地方で有名な泥棒
この地方では有名な泥棒とは俺っちのことよ。
複数の県を股に掛ける大泥棒よ。
俺っちの名声はここで終わるような男じゃねぇ!
俺はビッグになるんだぜ!
そのためにも、この財前美術館を落とす。
幾人もの泥棒が失敗したと聞いているが、俺っちならいける!
難攻不落の財前美術館を落とすことで、俺っちの名声は天下に轟くわけよ!
西、東を抑えて俺っちが日本一の盗人になる!
「なんでぇ、簡単じゃねーか」
俺っちは、美術館の窓に目をつけ、窓からの侵入に成功した。
世界一のセキュリティを誇ると豪語していた割にはアッサリしたもんだぜ。
こりゃー俺っちも世界レベルって謳ってもいいな!
日本一を飛び越えて世界一だぜ!
「ん?」
前方の椅子に誰か座ってやがる。
館内の微かな明かりでなんとか人だとわかる。
なんだ?こんな時間に…。同業者か?
「おい」
俺っちは声をかける。
どうせ誰もいない深夜の館内だ。
不安要素は取り除くのが俺っちのやり方だ。
成功率を上げることで今までやってこれたわけよ。
「ん…?おお、今宵の客かのぅ」
「あん…?爺かアンタ」
「ほっほっほ。いかにも、爺であるぞ」
椅子に座っていた人物が立ち上がる。
声からして爺だ。
客だと…?同業者じゃねーのか。
だとするとなんだ?
警備員か?爺の警備員なんて雇ってんのか!
財前美術館も大したことねーな!
「アンタ…ここの警備員か何かか」
「そうじゃの。警備員と言っていいかわからぬがな」
「なんだアンタは…!」
館内の蛍光灯で姿が露わになる。
爺は袴に道着という出で立ちだ。
そして腰には日本刀だ。
おいおいおい!ここは日本だぜ!
何持ち出してきてんだよ!!!
「爺!なんだ腰の日本刀は!銃刀法違反だぞ!」
「犯罪者が法を説くなど片腹痛いわい」
「うっせぇ!」
日本で刀持ってるとかアホか!
この爺、頭おかしいんじゃねーか!?
「日本刀がどうしたってんだ…!爺が俺っちの敵になるわけねーだろ!!!」
「小僧が」
暗闇の館内に爺の笑い声が木霊する。
爺が日本刀持ってようが俺の敵じゃねぇ!
「小僧…あまり強い言葉を遣うなよ。…弱く見えるぞ」
「ぬかせ爺がっ!!!」
「………」
「安心するがよい。峰打ちじゃ」
ワシは、目の前で動かなくなったコソ泥を見下ろす。
つまらんのー。
若から銀座のクラブの支払いと代わりに仕事しろと言われたが…。
あっけなさ過ぎて準備運動にもならんわい。
「お疲れ様です」
「うむ。回収頼むぞい」
背後から警備部の人間が床に横たわるコソ泥を回収していく。
今日はこれで終わりかのぅ。
「山梔子さん…」
「峰打ちじゃなくて刃を使ってましたよね?」
「なんじゃ、洒落のつもりじゃったがのぅ。お主らにも見えるとは、ワシ老いちゃったの」
ワシが腰に差すのは日本刀じゃ。
しかし研いでおらぬ。
ただの鉄じゃてよ。
ほっほっほ。
「山梔子さんの居合を首に受けてるから死んでるんじゃ…?」
「死んだら死んだで良い。コソ泥一匹死んだところで何も影響はないわい」
「了解です。おーい、台車持ってこい」
後片付けはこやつらに任せるとするかのぅ。
ワシの仕事は終わりじゃて。
「待ってるのじゃよ!桃ちゃぁ~ん!」
いざ!銀座へ!
今日は高いボトル入れちゃうぞ~!