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身勝手な祈り
あなたに、「今日から修行の旅に出ます」と言いたかった。行き先が漠然としていて、迷宮を彷徨うと言っても差し支えないような旅出るんだ、と伝えたかった。あなたは私にとって、師匠みたいな存在だったから。
でも、結局伝えられなかった。あなたが住んでいるはずの秘密基地を訪ねてみたけれど、そこにあなたの姿はなかったから。秘密基地すら無くなっていた。僅かな痕跡だけは残っていたけれど、あなたが何処へ行ってしまったのかを知る手掛かりには程遠いものだった。
せめて、さようならだけは言いたかった。何も言えずに会えなくなってしまった。きっと、これは仕方のないこと。けれども、あなたに聞こえる筈がなくても、宣言させて欲しい。
「今日、私は旅に出ます」
無人の秘密基地跡に私の声が響く。もう二度と会えないかもしれないけれども、もしかしたら、何処かであなたの姿を見つけるかもしれない。
願わくば、この迷い道の行く末であなたにもう一度会えますように。その時は、成長した私の実力を見てくれると嬉しいです。