それしかねえよ」


 「そんな・・・もっと良い方法があるはずです! ね、みなさん!」


 ミシェリが声を荒げる。呆然と座り込むリーゼロッテ。重たい空気に耐えられず、シューリファールリ王女は泣き始める。


 「そんな・・・そんな話って・・・私が説得します!」


 ガーフシャールはシューリファールリ王女の涙をそっと拭き、頭を撫でる。


 「いけません。殿下は再び辺境へ送られる可能性が高いです。その時はお守り出来ないです」


 「・・・え?」


 「やはりそうか、ガーフシャール」


 「邪魔なあの女と一緒に釣り餌にされたのだと思います。王家は魔道師を有する相手と敵対して、襲って来るのを知っているのでしょう。殿下、申し訳ございません。お気を悪くしないで下さい」


 「あ・・・あの一つ目の巨人・・・」


 「はい。あれは魔道師が魔術により召喚した魔物です。相手は恐るべき魔道師。魔道師が振るう魔法は神々が振るう奇跡その物です。王家が保有していると勘違いしている青い血を狙っているんでしょうか? まあ正しくはデルーグリ様とリーゼロッテ様なんですが」


 「姉さんの方が血は濃いだろうな」


 「ですよね」


 「何を狙っているんだろうな」


 「よからぬ魔物を呼ぶのに古い血筋が必要と考えているじゃないですか?」


 「そうだろうな」


 「ということで侯爵令の件もあるのですが、今後魔物に襲われる脅威に対抗しなくてはいけません」


 「無理よ! この前だって君の神業でようやく退けたのよ!」


 「ミーケーリリル族は一族の数を減らしてまで、あの山々を守って来ました。理由がようやく分かりました。あの山は硝石鉱山と硫黄鉱山なんです。硝石と硫黄と、炭の粉を混ぜると燃える薬になるんです。燃えるんですよ」


 皆はガーフシャールが何を言っているのか良くわからなかった。


 「ミーケーリリル族が代々受け継いだのがこれです。恐らく魔力が掛けられた銀だと思うんです。銃という武器のバレルという部品です。あと、バレルを作るための工具です。これだけあれば、銃を生産できますよ」


 「ん? その筒が武器なのか?」


 「ええ。この中に燃える薬を入れて、金属片を入れるんです。この小さな穴から火を付けると、金属片が飛び出すんですよ」


 「礫なのかしら?」


 ミシェリが口を挟んでくる。


 「ええ。似たような感じですが、威力が違います。三百メリル(約五百メートル)は届くかな? あと、当たったら人間は貫通して即死です。鎧くらい突き抜けますから、重装歩兵だろうがお構いなしに殺せます。今から製作に入ります。あの魔物が襲ってきたら、銃無しで戦うのは無謀と言うほか有りません。出来たら、皆さんに使い方をお教えします。村を守ってください。王都に行って直訴とか駄目ですよ。もし村に魔物が来たら守る事が出来なくなります」


 「わかった。炉が入って来ているから、使え」


 「わかりました・・・」


 ガーフシャールが出て行くと、デルーグリは思いっきり机を蹴飛ばした。


 「クソ・・・何が領主だ・・・何から何までガーフシャールにおんぶされているじゃないか・・・しかも、ガーフシャールの命を使ってまで・・・」


 「ね、デルーグリ、何とかならないの!」


 「ミーケーリリル族を除いたら三人しかいないんだ。辺境伯にも使いを出せないだろ。クソ! 何が貴族だ・・・」


 屋敷にデルーグリの声が響いた。妙案を出せるものは誰もいなかった。

 




 ガーフシャールは倉庫へ行くと、立派な鍛冶場になっていた。小さながら炉があり、打ち金もある。


 「おお、久しぶりだなあ。一人しかいないけど、鍛冶場だぞう。ほら、鉄の他に真鍮も鉛もあるんだぞう。何か作るか」


 「うん。銃を作る」


 「銃?」


 「うん。まあとりあえず、真鍮でからくりを作りたいんだ」


 「からくりかあ」


 ガーフシャールは火縄銃の引き金の構造を羊皮紙に書いていく。マスケット銃や火縄銃、ほぼ同じ物で有るが、引き金を引くことにより火縄を固定する火ばさみがカチャっと火皿を叩く。火皿には火薬が乗せられていて、火縄で着火する。着火した火は火道と呼ぶバレルに開けられた穴を通って火薬を爆発させ、弾を発射する構造になっている。


 火ばさみは弾き金と呼ぶ毛抜きの様なバネで動作させる。引き金はリンク機構が仕込まれており、バネで動作する。リンクは火ばさみを固定するピンが設けられており、


 火ばさみを持ち上げるとピンで引っかかり、引き金を引くとリンク機構がピンを引き抜き、火ばさみが動作するのである。引き金を戻すと板バネによりピンは元に戻る。


 「わかったぞお」


 「じゃあ銃床から削ろうか。樫の木はある?」


 「あるぞお。織機は樫で作ったからなあ」


 ガーフシャールは羊皮紙に銃床の絵を描くと、ウスさんが削り始める。ガーフシャールとウスさんと二人で、木製の銃床を削りだした。


 翌日、からくり部も木で作り、三日目には真鍮部品の鋳込みに入った。木製の部品が鋳型となるのである。ウスさんが銃を製作している間、ガーフシャールは黒色火薬の調合を行っていた。硝石七十、硫黄十五、炭十五の割合で粉にする。混ぜ合わせると火花を出しながら燃える。


 火薬の材料を持ってきたデデローコグリツデセスは激しく燃えたので非常に驚いていた。この辺りから皆が集まり始めた。三日目には出来上がったのだが、動きが渋く、作り直しが必要だった。三度目の製作でようやっと安定した銃が出来上がった。七日目の事だ。


 「出来たのか」


 弾の尻にコルクを詰めているデデローコグリツデセスは呟いた。弾は円錐形であるが、弾の後部には三本の円周状の溝が切ってあり、抉れてスカート状になっている。火薬が爆発したときにコルクがスカートを変形させ、ライフリングに食い込むのである。


 ガーフシャールは何度も引き金を引き、動作させてみる。


 「うん。うん。出来ましたね」


 「出来たかあ」


 「よし、じゃあ撃ってみますか」


 ガーフシャールが外に出ると、デデローコグリツデセスがデルーグリ、リーゼロッテ、ミシェリ、シューリファールリ王女の四人を呼んで来る。


 「とうとう出来たのね。神龍が用いたという龍咆の魔法が、まさか魔法で無かったなんて・・・」


 リーゼロッテがしみじみと言う。


 「じゃあ撃ちますよ」


 的は丸太に鎧をくくり付けてある。ガーフシャールは着火した火縄をセットし、銃口から黒色火薬を入れる。弾を込め、弾が曲がらないように弾がピッタリとした雌が付いている槊杖さくじょうと呼ぶ棒で押し込んでいく。火蓋を開け、火皿と火道に火薬を乗せる。


 ガーフシャールは古式に則り、片膝で構え、撃った。


 ズバン!


 「きゃあ!」

 「うお!」


 火花が火皿と火口が噴き出し、煙が舞い上がる。弾は鎧を簡単に貫通した。流石に三十センチもある丸太は貫通しなかった。


 「凄い精度だ」


 ガーフシャールは思わず呟いた。弾は真っ直ぐに飛び、命中した。ウスさんが作った部位は精度には関係しない。バレルの精度がもの凄いのだ。


 「これなら」


 ガーフシャールはバレル内を細長いブラシで掃除したあと、弾を込めた。飛んでいる鳩に向かって撃つと見事撃ち抜いた。


 「す、凄い音。矢よりも飛ぶわ・・・凄くない? ミシェリ」


 「鎧が撃ち抜かれましたわよ、リーゼロッテ様・・・」


 二人は威力に驚いている。


 「どうです? 数丁用意出来れば、弾込めしながら遠くから狙撃が出来ます。飛ぶ魔物だって撃てますよ」


 「ああなるほど、一発で魔物が死ななかったらどうするのかと思ったわ」


 「リーゼロッテ様、射手と弾込めに別れるんです。でも」


 「でも? なに?」


 「人に向けて撃ちたくないですね。正々堂々と武芸で殺し合っている訳じゃ無い気がします。人間って、人間を銃で撃てないように出来ているんですよね。命を取ったり取られたりは、剣で斬られた方が良いような気がします」


 ガーフシャールは銃で人を撃てないだろうと思った。火縄銃が集団陣形で運用されたのは、ライフリングの無い火縄銃の精度が低かった為もあるが、殆どの兵は人を無意識に狙わなかったらしい。集団で撃てば、明後日に撃っても何処かで当たるのである。銃を持った集団同士が隠れもせず撃ち合ったのだ。


 アメリカ軍は無意識に人間に向かって射撃出来る様、訓練のノウハウがあるらしい。バレルを残してくれた遙か昔の神代の射手も人を撃ったのだろうかと思った。

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