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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
34/64

第三十四話 草原の戦い その二

※本話が抜けていました。

 申し訳ございません。

 ご指摘及び大量の修正、感謝いたします。

 最後のUPボタンを押さなかった? のかな?


※実は私は構成力が非常に弱く、完全ノープロットです。

 多少の不都合には目を瞑って頂けるとありがたいです。

 ははあ、ちゃんと考えていないなと笑って下さい。

第三十四話 草原の戦い その二


 ガーフシャールは葦毛のキーミルを全力で飛ばしていく。なぜだか、キーミルの呼吸と動きが手に取るように理解出来た。腰を浮かせ、キーミルの動きを阻害せぬよう細心の注意を払う。


 広い草原を貫く街道の向こうに、先を行く馬車と騎兵が見えた。賊と同じ鎧を着ている。間違い無いだろう。二騎は馬車に肉薄していく。馬車は二頭曳きの小型馬車である。足の速い馬車で有るが、速度の差は歴然であった。


 ガーフシャール主従が肉薄すると、騎兵が速度を緩め、デデローコグリツデセスと平行になる。


 「大将! こいつは任せろ! 行ってくれ! あの技を使え!」


 騎兵とデデローコグリツデセスは剣を抜き、斬り合いを始める。モンキー乗りを止めたデデローコグリツデセスは速度を落とし、あぶみにしっかりと体重を掛け、思いっきり振り下ろす。剣を受けた騎兵は一撃目は受けたものの、押し込むような二撃目を持ちこたえる事が出来ず、落馬する。デデローコグリツデセスがガーフシャールに喰らった技である。足を馬で挟んでいるだけであるので、力の掛かり具合が全く違うのだ。


 ガーフシャールは馬車を見る。馭者が一人、剣を突きつけている者が一人、姫らしい十代後半の少女と侍従らしい十歳前後の少女がいる。


 「グレルアリ騎士爵家リーゼロッテ隊! お助けに参りました! 頭を下げて!」


 ガーフシャールの叫びに、青ざめている姫らしい少女がこちらを向き、頷いた。


 「殺してやるぜぇえ!」


 馬車に乗っている賊が剣を抜いて大声を張り上げている。ガーフシャールは背中の弓を取り出し、矢をつがえる。

 体の小さなガーフシャールは強くは無い。デデローコグリツデセス初めて馬上で打ち合ったとき、虚を突いて勝つ事が出来た。前世の世界で席巻した民族がいる。彼らはゲルマン民族をも押し出し、ゲルマン民族はローマ帝国まで圧迫し弱体化させた。彼らは屈強な騎馬軍団を率い、短弓で武装した。騎馬の速度で駆け、敵兵とは剣を交えずに一方的に攻撃を行う。剣よりも、槍よりも長い攻撃距離を取ることできる武器が弓だ。


 馬車の速度に合わせ、速度を緩める。両手を離し、太股でしっかりとキーミルを挟む。


 「何やっているの? 止めなさい!」


 姫らしい少女の悲鳴が響くが無視する。ガーフシャールは矢をつがえ、矢を射る。流鏑馬だ。簡単にできる技ではない。一射目はキーミルの背が動いた時に射ってしまい、矢が明後日の方向に飛んでいく。


 「く!」


 「ワハハハ! コゾウ! 剣を抜け! 殺してやる!」


 「駄目よ! 子供じゃないの! 逃げなさい!」


 ガーフシャールは構わず、二射目を構える。


 「焼き付け刃が当たるかあああ! が!」


 ガーフシャールの放つ二射目は賊の胸に当たり、賊は馬車から転げ落ちた。


 「大将! 良くやった!」


 「デデさん! 姫を頼みます! さ、こっちへおいで!」


 護りを失った馭者は青い顔をして必死に馬車を飛ばす。ガーフシャールはキーミルの速度を馬車に合わせ、馬車に近づき、平行になる。


 「さあ! おいで!」


 ガーフシャールは少女を救出するために左手を伸ばす。


 「駄目です! 私の事は構わず戻りなさい!」


 「何を言うのです! リーゼロッテ様に叱られます! 早く!」


 小さな少女は唇を噛む。


 「わかりました!」


 小さな少女はガーフシャールの左手を掴むと馬車から跳躍する。


 「きゃああ!」


 少女の悲鳴が響く。ガーフシャールは辛うじて少女を抱き上げ、キーミルに乗せた。少女が後ろに乗る態勢となる。


 デデローコグリツデセスが姫を回収したのを見ると、ガーフシャールはキーミルを走らす。


 「デデさん!」


 「承知!」


 馬車を左右から挟み込む形になる。デデローコグリツデセスがナイフを投げ、馭者の喉に命中すると馬車がバランスを崩していく。二人は左右に大きく迂回しながら速度を緩めていく。


 馭者を失った馬車は転倒し、馬の悲鳴が響き渡った。


 「ふう・・・」


 「助けていただいてありがとうございます。そして・・・申し訳ございません・・・」


 「俺はグレルアリ騎士爵家リーゼロッテ隊の兵卒ガーフシャールです。貴方は・・・?」


 少女はガーフシャールの腕をきゅっと小さな体で握る。


 「貴方は強いですね・・・リーゼロッテの弟殿ではないのですか・・・?」


 「デルーグリ様は新領地で政務を執っておられます」


 「そう・・・良いですかガーフシャール、私を馬から降ろしてはなりません。良いですね」


 「は?」


 少女の顔が苦悶に歪む頃、デデローコグリツデセスの馬上では悲鳴が響き渡っていた。


 「降ろしなさい! 兵卒の分際で高貴な私に触れて良いと思っているのですか! 降ろしなさい! 汚らわしい!」


 正気とは思えない声が響く。言われたデデローコグリツデセスは呆然としてしまい、馬の足を止めてしまう。


 姫はひらりと馬から降りると、汚い物を見るかのようにデデローコグリツデセスを蔑み、体を払った。ガーフシャールとデデローコグリツデセスは驚きの余り何も言えないでいた。


 後方から蹄の音が響き、リーゼロッテが隊を率いてきた。


 「ガーフシャール君! デデさん! 殿下は無事・・・ミーエルスーテア・・・あんたがいたの・・・まずったわ」


 リーゼロッテは姫の方を向き、苦虫を噛んだ顔をする。


 「あら、リーゼロッテ、良いところに来たわ。高貴な私と殿下に触れた罪よ。あの二人を処刑しなさい」


 「え・・・?」


 ガーフシャールは困惑した。姫は気が触れたのだと思ってしまった。礼を言われても、処刑を受ける筋合いはない。ガーフシャールは胸騒ぎがした。ポケットに銀の指輪が入っているのに気が付いた。ジャオンルーで貰った指輪である。ガーフシャールは右中指に銀の指輪を嵌める。ガーフシャールの心は落ち着き、状況を把握しようと周囲を見まわす。


 「もしかして・・・」


 「侍女の格好をしていますが、私がシューリファールリ、第三王女です・・・」


 「なんと・・・」


 ガーフシャールはようやっと状況が飲み込めた。極度の差別意識、選民意識が貴族や王族には強く根付いているようだ。本来は平民が触れることは無論、話したり目が合うのも駄目なのだろう。いわゆる無礼討ちが下されるのであろう。


 「何をしているの! 早くあれを殺して殿下を救出するのです! 早くしないと殿下が穢れてしまいます! リーゼロッテ! 早くしなさい!」


 狂気と言える声が街道に響く。余りの狂気にガーフシャールはあっけにとられ、呆然と立ち尽くしてしまう。


 「ミーエルスーテア、あなた状況を理解していて?」


 ガーフシャールの頭に不意に地形図が展開される。街道が映し出され、十五名の騎士の姿が見えた。第八・第九騎士団が追いついて来たのだ。二十人でないのは遺骸を葬りに行ったのであろう。


 ガーフシャールは不思議な状況よりも、不意に頭に浮かぶレーダーとも言うべき映像に困惑している。全く理解出来ない。何もかも理解出来なく、ガーフシャールの頭は思考停止を起こしていた。


 「殿下はご無事か! 殿下!」


 第八騎士団が駆け足でやって来た。団長らしき人物は大声を上げて騎士を引き連れてくる。


 「ちょうどいいところに来ました! 殿下が平民の兵に触れているのです! 穢れます! ベルゴ! 早くあの者を処刑しなさい!」


 「う・・・」


 「私の命令が聞けないのですか! ベルゴ!」


 デデローコグリツデセスが手を上げると、騎兵はガーフシャールを守るかのように騎馬の壁を作る。


 「全員剣を抜け」


 デデローコグリツデセスは剣を抜き、臨戦態勢を整える。剣の先には第八・第九騎士団は無論、リーゼロッテも含まれる。


 「やはり貴族どもは信用できない。お嬢殿、あんたもだ。どうして部下を守らない? 我らは褒美を貰うことはあっても、処刑されるいわれはない。貴様等は狂っている」


 デデローコグリツデセスは静かに言い放った。


 リーゼロッテはデデローコグリツデセスに強く言われ、憑きものが落ちたかのように柔和な顔になる。


 「デデローコグリツデセス。言ってくれて助かったわ」


 リーゼロッテは馬を動かし、騎士団と対峙する。


 「敵は我らが仲間ガーフシャールを害そうとするミーエルスーテア! ベルゴ様! 邪魔をするなら第八騎士団も討ちます! 我らはグレルアリ騎士爵家の龍騎兵団である! どんな敵にも、どんな強大な力にも絶対に屈しない! 我らは義を重んじ、正義を司る龍騎兵団! この身が滅びようとも、正義を貫き通す所存! 殿下! ご命令を! 逆賊ミーエルスーテアの頸を落とすことをお許し下さい! 正義は我々にあります!」


 草原にリーゼロッテの声が通ると騎兵達は大声を上げた。


 「我らは仲間の為に!」

 「我らは家族の為に!」

 「我らは仲間の為に!」

 「我らは家族の為に!」


 騎兵達は自らを鼓舞するかのように鬨の声を上げ続ける。第八・第九騎士団も状況について行けず、呆然と立ち尽くしている。


 ガーフシャールは脳裏の地形図に異変を感じ取った。何者かが湧き出てきている。遠くから走って来るのではない。湧き出ている。騎兵の後ろになる。ガーフシャールの脳は新たな危機ととらえた。


 「グレルアリ騎士爵家龍騎兵団! 新たな敵を捕捉! 全員向きを変えろ! 後ろだ! 何者かが来るぞ! そんな女は放っておけ!」


 ガーフシャールは後ろを指差すと、どす黒い光が闇を連れてきた気がした。

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