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ガーフシャールの槍  作者: 蘭プロジェクト
第1章 大辺境編
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第二話 馬出しの設営

第二話 馬出しの設営


 「早速だが命令を下す! 良いな!」


 砦の兵達は固唾を飲んで発言を待っている。


 「鍛冶を呼んで槍を作らせてください」


 俺は横で囁く。


 「鍛冶は居るか!」


 「は! ここに!」


 四人の鍛冶が姿を現した。


 「作れるだけ槍を用意しろ! 弓と矢もだ!」


 「は!」


 「残りで柵と堀を作り、敵を待ち受ける! 第一中隊は材木を切り出せ! 第二中隊は柵を構築せよ! 第三中隊は柵の前に空堀を掘れ! 作業開始だ! 時間との勝負だ! 作業始め!」


 「おおおお!」


 兵達は明確な指示に驚き、従った。貴族の力は凄いと、心底思った次第だ。兵達はゾロゾロと砦から出始めた。


 「デルーグリ様、柵は丸太のまま地面に埋め込みます。等間隔で丸太を埋める穴を掘らせてください」


 「わかった」


 デルーグリは左右を見まわし、デルグ第二中隊長を捕まえる。顔に大きな傷のある三十代の男だ。


 「デルグ中隊長! 柵は丸太を地面に埋めて構築して欲しい!」


 「ああ・・・丸太柵か。わかりました・・・ところでガーフシャール、良く生きていたな。死んだと思ったぞ」


 「え? たまたまで・・・」


 俺はどきりとする。


 「デルグ中隊長、ガーフシャールは第二隊か?」


 「ええ。連れ戻してくれて感謝しております」


 「すまないが私付きの兵として貰いうける。ガーフシャールはなかなかの知恵者だぞ。気が付かなかったのか?」


 「え? 構わないですよ? コイツは浮浪者だったはずなんですが・・・まあいい。しっかり奉公するんだぞ。しかし砦の隊長と副隊長がくたばってどうしようかと思ったんですよ。御貴族様であるデルーグリ様が居てくれて良かったです」


 デルグ第二中隊長は頭を下げて去って行った。第三中隊は空堀を堀り始めている。四十代の男がやって来た。


 「空堀って、掘ればいいんだろ? 地面に引かれた線の内側を掘るんだな? 深さは?」


 「そうだ。頼む、ボル第三中隊長。深さは掘れるだけだな。ただ掘るだけでいいのか? ガーフシャール」


 「V字型です。砦側が急で、相手側に少しゆるめの傾斜を付けます。歩きにくいでしょう?」


 「聞いたか?」


 「わかった・・・確かに歩きにくいだろうな・・・ボーズの入れ知恵か・・・お前人が変わったみてえだな? まあいい。生き残るぞ。堀は任せろ」


 「頼んだ」


 デルーグリは頷くと部下に指示を出し始める。遠くでは木を切り倒し始めている。人数を掛けているのですぐに出来上がるであろう。即席だが、効果はあるはずだ。


 「デルーグリ様、物資を見に行きましょう」


 「物資? 食い物か?」


 「ええ。確認しましょう。兵糧が尽きたら終わりですよ。玉砕覚悟で突撃をするしかありませんね」


 「そうなるな・・・何処だ?」


 「こっちです」


 俺は砦の中に入る。砦は広場と煉瓦積みの建屋がある。半分は大広間で、四半分が倉庫、四半分が高級将官の部屋と鍛冶場である。鍛冶場からは槌が金床を叩く音が聞こえてくる。


 倉庫に入ると、武具が半分、食料が半分だった。麦と玉葱が山積みだ。


 「意外と少ないですね・・・ざっと見て三週間くらい? 不味いですね」


 「わかるのか?」


 「この袋一つで大体百人分なんです。一日四袋使うんです。袋は八十くらいでしょうか」


 「何とかなるか?」


 「なりませんよ」


 「だな。援軍の食い物を貰い受けるくらいだな・・・」


 「あの、援軍の使いは・・・」


 「昨日出ている。あとは気になることはあるか」


 「いや・・・明日来ますかね?」


 「来るだろうな・・・で、お前は何者だ? 浮浪者だったそうだな」


 「え?」


 「まあいいか。生き残ったら考えよう。今日から私の従者だったことにしろ。浮浪者は偽りの身分だ。指揮は私が取るが、全くの素人だ。私の横にいて私に指示を出せ」


 「何言っているんですか。俺は子供ですよ」


 「素人に率いられた軍の悲惨さをしらないのか? 戦場など初めてだぞ? 無論従軍経験も無い。弁論だけはたたき込まれたから、口は任せろ。頼んだぞ」


 外に出ると、段々と馬出しが出来はじめている。


 「おお、こっから矢を射れば倍の矢を放てるな」


 「おーい、御貴族様とボウズ! 槍も出来はじめているぞい。槍は第一隊が貰い受けるわい」


 痩せたオヤジがやって来た。


 「ガエリ第一中隊長、頼む」


 「で、槍はどうするんじゃい。おーい、第一中隊集合! 槍の稽古じゃ!」


 六十名ほどが集合した。十人の列が六列だ。皆槍を持っている。


 「あの、俺にも」


 「おう、これをやるぞい」


 俺は槍を受け取った。重い。俺は少年である。重い物は持てない。


 「みんな! 隠し事をしていて悪かった! コイツは浮浪者ではなく、当家の家人なのだ! 軍事技術の英才教育を施してあるから言うことを聞くように!」


 デルーグリは俺の頭をぐりぐりと撫でる。


 「おお、やっぱりのう。ただもんじゃないってな・・・」


 ガエリ第一中隊長は真に受けている。嘘に決まっているのだが・・・


 「皆さん! 並んでますね? そのまま左を向いてください! そうして最前列は槍を水平に構えて盾で防御! 後の列は間から槍を出してください! 盾で頭上を防御!」


 兵達は俺の言うとおり、ファランクスを組んでいく。盾が必要なのか、判断に悩むところだ。日本の兵は盾を持たない。


 「そのまま一歩前進!」


 上手く進まない。「わ!」とか「どけ!」とか聞こえて来る。


 「この陣形、ファランクスだと騎馬の突進も防げます。デルーグリ様、剣を抜いて対峙してみていただけませんか?」


 「お、おう。どれどれ」


 デルーグリは剣を抜いてファランクスと向きあう。


 「お・・・こりゃ剣じゃ無理だ。刺されて終わりだな・・・ファランクスというのか?」


 「ええ。野戦になったらこの陣形ですね。もし野戦があれば、この陣形で。恐らく二列か三列で横に長く陣取ると思いますけどね」


 「よーし! しばらく行軍の練習じゃ! 進め!」


 馬出しはいつの間にか出来上がり、第二、第三中隊も砦に入ってくる。


 「なんだなんだ?」


 デルグ第二中隊長がやって来た。


 「槍ですか・・・第二中隊は弓でいいですな?」


 「どうなんだ? ガーフシャール」


 「第二中隊は馬出で弓を、第三中隊は砦から弓を射って欲しいです。射落としだから相手より遠くに飛びませんか?」


 「まあ少しだが飛ぶな。丘の麓に大岩が見えるだろ。あそこまで飛ぶ」


 「わかりました」俺はしっかりと場所を確認する。


 「なんだか柵が出来たら死ぬ奴が減りそうな気がしてきた。礼を言う、ボウズ。明日は必ず勝つぞ」


 デルグ第二隊長にも頭をぐりぐりされた。夜が耽ると、皆で玉葱入りの麦粥を食べた。皆、段々と口数が少なくなってくる。


 皆食事が済むと、そのまま横になる。俺はデルーグリと一緒の部屋で休む事になった。俺も眠れなかった。気が付くと、砦の参謀みたいな役に就いてしまった。極力、死人を減らして防衛したいと思う。


 「これでいいか? ガーフシャール」


 俺はデルグーリに聞こえないよう、小さな声で呟くと、胸に安堵感が押し寄せてきた。

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