日本一の大泥棒 ~全盗の源三~
ワシは日本一と呼び声高い盗賊じゃ。
ワシの手にかかれば盗めぬ物はない。
今回の獲物はここじゃ。
財前美術館。
くっ!忌まわしい記憶じゃ。
若い頃に財前邸に忍び込んだワシじゃったが、物の見事に失敗した、
なんじゃ、あの化け物どもは…。
今夜はワシの復讐戦じゃてよ。
財前の者どもめ…目にもの見せてやろうぞ!
「ねえ」
「なんだ」
自室で画面を見ていると、横にいた六華が声を掛けてくる。
今日の当番は六華ではないようだな。
ふむ、誰だったか。
「なんで絵瑠がいるのよ」
「ふっ、野暮なことを聞くな」
俺の膝の上にはスースーと柔らかな寝息を立てる絵瑠がいる。
絵瑠は先日女鼠から奪い取った女の子だ。
俺の拳の前に悪は成敗された。
その後、保護した絵瑠だったが、どうやらどこから来たのかも覚えていないようだった。
そこで、親が見つかるまで財前家で保護することにした。
可愛い。
可愛いは正義だ。
幼女だぞ!幼女だ!
これ以上の幸福はない!
見ろ!この健やかな寝顔を!
天使だろう!天使でなければ女神か!!?
「絵瑠は天使だ。異論は認めん」
「はいはい」
「絵瑠を四天王にした」
「はいは…えっ!?」
「絵瑠をようじょにした」
「えっ!?幼女って慣れるの!?というか絵瑠幼女だよね!!?」
六華は何を騒いでいるのか。
あまり大きい声を出すでない。
せっかく寝た絵瑠が起きてしまうではないか。
「絵瑠が四天王ってどういうことよ」
「そのままの意味だが?」
「絵瑠に四天王としての実力はあるの?」
「ない」
「アンタねぇ…」
これで空白になっていた四天王全員が揃った。
ふふふ…。
「絵瑠に戦闘力は求めてない。そこにいるだけでいいのだ。そう、この天使の笑顔を守れるならな」
「はぁ?」
ふっ。
俺の高尚な考えがわからんとは。
六華よ、お前との付き合いも長いはずだが?
「それに幼女って何よ」
「ようじょはようじょだ」
「絵瑠は元々幼女じゃない」
コイツ…気づいてないのか。
仕方ない。
「こい」
「きゃっ!?」
俺は六華を抱き寄せる。
相変わらず愛いやつだ。
「絵瑠は俺と六華の養女にする」
「養女って…。幼女じゃなかったのね」
「当たり前だ。すでに天使の幼女なのだ。」
「養女ってどういうことなのよ」
「お前が言っていたではないか。異母兄妹だから、子供は望まないと。だから絵瑠を俺たちの養女にするぞ」
「アンタ…」
ふっ、お前の考えなどお見通しだ。
「お前はっ!!?」
「なんじゃお主は?」
やれやれ、今日のコソ泥は同じ爺か。
まぁ、ワシのがぷりちーじゃがの!
若は見とるかのぅ?絵瑠ためにも頑張るんじゃ。
じいじの雄姿を見ておくのじゃぞ!?
「お前は山梔子万裁!!!」
「ん…、知り合いかのぅ?ワシにコソ泥の知り合いなどおらぬぞ」
ふむ?ワシのことを知っておるじゃと?
うーむ…、ワシの記憶にはおらぬのぅ…。
「この源三!一時たりとも忘れたことはない!山梔子よ!ここでお前を倒す!」
「源三…?源三…?はて?」
「気様ああああああああああああ!!!」
なんじゃこの爺は。
そんなに叫ぶと血管が切れるぞい。
てぃーぴぃーおーを弁えぬか。
「今日の盗みは変更じゃ」
「ぬ?」
「お前の命を奪うことにするんじゃ!」
「物騒な爺じゃのぅ…」
なんじゃこの爺は。
暑苦しいのぅ…。
なんかもう疲れたのぅ…。
「あの時より磨き上げたこの腕―――「うるさいのぅ」」
「………」
「喋りすぎじゃて」
なんじゃったんじゃ、この爺は。
まぁいい。これで今日の仕事は終わりだろうて。
絵瑠の寝顔を見てから銀座に行くかのぅ。




