東の大泥棒 ~子連れの久子~
アタイは子連れの久子だよ。
東日本では名の知れた盗人さ。
アタイは呼び名の通り、子供と二人で仕事をこなす女さ。
子供に油断している間にアタイが盗み出す。
このコンビネーションは、誰にも止められないわよ。
この財前美術館に警備員がいたって関係ないわ。
子供に気を取られるうちに獲物をいただいてとんずらさ。
それにしても、良い拾い物をしたもんだよ。
こんなに良い商売道具はないわね。
「坊ちゃん」
「うむ。今宵の鼠はどこまでいけるか見物だな」
今日の担当は誰だったか?
たしか六華だったな。
六華が鼠ごときに遅れを取るとは思えんが、念のため見ていておいてやろう。
戻ってきたら今日も褒美でもやるか…。
配下にも褒美を与えることで、俺への忠誠は永遠のものだ!
くくく…天才過ぎて怖いな。
「本日の鼠が映りますね」
「ほう…こやつ―――っ!!?」
画面の先に映るのは女と思われる鼠だ。
俺が気になったのは女の横だ。
なんということだ…!
この俺が心奪われるとはな…!
やりおるっ!!!
「宮前!あとは任せた」
「は?…はぁ」
ここを宮前に任せ、俺は単身美術館へと向かう。
くっくっく…!
あのようなものを見せられて、俺が動かないわけがない。
待っていろよ…!!!
『侵入者有り。数分でそちらと邂逅します』
「了解」
今晩の担当は私。
夜更かしすると肌に悪いんだけど…。
今度将星に言ってみようかしら。
私のお願いなら無碍にしないわよね?
「六華」
「ひゃっ!!?」
今晩の獲物を待っていると、背後から突然声を掛けられた。
しょ、将星!!?
なんでこんなとこいるのよ!?
いつもだったら自室にいるじゃない!?
「な、何やってるのよ」
「今宵の鼠に興味がある」
へぇ~。
今日の獲物は将星が気になるレベルなのね。
ちょっと気を引き締めておこうかしら。
「きたぞ」
「そうみたいね」
将星と待機していると、前方の暗闇から足音が近づいてくる。
仮にも次期当主様なんだから…。
将星に手は出させないわ。
「あら、お出迎えかしら?」
「アンタを捕まえるためにね」
「………」
暗闇から現れたのは、黒いレザースーツに身を包んだ女。
ふーん。この女が東で有名なやつなのかしら。
将星は黙っちゃって。
将星が気になるほどの美人には見えないけど?
「さっそくで悪い――「待て、六華」」
「どうしたのよ?」
「手を出すな」
「はぁ?」
何言ってるのよ!
目の前にいるのに手を出すなってどういうことよ!?
ついに壊れちゃったのかしら?
最近部屋にも行ってなかったからストレスで壊れたのかしら…?
「あら、通してくれるのね。ならお言葉に甘えさせてもらうわ」
「誰が鼠を通すといった」
あれぇ?
将星…さっきの自分の発言覚えてる?
「アナタおかしいのかしら?頭大丈夫?」
「ふっ、俺はいつだって正常だ」
「ええぇ…」
いやいやいや…。
将星、いつもより呼吸が荒いわよ。
絶対正常じゃないわよ。
「鼠に用はない。用があるのはその横だ!」
「横?」
横?何かあるのかしら?
あ、あれはっ!?
「気づいたか六華」
「ええ…」
「幼女だぞ!幼女だ!天使がいるぞ!!!」
「………」
うん。やっぱり壊れてるわね。
頭殴ったら元に戻るかなー?
獲物の横にいたのは小さな女の子。
そういえば東の泥棒は子連れのなんちゃらって呼び名だったわね。
こんな小さな子供も使うなんて、女の風上にもおけないゲスだわ。
「あら、コレがお望みかしら?」
「…コレだと?」
獲物は、横の女の子をコレと言った。
え?娘じゃないの?
「欲しかったらあげるわよ」
「なんだと…」
「その代わりに、何かと引き換えよ」
「クズが…」
はぁ?女の子と交換とか何言ってるのかしら。
「なくなったら、またどこかから補充すればいいのよ」
「アンタの子供じゃないの?」
「なんでアタイがガキなんて作らなきゃいけないのさ」
「呆れるほどのクズね。同じ女として軽蔑するわ」
補充する?
この女は何を言ってるの?
女の子も盗んだわけ?
こんな幼い子を!!?
許せないわ…。
「さぁ、早く交換しま――「黙れ」」
「将星?」
「幼気な幼女を誘拐だと…?貴様!生かしてはおかんぞっ!!!」
「あら、交渉決裂―――」
「成敗!」
ええー…。
将星がワンパンで女の倒しちゃったわ…。
一緒に訓練した仲だけど、将星が殴るなんて久しぶりにみたわね…。
「ふっ、悪は消え去った」
「えぇ…」