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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
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第三十三話 草原の戦い その一

第三十三話 草原の戦い その一


 「リーゼロッテ様! 様子がおかしくないです? 何か胸騒ぎというか!」


 「全軍停止! 静かに!」


 ガーフシャールは胸騒ぎを覚え、リーゼロッテに進言する。


 「全軍停止! 静かに!」


 リーゼロッテはガーフシャールの言を聞き入れ、騎兵の動きを止めて聞き耳を立てる。前方から騒乱と剣戟が聞こえて来た。


 「剣戟だわ・・・どういう事?」


 「行きましょう。山賊・・・レベルではないですね」


 「第二隊! 荷馬を曳く者を除き、全速で物見へ行け! 状況により戦闘を許可する! 行け!」


 「は!」


 第一隊と第二隊は性格が異なっている。第一隊は剣が上手い者、強い騎兵を集めている。第二隊は速い者を集めている。


 「行くぞ!」


 リーゼロッテの命でガーフシャールは飛び出した。鐙に体重を掛け、腰を上げて空気抵抗と馬への負担を軽減させる。


 葦毛のキーミルは真っ白な体を光らせ、街道を駆け抜けた。ガーフシャールとデデローコグリツデセスはモンキー乗りで進む。遅れて七騎の騎兵が続く。


 「大将! 止まれ! 誰かいる!」


 街道の前方には女性騎士が口から血を吹いて痙攣している。ガーフシャールは急いで葦毛のキーミルから降り、体を起こす。右腕が無く、血がどくどくと流れている。


 「我らはグレルアリ騎士爵家リーゼロッテ隊の者だ! どうされた! 第九騎士団とお見受けする!」


 ガーフシャールはリーゼロッテ隊と名乗る。女性騎士ならリーゼロッテを知っているかも知れないからだ。女性騎士は最後の命を賭け、口を開く。


 「リーゼロッテ様の・・・王女閣下が山賊に・・・お願い・・・」


 言い残すと女性騎士は息絶えた。ガーフシャールはゆっくりと女性騎士を寝かすと、騎乗する。


 「大将、どうした」


 「リーゼロッテ様がかつて所属していた王都第九騎士団が動員されている。女性の王族が山賊に襲われているらしい。女性といえど騎士団だ。まっとうな山賊ではないと思う」


 「行くか」


 「もちろん! 皆! 行くぞ! 王女様をお救い申し上げる!」


 「おおお!」


 ガーフシャール率いる第二隊は全速で街道を駆け抜ける。前方に戦が見えて来た。男性騎士と女性騎士が山賊風の敵と戦っている。数は騎士が二十に対し、山賊は五十はいるだろう。騎士達は山賊が放つ剣を楯で受けるのが精一杯の様子である。


 女性といえど、楯で武装した重装歩兵団である。山賊も有効な攻撃を与えてはいなかった。数で劣る騎士達であるが、楯で粘る事で数の差を埋めていた。


 山賊は整然と隊列を組み、数で騎士達を圧倒し始めている。やはり筋力と体力で劣る女性の第九騎士団が持たなかった。第九騎士団の左翼が下がり始めている。右翼の第八騎士団は第九騎士団と会わせるかのように下がり始める。


 「全員三列になれ! 側面から突撃を行う! 行くぞ! 抜剣!」


 ガーフシャールは剣を抜き天にかざすと、騎兵達も剣を抜き、大声を上げる。全力で率いる第二隊は全力で山賊の側面へ突撃を敢行する。よろめいた山賊は馬に踏まれ、更に後に続く馬にも踏まれて絶命する。


 ガーフシャールは剣を横に薙いだ。片手で持つ剣は重く、山賊に当たった衝撃で剣を落としそうになるが必死に堪える。


 「うわああ!」


 ガーフシャールは大声を出していた。繰り出す剣は突きに変える。ガーフシャールは山賊の陣を突き抜ける間に二人斬った。


 騎兵が全突き抜けると、山賊の陣は完全に崩壊し、逃走を開始した。山賊はいきなり現れた騎兵になすすべが無かったのだ。


 「スーデクアリ辺境伯が寄子グレルアリ騎士爵家リーゼロッテ隊見参!」


 「我らは王都第八騎士団! 助太刀感謝する! 第八騎士団の力の見せ所だ! 剣を構え! いくぞおお!」


 ガーフシャールが側面から突撃を敢行したため、山賊の陣は崩れ、退却を始めている。男性の騎士団、第八騎士団が勢いを盛り返し始めた。


 「リーゼロッテ様の隊の方! 第九騎士団団から要請です! 殿下が攫われました! あなた方なら追いつけるはずです! ここはもう十分です!」


 「承知!」


 女性騎士が大声を上げる。第八騎士団は逃げる山賊へ追撃を開始している。背中を晒した兵は脆く、倒されるのみである。山賊も例に漏れず、首を狩られ、背中を刺され、街道に遺骸を晒し始める。


 「ガーフシャール君! 状況は?! ドールームーファ! 警護はどうしたの!」


 追いついてきたリーゼロッテが声を張り上げる。


 「シューリファールリ様が山賊の手に! 賊は馬を使ってます!」


 ドールームーファと呼ばれた女性騎士が山賊が逃げていく方向を指差す。


 「ガーフシャール君! デデ! 行きなさい! グレルアリ騎士爵家の速さを見せるのです! 貴方たちの速さなら追いつくわ! 残りは第一隊に吸収!」


 「は! デデさん!」


 「おう!」


 ガーフシャールはデデローコグリツデセスを伴い、全力で駆け始める。


 「グレルアリ騎士爵隊! 横に広がれ! 我らも行くぞ! ドールームーファ! 第九騎士団は一度休みなさい! 貴方たちは良くやったわ! 後は我らと第八騎士団に任せて! 行くわよ! 山賊の首を取れ!」


 騎兵隊は横に広がると、追撃を開始した。第八騎士団が追撃を開始しているが、重装歩兵団であるために追いかける速度が遅く、逃げる山賊の方が多い。騎兵隊は恐るべき速度で山賊に追いつき、次々と仕留めていく。


 「全騎止まれ! 怪我人はいないわね?」


 リーゼロッテは騎兵達を見るが、全員無事の様で安心する。


 「リーゼロッテ様!」


 第九騎士団団長のドールームーファが走ってやって来た。


 「リーゼロッテ様! どうしてここに?! そして騎馬!」


 「説明は後よ! シェルイーシィの亡骸があったわ! 回収してあげて! 全騎二列になれ! 行くわよ!」


 ドールームーファは山賊の死骸を超えてあっと言う間に見えなくなったリーゼロッテの後ろ姿を追った。第八騎士団団長が剣を納め、近づいて来た。


 「あれが噂に聞く憤怒の騎士殿か。しかし全数騎兵とはすさまじいな。犠牲が出たのか。残念だな。我らは全員無事だった。憤怒の騎士殿の助太刀が無かったら相当の犠牲が出ていたと思う」


 「グリフォーム卿、騎士ですから覚悟は出来ています・・・追いつけば良いのですが・・・我らの馬車では追いつかないですから・・・」

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