矛刀一閃
「暇じゃの~」
「ホントにくるのかの~?」
万裁と貫瞬の達人二人。
二人は屋敷に配備されておらず、美術館を守っている。
9割が顔彩の美術館だが、残り1割は本物だ。
賊が狙わないと限らないということで、達人の二人を配置していた。
余りにも暇なため、スマホは充電器に接続し、周囲には空き缶や空き袋などのゴミが散乱していた。
それにしても暇な老人たちであった…。
「私は戻ってきたぞ!財前美術館…って酒臭っ!」
「なんじゃ?」
「ようやくきおったか」
良い感じに酔いが回ってきた二人の前に一人の巨漢の男が現れる。
賊は以前東方一と呼ばれており、ヨミによって捕縛された盗人だ。
もっとも、色々と重装備になっているようだが。
「誰じゃ?」
「知らん」
「なんで知らんのじゃ」
「知らんもんは知らんのじゃ」
「使えん爺じゃの」
「爺に爺と言われたくないわい」
「私を無視するとは…。この東方一!マスターアジアと言われた私をっ!!!」
「あー、あやつか」
「なんじゃ、知っておるではないか
「ヨミに捕縛されたやつじゃの」
「ほほー要するに雑魚じゃな」
「そういうことじゃて」
「私を愚弄するとは許さん!このアームウェポンで殺す!」
東方一の右腕には巨大な大砲のようなものが装着されていた。
体には何かから守るであろう分厚い胸当て。
「死ねええええええええ!!!」
「日本で銃なんぞ使うとは…。どういう神経しとるんじゃ」
「ここが入口でよかったのー。奥の展示フロアだったら悲惨じゃったって」
「なぜ当たらない!!!」
「見え見えの軌道に当たるわけなかろう」
「これじゃ酒も抜けんわい」
東方一の銃撃をなんなく避ける二人。
ご丁寧に銃口を向けてくれていることから、武術の達人である二人にとっては至極簡単なことであった。
酔ってはいるが、この程度で腕が鈍る軟弱者ではない。
「当たれ!当たれぇ!!!」
「これ以上穴だらけになるのも主に怒られそうじゃて」
「そうじゃなー。そろそろ喉が渇いてきたんじゃ」
「ワシは左からいくぞ」
「ならワシは右からいくとするかの」
二人の達人が回避から攻撃に転じる。
万裁は腕に取り付けられた武器に。
貫瞬は胴に。
その速度、神速の如し。
「なぜ!?なぜ私のアームウェポンが!!!
「斬鉄なんぞ朝飯前じゃわい」
「胴は堅いの~」
「ワシが斬っちゃろうか?」
「いや、ワシがやる」
一度の攻撃で万裁は東方一の右手に装着されていた巨大なアームウェポンを斬り落とした。
万物を断ち斬るとされている万裁にとっては簡単な仕事だ。
貫瞬は胴を狙うが、丸みを帯びているため、槍が弾かれた。
しかし、貫瞬も武の達人。
弾かれたことなど、些細なことでしかなかった。
「私のアームウェポンがなくなろうと…!私にはこの肉体があるっ!!!」
「それはどうじゃろうな~」
「なっ!!?」
「終わりじゃて」
「やるの~」
「くっ!?」
槍の石突で胴を叩いた貫瞬。
「…?ふふふ!私の肉体にそのような突きが聞くわけ―――」
東方一が音を立てて崩れる。
指一本さえ、動かすことができない。
「浸透衝じゃて。脂肪が厚くても浸透衝で内部を破壊させてもらったんじゃ」
「えげつないのー」
「お主もその気になればあの腕くらいぶった切れたじゃろうに」
「わしゃ疲れることは好かんのじゃ」
「よういうわい」
「さて、飲み直しじゃ」
二人の達人の前には東方一でさえ、大した相手にはならない。
アイドルとシャンソンするだけではないのだ。




