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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
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第二十一話 辺境伯の来所 その一

第二十一話 辺境伯の来所 その一


 ガーフシャール達が門の前で待ち構えていると、ミシェリが馬を飛ばして先駆けをしてきた。


 「リーゼロッテ様! 丁度良かったです! 辺境伯様と隊商の方々が来られています・・・うわ!」


 ミシェリは隈取り化粧をした四人を見て馬から落ちそうな程驚いた。


 「ミシェリさんお帰りなさい。紹介しますね。領の山の方に住まれている騎馬民族のミーケーリリル族の族長ガルゴルゴフスさん。馬の独占販売権と引き替えに我らの統治を受け入れて貰いました。ガルゴルゴフスさん、騎士ミシェリさんです。元王宮騎士団です」


 「食料難で支配を受け入れる事にした。コゾウに買収された。コゾウ、金貨二十枚分の食料を頼むぞ」


 「さあ来ましたね。リーセロッテ様、出迎えは?」


 「貴方たちは整列して立っていて」


 リーゼロッテの言葉でガーフシャル、ミシェリとミーケーリリル族の四人は整列して到着を待ち受ける。半刻ほどで辺境伯一行が到着する。


 騎乗で先導するデルーグリはミーケーリリル族を見るとぎょっとした表情を見せる。後に続く見るからに高価な衣類を身につけている青年がミーケーリリルを一瞥する。


 「ほう、ミーケーリリルを配下に治めたか。やるではないか」


 辺境伯は馬から降りる。護衛の騎士六名も馬から降りた。


 「は。ガーフシャール、辺境伯様の馬を引け。屋敷までご案内しろ」


 「は」


 ガーフシャールは頭を垂れ、辺境伯の馬を取ろうとすると、辺境伯に遮られる。


 「よい。部下にやらせる。ミケル、ガイーズは馬を頼む。厩はあるのか?」


 「は。ミシェリが案内いたします」


 デルーグリが答える。


 「ん? そこの女騎士は憤怒の騎士殿か?」


 「はい。姉のリーゼロッテでございます」


 デルーグリはリーゼロッテを紹介する。


 「リーゼロッテでございます。お目を汚してしまい、申し訳ございません」


 「よい。フム、噂通りお美しい。あの方の気持ちもわからないでもないな」


 「申し訳ございませんが姉は当家の軍を率いますので妾はご容赦ください」


 「安心せい。侯爵様が承知せんだろう。それよりも、そちがガーフシャールか。織機と黒いエールを見せろ」


 「ガーフシャール、案内してさしあげろ」


 「あの、当家の営業秘密に属しておりまして、当家の許諾無しに模倣及び類似品の販売を行わないとお約束してご署名いただけるのであれば、お見せできますが・・・」


 「うむ? 何を言っているんだ?」


 「辺境伯様はご聡明だとお聞きしております。恐らく見ただけで仕組みを理解され、領地にお戻りになられた際に当家と同じような織機を製造してしまわれたら敵いませぬ故。営業秘密ともうしまして、理由無く営業秘密を譲り渡した場合は背任に問われることになります。王国には先行する発明を行った者に対する保護がありませぬ故、簡単にお見せすることはできません」


 ガーフシャールは機織り場を見せる事を躊躇った。一般企業であれば見せる事が出来ない企業秘密である。


 「おい、ガーフシャール」


 デルーグリは顔が真っ青になる。意外な事に辺境伯がデルーグリの言葉を遮った。


 「・・・ぬしの言いたいことは理解出来る。わかった。織機を見る前に署名をしよう。デルーグリ、案内せよ」


 ガーフシャールは安堵のため息をついた。頸が飛ぶかと思ったが、簡単に見せるわけにはいかなかった。王国では最先端の技術となるためだ。


 「おい、デルーグリ」


 「は」


 デルーグリは背中に冷や水が流れた心地である。


 「そちはあやつが戦の天才と申したな? 絶対に殺すな。そちに過ぎた家臣だ。一本取られたぞ」


 「は・・・」


 辺境伯一行は屋敷の大広間に入る。


 「フム。本当に着いたばっかりなのだな・・・」


 「は。いまだメイドも雇えていない状況です」


 「気にするな。ガーフシャール、文言を起こせ。そちの言いたいことを文言にせよ」


 「はい」


 ガーフシャールは契約書を書いていく。



 

 本契約書はスーデクアリ辺境伯家(以下辺境伯家と略する)がグレルアリ騎士爵家(以下騎士爵家と略する)の織物場を見学する際の契約である。


 その一、本件額により得られた知見は全て騎士爵家に属するため辺境伯家は騎士爵家の承諾無しに知見を利用、または機織り機を製造することは出来ない。


 その二 辺境伯家は騎士爵家の持つ知見を利用した織物の商を騎士爵家の許諾無く行った場合、騎士爵家が得られたであろう損害の二倍を辺境伯家は損害賠償として支払う義務が発生する。


 その三 辺境伯家は機織りに関する技術導入を受ける場合、正当な対価を支払い、技術移転を受けるものとする。


 

 「出来たか? ガーフシャール」


 デルーグリは羊皮紙を見ると、厳しい文言に絶句した。


 「ガーフシャール、お前・・・」


 「デルーグリ様、これが普通です」


 「そうなのか・・・」


 「見せてみろ」


 辺境伯は羊皮紙を取り上げると中身を読んでいく。


 「フム、いいだろう。ただしその四を書け。辺境伯家の許諾無しに機織りに関する全ての契約行為、商行為を行うことが出来ない、だ」


 「は。宜しいですか、デルーグリ様」


 「うん?」


 デルーグリはわかっていない様子だった。


 「見学により、辺境伯様は事実上機織りの産業を興せなくなります。第四項で、当家の販売先は全て辺境伯様になります。いわば、当家が製造を担当、辺境伯様が販売を担当するという分業になります。当家に販売する力はありませぬ故、非常に有り難い契約となります。機織り機を販売する場合、売り先は辺境伯家になります」


 「わかった。署名しよう」


 デルーグリの同意が得られたのでガーフシャールは契約書を二通作成し、辺境伯とデルーグリが署名した。


 「これで織物に関する契約が発効いたしました。機織り場にご案内いたしましょう。ただいま二基まで完成しております。糸があれば生産が可能ですが、当家には既に綿が枯渇し、生産が出来ない状況です」


 「よい。山ほど積んできた。準備せよ」


 「では準備が整うまで、酒造をご覧になられますか?」


 「うむ。デルーグリ、酒造はいいのか?」


 「はい。見ても製造方法はわかりませんので」


 「わかった。行こうか」


 辺境伯は外に出ると綿の糸を騎士爵家に全て引き渡すよう指示する。駆けつけた村長は村人を引き連れて対応にあたる。村長は慌てて機織りの準備を指示し始めていた。


 村長家の倉庫が機織り場である。隣の倉庫は酒造となっている。残り一つの倉庫が食料庫であるが、中身は乏しくなっている。


 「来て頂いたのですが、樽があるだけなんです。まだ酒造としての形は整っていないんです」


 デルーグリは酒造を説明する。


 「ガーフシャール、何時仕込んだ樽だ?」


 「はい。五日前です。発酵まで半年掛かるかと」


 「なるほど。コップに一杯よこせ」


 「え? まだ発酵が・・・」


 「私はエールが好きでな、出向く度に地方のエールを飲んでいる。仕込み途中のエールも無理矢理飲んできた。辺境伯という身分はごり押しが効くのだ」


 「は・・・では・・・」


 ガーフシャールは樽の栓を開けてカップ一杯ほど取る。カップの半分を別のカップに受け、ガーフシャールが飲み干す。


 「お毒味終わりました。少しエールになってますが、飲めたものでは・・・」


 「毒味ご苦労。どれ・・・本当に黒いな・・・ふむ・・・味わいが深い・・・いいな。良いエールになるぞ」


 「あの、辺境伯様・・・」


 デルーグリは訳がわからず、動揺しているようだ。ガーフシャールは辺境伯がエールマニアだと言うことをすぐに見抜いた。


 「エールの事なら妥協はせんぞ。旨いエールは土地に根付く。精進せよ。で、ここのエールは五樽で終わりなのか? すぐになくなるであろう?」


 「村に樽が十ありましたので、とりあえずやってみた形が強いんです。村人にエールを飲ませてやりたいので」


 「わかった。樽も用意させる。当家に優先的に引き渡せ。数は隊商の頭と相談してくれ」


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