西の大泥棒 ~千手の錦~
おらぁ西では有名な錦ってもんだ。
この業界では千手の錦って呼ばれてらぁ。
おらぁの手の速さは日本一だ。
速さだけなら東のやつにも敗けてねぇ。
最近この業界で話題になってるのが、財前美術館だ。
未だに誰も戻ってきてねぇときた。
けっ!どうせ青二才が挑んだんだろ。
おらぁの手にかかればおちゃのこさいさいよ。
赤子の手を捻るよりも簡単だ。
情けねーやつらばかりだ。
このおらぁが本物ってやつを教えてやろーじゃねぇか。
ちょっとばかし頂いてくぜぇ?
なんでぇ。
拍子抜けじゃねぇか。
世界一のセキュリティって言う割には欠伸が出るぜ。
こんなもんも解除できねぇとは情けねぇ。
盗人の腕も落ちたもんだぜ。
さてと…、とっとと目当てのもんをいただいて…!?
「誰だぁ?」
暗闇の中に誰かいるなぁ。
警備員にしちゃぁ気配の消し方がうめぇな。
「あら、ようやくお出ましかしら」
「女ぁ?」
暗闇から現れたのは女だ。
声からすると若ぇな。
同業者か?
「あら、女がいちゃ悪いかしら」
「いんやぁ、同業者か?」
「いえ―――」
女の声が消えた。
どこだぁ?
どこにいったぁ?
「あなたを捕まえる者よ」
「っ!!?」
背後から女の声が聞こえやがった。
どうやって移動しやがったぁ?
このおらぁを千手の錦としってこのとかぁ?
「あら、意外に反応がいいのね」
「………」
「ダンマリかしら?千手の錦」
「…知ってんのかぁ」
おらぁの名前を知ってるたぁ…。
裏の世界にも詳しいなぁ。
「おらぁを捕まえるって言われてもなぁ。お嬢ちゃん一人じゃぁ無理だぜぇ」
「どうかしらね」
会話で相手の位置を探る。
さっきの一瞬で移動したのは謎だがやり方ぁある。
伊達にこの業界で長く飯食ってねぇぜぇ。
「おらぁ!」
「あら」
声をした方向に手を出すも逃げられたかぁ。
すばしっこい女だなぁ。
「さすが千手の錦ということかしらね」
「その余裕ぅいつまで続くかなぁっ!!」
おらぁは手の速いことから千手の錦と言われてらぁ。
だがなぁ…速いのは盗みだけじゃぁねぇぜぇ?
「こんなものなのね。興覚めだわ」
「女ぁ…今なんつったぁ?」
「興覚めよ。終わりにしましょ」
「なん…っ!!?その首輪ぁ!?」
「あら、知ってるの?」
月明りに照らされた女の首には真っ赤な首輪があった。
あの真っ赤の首輪…。
なんでこんなとこにいやがんだぁ…。
「20年以上も消えて、今更現場に戻ってきやがったかぁ」
「どうかしらね」
「その首輪をいただくぜぇ。戦利品としたぁ十分だぁ!」
「見事だな」
「つまらない相手だったわ。アレで西日本で一番なの?」
「そう言うな」
俺の部屋に赤峰が戻ってきた。
天才である俺の考えはこうだ!
うっかり世界最高峰のセキュリティレベルにしてしまった財前美術館。
あれほど宣伝したにも関わらず、来るものは雑魚ばっかりだ。
おかげで警備部との賭けは俺の全敗だ!!!
ならば暇を持て余している3人を使って、より迫力のあるものにしてしまおうと。
雑魚ばかりで俺も警備室も飽きてきたところだ。
ちょうどいいとばかりに赤峰が名乗り出た。
まぁ、賭けをしようにも全員赤峰を勝ちで賭けにならなかったが…。
「次はもっと歯応えのある相手がいいわね」
「西ときたら次は東じゃないか?」
「そうね」
我が警備部が誇る四天王(3人しかいないが)の一人である赤峰六華。
首に巻いているのは母親から譲り受けたチョーカーらしい。
俺の優れた配下にして、異母兄妹だ。
「六華。褒美をやろう」
「何かしら?」
俺の二つ下の六華だが、妖艶さは年下と思えない。
俺の妹として誇らしい女だ。
「ふっ」
「あ…ちょっと…」
「褒美だ。久しぶりに動いて体も火照っているだろうからな」
「程々にね…」
くっくっく…ふははは…あーはっはっはっはっは!




