表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
36/64

第三十六話 神龍

第三十六話 神龍


 「ミシェリ、姉さんとガーフシャールはうまくやっているかな」


 「デルーグリ様、ただ辺境伯様の領都へ行くだけですよ? 上手くいくも何も・・・」


 ミシェリは木窓を開けると、夕陽が差し込んでくる。秋の風は冷たいが身が締まる感じである。


 「ん? 馬蹄? 帰ってきたのか? 走っているな」


 デルーグリは窓から馬蹄の音を聞き取った。二人は急いで門に向かう。デルーグリが城門に到着した頃、門が開いて龍騎兵隊が入って来た。


 「ミシェリ! 話は後! ガーフシャール君を寝かすから、用意をして! デデ! 屋敷まで行くよ! 龍騎兵隊! 今晩は城門前で待機! デル! みんなを頼んだわよ!」


 村にリーゼロッテの声が響く。ガーフシャールを乗せたデデローコグリツデセスはミシェリの案内で屋敷に向かっていく。


 「貴方がデルーグリ? すみません、厄介を持って来てしまいました」


 シューリファールリ王女はデルーグリを暗い顔で見つめる。


 「デルーグリ、面識無いでしょう。シューリファールリ王女殿下よ。挨拶は後よ。ミシェリと一緒に話すわ。まずは屋敷に行きましょう」


 デルーグリ達が屋敷の空き室へ行くと既にガーフシャールが寝かされていた。


 「リーゼロッテ様! ガーフシャール君は一体・・・殿下!」


 ミシェリはリーゼロッテに荒々しい声を投げてしまうが、シューリファールリ王女を認めると咄嗟に跪く。


 「ミシェリですか・・・? 立って」


 「はい・・・」


 ミシェリが立つと、リーゼロッテが口を開いた。


 「デルーグリ、ガーフシャール君とデデにクソ侯爵の息子の妹が居たのよ。あろう事かガーフシャール君とデデ、デデはミーケーリリル族ね。あのクソ女は二人の討伐を侯爵令として下したわ」


 「討伐令?」


 「ええ。詳しく話すわね。街道を進むと第八騎士団十名と第九騎士団九名が盗賊と戦っていたのよ。五十くらいね。ガーフシャール君が突き崩してくれたんだけど、クソ女と殿下が攫われて、馬車で運ばれていたの。クソ女がいると思わなかったから、ガーフシャール君とデデに救出して貰ったのよ」


 「ははあ、助けるときに触れてしまって青い血が汚れるとか言ったのか? 王族はもう五代前に竜の血は途切れているのに?」


 「え・・・? 本当ですか・・・?」


 「あ・・・いえ」


 デルーグリはしまった、という顔をした。


 「どういう事です?」


 「王国が二分した継承戦争で勝った現王家の血筋は隠してますが養子なんですよ。当家から娘婿を出すと言う話もあったんですけど、グレルアリ王家に変わってしまうために立ち消えたのです。当家は王家と並んで龍の血を受け継ぐ家ですから。王位に就くのに、王家の子を名乗ったんです。我らは王家の秘密を知っている一族だからクソ親父どもが調子に乗って処刑されたんですよ」


 「・・・」


 シューリファールリ王女は言葉が出ない。


 「王家の話は後。面倒なのはここからね。ガーフシャール君が何か来るって言って、馬を走らせたのよ。何も無い空間に光って、砕けたら一つ目の巨人が現れたの。ガーフシャール君は恐ろしい程冷静で、素早く、正確に馬上から一つ目を射抜いたわ。稽古では上手く出来ていなかったのにね。射抜いた直後、ガーフシャール君は気を失ったのよ」


 「ど、どうしたのかしら?」


 「ミシェリ、良くわからないわ・・・なんだか神懸かっていたわ・・・」


 「・・・まるで太古の神話の様でした。恐らく、神龍に騎乗して放った魔を払う奇跡はあのような感じだったのかと」


 シューリファールリ王女が静かに言い放つ。


 「・・・色々あったな・・・とりあえずガーフシャールに元気になって貰ってから・・・おや、目を覚ましたぞ。どうだ?」


 「・・・話は聞こえていました・・・デルーグリ様にご面倒を・・・」


 ガーフシャールは体を起こす。酷く目眩がした。右手の指輪を外すと目眩が軽くなった。


 「ん? 指輪?」


 「はい、デルーグリ様。ジャオンルーで餞別に貰ったんです。客が置いていったらしいのですが、気味悪かった様です。これを付けると、色々不思議で・・・」


 「待て、何処にあった、大将殿」


 デデが指輪を凝視する。


 「昔、一族の宝である指輪を盗んで楼閣に行った奴が居て・・・見せて貰ってもいいか」


 「楼閣の女将さんから貰ったんですよ。俺が元居た部隊のみんなが行っていた楼閣に、部隊が全滅したって報告に行ったんです。その時に貰ったんです」


 ガーフシャールは指輪をデデローコグリツデセスに手渡す。


 「・・・一族の指輪に見える。古の話では、身につけた者は生命力を吸われたかのように死んでいったらしい。不思議な力があると聞いたが、一族では呪いの指輪と言っている・・・大将が持っていてくれ」


 「駄目じゃないですか・・・返しますよ」


 「いや、返されても使えないしな」


 「デデ、どういう事?」


 デデローコグリツデセスは指輪を眺めながら考え込む。


 「・・・我が一族が、山に拘るのが不思議だろう。かつて、我が一族は光輝く者に導かれて山に入ったと聞く。詳しいことは族長しかわからない。すまない。我らは山を守るために住んでいる。山を守れと・・・族長を呼んでくる。待っていろ」


 デデローコグリツデセスは足早に去って行った。


 「あ、もう暗いですよ・・・」


 ガーフシャールの静止の声を聞かず、デデローコグリツデセスは屋敷を後にした。


 「まあデデの騎乗は凄いから大丈夫でしょう・・・」


 リーゼロッテはため息をつく。


 「で、ガーフシャール、一つ目の怪物というやつはなんだ? 何かわかったか?」


 「誰かが召喚したんだと思います。指輪を嵌めると、頭の中に地図が広がって、不思議と良くわかるんです。一つ目の巨人が出現した更に向こうに誰かがいた様でした。恐らくその者が召喚したに違いないかと。狙いは王家の血かなと思ったんですが、相手方含めて全て外れなんでしょうね。話を聞くと」


 「クソ。神話時代の出来事じゃねえか・・・」


 「デルーグリ、何かを知っているのですか・・・?」


 「・・・当家に伝わる古い話です、殿下。気を悪くしないでください。古い叙事詩によると、この地に二人の男が入植したらしいんです。一つが王家、一つが我が家です。


 古い王国の末裔が親戚筋の男を誘ったのです。古い王国は、一人の王と王の友人が居たそうです。王の友人は古い王国の功績者らしく、元々妻がいたそうなのですが王の姉と妹を褒美として娶ったそうです。王の子は友人と最初の妻の娘を娶り、古い王国の血筋としたそうです。


 嫁いだ二人の妻は王国の大貴族の祖となったそうです。現王国の血筋は姉の方の系譜です。我が家は最初の妻の家系の子孫らしいです。異母兄弟の血筋なんですよ。王家と我が家は。王の友人は龍を使役し、大乱を払ったらしいんですが、余りに逸話が少なく、恐らく箔付けだったのだろうと思いますね。


 古い王国は今の東方諸国の更に東です。当家に好き者が居て、全財産を投げ打って調べに行った者がいたんです。古い王国のあった場所には一切、龍の信仰は無かったそうです。信仰というか、深い森らしく、森に住んでいた村長筋の二人が起源ではないかと結論付けてました」


 「・・・え? 王家に伝わる話と違います・・・」


 「龍に乗った騎士が王を助けたという伝承ですよね。恐らく、森の中の子供に読み聞かせる御伽話を誇張した物では無いかと。森の名は、ルーディーの森と言います。王家の秘めたる真名、ルーディールーシュの名が残ってましたね。ルーディーの森にあったルーシュ村だと、調べた祖先が書き残してました。ルーシュ村があったそうですよ」


 「・・・! 王家の真名まで・・・神龍に与えられた名だと・・・」


 「残念ながら、故郷の名前です」


 「そうなのですか・・・」


 「ルーディーの森のルーシュ村から村長の息子と親類が旅してたどり着いたのが王国なのでしょう。余りにリアルなので、本当なのかなと考えています」


 「・・・確かに・・・」


 「それより今後をだな・・・」


 デルーグリが小さく呟いた。


 「そうよね。王族を含む貴族令は成人しか出せないし・・・戦うしかないと思うわ。侯爵家に突撃したいけど、遠いわね」


 「駄目だよ姉さん。頭を冷やしてくれよ」


三十六話までお読み頂き、ありがとうございます。

本書は私の前書、冒険者物語から遙か後の時代の話になります。

出来れば内緒にしておいてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ